消えない思い

樹木緑

文字の大きさ
193 / 201

第193話 あれから

しおりを挟む
「要……
お前の口から聞かせてくれるか?

7年前のあの夏、
俺の父親との間に一体何があったのか」

「…… 先輩は聞いてないんですか?」

「父親サイドからは聞いた。
自分の父親の事はわかって居るつもりだ。
でも知らない部分もあると思う。
だが絶対真実を話していない。
それだけは分かる」

先輩のそのセリフに、僕はコクンと頷いて話し始めた。

「僕、あの日は美術部部室でずっと先輩を待ってたんです。
でも先輩、全然来なくって……

あの時、先輩には一体何が起きていたんですか?」

きっとその時を瞑想していたんだと思うけど、
先輩は遠い目をして、

「そうだな。
お前は俺に何が起きていたのかは全く知らないんだよな」

と言った。

僕はコクンと頷くと、

「実はあの沖縄から帰ったその日に
珍しく父親が家に帰っていたんだ。

いつも家にいない様な人だから
珍しなと思い居間へ行くと、
数人のボディーガードといてさ、
そこに浦上が一緒にいたんだよ。

それでピンときた。

テーブルの上には報告書が証拠写真と一緒に綺麗に並べられていて、
学校でのことまできっちり詳しく書いてあったよ。

恐らく学校にもスパイが入り込んでいたんだろうな」

そう先輩が言った途端、僕は思い出した。

「あ…… そういえば、
僕一度だけだったんですけど、
誰かに監視されてるような感じを受けたことがありました……」

先輩は唸ったような表情をして、

「多分そいつだろうな」

と言った。

「長瀬先輩とは違う人ですよね?」

「恐らくな。
だがあいつもお前の事を怪しく思ってたから
多分そこから漏れたんだろうな。

的確にお前に監視がついたからな」

「それでどうなったんですか?」

「あそこまで証拠を焚き付けられれば
誤魔化しようがないよな。

だから正直に言ったよ。

俺はお前を愛している。
お前以外のやつと番う気はさらさらない。
ましてや結婚する気もないとな」

「で? どうなったんですか?」

「殴られたよ。 四の五の言わずな。
携帯も取り上げられ、すぐに解約されたよ。
お前と連絡を取れないようにしようって魂胆だったんだろうな。

そのあとは親父のボディーガードに捕まって
蔵の中に軟禁状態さ」

「先輩のうちって蔵があるような旧家なんですか?」

「いや、優香のうちのような長く続くような家系じゃないけど割とな」

「蔵って言ったら南京錠ですよね?
窓なんかも小さいし、高い所にあるし……
壁ばっかりだし……
中広いわりにドア一つだし……

よく逃げられましたね?」

「お前、良く蔵の構造についてしってるな?」

「あ、お父さんの時代劇で……」

「ハハハ、そうだな、

まあ俺はずっと逃げ出す機会を窺っていた。

チャンスがあるとすると食事を運んでくるときだけ……

何度も、何度もシュミレーションして、
あの日やっと実行したんだ。

すぐに捕まってしまったけどな」

「それがあの時の公衆電話からの電話ですね?」

僕がそう尋ねると、先輩はコクンと頷いた。

「僕、先輩に何が起きているのか把握できなくって、
お父さんに監禁されていたって言うのと、
また捕まってしまったって言うのはわかったんですけど、
でも、先輩のお父さんが僕のうちに向かってるって言ったから
急いで帰ったんです。

そしたらお父さんはもう既に来ていて
僕を待ってて……」

「親父には何を言われたんだ?」

「先輩、お父さんとそっくりな顔と声なんですね。
先輩のお父さん、その顔と声で僕に……
先輩との別れを僕が決心してくれって……

何だか先輩にそう迫られているようで、
僕、悲しくて……

僕が別れを取らなければ
先輩がどうなるかわからないって……
それに僕の家族も……」

「汚いやつだよな……」

そう先輩はぽつりといった。

「他に何か言っていたか?」

「僕が別れるので先輩には危害を与えないでって言ったら
手切金だってお金を渡されて……」

「お前、それ受け取ったのか?」

“あっそういえばあのお金はどうしたんだろう……?”

僕は首を振った。

「あの時お母さんが返そうと先輩のお父さんにケースを渡したけど、
無視されて……
その後僕の両親はそのお金…… どうしたんだろう?

