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* 死神生活一年目 *
第57話 死神ちゃんと保護者②
しおりを挟む死神ちゃんに出動要請が出てすぐに、マッコイはモニターに目をやった。彼はにっこりを笑みを浮かべると、今まさにダンジョンへと出て行こうとしている死神ちゃんを呼び止めた。
「長丁場になると思うから、食べたくなったら食べて、眠たくなったら好きに寝てね。羽を伸ばすつもりで、のんびりしていらっしゃい」
死神ちゃんは不思議そうに首を傾げると、曖昧な返事をしながらダンジョンに降り立った。出動場所は四階で、冒険者のいる位置は今まで行ったことのない区画なのだが、もしやそこにもマッサージサロンのような罠施設があるのだろうか。
現場は、とある仕掛け扉の先にある罠だらけの区画だった。様々な罠が張り巡らせられた細い通路を進んでいくと、前方に小人族の二人組がいた。罠を警戒してビクビクオドオドとしながらゆっくりと進む彼らの、後ろを歩いている方の肩を死神ちゃんはポンと叩いてやった。すると、彼が悲鳴を上げるのと同時にステータス妖精が笑顔で飛び出した。
* 戦士の 信頼度が 2 下がったよ! *
「ひどいよ、ちょっと悲鳴を上げただけで信頼度を下げるだなんて!」
「だって、罠が発動したと思って、俺までびっくりしちゃっただろ? 後ろ見てみろよ。ただの、俺らと同じ〈桃源郷〉を目指してる子だよ」
「何だ、そっかあ。君、びっくりさせないでよ!」
小人族の二人組は〈死神にとり憑かれた〉という意識がないどころか、死神ちゃんのことを〈同じ目的地を目指す仲間〉だと認識したらしい。死神ちゃんがきょとんとした顔で首を傾げると、小人族の一人が「もうすぐ着く頃だね」と言って嬉しそうに笑った。
まだまだ通路は前方へと伸びてはいるのだが、二人組は途中で立ち止まった。彼らがとある壁の石組みを触ると、小人族がやっと通れるほどの小さな仕掛け扉が現れた。その扉の先には、彼らの言う通り〈桃源郷〉が広がっていた。
可愛らしいピクシーやフェアリーが出迎えるこの〈桃源郷〉には、宝石のようにキラキラと輝く果物やケーキなどが、適切な温度に保たれたケースの中にたくさん並べられていた。声をかければパティシエがその場でパフェやクレープなども作ってくれるという。甘いものに飽きたら摘めるようにと、カレーやパスタ、サンドイッチなども並べられていた。――どう見ても、これはスイーツビュッフェのお店だった。
奥の方にはゲームなどの暇つぶしアイテムが無造作に置かれた〈お遊びゾーン〉や、ベッドやハンモックが並んでいる〈お昼寝ゾーン〉などがあり、どのエリアも楽しそうにはしゃいでいる小人族で溢れていた。死神ちゃんはようやく、マッコイの〈のんびりしていらっしゃい〉の意味が分かった。
一緒にここまで来たよしみだしということで、死神ちゃんは二人組に誘われて同じテーブルについた。伝票は別にしてもらったのだが、ちらりと見えた彼らの伝票に書いてあった金額は少々高めではあったものの〈大人の社交場〉と比べたらかなりの良心価格で、死神ちゃんの伝票にあった額とあまり大差がなかった。――このダンジョン、小人には少し優しいらしい。
死神ちゃんは大好きな甘いものをたらふく食べてご満悦だった。二人組はお腹いっぱいでおねむになったのか、お昼寝ゾーンにでも行こうかと話し合っていた。
彼らが席を立つのと同じタイミングで、入口のほうが何やら物々しい雰囲気を放ち始めた。ビュッフェゾーンにいた小人族達が野次馬をしていたのだが、誰もが不安げな表情を浮かべていた。それが気になって、死神ちゃん達も入口を見に行ってみることにした。すると、小さな扉にぎっちりと、いつぞやの〈保護者〉がはまり込んでいた。
