転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
27 / 362
* 死神生活一年目 *

第27話 死神ちゃんとマッサージ師

しおりを挟む


 〈五階へ〉という指示のもと、死神ちゃんはダンジョン内を彷徨さまよっていた。地図を見ると〈担当のパーティーターゲット〉のいる位置は、まだ死神ちゃんも足を踏み入れたことがない〈五階の最奥部〉となっていた。しかも不思議なことに、ターゲットが動いている様子はない。――モンスターに見つからずにキャンプでも張れるところや、特別な何かでもあるのだろうか。死神ちゃんは〈何が待ち構えているのか〉ということに少し期待して胸を膨らませると、地図を頼りに奥へと進んでいった。

 座標の位置付近には、扉付きの部屋があった。どうやら、ターゲットはこの部屋の中にいるらしい。
 死神の業務規定では、ダンジョンへの入退場以外では、壁などをすり抜けてはいけないことになっている。つまり、冒険者の恐怖心を煽るために、ダンジョン内を闊歩せよということだ。しかし、〈扉〉だけはすり抜けを許可されていた。――なので〈扉をすり抜けてこっそりと近づき、じっとして動かないターゲットを脅かしてやろう〉と死神ちゃんは考えた。


「さ、ベッドに寝そべってちょうだい。――じゃあ、始めるわよ」

「あっ……! そこ、すごく、いぃ……っ! あああっ……!」

「んもう、すごくカチカチじゃない。駄目よ、こんなに我慢しちゃあ」


 扉をすり抜けてみると、部屋の半分がカーテンで仕切られており、そのカーテンの中からそんな卑猥な会話が聞こえてきた。しかも、どちらの声も男だ。死神ちゃんは思わず、扉をすり抜けた足でそのまま踵を返した。


「ああっ、駄目です、そこは、い……痛っ……」

「駄~目。これだけは我慢なさい。そしたら、すっごく気持ちよくなれるから」

「は、はい……。あ、ああああ、ああ――」

「何やってんだ、お前ら!」


 これも仕事と思い立ち止まって〈とり憑き〉のタイミングを覗っていた死神ちゃんは、耐えかねてカーテンを乱暴に捲り上げた。すると、ベッドの上に寝ていた男の腰がグキリという鈍い音を立て、その傍らに立って男の腰を触っていた男が顔をしかめさせた。


「……あんた、見ない顔ね。新入り? 何班?」


 ベッド上の男に断りを入れると、もう片方が死神ちゃんをギラリと睨みつけながら近づいてきた。彼はグレゴリーと同じくらい、つまり、二メートルはありそうな大男だった。青々とした髭の剃り跡にスキンヘッド、そしてボディービルダー並みのムチムチな筋肉が凄まじく威圧感を放っていた。


「えっと、三班、ですけど……」


 死神ちゃんがたどたどしく答えると、大男は怪訝そうに眉根を寄せた。


「あら、じゃあ、もしかしてあんたが噂の〈元カノが統括部長で、今カノがマッコイ〉っていう渋ダンディ? ――どこをどう見ても幼女じゃないの。どういうことなのよ」

「おい、ちょっと待て。何だそれは」


 死神ちゃんがこれでもかというほど眉間の皺を深くすると、大男がケラケラと笑いながらベッドへと戻っていった。


「オカマの情報網、舐めんじゃないわよ! ――あ、マッコイの名誉のために言っておくけど、これ、別のオカマから聞いた情報だからね。でも、マッコイ本人にも一応確認したのよ。そしたら、あの子、プリプリ怒りながら否定してさあ。真相はどうあれ、渋ダンディがあの子のことをどう思ってるのか、今度本人をとっ捕まえて聞いてやればいいかなと思ってたのに」


 どうやら、アリサの起こした騒動による被害は、鉄砲玉だけで済んではいなかったようだ。死神ちゃんは少しだけ、めまいにも似た感覚を覚えた。
 しかしながら、それ・・を知っているということは、つまりは彼はこちら側・・・・に属する者ということだ。それが何故――


「何で、冒険者にマッサージなんか……」


 そう、彼はこんなダンジョンの奥地にてマッサージサロンを開いていたのだ。死神ちゃんが話しかけると、大男は手を止めて死神ちゃんを睨みつけた。


「いろいろあるのよ、いろいろ。ていうか、さっきあんたが大声で脅かしたから、解すどころか痛めちゃったじゃないさ。知ってる? 人の骨や筋肉は全て、呼吸と一緒に動いてるのよ。だから、呼吸のタイミングに併せてズレを治したり解したりするわけ。――逆を言えば、それを利用すれば相手に大ダメージも与えられるってことよ。お客さん、これ、テストに出るから覚えとくのよ~」


