悪役令息なのにエロトラに好かれてる俺

あまはねまきあ

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幼少期編

筆おろし事件

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「……っ、痛……」
「ファルト、ファルトっ、よかった。目が覚めたんだな」
「……どこですか、ここ」
 目が覚めたら暗い場所に縄でぐるぐる巻きにして放り込まれていた。頭を殴られたからなのか普通にズキズキと痛む。隣の殿下は傷一つ付けられていないようでピンピンしていた。悪運だけは強いなこの男。
 カツカツとヒールの音が扉へと近づく。薄く光の漏れる扉が開けられると、やはり彼女だ。
 この、甘ったるい匂いも花の咲き乱れる茶会場から離れてみれば貴族特有の香水の香りだ。
「……」
 彼女は無言のまま俺達に近づきハンカチで口を縛る。そして、目隠しも。
 五感の内の聴覚以外奪われてしまったようで不安がどんどん募っていく。隣のカエメトにも同じことがされているようで抵抗の声はくぐもった音になり聞こえなくなった。
 彼女が服を脱がしているのだろう。布のこすれる音が静かな部屋に響く。
 くそっ……この状況どうやって切抜ける?
 生憎俺は前世で頭のいいこととか全く持ってないただの凡人だ。ここで少なからず俺ができることといえば精々カエメトのそばにいてやることくらいだ。
 半ば諦めつつ口元の布を腕で引きずり下ろす。相手は分からないが少なくともカエメトと子を成そうとしているのは確実だ。俺に天才的な揺さぶりから相手の計画を全て明かさせるなんて芸当はできないが腐っても元日本人だ。話を長引かせてのらりくらりと交わしながら場を持たせるのはそれなりにできる。
「ぅ……はぁ、はぁっ」
「あら。拘束が緩かったかしら」
「なんでこんなことするんですか」
「貴方に教えて理があるとでも?」
「僕が協力するかもしれないでしょう?」
 心臓が痛い。緊張する。もしかしたら俺は殿下じゃないから殺されるかもしれないんだ。そう思いつつ震えそうになる声に虚勢を張って質問する。大丈夫。まだカエメトは襲われてない。俺の婚約破滅未来を防げる。カエメトはどうなろうと知ったことではないがこれがきっかけで女が嫌いになることはまだないと思う。多分。俺が死んだら分からないけど。
「貴方の母親を殺した私が協力するとでも? 随分おめでたい頭ですこと」
「母様は……僕が産まれた後にすぐ亡くなったと聞きましたが」
「あら? ご存知なくって? あの女狐は私が殺しましたわ」
 そうか、こいつが犯人だったのか。今世の俺に母親の思い出などほぼ無いに等しい。俺を産んでから体調を崩してしまってそれっきりなのだ。ゲームの時もそうだったが、産後に母親の体調が崩れて死ぬことはこの時代では割とあることだ。だからそう不自然だと思ったことは無いのだが……。まさか他殺だったとはな。
 誇らしげに語る女に嫌気がさす。だがまだ冷静に話を聞かなければいけない。ゲームでは語られることの無かったことがもしかしたら分かるかもしれない。
 設定資料集で軽く触れられていたが、ファルトの先祖返りは少々複雑な事情があるところにも関係しているらしい。
 にしても女狐ってなんだよ!!
 人の母親に失礼じゃないか!?
「……っ、どういうことだっ」
「あの方は……私がなるはずだったレイを奪い、剰えあの方の寵愛を受けたの。その結果が貴方よ。だから……貴方も殺してやろうと思ったけど、あの方が愛してらっしゃるんだもの。可哀想で出来ないわ……でも、傷ついたあの方を親身に支えるのも愛の形かしらね」
 今北産業。ちょっと意味がわからない。レイはともかくあの方は俺の父で間違いないだろう。こんな面倒な女どうしてここに……とも思ったが俺の父に異常な執着を見せただけで、ほかは普通だったんだろう。
 レイについては確か公式設定資料集にて俺の母親、フォルティナ・レイ・ピューリティは史上最年少で王国魔術師の最上位の位『レイ』を授かる程に凄い魔力を持ち、そっくりそのままに引き継いだのがファルトだと書かれていた。この国において魔術師最高位というのは現代日本で言う大臣レベルで政治的発言力が強くなり権力が大きい。だから、俺の父は望んだ……のか?
