転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活一年目 *

第81話 死神ちゃんとお育て屋さん

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 死神ちゃんは四階に降りて少し行った先の、火吹き竜ファイヤードレイクがよく彷徨うろついている場所へとやって来た。そして、そこで不思議な光景を目にした。

 六人組のパーティーがいたのだが、小人族コビートの盗賊が広い道の真ん中に罠を仕掛けていた。その罠というのが少々特殊なもので、獲物がかかると酸が吹き出る仕掛けが施されていた。
 罠を中心とした道の両端には戦士など〈大斧の装備できる職業〉の者が四人、左右に二人ずつ分かれて物陰に身を潜めていた、更に、彼らとは少し離れた場所で僧侶がひっそりと待機していた。

 しばらくすると、奥の細い道からドレイクがひょっこりと顔を出した。ドレイクはそのまま広い道へと入ってきて、冒険者達に気づくことなく、のそのそと道の真ん中を歩いた。そして、仕掛けられていた罠を踏み、酸で硬い皮膚を溶かされて痛々しげな鳴き声を上げた。
 その叫喚きょうかんを合図に戦士達は飛び出してくると、一心不乱に斧を振った。鱗で覆われた硬い皮膚を失い、柔らかな肉を露出されていたドレイクは、左右からの斧による斬りつけに身動きがとれずにいた。そしてそのまま、ドレイクはもがき苦しむ余裕も与えられることもなく、どうと地面に崩れ落ちた。

 ドレイクがアイテムに姿を変えるのと同時に、離れた場所に隠れていた僧侶が慌てて何かをし始めた。彼女は手にぜんまい仕掛けの何かを持っていて、必死になってぜんまいを巻く作業を行っているようだった。
 死神ちゃんはぜんまいを巻く作業に集中している僧侶の隣に立つと、つんつんと腰の辺りをつついた。





* 僧侶の 信頼度が 2 下がったよ! *


 悲鳴を上げて前のめりに転びかけた彼女に死神ちゃんが意地の悪い笑みを見せつけていると、遠くの方から甲高い声が不機嫌に響いてきた。


「ちょっと、僧侶さん! 何を遊んでいるの? ぜんまいはきちんと撒いてくれたの!? それから、そこから出てきたら駄目だって、お伝えしてあるでしょう!」


 声の主は盗賊で、彼女は難しい特殊罠のセッティングを手早く済ませると、怒り顔を僧侶に向けてきた。僧侶は慌てて謝罪すると、元居た物陰に引っ込んで、一生懸命に手の中の〈仕掛け〉を観察し始めた。
 死神ちゃんは訝しげな表情を浮かべると、僧侶と盗賊を交互に見つめた。そして盗賊の彼女に見覚えがあるような気がした死神ちゃんは、僧侶の元を離れて彼女に近づいていくと、腕を組み首を捻った。


「え、何、何なの?」


 盗賊が顔をしかめるのもお構いなしに、死神ちゃんは彼女をじっと見つめた。そして死神ちゃんが何かを思い出したかのような表情を浮かべるのと同時に、僧侶が「斧、スタンバイ!」と叫んだ。その声にハッとすると、盗賊は死神ちゃんの腕を掴んで慌てて物陰へと引っ込んだ。
 すると、ドレイクが奥の細い道からひょっこりと顔を出した。そして先ほどと同じようにのっそりと罠まで歩いて行き、罠にハマり、斧で八つ裂きにされた。

 ドレイクの姿が消えるのと同時に、盗賊は物陰から飛び出していって先ほどと同じ場所に罠の設置をし始めた。死神ちゃんは彼女に近づいていって不思議そうに首を傾げると、しゃがんで作業をする盗賊を見下ろして尋ねた。


「お前、新しいビジネスでも始めたのか?」

「今までのお客の中に、あなたのような人はいた覚えがないんだけど」


 盗賊――お育て屋さんは眉根を寄せると、いそいそと物陰へと引っ込んでいった。死神ちゃんは彼女についていきながら〈虫溜まり事件〉のことを話した。すると彼女は何となく思い出したようで、苦々しげな表情を浮かべながら嗚呼と呻いた。

 以前、〈修復課〉が事情により修復作業をきちんと完了できず、修復箇所に魔法的なひずみができてしまったということがあった。結果、その周辺を徘徊するようにプログラムを組まれていた虫型モンスターがその歪に引っかかり、その場に滞留するというトラブルが起きた。
 お育てやさんはそのトラブルを利用して商いを行っていた。それは冒険者が〈冒険者の腕輪で管理されている、数値的な・・・・経験値〉を稼ぐために行う修行を代行・・するというものだった。普通に考えたら到底あり得ない商売であろうが、需要が多く結構繁盛していたらしい。しかしトラブルが解消されると、彼女は廃業を余儀なくされた。
 しかし、彼女はせっかくのオイシイ商売を諦めることがどうしてもできなかった。どうにか商売を続けられないかと考えに考え、ある時、偶然にも〈モンスターの通り道や通るタイミングには法則がある〉ということに彼女は気がついた。それからというものの、彼女は商売を再開させるために試行錯誤を重ねた。そしてこの〈ドレイク瞬殺法〉を編み出したのだという。


