私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子

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第一話ー戻された6年、私の誓い

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ーー後悔したってしきれない。

大公家の長女として産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていたけれど、本当はずっと羨ましかった。
お茶会やパーティーで花が咲く、令嬢達の会話。恋をしてピンク色に染まる微笑み。

18歳の若さで死ぬと分かっていたら、たった1度の人生ですもの。もっと自由に、花のある人生を送りたかった。

18歳で、反逆の罪を着せられ、散る運命だと分かっていたならーーーーーーー









「ーー姉上?寝てるのですか?」
聞き慣れた声より、ずっと高い声。

セレノア・グレイスは飛び起きた。

「ルシアン!」
覗き込んでいた義弟を、泣きながら抱きしめた。

「姉上、どうされました?怖い夢でも見たのですか?」
ルシアンは慌てて姉を引き剥がそうとしたが、セレノアも必死だった。温かく、生きている弟を確かめたかった。

ルシアンは引き剥がすのを諦め、セレノアの背中をぽんぽんと撫でた。
(生きている。ルシアンも、私も)

落ち着いたセレノアはルシアンを解放した。心配そうに見つめる弟に、セレノアは呟いた。
「小さい····」

ルシアンは真っ赤になって怒った。
「な?!姉上と少ししか変わりませんっ」

セレノアは慌てて弁明した。
「あっ、違うのよ。そういう意味じゃないの。ルシアンは今年で7歳だったかしら?」

ルシアンは真っ赤な顔から一気に青ざめ、冷ややかな表情になった。
「今年で10歳ですが。何ですか?7歳に見えるとでも言いたいのですか?」

セレノアは何を言っても失言になりそうで話題を変えた。
「お父様とお母様は?」

ルシアンはため息を吐き、立ち上がった。
「ホールでお待ちです。今から出発なさるそうですよ。お見送りに行きましょう」
そう言って手を差し出した。

セレノアが掴むと、ヒョイと引き起こしてくれた。
そのまま手を離さないセレノアに、少し照れて呟くのが聞こえた。

「どうしたんですか?今日は···」

セレノアはにっこり笑ってごまかした。










ルシアンが10歳と言うことは、セレノアは12歳。
グレイス大公家が反逆の罪で処刑されるのが18歳。6年前に戻って来たのだ。

(女神様が、私の切実な願いを叶えてくれたのかしら)

では、願いを叶えるためにまずしないといけないことがある。
 
処刑される未来を変えなければ。私たちの安全を確保しなければならない。ーー6年で。

そのあとに、本当の願いを叶えるのだ。






「お父様、お母様」

ホールに行くと、父と母が笑顔で出迎えてくれた。

「どこにいたんだ?セレノア」
「庭で寝ていました」
ルシアンが報告した。

「ふふ。出掛ける前に会えて良かったわ。王宮へ行ってくるわね」

父と母に抱きつき、いつもより長く抱擁した。離れないセレノアに、2人とも顔を見合わせた。

「どうしたんだい?元気がないようだ」
「ええ。起きてからこんな感じで···怖い夢を見ていたようです」
ルシアンもまた心配そうな顔をしている。

セレノアは笑顔で言った。
「大丈夫です。ちょっと淋しくなってしまいました。今日はどのような要件でお城へ行かれるのですか?」

父と母は、また心配そうな顔をした。
「朝に言っただろう?忘れたのかい?セレノアの婚約の件だよ」

「やっぱり心配ね。あなた、1人で登城していただける?私は子供たちと残ろうかしら」

セレノアはハッとした。
(婚約?あの性悪王太子との)

グレイス大公家が仕えるレグナント王家は衰退していた。現国王は政治を軽んじ、家臣に任せ、国を弱体化させている。人心も離れつつある傾国だ。王太子も然り。未来の望めない国だ。

「お父様、私は王太子殿下と婚約したくありません」
セレノアはきっぱり言った。

「何だって?昨日は喜んでいたが、本心か?」

父は動揺している。それもそうだろう。王太子殿下は顔だけは良い。以前のセレノアは、特に何も考えず麗しの王子様との婚約を喜んでいた。

だが、前の人生での婚約期間の酷い扱いを思い出すと、今はあの顔を視界に入れたくもない。


「あなた···」
「ああ。セレノアが嫌なら断ろう。私も王太子殿下との婚約は賛成とは言えない」
「ではやはり私も行かなければ」

一見、厳格な大公とおっとりしている大公夫人に見えるが、意見を曲げないことと、物事をハッキリ言うのは大公夫人である母だった。現国王の妹と言うこともあり、断るなら母も同行した方が良いだろう。





両親を見送り、セレノアは自室に戻ってベッドに突っ伏した。喜びをバタバタと足で表現する。
「ーーやった」

叫びたいところだが、ドアの外に使用人がいるので小声で噛み締めた。

(今回は王太子の相手をしなくてすむ!嬉しい!嬉しい!)

12歳で婚約して6年。顔を合わせるたびに嫌な顔をされ、他の令嬢に入れ込み、時には暴力も振るわれた。今生ではなるべく関わりたくない。


「お嬢様、ルシアン様がお越しです」

メイドの言葉に、突っ伏して喜んでいたセレノアは飛び起きて、ぐしゃぐしゃになった髪を押さえつけた。


「どうぞ」

ドアが少し開き、黒髪とくりくりの紫色の目が見えた。ー我が弟はどうしてこんなに可愛いのか。

何か聞きたい事があるのだろう。養子ということもあり、普段から大人びた弟だが、聞きづらいことを聞く時は我知らず可愛い態度になっている。

「ルシアン、どうしたの?」

「えっと、姉上····あの、王太子殿下と結婚しないのですか?」

「しないわ!絶対したくない。死んでもしたくないわ」
強めに言った。

ルシアンは勢いに驚いたようだが、満面の笑みを見せた。
「そうですか」

「ん?聞きたかったのはそれだけ?」

「はい。聞けて良かった」

ルシアンは珍しく頭を預けて来た。セレノアは嬉しくてゆっくり撫でた。

(私の可愛い弟、ルシアン。貴方も絶対に死なせないわ)


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