 マッサージ師は、死神ちゃんのせいで痛めつけてしまった客の腰を解し直しながら、ニコニコと笑った。お客はうーうーと呻きながら、必死に頷いていた。


「でも、お客さんも大変ねえ。こんな奥地まで来てさあ。パーティー全滅しちゃって、仲間はみんな、魔法の棺桶に詰めてバッグの中だっけ? アタシのマッサージで気力体力回復させたら、一旦・・探索は諦めて・・・・・・地上に・・・戻ったほうがいい・・・・・・・・わね。しかもさあ、死神にまで狙われちゃってさあ」

「えっ、死神!?」


 マッサージ師の言葉に驚いたお客がガバッと身を起こすのを、マッサージ師は「ほら、動かない」と窘めながら軽くはたいた。お客が大人しく寝直したのを確認すると、マッサージ師は施術を再開させた。


「そうよお。この幼女、怖い怖い死神さんなんですって。ベッドの上はセーフティーゾーンだから〈死神罠発動のタイムカウント〉もストップするんだけど、残念ながら寝そべる前に発動しちゃったみたいねえ。――だから、施術が終わったら走って・・・逃げたほうがいい・・・・・・・・わよ。地上に・・・向かって・・・・ね」

「えええ!? ここが安全地帯なら、ずっとここにいたいですよ、アルデンタスさん」

「馬鹿をおっしゃい。それから、お客さん、身体だけじゃなくてあっち・・・のほうもパンパンじゃない。これは、スッキリしたほうがいいわよ。地上の・・・宿屋にでも・・・・・泊まって・・・・ね」





 マッサージ師――アルデンタスとお客のやり取りを聞いていた死神ちゃんは顔をしかめた。それに気がついたアルデンタスは必死に笑いを堪えながら言った。


「いやあだあ! この子ったら、いやらしい想像したみたいよお! 経験値の話をしてたってだけなのにさあ!」

「あからさまに、そういう言い方したよな、あんた」


 死神ちゃんが不機嫌な顔で噛みつくと、アルデンタスは堪えきれずに笑い出した。

 施術が終わり身支度が済むと、客はアルデンタスに追加で施術してもらった分の料金を払おうとした。しかし、アルデンタスは〈延長してもらったわけではなく、アクシデントが発生してのことだから、お代は前払いで貰ったものだけで十分〉と言って受け取らなかった。


「さ、それじゃあ、頑張って死神から逃げなさいな。ちゃんと・・・・地上を・・・目指すのよ・・・・・、いいわね。またここまで来ることができたら、そしたらまたきっちり解してあげるから。今は、頑張って帰りなさい・・・・・


 お客はアルデンタスの言葉に必死で頷くと、上階目指して走っていった。
 死神ちゃんはようやく、アルデンタスの存在理由が分かった。部屋を飛び出していくお客の背中を見つめていた死神ちゃんがアルデンタスを振り返って見ると、彼はお茶目にウインクした。そして「ほら、あんたもお仕事!」と言って、死神ちゃんの背中をパシリと一叩きしたのだった。



   **********



「……ということがあったんだが、オカマ界隈では一体どういうことになってるんですかね、マッコイさん」


 寮に戻ってきた死神ちゃんが表情もなくそう言うと、マッコイは抱えていたクッションに静かに顔を埋めた。


「ごめんなさい、迷惑かけて……。ホント、みんなにはキツく言っておくから……」


 顔を上げずにそう言った彼の耳は真っ赤で、マッコイに申し訳ないとは思いつつも、死神ちゃんは耐え切れずに笑い出してしまった。


「アルデンタスさんって、俺らと同じ〈環境保全部門〉でいいんだよな? しかも、死神《俺ら》と同じ〈罠〉のような扱いなんだろ?」


 マッコイは死神ちゃんの質問に小さく「ええ、そうよ」と答えると、いまだに真っ赤のままの顔を勢い良く上げた。


「ていうか! 元はといえば、アリサのせいじゃない! 今度、絶対に文句を言ってやるんだから!」


 死神ちゃんはひとしきり笑うと、いまだおかんむりでボフボフとクッションを振り回している彼を誘って夕飯を食べに行ったのだった。




 ――――何やら変な被害は受けたけど、職場の〈知らなかったこと〉をまたひとつ知ることができて、死神ちゃん的には、実は意外と楽しかったのDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...