私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子

文字の大きさ
3 / 6

第三話ー因縁の舞踏会


「ルシアン、もう私が教えられることはないわ」

セレノアの書庫で、ルシアンに言った。

ルシアンは淡々と応えた。
「そうですか。ではこれから独学で知識を広げます」

(13歳で、王国の宰相顔負けの知識を持っているのに、まだ上を目指すのね)
ルシアンの素質がここまでとは思わなかった。彼がそれだけ努力をしているのは知っていたが、天才と言う言葉が頭に浮かぶ。

「最近、武術も学んでいるそうね?」

「はい。剣術だけでは心許ないと思いましたので」
ルシアンは2年前、帝王学を学ぶと決めた頃から剣術にも力を入れていた。
つい先日、王国内で唯一ソードマスターの称号を持つ騎士と引き分けたと聞いた。周りも皆驚き、畏怖の対象として見始めた者もいる。


「ルシアン、目立ちすぎても良くないわ。王宮の監視の目が強くなるわよ」

ルシアンの涼しい目もとが少し動揺した。
「あ····、そうですね。気をつけます」







その日の夜、晩餐中に大公が言った。
「セレノア。王宮でのデビュタントだが、エスコートが王太子に決まった」

「父上、その件は···!」
声を荒げたのはルシアンだった。子供ながらに冷静な彼が珍しいことだ。

「落ち着きなさいルシアン。君の希望は聞いていたが、成人していない君にエスコートは出来ない」


この国の成人は16歳。成人の1年前に、王国に属する貴族の令嬢はデビュタントを行う。

(ルシアン、私のエスコートを申し出ていたの?王太子から守るために?)
セレノアは嬉しくなった。前生でもエスコートは王太子がしたが、それはもう最悪な思い出だ。終始不機嫌な顔をしているし、まさかのファーストダンスも拒否され、謁見が終わるとサッサと何処かへ消えてしまった。1人残されたセレノアは、中傷の的になった。


しかし今生では、セレノアを侮る貴族はいない。大公家で一部の事業も任されるようになった有能な公女を、王太子も無下にはできないだろう。

「大丈夫よ。ルシアン。私も護身術は身につけているもの。いざとなったら再起不能にしてやるわ」

拳を握りしめる娘に、大公は不安そうな表情をし、夫人は嘆いた。

「立派になってくれたのは嬉しいのだが」
「淑女の言葉ではないわ····」
「姉上の実力では不安が残ります」

みんなそれぞれセレノアに意見を述べた。







ーーーーーーー

デビュタント当日、セレノアは騎士を連れて王城へ1人で訪れた。普通はエスコートする男性が邸宅まで迎えに来るはずだが、王太子の性格上それはない。

広間への入り口に王太子は腕を組んで立っていた。
「遅いぞ····」

王太子はセレノアを見ると、少し動揺を見せた。
「お前、セレノア·グレイスか?」

失礼な物言いに、思わず言い返したくなったのをグッとこらえ、セレノアは王太子に挨拶をした。
「王国の陽光、エストラード王太子にご挨拶申し上げます。グレイス大公家長女、セレノアが参りました」
美しいカーテシーに、周囲の人は見惚れている。

王太子も例外ではなく、口元をにやりと歪ませ近付いて来た。
「久しぶりだな。3年ぶりか?どうして顔を見せなかった!」

(あんたに会いたくないからだけど)
セレノアは王太子を冷ややかに見た。前生で美しいと思った絹のような金髪も、王家特有の紫眼も、何も心に響かない。なぜ前生の私はこんな大したことない奴に一瞬でもときめいたのか?完全に黒歴史だ。

今生ではルシアンと身近にいるからだろうか?美しさだけを取っても、ルシアンの方が遥かに上じゃないか。
(ルシアンと王太子を比べるだなんて、ルシアンに失礼ね)