「お願ぁいよぉ……。入れてちょうだいぃ……。ここは、可愛い子がたくさん集うここは、私の理想郷なぁのよぉ……。全員、私が保護するぅのよぉ……」
「駄目です! 大きな人は立入禁止なんです! 帰ってください~!」
必死の形相でもがく保護者を、ピクシーとフェアリーがぐいぐいと押し戻そうと頑張っていた。彼女は道中の罠に引っかかりまくったのか、至るところ傷だらけだった。そしてざんばらな髪の間から覗く瞳は充血しており、それはさながらホラー映画のようであった。
「アルバイトは……アルバイトは募集してなぁいのぉ……? お客で入店が駄目なぁら、お願い、働かせてぇ……」
「間に合ってますー!」
店員達が涙を浮かべながら保護者と格闘しているのを見ていた小人族達も、あまりの恐怖に泣き出した。それを目にした保護者は、顔いっぱいに悲しみの表情を浮かべるとふるふると震えだした。
「ああ……可愛い子達が泣いていぃるわ……。どこの誰ぇなの!? 可愛い子を泣かせぇる悪いヤツは! 私が懲らぁしめてやぁるわぁ!」
「お前だよ、泣かせたのは!」
死神ちゃんは思わずツッコミを入れたが、彼女の耳には届いてはいなかった。頭に血の上った彼女は火事場の底力でも発揮したのか、壁の一部を破壊して室内へと入ってきた。戸枠がついたままの身体でゆらゆらと近づいてくる彼女に底知れぬ恐怖を覚えた野次馬達は、パニックを起こして右往左往としだした。
死神ちゃんがとり憑いていた戦士も例に漏れず泣き叫んでいて、彼は保護者が近づいてきたことに驚くと部屋の外へと飛び出していってしまった。そして、脇目もふらずに走り続けた結果、罠にはまって灰と化してしまった。部屋から飛び出していった彼を心配して追いかけていった保護者もまた、同じ罠にはまって沈黙した。
死神ちゃんは泣きじゃくる店員達を慰めつつ、疲れた声で通報の無線を入れた。
**********
「あんな心躍る施設があるなら、教えろよな!」
勤務帰りの道すがら、死神ちゃんはマッコイに向かってほっぺたを膨らませた。マッコイは苦笑いを浮かべると、申し訳なさそうに言った。
「だって、アリサに止められてたんですもの。『初めてビュッフェに行くときは、絶対一緒に行きたい! ジューゾーがお目目キラキラさせて喜ぶのが見たい! だから教えちゃ駄目!』って。でも、中々予定が合わなくて。――そもそも薫ちゃん、あなた、休日は結構食べ道楽しているじゃない。だからもう、アタシが教えるまでもなく、お店の存在を知っていると思っていたのよ」
死神ちゃんは立ち止まって口を尖らせると、眉根を寄せて目を瞑った。何やら考え事をしているらしい死神ちゃんをマッコイが不思議そうに見つめていると、死神ちゃんはそのままの顔で目だけを開けて、そして低い声で言った。
「なあ、裏世界ビュッフェって、甘いモノと軽食だけ?」
「いいえ、お食事もしっかりとあってお酒も頼めちゃう系の、ちょっとハイグレードなものよ。目の前でローストビーフを切り分けてくれるような感じの」
「……よし、夕飯はそこに決まりだな。そうと決まったら、今すぐアリサを呼ぼう。食事だけなら、抜けだしてこられるだろうし。そんな〈桃源郷〉があるって知ったら、俺、定期的に通いたいもん。あいつの予定が空くのを、俺は待ってなんかいられない!」
「やだ、まだ甘いものを食べる気なの!?」
したり顔で拳を握る死神ちゃんに、マッコイは素っ頓狂な声を上げて呆れ顔となった。しかし死神ちゃんが不服そうに再びぷくっと頬を膨らませると、マッコイはクスクスと笑い出した。そして腕輪を操作すると、彼はアリサに食事の誘いの無線を飛ばしたのだった。
――――迷惑客は、せっかくの楽しい気持ちも台無しにさせる。だから、仕切り直しをしにいくのDEATH。
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