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第五話ー反逆
セレノアが王城に忍ばせておいた密偵から報告を受け、城にかけつけた時には、玉座は既に血の海だった。
「姉上、早かったね。こんなに早く来ると知っていれば、血を掃除しておいたのに」
顔に返り血を浴びて、2年前と同じように「姉上」と呼ぶ弟を見て、セレノアは腰を抜かした。
「ルシアン、これは一体どういうこと?」
座り込んだセレノアに、ぴしゃりぴしゃりと血の中を歩いてルシアンが近付く。
「ごめん、姉上。あと1年待てなかったんだ。姉上の計画を台無しにしてしまったよね」
セレノアの前で膝をつき、ルシアンは申し訳なさそうに言った。
「あなた、け、怪我は?怪我はないの?」
王城で奇襲があったと聞き、それにルシアンが関わっていると聞いた時、セレノアは頭が真っ白になった。
次は父ではなく、ルシアンが濡れ衣を着せられ、1番に死んでしまうのではないかと。
ルシアンは目を見開いてセレノアを見た。
「怪我は、ないよ」
「良かった」
絞り出すように言い、セレノアはルシアンを抱きしめた。
「血が、血がつくよ姉上」
慌てるルシアンに、セレノアは怒るように言った。
「心配したのよっ!この1年連絡もしないで!こんな····」
「ごめん。ごめんね姉上」
5年前と同じように、ルシアンは姉の背中を撫でた。
しばらくして落ち着くと、セレノアはルシアンを睨むように見上げた。しゃがんで居ても、ルシアンがもうセレノアの背を越していることが分かる。
「2年ですごく大きくなったのね」
ルシアンは涼しい目でニヤリと笑い、立ち上がった。
「まあね。もう小さいなんて言われたくないからね」
そしてセレノアの腕を掴み、ひっぱり上げてくれた。
「歩ける?抱き上げようか?」
セレノアは自分の足を叩いた。
(血にこんなに動揺しているようでは、反逆など掲げられないわ)
「大丈夫よ。腕だけ貸してくれる?」
セレノアはルシアンに支えられ、息絶えた国王を見下ろした。胃の物が喉まで上がってきたが、必死に押さえ込んだ。
横を見ると、何人もの騎士が倒れている。ルシアンは、数人の仲間とともにこれを成し得たのだ。
「閣下、王太子はどうします?」
「ああ、そこへ置いておいて。あとで門に首を晒そう」
とんでもないことを言う弟に、ぎょっとして顔をみたが、いつもと変わらない涼しい顔をしている。
とりあえず気になったことを聞いた。
「閣下?」
「ここへ来る前に、父上に爵位を譲ってもらったんだ。計画を話したら、納得してくれたよ」
くらくらして、セレノアは手を額に当てた。
どう話したら15歳の養子に、大公の爵位を譲ろうと決意させられるのか。
(父様を脅したんじゃないでしょうね····)
「姉上、やはり1度邸宅へ戻ろう。顔色が悪いよ」
「誰のせいだと思っているの」
セレノアは頭が痛くなってきた。
キーーン。
割れるような激しい痛みを感じた。思わず目を閉じて、痛みが引くのを待った。
(うぅっ何これ)
痛みが徐々に引き、目を開けると、セレノアはどこまでも真っ白な空間に1人で立っていた。
ーー《目的は達成しましたか?》ーー
(えっ)
頭に直接声が響く。慣れない感覚だったが、不快ではなかった。
ーー《あなたの本当の目的はここからでしたね?頑張ってください》ーー
(この声、何?女神様かしら)
ーー《少し規格外の者がいるので、簡単には達成しそうにないですが》ーー
ーープッ。
唐突に目が覚めた。頭の中に響いた声は、一方的に話して消えた。
「姉上!」
見慣れた大公邸の自室だった。
ベッドの側に、ルシアンと父と母がいる。
「良かった。セレノア···」
母が泣きながら抱きしめてくれた。
セレノアは母を宥め、父とルシアンを見た。
「お父さま、ルシアン。説明してくださる?」
父は困ったような顔をした。
言いにくそうな父に変わって、ルシアンが口を開いた。
「僕が話そう。数日前にレグナント王が父上の暗殺を企てていると報告を受けたんだ。」
「えっ」
(ルシアンも王城に密偵がいたのね)
だが自分には知り得ない情報だ。ルシアンの部下の方が上手なのだろう。
「実はこういうことは何度かあったんだ。今までは未然に防いでいたけど、それももう限界だった」
「何だって?それは聞いてないぞルシアン」
父は初耳だったらしく、慌てている。
「あなた、続きを聞きましょう」
母に諭され、父は口を閉じた。
「しかも今回は、父を暗殺したあとに、姉上と王太子の婚約の話を強引に進めようとしていた」
ひやりとした空気が流れた。
「もう、殺すしかないだろう?」
エレノアはどう言っていいか分からず、父と母は何か諦めた表情をしている。
ということは何か?私のせいで前国王は死んだのだろうか?同情はしないが。
ため息を付いて父が話し始めた。
「ルシアンから話を聞いた時、私もさすがに反対をした。私の方でも進めていた計画だったからな。しかし、計画を事細かに聞くと、私の出る幕はないことに気付いてな」
父はルシアンの頭をポンと撫でた。
「危なっかしいが、もはや私ではルシアンには敵わない。ルシアンに爵位を譲って、私たちは領地に戻り隠居させてもらうよ。全く、我が子ながら末恐ろしい子供たちだ」
「お父さま」
ということは、危険は去ったのだ。私たちは、命を脅かされない。安全は確保した。
