5 / 6
第五話ー反逆
しおりを挟む
セレノアが王城に忍ばせておいた密偵から報告を受け、城にかけつけた時には、玉座は既に血の海だった。
「姉上、早かったね。こんなに早く来ると知っていれば、血を掃除しておいたのに」
顔に返り血を浴びて、2年前と同じように「姉上」と呼ぶ弟を見て、セレノアは腰を抜かした。
「ルシアン、これは一体どういうこと?」
座り込んだセレノアに、ぴしゃりぴしゃりと血の中を歩いてルシアンが近付く。
「ごめん、姉上。あと1年待てなかったんだ。姉上の計画を台無しにしてしまったよね」
セレノアの前で膝をつき、ルシアンは申し訳なさそうに言った。
「あなた、け、怪我は?怪我はないの?」
王城で奇襲があったと聞き、それにルシアンが関わっていると聞いた時、セレノアは頭が真っ白になった。
次は父ではなく、ルシアンが濡れ衣を着せられ、1番に死んでしまうのではないかと。
ルシアンは目を見開いてセレノアを見た。
「怪我は、ないよ」
「良かった」
絞り出すように言い、セレノアはルシアンを抱きしめた。
「血が、血がつくよ姉上」
慌てるルシアンに、セレノアは怒るように言った。
「心配したのよっ!この1年連絡もしないで!こんな····」
「ごめん。ごめんね姉上」
5年前と同じように、ルシアンは姉の背中を撫でた。
しばらくして落ち着くと、セレノアはルシアンを睨むように見上げた。しゃがんで居ても、ルシアンがもうセレノアの背を越していることが分かる。
「2年ですごく大きくなったのね」
ルシアンは涼しい目でニヤリと笑い、立ち上がった。
「まあね。もう小さいなんて言われたくないからね」
そしてセレノアの腕を掴み、ひっぱり上げてくれた。
「歩ける?抱き上げようか?」
セレノアは自分の足を叩いた。
(血にこんなに動揺しているようでは、反逆など掲げられないわ)
「大丈夫よ。腕だけ貸してくれる?」
セレノアはルシアンに支えられ、息絶えた国王を見下ろした。胃の物が喉まで上がってきたが、必死に押さえ込んだ。
横を見ると、何人もの騎士が倒れている。ルシアンは、数人の仲間とともにこれを成し得たのだ。
「閣下、王太子はどうします?」
「ああ、そこへ置いておいて。あとで門に首を晒そう」
とんでもないことを言う弟に、ぎょっとして顔をみたが、いつもと変わらない涼しい顔をしている。
とりあえず気になったことを聞いた。
「閣下?」
「ここへ来る前に、父上に爵位を譲ってもらったんだ。計画を話したら、納得してくれたよ」
くらくらして、セレノアは手を額に当てた。
どう話したら15歳の養子に、大公の爵位を譲ろうと決意させられるのか。
(父様を脅したんじゃないでしょうね····)
「姉上、やはり1度邸宅へ戻ろう。顔色が悪いよ」
「誰のせいだと思っているの」
セレノアは頭が痛くなってきた。
キーーン。
割れるような激しい痛みを感じた。思わず目を閉じて、痛みが引くのを待った。
(うぅっ何これ)
痛みが徐々に引き、目を開けると、セレノアはどこまでも真っ白な空間に1人で立っていた。
ーー《目的は達成しましたか?》ーー
(えっ)
頭に直接声が響く。慣れない感覚だったが、不快ではなかった。
ーー《あなたの本当の目的はここからでしたね?頑張ってください》ーー
(この声、何?女神様かしら)
ーー《少し規格外の者がいるので、簡単には達成しそうにないですが》ーー
ーープッ。
唐突に目が覚めた。頭の中に響いた声は、一方的に話して消えた。
「姉上!」
見慣れた大公邸の自室だった。
ベッドの側に、ルシアンと父と母がいる。
「良かった。セレノア···」
母が泣きながら抱きしめてくれた。
セレノアは母を宥め、父とルシアンを見た。
「お父さま、ルシアン。説明してくださる?」
父は困ったような顔をした。
言いにくそうな父に変わって、ルシアンが口を開いた。
「僕が話そう。数日前にレグナント王が父上の暗殺を企てていると報告を受けたんだ。」
「えっ」
(ルシアンも王城に密偵がいたのね)
だが自分には知り得ない情報だ。ルシアンの部下の方が上手なのだろう。
「実はこういうことは何度かあったんだ。今までは未然に防いでいたけど、それももう限界だった」
「何だって?それは聞いてないぞルシアン」
父は初耳だったらしく、慌てている。
「あなた、続きを聞きましょう」
母に諭され、父は口を閉じた。
「しかも今回は、父を暗殺したあとに、姉上と王太子の婚約の話を強引に進めようとしていた」
ひやりとした空気が流れた。
「もう、殺すしかないだろう?」
エレノアはどう言っていいか分からず、父と母は何か諦めた表情をしている。
ということは何か?私のせいで前国王は死んだのだろうか?同情はしないが。
ため息を付いて父が話し始めた。
「ルシアンから話を聞いた時、私もさすがに反対をした。私の方でも進めていた計画だったからな。しかし、計画を事細かに聞くと、私の出る幕はないことに気付いてな」
父はルシアンの頭をポンと撫でた。
「危なっかしいが、もはや私ではルシアンには敵わない。ルシアンに爵位を譲って、私たちは領地に戻り隠居させてもらうよ。全く、我が子ながら末恐ろしい子供たちだ」
「お父さま」
ということは、危険は去ったのだ。私たちは、命を脅かされない。安全は確保した。
エレノアは胸の奥が熱くなった。
