転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
67 / 362
* 死神生活一年目 *

第67話 死神ちゃんと残念③

しおりを挟む
 修行中の冒険者御用達である〈三階の奥地〉にやって来た死神ちゃんは、顔をしかめると盛大に文句を垂れた。


「そんな基礎トレーニング、わざわざダンジョン内でやる必要あるのか?」

「うわっ、お前、また出たな!? ていうか、モンスターの沸き待ちに筋トレするヤツだっているんだから、何してたっていいだろ、別に! ――うわ、来るな、とり憑こうったってそうはいかな……あああ、足腰が疲れすぎて、逃げたいのに思うように動けない!」

「……お前、相変わらず残念だな」


 ガクリと膝をつくエルフの肩に、死神ちゃんはポンと手を置いた。彼は愕然とした表情を浮かべると、「残念って言うな」と腹の底から叫んだ。
 死神ちゃんは壁際に腰を下ろすと、呆れ顔のまま抑揚なく言った。


「お前、盗賊に戻ったんだな。――で? 何で反復横跳びなんてしてたんだよ」


 残念な彼は這いずるように死神ちゃんの横に移動すると、壁にもたれて脚を投げ出した。そしてしょんぼりとうなだれながら、軽く握った拳で太ももを叩き始めた。


「この前の転職で覚えた魔法を、盗賊に戻る際にいくつか引き継いできたんだよ。そのうちのひとつが結構な大技なんだけど、それやってる最中ってかなり立ち回りを考える必要があって」

「それで、素早く動けるように〈反復横跳び〉か」

「まあ、そんな感じ。――あ、モンスター沸いた」


 残念は頷きながら、どこからともなく現れたモンスターに向かって火の玉魔法を放った。ぼんやりと座ったまま、モンスターに向かってちょいちょいとナイフを振りながら魔法を繰り出す彼を、死神ちゃんは関心の眼差しで見つめた。すると、彼は死神ちゃんにニヤリとした笑みを向けた。


「遠隔攻撃出来るようになったってだけで、こんなにも戦闘が楽になるとは思わなかったよ。今じゃあ、一人では行けなかった四階も、降りてすぐくらいのところだったらそこそこ戦えるんだぜ。すごいだろ」


 得意気に鼻を鳴らすと、彼はアイテムや宝箱へと姿を変え行くモンスターへずりずりと這い寄った。死神ちゃんは残念そうに目を細めると、口の端の片方だけを持ち上げて薄っすらと笑った。


「せっかく強くなってもな。そんなダサい姿でアイテム漁ってちゃあな、凄さが微塵も伝わらないっていうか。そこがまた残念だよな、お前ってヤツはさ」

「だから! 残念って! 言うなよ!!」


 目くじらを立てて叫んだ彼は、その拍子にうっかり手元を滑らせた。案の定、宝箱の罠が発動して彼は少々手傷を負った。しかし、その傷は立ちどころに消えてなくなった。どうやら彼は、魔法使いだけではなく僧侶になっていた時期もあるようだ。
 残念は戦利品を嬉しそうにポーチに詰め込むと、死神ちゃんの横にずりずりと這い戻り、そして太ももを叩いてほぐす作業を再開させた。


「ていうか、事あるごとに残念残念って、ホント、何なわけ!? こんなに〈使える存在〉になった俺の、どこが残念だって言うんだよ! ――でもまあ、お前が俺に〈残念〉って言えるのも、今のうちだけどな」


 彼にはさらなる〈強化計画〉があるそうで、それを遂行すべく目下金稼ぎ中なのだそうだ。そのため、この人気修行スポットであれば経験を積みつつ金策もできるとあって、連日通い詰めているのだという。


「まずは四階以降の場所でたまに産出される〈精霊のナイフ〉をゲットするんだ。最近パーティーに入れてくれる人がいて、四階にもちょくちょく行くようにはなったんだけど、全然ドロップしないから。ドロップを狙い続けつつ、金が貯まったら買って。あとは五階で発掘できるという噂の鉱物を、ナイフの宝飾品とげ替えたいんだよな」