エレノアは胸の奥が熱くなった。
「姉上、早かったね。こんなに早く来ると知っていれば、血を掃除しておいたのに」
顔に返り血を浴びて、2年前と同じように「姉上」と呼ぶ弟を見て、セレノアは腰を抜かした。
「ルシアン、これは一体どういうこと?」
座り込んだセレノアに、ぴしゃりぴしゃりと血の中を歩いてルシアンが近付く。
「ごめん、姉上。あと1年待てなかったんだ。姉上の計画を台無しにしてしまったよね」
セレノアの前で膝をつき、ルシアンは申し訳なさそうに言った。
「あなた、け、怪我は?怪我はないの?」
王城で奇襲があったと聞き、それにルシアンが関わっていると聞いた時、セレノアは頭が真っ白になった。
次は父ではなく、ルシアンが濡れ衣を着せられ、1番に死んでしまうのではないかと。
ルシアンは目を見開いてセレノアを見た。
「怪我は、ないよ」
「良かった」
絞り出すように言い、セレノアはルシアンを抱きしめた。
「血が、血がつくよ姉上」
慌てるルシアンに、セレノアは怒るように言った。
「心配したのよっ!この1年連絡もしないで!こんな····」
「ごめん。ごめんね姉上」
5年前と同じように、ルシアンは姉の背中を撫でた。
しばらくして落ち着くと、セレノアはルシアンを睨むように見上げた。しゃがんで居ても、ルシアンがもうセレノアの背を越していることが分かる。
「2年ですごく大きくなったのね」
ルシアンは涼しい目でニヤリと笑い、立ち上がった。
「まあね。もう小さいなんて言われたくないからね」
そしてセレノアの腕を掴み、ひっぱり上げてくれた。
「歩ける?抱き上げようか?」
セレノアは自分の足を叩いた。
(血にこんなに動揺しているようでは、反逆など掲げられないわ)
「大丈夫よ。腕だけ貸してくれる?」
セレノアはルシアンに支えられ、息絶えた国王を見下ろした。胃の物が喉まで上がってきたが、必死に押さえ込んだ。
横を見ると、何人もの騎士が倒れている。ルシアンは、数人の仲間とともにこれを成し得たのだ。
「閣下、王太子はどうします?」
「ああ、そこへ置いておいて。あとで門に首を晒そう」
とんでもないことを言う弟に、ぎょっとして顔をみたが、いつもと変わらない涼しい顔をしている。
とりあえず気になったことを聞いた。
「閣下?」
「ここへ来る前に、父上に爵位を譲ってもらったんだ。計画を話したら、納得してくれたよ」
くらくらして、セレノアは手を額に当てた。
どう話したら15歳の養子に、大公の爵位を譲ろうと決意させられるのか。
(父様を脅したんじゃないでしょうね····)
「姉上、やはり1度邸宅へ戻ろう。顔色が悪いよ」
「誰のせいだと思っているの」
セレノアは頭が痛くなってきた。
キーーン。
割れるような激しい痛みを感じた。思わず目を閉じて、痛みが引くのを待った。
(うぅっ何これ)
痛みが徐々に引き、目を開けると、セレノアはどこまでも真っ白な空間に1人で立っていた。
ーー《目的は達成しましたか?》ーー
(えっ)
頭に直接声が響く。慣れない感覚だったが、不快ではなかった。
ーー《あなたの本当の目的はここからでしたね?頑張ってください》ーー
(この声、何?女神様かしら)
ーー《少し規格外の者がいるので、簡単には達成しそうにないですが》ーー
ーープッ。
唐突に目が覚めた。頭の中に響いた声は、一方的に話して消えた。
「姉上!」
見慣れた大公邸の自室だった。
ベッドの側に、ルシアンと父と母がいる。
「良かった。セレノア···」
母が泣きながら抱きしめてくれた。
セレノアは母を宥め、父とルシアンを見た。
「お父さま、ルシアン。説明してくださる?」
父は困ったような顔をした。
言いにくそうな父に変わって、ルシアンが口を開いた。
「僕が話そう。数日前にレグナント王が父上の暗殺を企てていると報告を受けたんだ。」
「えっ」
(ルシアンも王城に密偵がいたのね)
だが自分には知り得ない情報だ。ルシアンの部下の方が上手なのだろう。
「実はこういうことは何度かあったんだ。今までは未然に防いでいたけど、それももう限界だった」
「何だって?それは聞いてないぞルシアン」
父は初耳だったらしく、慌てている。
「あなた、続きを聞きましょう」
母に諭され、父は口を閉じた。
「しかも今回は、父を暗殺したあとに、姉上と王太子の婚約の話を強引に進めようとしていた」
ひやりとした空気が流れた。
「もう、殺すしかないだろう?」
エレノアはどう言っていいか分からず、父と母は何か諦めた表情をしている。
ということは何か?私のせいで前国王は死んだのだろうか?同情はしないが。
ため息を付いて父が話し始めた。
「ルシアンから話を聞いた時、私もさすがに反対をした。私の方でも進めていた計画だったからな。しかし、計画を事細かに聞くと、私の出る幕はないことに気付いてな」
父はルシアンの頭をポンと撫でた。
「危なっかしいが、もはや私ではルシアンには敵わない。ルシアンに爵位を譲って、私たちは領地に戻り隠居させてもらうよ。全く、我が子ながら末恐ろしい子供たちだ」
「お父さま」
ということは、危険は去ったのだ。私たちは、命を脅かされない。安全は確保した。
エレノアは胸の奥が熱くなった。
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