 俺に愛を注ぐ限りは恋愛結婚のようにも思える。もしかして、後ろ盾がない母親と結婚できたのはレイの位があったからか……。
「……それは、僕の母上が失礼を。僭越ながらお名前は? 父上は僕のことが好きですから、近いうちに必ずお目通りの程を」
「黙れっ!! お前を見ていると虫唾が走る!! あの女に似た髪も!! 目も!!」
「あぐっ!」
 前髪を鷲掴みにされてブンブンと振られる。痛いと思っていたところ、腹を蹴飛ばされ地面に背をぶつける。呼吸が苦しい。肺が潰れる感覚がする。げほごほと咳を吐いているにも関わらず容赦なく暴力の嵐が続けられる。首を絞められ全体重をかけられ完璧に殺しに来ている。
 馬鹿が。こんなところで証拠を残して人殺しなんてまだまだ甘い。自分に証拠を残さぬようにまずは俺の遺体の身元を隠すべきだ。こうして明るいうちに殺人するなんて考えが足りてないぞ。なんて、現実逃避を薄れた酸素を使って考える。まー殺されるのは俺なんですけどねー……又もや俺はこんなくだらない所で人生を終えてしまうのかっ……!
「お前の……!! お前のせいで……!!」
「っ……ぅ……」
「ん゙ー!! ん゙ゔ!!」
 異様な音を察したのかカエメトがバタバタと動き始める。だが、王子といえど所詮手足を縛られてしまえばただの小童。この場で奇跡なんて起こせるはずがない。見えない視界に慣れてきた所で、苦しくて瞼が重くなる。
 その時、扉をこじ開ける大きな音と共に大量の水が流れてきた。水に押し流されるようにして彼女が俺に覆いかぶさってきた。七歳児の俺の体、体幹を鍛えているわけでもなくその質量に押しつぶされた。
「きゃぁぁぁあ!!」
「うっ!!」
「ファルト!!」
「にぃ、に……?」
 ヴォル様は俺の声に反応するかのように、男としてそれはいいのかさておき、俺の上に乗り上げていた彼女を蹴飛ばして抱きしめてきた。
 彼の先祖返りの元であるユニコーンは水を清らかにする力を持つだけあって、ゲームの中の彼の一番得意な魔法は水魔法だった。この圧倒的な質量の水も彼の魔法なのだろう。それにしてはゲームのエフェクトより随分派手な気もするけど。
 蹴飛ばされてしまった彼女は幾分か水を気道に入れてしまったらしく苦しそうに咽せ喘いでいた。
「そこの女を拘束しろ。第一王子、公爵家令息誘拐実行犯だ」
 ヴォル様の後ろに控えていた兵士達が彼女の腕を掴み肩を貸すとそのまま歩いてどこかへ行ってしまった。大方地下牢なのであろうけど。ヴォル様の肩を掴みつつぜぇはぁと息を吐いて、ゆっくりと胸の中に顔を沈める。
 ─────────死ななくて、良かった。
 そう何度も死ぬなんて経験したくないし死ぬ時の痛みは凄まじいものだ。等しく訪れる絶望も、自分の体だからこそ感じるこれ以上は生きられないという生への諦めも二度としたくない。出来ることなら山奥の山荘でゆっくりと家族に看取られて死にたい。恋愛結婚して若い頃はヤンチャしたねぇと妻と話しながら、娘、息子に囲まれてゆっくりと……って違う!!
「っ……! い、生きてる゙~!!」
「お前!! 死ぬところだったんだぞ!?」
 カエメトは心底心配していたのか手足の拘束を解かれた途端に俺の体を触り始めた。まぁ確かに目が見えない状況だったし、どこが怪我しているか気になるだろう。お腹なんだけど、違うって、そこじゃない。下手くそ。
「どこを蹴られたっ、殴られたんだっ! 大丈夫なのかお前は!!」
「ちょっ?! これくらい将来騎士志望の僕からしたらそうでも無いですって!!」
「へぇ? それは初めて聞いたね。魔法士じゃないのかい?」
「んっひッ?! 絶対違う!! そこじゃねぇって!!」
 服の下に手を入れるなエロガキ!!
 一般的マナーとして人前で服を脱ぐことはご法度だが今はいいだろ。脱がせて確認するのを許可するからそうべたべたと何度も肌を擦るんじゃない。と、抗議してやりたかったが生憎全身に走る痛みのせいで何も出来ない。抵抗らしい抵抗もできずにやり込められている気がする。
「僕はもう帰りますから!!」
「待て!!まだ怪我の様子を」
「医者に診てもらうので!!!」
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