ルシアンを思い浮かべると、王太子と居る苦痛が少し和らいだ。
王太子の自分へ対する賛辞の言葉を右から左へ受け流し、セレノアは入場した。


「エストラード・レグナント王太子殿下と、セレノア・グレイス公女殿下のご入場です」

王太子とセレノアは、会場をまっすぐ進み、壇上にいるレグナント王の前に出た。

「王国唯一の光、レグナント王にご挨拶申し上げます」
2人は共にお辞儀をした。

「顔をあげよ」
セレノアは上げなくない顔を上げた。

「ふむ。そなた大公には似ておらぬな?夫人に似て美しくなった。そなたが王太子妃になるのが楽しみじゃ」
ゾワゾワと怖気の走る物言いに、セレノアは努力して微笑みを貼り付けた。

(姪に気持ち悪い視線を送るな)
絶対に婚約などしない。レグナント王のぶくぶくと太った体躯を見上げ、何か言おうと思ったが、やはり辞めて視線を下げた。

「ふむ。性格は夫人に似ておらぬようだな。面白くない。下がりなさい」 

セレノアは更に頭を下げて、壇上を降りた。
(お父様が何故不利な反乱をしたのか気になったけど、レグナント王の母様に対する言葉は少し異常だわ)

父が王家に歯向かったのは、母を守る為でもあるのかもしれないとセレノアは思った。



しばらくすると、ダンスの曲が流れ始めた。
王太子がセレノアに手を差し出すと、セレノアは膝から崩れた。仕込みどおり、ヒールを自ら折ったのだ。

「あっ、王太子殿下、申し訳ありません。ヒールが折れてしまいました。どうぞ私のことは気にせず、他の令嬢とダンスをお楽しみください」

少し長いセリフを一気に吐いて、流れるように中庭に逃げ出した。

セレノアは折れたヒールで器用に進み、噴水の広場まで来た。
「ここまで来ればいいかな」

「ー待て!セレノア·グレイス」

セレノアはギョッと振り返った。王太子が追い掛けて来たのだ。これは想定外だった。

王太子は大股で近づき、セレノアの腕を掴んだ。
「ハッ、こんなことで逃げたつもりか?お前、婚約を拒んでいるそうだなー何故だ?」

セレノアは手を振り払おうとしたが、思いの外強い力に、振り払うことが出来ない。下唇を噛み、王太子を睨んだ。
「ー殿下、私は婚約を結ぶつもりはありません。何度も申し上げているはずです」

令嬢から向けられたことのない敵意に、王太子は顔を赤くした。
「ーっお前!何だその目つきは」 

前回の生で殴られた記憶が蘇り、セレノアは息が詰まった。手が震え、痛みを覚悟して目を瞑る。

王太子の振り上げた手が見えたものの、痛みが来ない。セレノアが目を開くと、目の前に漆黒に光る髪が見えた。

「王太子殿下、淑女に手をあげるなど、紳士の振る舞いではありません」
13歳の少年から発したとは思えないほど、低い声だった。王太子の腕を掴んだルシアンの手は、血管が浮き出て握られた王太子の腕は青紫になっている。

王太子が咄嗟に捕まれた手から逃れようと暴れたので、ルシアンは自ら手を離した。

王太子は痛む腕を手で抑え、ルシアンを怯えた眼で見た。

(何だこいつの力は、子供の力ではない)

「姉上は体調が悪いようです。ヒールも折れていますし、このまま帰ることをお許しください」
ルシアンはそう言うと、王太子の返事も聞かずにセレノアを抱き上げた。

自分より小さな身体にヒョイと持ち上げられ、セレノアは固まった。
(なっ···ルシアンのどこにこんな力があるの?)

少し歩いたルシアンは、ふと振り返り王太子に言った。
「殿下は、あまり祝福を受けなかったようですね」

その言葉に王太子はみるみる顔を赤くしたが、何も言わず追っても来なかった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

惨殺された聖女は、任命式前に巻き戻る

ツルカ
恋愛
惨殺された聖女が、聖女任命式前に時間が巻き戻り、元婚約者に再会する話。

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした・完結

まほりろ
恋愛
公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい

らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。  ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?  婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。  そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。  しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。    だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。  ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?

『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』

六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。 王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。  数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。  そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。  「復讐? いいえ、これは正当な監査です」  リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。  孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。  やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。