僕は凄く気が動転していて……」

「いや、親父のやりそうな事だよ……」

「でも僕、先輩のお父さんに、先輩とは二度と会わないと誓ったんです。
もし今会っている事がバレれば……」

そう言って僕は顔を両手で塞いで俯いた。

「その事については大丈夫だ。
心配するな。」

僕は

「え?」

っと先輩を見上げた。

「あの……
あの後先輩は、ちゃんと自由を取り戻したんですよね?」

「まあな、だが、次の日に親父から聞かされたよ。
お前が別れを選んだってな。

金を渡したら喜んでそうしたって。
で、その金を使って海外へ高跳びしたって……」

「そんな……」

「大丈夫、ちゃんと分かってたよ。

あの後、お前の事についてお前の両親に尋ねに行ったんだよ。
お前がどうなったのか……

まあ、海外へ行ったのは本当らしかったけど、
でもお前の両親の話からは親父が言ったように
喜んで俺との別れを選んだのは違うだろうなって確信したよ……

だからいつか親父を超えて、
邪魔をされないくらいの力をつけないと、
お前を迎えに行けないと思ったよ。

だから大学でも頑張った。
親父を利用してやるつもりで政治界の横の繋がりも作ったし、
自分も売り込んだ……」

「それで……?」

僕は恐る恐る尋ねた。

「まあ、俺の方の出だしはそう言うところだけどさ、
今度はお前の話を聞かせろよ……」

先輩にそう言われ、先を聞きたいのか、聞きたくないのか、
ホッとしたのか、がっかりしたのか分からないまま、
先輩の質問に答えていった。

「で、要はあの後フランスへ行ったって事でいいんだよな?」

「あ…… はい……」

「何故フランスだったんだ?
やっぱり絵のため?」

「いえ、僕、あの時は何も考えられなくて……
冷静になるためには日本から出なくてはいけなかったんです。
先輩から見つけられないところに行く必要があったんです。

日本にいると多分先輩のおとうさんがずっと僕を監視してると思ったから……
先輩を手っ取り早く自由にするにはそれが一番だと……
両親に相談したら、フランスへ行きなさいって……
お父さんの親戚がいるからって……

だからフランスへ行ったんです」

「フランスでは何不自由なく暮らせていたのか?」

「はい。

前にも話しましたが、ポールが……
あ、僕の遠い親戚のですね、
そのポールがもうお兄さんになり、
恋人になり、夫になり、お父さんになり
日になり、影になり僕を支えてくれて……

僕の事情を知ってたから色々と話し易くて……」

「その…… 聞きにくいんだが……
そのポールとは何も……?」

「何もって言うと?」

「あ…… いや……
誘われたりとかは……
いや…… すまん……

忘れてくれ」

先輩が遠慮をしたように尋ねた。

「ハハ、デート的な意味ですか?」

そう尋ねると、先輩はバツが悪そうに照れていた。

今思うと、バカな事をしたと思うけど、
僕も、少し先輩を試してみたかったのかもしれない。
まだ僕に気持ちがあるのか……
ポールとの事を話すと、焼きもちを焼いてくれるのか。

「そうですね~
デートには何度も、何度も誘われましたね。
ポールのモデル仲間には何度も僕たちが付き合ってるって
思われてましたし……

結婚するもんだと思われてたみたい。

まあ、それくらい仲が良かったのは否定はしないんですけどね。
でもデートした事は一度もありませんよ。

まあ、僕的にはですけどね。
一緒に住んでたのでデートも何もあったもんではなかったんですけどね」

「一緒に住んでたのか?」

「すごい過保護でですね、
僕の一人暮らしは危ないって……

留学生なんて一人暮らし多いのに何言ってんだろうって……」

「その…… 彼はお前に気があったのか?」

「う~ん どうでしょう?
僕にというよりは陽ちゃん……」

と言ってハッとして口をつぐんだ。

しまった。
やっぱり人を試したりするもんじゃない……
うっかりと調子に乗って陽ちゃんの名前を出してしまった……

先輩に聞かれたかもしれない……

疑問を持たれたらどうしよう?

この後の僕は頭が真っ白になって、
先輩の質問に支離滅裂に答え、一体どういうやり取りをしたのか、
後で思い出そうとしても思い出すことは出来なかった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

愛させてよΩ様

ななな
BL
帝国の王子[α]×公爵家の長男[Ω] この国の貴族は大体がαかΩ。 商人上がりの貴族はβもいるけど。 でも、αばかりじゃ優秀なαが産まれることはない。 だから、Ωだけの一族が一定数いる。 僕はαの両親の元に生まれ、αだと信じてやまなかったのにΩだった。 長男なのに家を継げないから婿入りしないといけないんだけど、公爵家にΩが生まれること自体滅多にない。 しかも、僕の一家はこの国の三大公爵家。 王族は現在αしかいないため、身分が一番高いΩは僕ということになる。 つまり、自動的に王族の王太子殿下の婚約者になってしまうのだ...。

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子
BL
 この世界は、αとβとΩで出来てる。  生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。  今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。    βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。  小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。  従って俺は戸籍上、β籍になっている。  あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。  俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。  今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。  だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。  だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。  学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。  どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。  『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

処理中です...