「姉上、早かったね。こんなに早く来ると知っていれば、血を掃除しておいたのに」
顔に返り血を浴びて、2年前と同じように「姉上」と呼ぶ弟を見て、セレノアは腰を抜かした。
「ルシアン、これは一体どういうこと?」
座り込んだセレノアに、ぴしゃりぴしゃりと血の中を歩いてルシアンが近付く。
「ごめん、姉上。あと1年待てなかったんだ。姉上の計画を台無しにしてしまったよね」
セレノアの前で膝をつき、ルシアンは申し訳なさそうに言った。
「あなた、け、怪我は?怪我はないの?」
王城で奇襲があったと聞き、それにルシアンが関わっていると聞いた時、セレノアは頭が真っ白になった。
次は父ではなく、ルシアンが濡れ衣を着せられ、1番に死んでしまうのではないかと。
ルシアンは目を見開いてセレノアを見た。
「怪我は、ないよ」
「良かった」
絞り出すように言い、セレノアはルシアンを抱きしめた。
「血が、血がつくよ姉上」
慌てるルシアンに、セレノアは怒るように言った。
「心配したのよっ!この1年連絡もしないで!こんな····」
「ごめん。ごめんね姉上」
5年前と同じように、ルシアンは姉の背中を撫でた。
しばらくして落ち着くと、セレノアはルシアンを睨むように見上げた。しゃがんで居ても、ルシアンがもうセレノアの背を越していることが分かる。
「2年ですごく大きくなったのね」
ルシアンは涼しい目でニヤリと笑い、立ち上がった。
「まあね。もう小さいなんて言われたくないからね」
そしてセレノアの腕を掴み、ひっぱり上げてくれた。
「歩ける?抱き上げようか?」
セレノアは自分の足を叩いた。
(血にこんなに動揺しているようでは、反逆など掲げられないわ)
「大丈夫よ。腕だけ貸してくれる?」
セレノアはルシアンに支えられ、息絶えた国王を見下ろした。胃の物が喉まで上がってきたが、必死に押さえ込んだ。
横を見ると、何人もの騎士が倒れている。ルシアンは、数人の仲間とともにこれを成し得たのだ。
「閣下、王太子はどうします?」
「ああ、そこへ置いておいて。あとで門に首を晒そう」
とんでもないことを言う弟に、ぎょっとして顔をみたが、いつもと変わらない涼しい顔をしている。
とりあえず気になったことを聞いた。
「閣下?」
「ここへ来る前に、父上に爵位を譲ってもらったんだ。計画を話したら、納得してくれたよ」
くらくらして、セレノアは手を額に当てた。
どう話したら15歳の養子に、大公の爵位を譲ろうと決意させられるのか。
(父様を脅したんじゃないでしょうね····)
「姉上、やはり1度邸宅へ戻ろう。顔色が悪いよ」
「誰のせいだと思っているの」
セレノアは頭が痛くなってきた。
キーーン。
割れるような激しい痛みを感じた。思わず目を閉じて、痛みが引くのを待った。
(うぅっ何これ)
痛みが徐々に引き、目を開けると、セレノアはどこまでも真っ白な空間に1人で立っていた。
ーー《目的は達成しましたか?》ーー
(えっ)
頭に直接声が響く。慣れない感覚だったが、不快ではなかった。
ーー《あなたの本当の目的はここからでしたね?頑張ってください》ーー
(この声、何?女神様かしら)
ーー《少し規格外の者がいるので、簡単には達成しそうにないですが》ーー
ーープッ。
唐突に目が覚めた。頭の中に響いた声は、一方的に話して消えた。
「姉上!」
見慣れた大公邸の自室だった。
ベッドの側に、ルシアンと父と母がいる。
「良かった。セレノア···」
母が泣きながら抱きしめてくれた。
セレノアは母を宥め、父とルシアンを見た。
「お父さま、ルシアン。説明してくださる?」
父は困ったような顔をした。
言いにくそうな父に変わって、ルシアンが口を開いた。
「僕が話そう。数日前にレグナント王が父上の暗殺を企てていると報告を受けたんだ。」
「えっ」
(ルシアンも王城に密偵がいたのね)
だが自分には知り得ない情報だ。ルシアンの部下の方が上手なのだろう。
「実はこういうことは何度かあったんだ。今までは未然に防いでいたけど、それももう限界だった」
「何だって?それは聞いてないぞルシアン」
父は初耳だったらしく、慌てている。
「あなた、続きを聞きましょう」
母に諭され、父は口を閉じた。
「しかも今回は、父を暗殺したあとに、姉上と王太子の婚約の話を強引に進めようとしていた」
ひやりとした空気が流れた。
「もう、殺すしかないだろう?」
エレノアはどう言っていいか分からず、父と母は何か諦めた表情をしている。
ということは何か?私のせいで前国王は死んだのだろうか?同情はしないが。
ため息を付いて父が話し始めた。
「ルシアンから話を聞いた時、私もさすがに反対をした。私の方でも進めていた計画だったからな。しかし、計画を事細かに聞くと、私の出る幕はないことに気付いてな」
父はルシアンの頭をポンと撫でた。
「危なっかしいが、もはや私ではルシアンには敵わない。ルシアンに爵位を譲って、私たちは領地に戻り隠居させてもらうよ。全く、我が子ながら末恐ろしい子供たちだ」
「お父さま」
ということは、危険は去ったのだ。私たちは、命を脅かされない。安全は確保した。
エレノアは胸の奥が熱くなった。
44
あなたにおすすめの小説
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる