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第一章 小笠原事変
第五話 父島の惨状と、天然ボケ
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(ついてないな)
万屋はそう思った。
今日は、そんなふうに考える事が多い。
しかし、誰かの責任という訳でもなかった。
あくまでも、不運なのだ。
万屋の居るこの場所は小笠原諸島の一つ、父島である。
万屋小隊と王女一行は、何故かこの島の港に居た。
大谷海将とベアトリクス王女の非公式会談から三十分後。
『来賓を連れて首相官邸へ向かうように』という命令を受けていた万屋小隊であったが、その命令は急に撤回されてしまう。
そして、父島や母島へ上陸した、『武装集団の残党を撃退するように』という新たな命令が下る。
それだけならば、まだ良かったのだ。
小隊単独で行うには、少しばかりハードワークだが、出来なくもない。
しかし、『来賓を連れて戦場に出ろと』いう命令は、万屋の想像を大きく越えるものだった。
もちろん、王女一行に対しては要請であったが、唯一通訳となり得る万屋が出る以上、事実上の強要だろう。
非常識な情勢下ではあるが、それにしても常識外れに過ぎる命令だ。
万屋に予想出来ないのも当然である。
何せ、優秀な山田であっても、驚いていた程だ。
自他共にぼんくらと認める万屋では、予想出来る筈も無い。
「ふぅ…………。
運が悪いよなぁ」
万屋は溜め息を吐きつつ、そう嘯いた。
ちなみにこれは、士官としてやってはいけない行為の一つである。
「元気を出してください、万屋様♪」
ベアトリクスが、万屋を元気付けてようとする。
「ソウデスヨ、ヒメサマノオッシャルトオリ」
アンジェリカが、何故か引きつった笑みを浮かべ、片言で言う。
どうやら、万屋が敬うべき勇者であるという事に、折り合いが付かないらしい。
万屋としても、睨まれるのは御免だが、同時に勇者呼ばわりも困る。
もしも、これがあと十年以上早ければ、嬉々として受け入れたかもしれないが、この歳になってから言われても、困惑と羞恥しか感じないのだ。
「あの、様呼ばわりは、ちょっと困りますんで。
敬語も不要ですし、もっと気楽に御願いします」
「おう、そうか。
そうだな。
貴様何ぞに敬語を使うのは、確かに馬鹿らしいな。
うん、うん♪
姫様も、この様な者に、気を使う必要は御座いません。
お止めください」
万屋が、そう言った瞬間に、アンジェリカが口調を元に戻した。
つくづく、残念な騎士である。
別に彼女の振る舞いが、ダークエルフやエルフ全体の特性という訳では無いらしい。
その証拠に伯爵は、溜め息を吐きながら頭を抱えており、侍女エルフ達は吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
「アンジェリカ。
貴女のそういうところは微笑ましいのだけれど、相手によっては嫌がられる事もあります。
注意なさい」
ベアトリクスがそう言って、アンジェリカをたしなめる。
(俺は嫌がらないとでも、思ってんのかね?)
ベアトリクスの言い回しが、万屋としては面白くなかった。
しかし、万屋の心を読み取ったかの様に、ベアトリクスが言葉を続ける。
「万屋様の寛大なお心に、感謝するのですよ」
「いや??♪
ですから、様付けは止めてくださいよ??♪」
美人に少し褒められただけで、これである。
万屋は、単純な男だった。
「分かりました。
そうまで仰るなら、妥協致します。
『万屋さん』でどうでしょう?」
「貴さっ……………。
うぅ、うん、ごほん。
サスガハヒメサマ、ソレガヨロシュウゴザイマス」
ベアトリクスの意見なのに、何故か万屋に文句を言おうとしたアンジェリカであるが、伯爵の一睨みで片言に戻る。
どうやら、叔父には頭が上がらない様だ。
片言なの天然でやっているのか、せめてもの抵抗なのかは分からない。
やはり残念騎士である。
「隊長、皆さん気楽にしてらっしゃいますけど、気を抜かない様に言ってください。
大方ケリはつきましたけど、まだ敵が居るかもしれません。
一応、AAV7の中からは、出ない様に言っておいてください」
「山さんは、心配性だなぁ。
まあ、たしかに装甲があるから、確実に安全だけどね。
しかし、奮発したねぇ。
只の普通科に、こんなの貸してくれるなんてさ。
これって、噂の最新生産モデルだろ?
しかも、運転手付きで。
普通なら有り得ないよなぁ。
どう考えても、王女殿下がらみの措置だよ、これ。
死なせたくないなら、何で戦場に送り出したんだか」
万屋は気楽に言う。
おそらく、開き直っているのだろう。
「それについては、自分に心当たりがありますけどね。
後にしましょう。
それよりも、隊長には緊張感を持って欲しいですな」
山田は、普段と変わらない様子だ。
「山さんねぇ。
気を紛らわせないと、やってられないんだよ。
山さんは、冷静だけどさ。
どうすんの、この惨状。
これ絶対、マスコミに叩かれるよ。
霧谷なんか、もう戻してるし」
中世の軍隊、それも壊滅した残党に向かって12.7ミリ機銃を撃ち込む。
そこだけ見れば、たしかに虐殺扱いされても不思議ではないだろう。
そして、所謂自称リベラリスト達は、そういう理屈で持って非難する筈だ。
この場合は、魔法という未知の技術を警戒したという、やむを得ない事情があるのだが、そういう人々に限って論点をすり替えるものである。
もちろん、人間である以上はあり得る事だ。
少しずれるが、万屋が生まれる前にあった、検察の暴走による世紀の冤罪事件が、揚げられるだろう。
この事件の原因は『こうであろう』という、検察の予測に合わせて捜査を行った事にある、とされている。
当然、マスコミは非難した。
しかし、当のマスコミ自体が、スポンサーに合わせて予め結論を出したうえに、その結論に合わせた報道をしているのが、当時の現実であったのだ。
そう、結局のところ営利団体である以上は、スポンサーの意向に沿って偏る事も、やむを得ないのだろう。
しかし、『何者の意向によって偏るのか?』という点は、やはり問題視すべきなのである。
営利団体である以上、偏るのは仕方なくとも、何処の誰がどの様な結論を望み、どの様にしてそこまで誘導しているのか?
それこそが問題なのであり、偏る事自体はマスメディアの非営利化によって、防ぐ事が可能であろう。
結局、この様な現状では、今回の事件についても、どれだけ正当防衛を主張したところで、何処かで誰かの意向に基づいた結論が出され、それに従って非難されるのだろう。
そして、残酷だの非人道的だのと、論点がずらされたとしても、残念ながら間違いではないのだ。
何せ、実際に車外には歪んだ鉄で包まれた、得体の知れない挽き肉が、たくさん落ちているのだから。
攻めて来た方が悪いとはいえ、あまりにも惨たらしい。
この状況を目にした上で、人道というものを持ち出されると、少し後ろめたくなるのが人情というものだろう。
もっとも、その後ろめたさこそが文明人の証とも言える。
それにしても車外に漂っている臭いは、挽き肉の正体から目を背けたくなる、原因であろうか。
その場にいる全員が、鼻を覆っている程だ。
得体の知れない挽き肉という、ボカした言い回しはおそらく、臭いの影響によるものだろう。
一種の現状逃避なのだ。
実際、車外には挽き肉を直接見ない様にして、現実逃避をする隊員も存在した。
自衛隊員は、常に平常心を保つ様に訓練を受けているので、あからさまに取り乱したりはしないのだが、それでも初の戦場を目の当たりにして、動揺するのは当然だろう。
国防には、過剰という概念は存在しないと思っている万屋だが、こうやって見ると過剰なのではという思いが、一瞬の間だけ胸をよぎった。
しかし、それを口に出す様な真似はしない。
指揮官として、安易に士気を下げる様な発言は出来ないのだ。
万屋もその程度の事は、弁えている。
それに、同情は出来ない。
市民の御遺体も、まだ収容されていないからだ。
車外を歩いている隊員達はいたたまれないのか、周囲を警戒しつつも、市民の御遺体の眼を閉じたり、私物のハンカチを顔に載せたりしている。
そんな状況下なので、やり過ぎなのではと考える事はあっても、同情だけは少しもする気にはれないのだ。
そんな複雑な思いは万屋小隊だけでなく、その場に展開している隊員全員が共有していた。
だが、その場はそんな感傷を共有せずに、石を投げ込む者も居るのだ。
「しかし、哀れなものですね??。
彼等からしてみれば、いきなり現れた謎の艦隊と、偶発的に交戦して一方的に敗れた上に、溺死を 免れたと思ったら、今度は挽き肉ですか??」
媚びる様に、語尾を伸ばした口調で、王女は言い難い事を言った。
この空気の読めなさは、いかにも王族らしい。
もちろん、万屋は訳さないが、不覚にも顔に出してしまう。
隊員達はその引きつった表情から何かを察したのか、車内の空気は急激に悪くなった。
(王族って、こんな感じなのか。
これからもこんなんじゃ、ちょっと困るな。
いや、大谷海将との会談は上手くいったから、全く空気が読めないって訳じゃないな。
スイッチでもあるのか?
いや、それよりも、キャラ変わり過ぎだろう!?
俺、明らかに狙われてるぞ)
万屋は、そんな風に考えたが、何の事はない。
ベアトリクスは単純に、日本の風潮を知らないだけである。
一方的な戦闘で、戦果を揚げ過ぎた事によって、気不味さや罪悪感を抱く自衛隊員とは、彼女等の 想像の範疇外の存在なのだ。
その為、当のベアトリクスは、空気の変化困惑していた。
ひそひそと、相談している。
「(アン、私は何か悪い事を言いました?)」
「(さあ、私には分かりませんけど……………。
叔父上は、どう思われます?)」
「(さてなぁ。
よく解らん得物を使う連中故に、考える事も分かり難いからの。
まあ、姫様が気になされる事も、ありますまい)」
「(でも、嫌われたら困ります。
私はもう、万屋さん無しには、生きていけません)」
「(なんと!?
上級精霊の魔力とは、それ程のものなのですか。
我等には、サッパリ分からんのですが………………)」
「(叔父上、やはり斬りましょう。
戦場なら、怪しまれずに処分出来ます。
私に殺らせてください)」
「(なりませんよ、アン。
それは絶対に駄目です。
今は万屋さんが我が国に引き抜かれる様、籠絡している最中なのですから、邪魔をしないでくださいね。
外国の軍人のままでは、婿入りが出来ませんので)」
「(おお、成る程。
今までのは、全て演技だったのですね。
流石は姫様、素晴らしい演技力です。
このアンジェリカ、見事に騙されま……あれ?)」
しかし、本人達は万屋に聴こえない様に、話しているつもりでも、万屋には丸聞こえであった。
(王族怖い)
しかし、このままにしておいて、外堀を埋められる訳にはいかない。
万屋は、意を決して声を掛ける。
「あの??。
全部聞こえていますけど??」
「「「!?」」」
ベアトリクス達は、ボケている訳ではないらしい。
その証拠に3人揃って、動揺を隠し切れていなかった。
「え、あら!?
え、え、えぇ!?
人間種は耳が短いので、小さい声が聞こえない筈では…………」
「ふむ、これが勇者の力でしょうかな?
いや、驚きましたな」
「姫様、これは何かを道具を使ったに違いありません!
私達は、監視されているのです!
やはり、斬りましょう」
(天然エルフ娘はいいけど、天然オッサンエルフはちょっとな??。
てか、この世界の人間はどんな耳してんだ?)
「いや、普通に聞こえますよ?
お前らも、聞こえるぐらいの声だったよな?」
そう突っ込んだ万屋は、部下にも同意を求める。
「聞こえる声量ッスね。
内容は分かりませんでしたけど」
「はい、私にも聞こえました」
「自分も聞いております」
やはり部下達にも、聞こえたらしい。
(良かった。
勇者云々の、謎パワーじゃなくて、本当に良かった)
万屋は、部下達の答えを聞いて安堵する。
まだ、解剖されるかもしれないという恐怖が残っているのだ。
「皆さんは、何とおっしゃいました?」
ベアトリクスは、随分と気になる様子だった。
「はあ、聞こえたみたいですね」
「これが……………、異世界人の力なのか?」
残念騎士が、呻く様に言う。
「いや、違うな。
そもそも、『人間種の耳は小さいので、良く聞こえない』という話は、迷信だったのかもしれませんな。
実際に人間種の前で、聞こえない様に話した経験はありません故。
万屋殿、姫様がご無礼を致しました。
主に替わって、御詫び申し上げる」
そう言った伯爵は、頭を深く下げた。
「叔父上!?」
「伯爵!?」
二人が、驚きの声を挙げる。
侍女達も、驚きを隠せずにいた。
「叔父上、何もこの程度の事でそこまでなされずともよう御座います。
姫様に慕われとは、名誉な事。
むしろ、泣いて喜ぶべき話です」
「アンの言う通りですよ、伯爵。
何故、父上の名前まで出す必要があるのですか?」
二人は、何が悪いのか分かっていないらしい。
伯爵は、そんな二人を大声でたしなめる。
「不作法で、御座いましょう!?」
しかし、万屋の考えた問題点と伯爵の思うところは、些か違う様だった。
(ホントに天然なのか?)
万屋はそんな事を考えつつ、とにかく返答する。
本当は、黙殺したい気持ちで一杯なのだが、公僕としての使命感がそうする事を邪魔していた。
「なんだか、変な話をしているみたいですが、大丈夫ですか?」
相変わらず、山田の察しはよかった。
流石、古参である。
「ああ、そうだな。
一回、現在の状況を確認しておこうか。
双方の認識にズレがあっても困るからな。
皆さんも、それでよろしいですか?」
「それが良いでしょう。
万屋小隊、総員傾注!」
「はい」
「うむ」
「お聞きしましょう」
山田と王女一行が揃って肯定する。
「では、通訳の手間を省く為に、自分から説明しますね」
そう言うと、万屋は説明を開始した。
万屋はそう思った。
今日は、そんなふうに考える事が多い。
しかし、誰かの責任という訳でもなかった。
あくまでも、不運なのだ。
万屋の居るこの場所は小笠原諸島の一つ、父島である。
万屋小隊と王女一行は、何故かこの島の港に居た。
大谷海将とベアトリクス王女の非公式会談から三十分後。
『来賓を連れて首相官邸へ向かうように』という命令を受けていた万屋小隊であったが、その命令は急に撤回されてしまう。
そして、父島や母島へ上陸した、『武装集団の残党を撃退するように』という新たな命令が下る。
それだけならば、まだ良かったのだ。
小隊単独で行うには、少しばかりハードワークだが、出来なくもない。
しかし、『来賓を連れて戦場に出ろと』いう命令は、万屋の想像を大きく越えるものだった。
もちろん、王女一行に対しては要請であったが、唯一通訳となり得る万屋が出る以上、事実上の強要だろう。
非常識な情勢下ではあるが、それにしても常識外れに過ぎる命令だ。
万屋に予想出来ないのも当然である。
何せ、優秀な山田であっても、驚いていた程だ。
自他共にぼんくらと認める万屋では、予想出来る筈も無い。
「ふぅ…………。
運が悪いよなぁ」
万屋は溜め息を吐きつつ、そう嘯いた。
ちなみにこれは、士官としてやってはいけない行為の一つである。
「元気を出してください、万屋様♪」
ベアトリクスが、万屋を元気付けてようとする。
「ソウデスヨ、ヒメサマノオッシャルトオリ」
アンジェリカが、何故か引きつった笑みを浮かべ、片言で言う。
どうやら、万屋が敬うべき勇者であるという事に、折り合いが付かないらしい。
万屋としても、睨まれるのは御免だが、同時に勇者呼ばわりも困る。
もしも、これがあと十年以上早ければ、嬉々として受け入れたかもしれないが、この歳になってから言われても、困惑と羞恥しか感じないのだ。
「あの、様呼ばわりは、ちょっと困りますんで。
敬語も不要ですし、もっと気楽に御願いします」
「おう、そうか。
そうだな。
貴様何ぞに敬語を使うのは、確かに馬鹿らしいな。
うん、うん♪
姫様も、この様な者に、気を使う必要は御座いません。
お止めください」
万屋が、そう言った瞬間に、アンジェリカが口調を元に戻した。
つくづく、残念な騎士である。
別に彼女の振る舞いが、ダークエルフやエルフ全体の特性という訳では無いらしい。
その証拠に伯爵は、溜め息を吐きながら頭を抱えており、侍女エルフ達は吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
「アンジェリカ。
貴女のそういうところは微笑ましいのだけれど、相手によっては嫌がられる事もあります。
注意なさい」
ベアトリクスがそう言って、アンジェリカをたしなめる。
(俺は嫌がらないとでも、思ってんのかね?)
ベアトリクスの言い回しが、万屋としては面白くなかった。
しかし、万屋の心を読み取ったかの様に、ベアトリクスが言葉を続ける。
「万屋様の寛大なお心に、感謝するのですよ」
「いや??♪
ですから、様付けは止めてくださいよ??♪」
美人に少し褒められただけで、これである。
万屋は、単純な男だった。
「分かりました。
そうまで仰るなら、妥協致します。
『万屋さん』でどうでしょう?」
「貴さっ……………。
うぅ、うん、ごほん。
サスガハヒメサマ、ソレガヨロシュウゴザイマス」
ベアトリクスの意見なのに、何故か万屋に文句を言おうとしたアンジェリカであるが、伯爵の一睨みで片言に戻る。
どうやら、叔父には頭が上がらない様だ。
片言なの天然でやっているのか、せめてもの抵抗なのかは分からない。
やはり残念騎士である。
「隊長、皆さん気楽にしてらっしゃいますけど、気を抜かない様に言ってください。
大方ケリはつきましたけど、まだ敵が居るかもしれません。
一応、AAV7の中からは、出ない様に言っておいてください」
「山さんは、心配性だなぁ。
まあ、たしかに装甲があるから、確実に安全だけどね。
しかし、奮発したねぇ。
只の普通科に、こんなの貸してくれるなんてさ。
これって、噂の最新生産モデルだろ?
しかも、運転手付きで。
普通なら有り得ないよなぁ。
どう考えても、王女殿下がらみの措置だよ、これ。
死なせたくないなら、何で戦場に送り出したんだか」
万屋は気楽に言う。
おそらく、開き直っているのだろう。
「それについては、自分に心当たりがありますけどね。
後にしましょう。
それよりも、隊長には緊張感を持って欲しいですな」
山田は、普段と変わらない様子だ。
「山さんねぇ。
気を紛らわせないと、やってられないんだよ。
山さんは、冷静だけどさ。
どうすんの、この惨状。
これ絶対、マスコミに叩かれるよ。
霧谷なんか、もう戻してるし」
中世の軍隊、それも壊滅した残党に向かって12.7ミリ機銃を撃ち込む。
そこだけ見れば、たしかに虐殺扱いされても不思議ではないだろう。
そして、所謂自称リベラリスト達は、そういう理屈で持って非難する筈だ。
この場合は、魔法という未知の技術を警戒したという、やむを得ない事情があるのだが、そういう人々に限って論点をすり替えるものである。
もちろん、人間である以上はあり得る事だ。
少しずれるが、万屋が生まれる前にあった、検察の暴走による世紀の冤罪事件が、揚げられるだろう。
この事件の原因は『こうであろう』という、検察の予測に合わせて捜査を行った事にある、とされている。
当然、マスコミは非難した。
しかし、当のマスコミ自体が、スポンサーに合わせて予め結論を出したうえに、その結論に合わせた報道をしているのが、当時の現実であったのだ。
そう、結局のところ営利団体である以上は、スポンサーの意向に沿って偏る事も、やむを得ないのだろう。
しかし、『何者の意向によって偏るのか?』という点は、やはり問題視すべきなのである。
営利団体である以上、偏るのは仕方なくとも、何処の誰がどの様な結論を望み、どの様にしてそこまで誘導しているのか?
それこそが問題なのであり、偏る事自体はマスメディアの非営利化によって、防ぐ事が可能であろう。
結局、この様な現状では、今回の事件についても、どれだけ正当防衛を主張したところで、何処かで誰かの意向に基づいた結論が出され、それに従って非難されるのだろう。
そして、残酷だの非人道的だのと、論点がずらされたとしても、残念ながら間違いではないのだ。
何せ、実際に車外には歪んだ鉄で包まれた、得体の知れない挽き肉が、たくさん落ちているのだから。
攻めて来た方が悪いとはいえ、あまりにも惨たらしい。
この状況を目にした上で、人道というものを持ち出されると、少し後ろめたくなるのが人情というものだろう。
もっとも、その後ろめたさこそが文明人の証とも言える。
それにしても車外に漂っている臭いは、挽き肉の正体から目を背けたくなる、原因であろうか。
その場にいる全員が、鼻を覆っている程だ。
得体の知れない挽き肉という、ボカした言い回しはおそらく、臭いの影響によるものだろう。
一種の現状逃避なのだ。
実際、車外には挽き肉を直接見ない様にして、現実逃避をする隊員も存在した。
自衛隊員は、常に平常心を保つ様に訓練を受けているので、あからさまに取り乱したりはしないのだが、それでも初の戦場を目の当たりにして、動揺するのは当然だろう。
国防には、過剰という概念は存在しないと思っている万屋だが、こうやって見ると過剰なのではという思いが、一瞬の間だけ胸をよぎった。
しかし、それを口に出す様な真似はしない。
指揮官として、安易に士気を下げる様な発言は出来ないのだ。
万屋もその程度の事は、弁えている。
それに、同情は出来ない。
市民の御遺体も、まだ収容されていないからだ。
車外を歩いている隊員達はいたたまれないのか、周囲を警戒しつつも、市民の御遺体の眼を閉じたり、私物のハンカチを顔に載せたりしている。
そんな状況下なので、やり過ぎなのではと考える事はあっても、同情だけは少しもする気にはれないのだ。
そんな複雑な思いは万屋小隊だけでなく、その場に展開している隊員全員が共有していた。
だが、その場はそんな感傷を共有せずに、石を投げ込む者も居るのだ。
「しかし、哀れなものですね??。
彼等からしてみれば、いきなり現れた謎の艦隊と、偶発的に交戦して一方的に敗れた上に、溺死を 免れたと思ったら、今度は挽き肉ですか??」
媚びる様に、語尾を伸ばした口調で、王女は言い難い事を言った。
この空気の読めなさは、いかにも王族らしい。
もちろん、万屋は訳さないが、不覚にも顔に出してしまう。
隊員達はその引きつった表情から何かを察したのか、車内の空気は急激に悪くなった。
(王族って、こんな感じなのか。
これからもこんなんじゃ、ちょっと困るな。
いや、大谷海将との会談は上手くいったから、全く空気が読めないって訳じゃないな。
スイッチでもあるのか?
いや、それよりも、キャラ変わり過ぎだろう!?
俺、明らかに狙われてるぞ)
万屋は、そんな風に考えたが、何の事はない。
ベアトリクスは単純に、日本の風潮を知らないだけである。
一方的な戦闘で、戦果を揚げ過ぎた事によって、気不味さや罪悪感を抱く自衛隊員とは、彼女等の 想像の範疇外の存在なのだ。
その為、当のベアトリクスは、空気の変化困惑していた。
ひそひそと、相談している。
「(アン、私は何か悪い事を言いました?)」
「(さあ、私には分かりませんけど……………。
叔父上は、どう思われます?)」
「(さてなぁ。
よく解らん得物を使う連中故に、考える事も分かり難いからの。
まあ、姫様が気になされる事も、ありますまい)」
「(でも、嫌われたら困ります。
私はもう、万屋さん無しには、生きていけません)」
「(なんと!?
上級精霊の魔力とは、それ程のものなのですか。
我等には、サッパリ分からんのですが………………)」
「(叔父上、やはり斬りましょう。
戦場なら、怪しまれずに処分出来ます。
私に殺らせてください)」
「(なりませんよ、アン。
それは絶対に駄目です。
今は万屋さんが我が国に引き抜かれる様、籠絡している最中なのですから、邪魔をしないでくださいね。
外国の軍人のままでは、婿入りが出来ませんので)」
「(おお、成る程。
今までのは、全て演技だったのですね。
流石は姫様、素晴らしい演技力です。
このアンジェリカ、見事に騙されま……あれ?)」
しかし、本人達は万屋に聴こえない様に、話しているつもりでも、万屋には丸聞こえであった。
(王族怖い)
しかし、このままにしておいて、外堀を埋められる訳にはいかない。
万屋は、意を決して声を掛ける。
「あの??。
全部聞こえていますけど??」
「「「!?」」」
ベアトリクス達は、ボケている訳ではないらしい。
その証拠に3人揃って、動揺を隠し切れていなかった。
「え、あら!?
え、え、えぇ!?
人間種は耳が短いので、小さい声が聞こえない筈では…………」
「ふむ、これが勇者の力でしょうかな?
いや、驚きましたな」
「姫様、これは何かを道具を使ったに違いありません!
私達は、監視されているのです!
やはり、斬りましょう」
(天然エルフ娘はいいけど、天然オッサンエルフはちょっとな??。
てか、この世界の人間はどんな耳してんだ?)
「いや、普通に聞こえますよ?
お前らも、聞こえるぐらいの声だったよな?」
そう突っ込んだ万屋は、部下にも同意を求める。
「聞こえる声量ッスね。
内容は分かりませんでしたけど」
「はい、私にも聞こえました」
「自分も聞いております」
やはり部下達にも、聞こえたらしい。
(良かった。
勇者云々の、謎パワーじゃなくて、本当に良かった)
万屋は、部下達の答えを聞いて安堵する。
まだ、解剖されるかもしれないという恐怖が残っているのだ。
「皆さんは、何とおっしゃいました?」
ベアトリクスは、随分と気になる様子だった。
「はあ、聞こえたみたいですね」
「これが……………、異世界人の力なのか?」
残念騎士が、呻く様に言う。
「いや、違うな。
そもそも、『人間種の耳は小さいので、良く聞こえない』という話は、迷信だったのかもしれませんな。
実際に人間種の前で、聞こえない様に話した経験はありません故。
万屋殿、姫様がご無礼を致しました。
主に替わって、御詫び申し上げる」
そう言った伯爵は、頭を深く下げた。
「叔父上!?」
「伯爵!?」
二人が、驚きの声を挙げる。
侍女達も、驚きを隠せずにいた。
「叔父上、何もこの程度の事でそこまでなされずともよう御座います。
姫様に慕われとは、名誉な事。
むしろ、泣いて喜ぶべき話です」
「アンの言う通りですよ、伯爵。
何故、父上の名前まで出す必要があるのですか?」
二人は、何が悪いのか分かっていないらしい。
伯爵は、そんな二人を大声でたしなめる。
「不作法で、御座いましょう!?」
しかし、万屋の考えた問題点と伯爵の思うところは、些か違う様だった。
(ホントに天然なのか?)
万屋はそんな事を考えつつ、とにかく返答する。
本当は、黙殺したい気持ちで一杯なのだが、公僕としての使命感がそうする事を邪魔していた。
「なんだか、変な話をしているみたいですが、大丈夫ですか?」
相変わらず、山田の察しはよかった。
流石、古参である。
「ああ、そうだな。
一回、現在の状況を確認しておこうか。
双方の認識にズレがあっても困るからな。
皆さんも、それでよろしいですか?」
「それが良いでしょう。
万屋小隊、総員傾注!」
「はい」
「うむ」
「お聞きしましょう」
山田と王女一行が揃って肯定する。
「では、通訳の手間を省く為に、自分から説明しますね」
そう言うと、万屋は説明を開始した。
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勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
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僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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※カクヨムにも投稿しています
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