魔王の果実Ⅲ【砂の棺】

亜坊 ひろ

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魔王の果実Ⅲ【砂の棺】第2話

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 ラナリュが不思議そうにベルルに問いかける。

 「おばさんの恋人だった?その人がなんで監獄になんか…」

 記憶自体忘れようとしていたベルルの重い口が開く。

 「…。その昔わしらは魔導研究員だったのじゃ…究極の召喚魔法…。その探求心の答えを求めるがあまりその結果が魔法暴走…ほか研究員もろとも巻き込んで大半は死に絶え、重症ながら生き残ったのがわしとハクアじゃった…」

 「じゃ、そのハクアが首謀者として捕まって…魔界監獄行きになった訳なんだね…」

 「そうじゃ…。だからわしも自ら魔王リベリス様に直訴し、魔界追放の罰を申し出た…」

 「召喚魔法なんて今じゃ普通じゃん…。究極の召喚魔法って? まさか…? 」

 ラナリュの一言に目付きが変わるベルル。

 「ラナリュ…。わしは今回の件はマドリア一人の考えでは無いと思うちょる…。魔神ロキを復活させるなどあやつが考える訳ないんじゃ…魔神の存在はある一部の者しか知らん…研究員の中ではハクアとわしだけだったのじゃ」

 「じゃハクアが後ろだてしたって事? 」

 「そう考えるべきじゃろう…。ハクアの求める究極召喚とは無の存在を作り出すことじゃからな」

 「無の存在…。神話とかに出てくる幻獣や精霊か…」

 「流石じゃのう…ラナリュ…そう…。わしらが放つ魔法の礎となる存在…炎の化身サラマンドラや合成幻獣キメラなど…数えればキリがないわい…。それを魔術によって作り出す…それが究極召喚じゃ」

 ミハエルがマドリアの一件について付け加えて話す。

 「元々ハクアとマドリアは面識が無い訳で無くてな…禁術に魅了されていたマドリアをハクアは魔導研究員として誘っていたのだ…だがあっさりと断られたがな」

 「…。わしのせいかもしれん…魔導研究の事故をひた隠しにした際、マドリアは新たな禁術を開発したと勘違いして、ハクアのいる監獄へ赴き、人間界に封印された魔神の存在を聞かされた…。そんなところじゃろう」

 「ベルルの推測通りだ…魔神復活は禁術など遥かに通り越して、人間界はもちろん魔界まで…いや天界まで危機にさらす問題だ…。魔王リベリス様しかり、大天使アリエス様さえ太刀打ち出来んだろう…。しかしひとつだけ…魔神ロキに対抗する手段がある…ベルルお前なら分かるな…」

 「究極召喚を完成させろとでも? 馬鹿も休み休みに言え。錬成自体白紙のままみたいなもんじゃ…まして魔神に対抗できるはずはなど…!?そうか!…目には目を、神には神を…ロキの最愛の恋人…女神アフロディアを召喚できれば話は別だ…」

 「そう…。神話にも語り継がれてるが…相愛でありながら親から引き裂かれ、落胆した女神が自決し、それに狂乱したロキが魔神と化し、殺戮を繰り返した…やれるか?ベルル」

 「わからん…見たことの無い物をどうやって…まして研究に携わった時間など僅かしかない…召喚魔法すらままならんのに…」

 するとラナリュが鼻息荒くベルルに意気込む。

 「おばさん!その為に俺たちがいるんじゃないのかい? なぁメヒストのオッサン!俺の魔導センスとオッサンの魔法陣がありゃ究極召喚なんて、あっと言う間さぁ!」

 ミハエルがくすりと笑う。

 「頼もしいですな…。だがベルル…ハクアとの気持ちは整理がついているのか?必ずあやつはこの人間界を目指すはず…」

 「馬鹿もの!いつの話じゃ!わしが人間界に落ちた時点でもう自分の気持ちなどとうの昔に捨てたわい!」

 ラナリュとメヒストが笑いながら。

 「ベル様、そんなに怒らないで。プッ」

 「おばさん顔が赤いよ?大丈夫?アハハ」

 「お前達…歳上を馬鹿にするなぁあ!」


 その頃天界では-

 「お、お前は?脱獄した!ギャアア!!」

 「この古文書だな…。ふむ…魔神ロキはやはり人間界か…。あの女が復活させていないとなると…人間界にもマドリアに匹敵する者がいる…ベルル・ユナイリか…面白い…」

続く

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