 彼が言うには、〈精霊のナイフ〉とやらは魔力を増幅してくれるらしい。そこそこ市場にも出回ってはいるそうなのだが、人気商品のため高値がついている上にすぐさま買われていってしまうのだという。
 そして〈五階の鉱物〉とやらは、各区域ごとに対応する属性のものがあるそうで、それを加工して装備すると対応属性の魔法が強化されるらしい。また、実は冒険を進めるにあたって重大な役割も担っているそうなのだが、冒険者間ではいまだ〈噂〉止まりの存在のようであるから、そのこと・・・・まで知っている冒険者は、残念ながらまだいなさそうだ。

 残念はすっくと立ち上がると、地面を爪先でトントンと打ちながら言った。


「よし、脚も大分回復したし、俺がいかに強くなったかを見せてやる!」


 そう言って、彼は四階へと降りていった。
 降りてすぐの比較的モンスターの多い場所にやって来ると、残念はナイフを眼前に構えて何やら長々と呪文を唱え始めた。詠唱が終わり、彼が勢い良くナイフを振り下ろすと、刃から炎がほとばしった。


「これが俺の必殺の大技! よく見てろよ、死神!」


 残念は得意気にデコイを設置すると、そこに群がっていくモンスターめがけてナイフを一心不乱に振った。彼がナイフを振る度に、その切っ先から炎が飛び出して、それはまるで雨のようにモンスターに降り注いだ。
 デコイが壊れると、モンスター達は残念に向かってやってきた。残念は先ほどの練習の成果を見せつけるかのように反復横跳びをしながら、モンスターに炎の雨を浴びせ続けた。

 モンスターが全滅し、ぜえぜえと肩を上下させながらアイテムを丁寧に拾って回る残念を、死神ちゃんは呆然と見つめた。そして、低い声でポツリと言った。


「なあ、それ、たしかに凄いと思うがさ、ナイフを振り続けないと使えないのか?」

「そうだけど?」

「それって、すごく効率悪くないか? お前、体力なさそうだし、プラマイで考えたらあまりプラスになってないような気がするんだが。そこがまた、残念っていうか何て言うか……」

「うるせえよ! すげえプラスなんだよ! 残念って言うな!」


 残念が憤って叫ぶと、奥の方から冒険者達が走ってきた。深手を負った彼らはモンスターからの逃走を図っている真っ最中で、しかしながら巻き切ることができずに火吹き竜ファイヤードレイクを連れて来てしまっていた。だが、ドレイクもかなりのダメージを負っているようで、逃げ惑う冒険者同様にフラフラとおぼつかない足取りだった。

 冒険者達は滑り込むように階段へと飛び込み、そのままの勢いで三階へと駆け上がっていった。死神ちゃんはその場に取り残されたドレイクを眺めながら、残念に声をかけた。


「お前、そんだけ強くなったんだから、チャンスだろ。アレ、せっかくだから魔法でちゃっちゃと倒したら?」

「いや、俺、引き継いできた魔法、火属性のものだけだから……。あいつ、火属性で攻撃すると回復するんだよ……」


 頬を引きつらせ、冷や汗を浮かべる残念に向かって苦い顔を浮かべると、死神ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。


「本当に残念だな! 何でそれだけしか引き継がなかったんだよ!」

「うるせえよ! お前だって、覚えたものを全て覚えてなんていられないだろ!? 小さい頃に学校で習ったこと、全部が全部覚えてなんていないだろう!? それと同じだよ! だから、火属性だけに絞ったんじゃないか!」


 残念が声を張り上げると、それに釣られてドレイクがのそのそと近づいてきた。残念は顔を青ざめさせると、慌てて走りだそうとした。しかし、先ほどの反復横跳びで思っていた以上に疲れてしまっていたのか、足をもつれさせてすっ転んだ。
 ドレイクのブレスに焼かれ「やっぱり体力をつけないと」という言葉とともにサラサラと散っていく残念の姿をさも残念そうに見つめると、死神ちゃんは壁の中へと姿を消したのだった。




 ――――〈一人前の冒険者〉への近道は、精神も肉体もバランスよく鍛えてこそなのDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...