「ドレイクの現れるタイミングを測っているあの〈アルバイトの僧侶さんが持っている仕掛け〉は、私が独自に開発した逸品なのよ。だから、他の冒険者が真似をしたくても、簡単には真似出来ないってわけ。おかげさまで、商売を再開してからこの方、収入は右肩上がりよ!」

「でも、この方法だと斧の使える職以外からの依頼は来なさそうだよな」


 死神ちゃんがあっけらかんとそう言うと、胸を張って得意げにしていたお育て屋さんは一転してしょんぼりと背中を丸めた。顧客を増やすためにも更なる改良に取り組みたいというようなことを口ごもると、彼女は罠を仕掛けるために物陰から足早に出て行った。

 二、三度ほど同じ作業を繰り返したところで、現場に異変が起きた。今までは僧侶の合図のあと五秒もしないうちにドレイクが顔を覗かせたのだが、今回は十秒待っても現れなかった。その次は合図から二秒もしないで現れた。更にその次は十五秒を過ぎても現れなかった。
 お育て屋さんはアルバイトの僧侶をキツく睨むと「きちんとぜんまいを巻いているの?」と叱りつけた。しかし彼女はきちんと仕事をしているらしく、自分の正当性を主張するとともに、ぜんまいが壊れたのではと反論した。
 お育て屋さんはぜんまいを確認したが、仕掛けはどこも壊れてなどはいなかった。次の戦闘からは自分で巻くと言ってぜんまいを預かったが、お育て屋さんが巻いても結果は同じで、ドレイクの来るタイミングはまちまちだった。


「手強いドレイクを無傷で簡単に倒せるっていうからサービスを利用しているのに、こうもやってくるタイミングがまちまちだと〈広告に偽りあり〉だと思うんだが」


 とうとう、戦士の一人がそのような苦情を申し立てた。他の三人も不服を口にし始めて、お育て屋さんとアルバイトは顔を青ざめさせた。すると、まだタイミング的に現れないはずのドレイクがひょっこりと顔を出した。物陰に隠れることなく言い合いをしていた冒険者達は一瞬凍りつくと、慌てて武器を構えた。
 ドレイクは冒険者達の存在を認識すると、彼らに向かって突進してきた。僧侶はできうる限りの支援魔法を戦士達にかけ、彼らと一緒になって戦い始めた。お育て屋さんも短剣を手に一生懸命戦った。しかし、そこに〈今まであり得なかった事態〉が更に発生した。――二体目のドレイクがやってきたのだ。

 ドレイク達は悠々と去っていった。辺りには戦士達が累々と倒れ伏し、出来立てほかほかの灰が降り積もっていた。そしてお育て屋さんは息も絶え絶えに「絶対、諦めない」と呟きガクリと頭を垂れると、その直後、霊界で悔しそうに地団駄を踏んだ。



   **********



 死神ちゃんが待機室に戻ってくると、ビット所長が仁王立ちで待ち構えていた。思わず身構えて死神ちゃんが後ずさりすると、彼は嬉しそうに目の部分をチカチカと点滅させた。


「まさか、冒険者にレプリカの行動プログラムを暴かれていたとはな。安々と経験を積まれ、ダンジョン攻略をされては困る。だから、そういう事態は即座に潰しておかねばならないのだ。――お前のおかげでそれを知り、すぐさまランダム性を組み込み対処することができた。礼を言おう」

「まさか、それを言いにわざわざ……? でも、俺、報告の無線とか一切入れてないですよ?」


 死神ちゃんが首を傾げさせると、ビットは誇らしげに胸を張った。


「社内のコンピューターのほとんどは私が作り、プログラミングを施している。小花おはなかおるよ、お前は魔道士様の気まぐれで他の死神と様相も違えば冒険者とコンタクトが取れるだろう? だから、クセのありそうな冒険者は極力お前に割り振られるようにと、お前が入社してきてからプログラムを変更しておいたのだ。そうしておいて、お前のことを定期的にチェックしていれば、今回のようなことにも気づきやすくなるからな。それにしても、そのようにプログラミングしてあるとはいえ、お前は本当に興味深くも扱いが面倒くさそうな冒険者によく出会うな。おかげさまでおもしろいデータもたくさん――」

「すみません、ちょっと休憩してきます……」


 死神ちゃんはビットの言葉を遮ってそう言うと、頭を抱えてその場から立ち去った。ビットはお構いなしにしゃべり続けているようで、彼のマシンガントークとともに犠牲者達のたどたどしい相槌が待機室から漏れでて廊下に響いていた。

 死神ちゃんは顔をしかめた。ビットの話を横で聞いていたマッコイがぽかんとしていたのを見るに、班長達も〈死神ちゃんが意図的に変態担当にさせられている〉ということを知らなかったらしい。目に見えぬ強制力を薄々感じてはいたが、まさか本当にそうだったとは――。
 死神ちゃんは盛大に溜め息をつくと、購入した珈琲を一気に飲み干したのだった。




 ――――〈もう有給取得も可能だし、いっそまとまった休みを突発的に取得してやろうか。そしたらお偉いさん方も困るだろうか〉と、そんな考えが脳裏を過ぎったのはここだけの秘密なのDEATH。
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