私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子

文字の大きさ
6 / 6

最終話ー戴冠式


死に戻り、目が覚めて5年。やっと目的の半分を達成したのだ。ルシアンのおかげで。

「あ、でもお父さま、爵位をルシアンに譲っては駄目よ。私に譲ってちょうだい。ルシアンは皇帝になるのだから」

ルシアンは目をぱちくりさせた。
「え?皇帝は姉上がなるんじゃないの?」

「どうしてよ。王家の血を引いているのだから、当然ルシアンが皇帝よ。貴方なら確実に一国を治めていけるわ」

ルシアンはあごに手をあてて少し思案した。
「そう···それは良いけど、じゃあ姉上はどうするの?」

エレノアはパッと顔を上げて、よくぞ聞いてくれました!とばかりに話し始めた。

「私はこれから恋愛をするわ。結婚相手を探すの」

「ーーーーーえっ」
ルシアンは聞いたことのない間の抜けた声で、目を見開いた。ものすごく呆気にとられ、衝撃を受けている。

「恋愛····?結婚·····?誰と?」

エレノアは義弟の様子のおかしさに気付かず続けた。
「それは今から探すのよ。大公の爵位はとりあえず私が引き継ぐけど、傍系のディオンがもう少し大きくなったら譲ろうと思うの。それからゆっくり相手を探すわ」

父と母は、ルシアンが不憫で顔を背けた。
エレノアは少女のように微笑んで言った。
「私、普通の令嬢たちのように、きらきらした恋愛をするのが夢だったの」 


ビシリ。
確実に室内の温度が下がった。


「·····そう」 
ルシアンは顔も上げず、呟いた。

そこで初めてルシアンの様子のおかしさに気づいたエレノアは、首をかしげた。
「ルシアン?どうしたの?」

「僕は後処理があるから、もう行くよ。あとは任せて、姉上は休んでて」
そう言うとふらふらと部屋を出ていった。


「後処理って、ルシアンだけじゃ大変じゃないかしら?私も行った方が」
エレノアがベッドから降りようとすると、父が止めた。
「大丈夫だ。ルシアンには有能な部下が既にたくさんいるようだから。任せておけ」

(そうね。これからルシアンが国を治めるのだし、任せた方がいいかもしれない)

エレノアは布団に戻り、静かに目を閉じた。











ーーーーーーーーーーーーー

翌日、エレノアは王宮でルシアンのサポートをした。目を通す書類がたくさんあり、エレノアもいくつかサインした。
その翌日には大公邸の処理する書類も持ち込み、2人で手分けして目を通した。ある程度目は通したが、忙し過ぎてエレノアのサインをルシアンがすることもあった。

王宮の人事も総入れ替えし、ルシアンは貴族院を1年早く卒業もした。
革命から1ヶ月、城に泊まりきりで書類や人と会い、なんとか戴冠式まで執り行う所まできた。

「ようやく戴冠式に移れるわね。明日は衣装屋を呼んだから、時間を見つけて教えてくれる?」
「うん。姉上の衣装も一緒に頼もう。隣にいてくれるだろう?」

エレノアより背が高いのに、わざわざ屈んで上目遣いで言ってくる。若干のあざとさを感じるが、可愛い弟には逆らえない。

「わかったわ。貴方の戴冠式を隣で見れるなんて嬉しいわ」

ルシアンはにこっと笑った。

エレノアはルシアンの自然な笑顔を数えるくらいしか見たことがない。革命から1ヶ月、頻繁に見れるようになったこの笑顔が愛おしかった。





次の日も滞りなく終わった。衣装の合わせはすんだし、あとは戴冠式を待つだけだった。



戴冠式、前日。
今日は珍しく寝る前にルシアンが部屋に来て、「よく眠れるように」と香を焚いてくれた。エレノアの好きな花の香りだった。

(ようやく戴冠式まで来たわ。これからどうやって恋をしようかしら。あ、ルシアンにも良い人を見つけたいわ)

エレノアは、自分が選んだ深紅の外套を身に纏い、王冠を授かるルシアンの姿を夢見て眠った。











ーーーーーーーーーーーーー

(ーおかしいわ)
エレノアは夢であってほしいと心から思った。

何故、何故ルシアンの頭上にあるはずの王冠が、自分の頭上に掲げられているのか。


重たい王冠をズシリと感じ、エレノアが振り返ると、民衆が大きく歓喜の声を上げた。
「エレノア女王陛下!万歳!」
「エレノア皇帝陛下!万歳!」

エレノアは状況が飲み込めず、かろうじて動く首でルシアンを探した。
少し離れた場所で膝を付き、臣下の如く頭を下げているルシアンと目が合った。

ルシアンはにやりと笑って、また頭を下げた。

(ルシアン、あなた、あなた、一服盛ったわね····?)

歓喜の声を上げる民衆と、自分の頭上に置かれた王冠を見て、エレノアはもう引き返せないと悟った。

観念して神官から受け取った宝杖も掲げてみせた。

半ばヤケで笑顔を振りまいていると、ルシアンがゆっくりと近付いて来た。
エレノアは前を向いたまま言った。

「ルシアン。なんて事してくれたの。弁明があるなら聞くわよ」

大きな歓声で、2人の会話は2人にしか聞こえない。

「勝手なことをして申し訳ありません。ですが、亡国の血を色濃く継ぐ私より、やはり姉上が皇帝になるべきかと」
「·······」
至極当然な意見なため、反論は出来ない。とりあえずルシアンを睨む。

「あ、ご安心ください。姉上に盛った薬は、人体に悪い影響はないものですので」 

だからと言って、姉を傀儡のように動かす薬など盛らないでほしかった。
エレノアはため息を付いた。
「また、忙しくなるじゃない?」

「ええ。そうですね姉上。知らない相手と恋愛などしてる暇はありませんね」

エレノアの、もう一つの目的が遠のいていく。
「そんな···私の夢が」

「ですが姉上、ご安心ください。姉上の望む、きらきらした恋愛は僕がなんとかしますので」

誰か良い相手を見繕ってくれるのだろうか?エレノアは期待せずに言った。
「じゃあまかせるわ」

ルシアンの紫の眼が、獲物を捕らえたように熱を帯びて光る。
「言いましたね?」

その眼に一瞬どきりとして、エレノアは眼を反らした。そしてそのまま空を見た。

(私のもう一つの目的が叶うのは、いつになるかしら)

とりあえず、今は皇帝業を頑張ろう。安全は確保出来て、時間はたっぷりあるのだから。






感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

月華
2026.03.15 月華

蝶々が自ら蜘蛛の巣にかかりにいった感w
たぶん蜘蛛の糸(執着と偏愛)でグルグルに巻かれて美味しく食べられてしまうんでしょうww

解除

あなたにおすすめの小説

惨殺された聖女は、任命式前に巻き戻る

ツルカ
恋愛
惨殺された聖女が、聖女任命式前に時間が巻き戻り、元婚約者に再会する話。

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした・完結

まほりろ
恋愛
公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい

らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。  ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?  婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。  そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。  しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。    だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。  ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?

『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』

六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。 王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。  数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。  そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。  「復讐? いいえ、これは正当な監査です」  リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。  孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。  やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。