転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
119 / 362
* 死神生活一年目 *

第119話 死神ちゃんと弁護士

しおりを挟む
 死神ちゃんは前方にいる〈担当のパーティーターゲット〉と思しき冒険者を見て困惑した。というのも、彼女はダンジョンという場にそぐわない格好をしていたからだ。
 体の線がはっきりと分かる悩ましげなスーツに、短めのスカート。そしてピンヒール。――使用人の中でもメインの職種となる執事やメイドの装備として、ごく一般的なものと見た目の大差ない衣類は確かに産出する。しかし、彼女の身につけているそれらは、贔屓目に見ても使用人とは言い難く、どちらかと言えばキャリアウーマンという出で立ちだった。

 彼女は腰に冒険者ご愛用の〈魔法のポーチ〉をつけていた。しかしながらそれは、少々見た目が豪華に装飾されていた。
 とりあえず、スーツ姿にそぐわぬポーチを腰に付け、腕には緑の腕輪をしているのだから、冒険者であることは間違いないらしい。死神ちゃんは気を取り直すと天井スレスレを移動して彼女の前へと回りこみ、そして一気に急降下した。
 彼女は叫び声を上げつつも、キレの良いストレートを放ってきた。死神ちゃんはそれを上方に宙返りするようにしてかわすと、そのまま彼女の頭に片肘突いて頬杖した。


「うーん、想像よりも殺傷能力がありそうなパンチだな。あんた、冒険者としての職業は一体何? 最初は使用人かと思っていたんだが――」

「えっ、やだ、ちょっと、何!? 降りて! 降りなさいってば!」


 身をほんの少しだけ屈めてあわあわと両手を振る彼女の頭上から退くと、死神ちゃんはひっくり返った状態でふよふよと浮かびながら首を捻った。


「で、職業は?」

「私は弁護士よ! あなたこそ、一体何者なの!?」

「いや、普段の仕事の話じゃあなくてだな……。ちなみに、俺は死神」

「はっ!? 異議あり! そんな可愛らしい死神がいるわけがないわ! 死神といったらおどろおどろしい骸骨と相場が決まっているでしょう!?」


 死神ちゃんは面倒臭そうに頭を掻きながら、地面に着地した。そして軽く溜め息をつくと、しかめっ面で弁護士を見上げた。


「こっちが〈異議あり〉言いたいわ。ここは弁護士先生がいらっしゃるような場所じゃあないんだよ。一体何しに来たんだよ」


 彼女は咳払いをひとつすると「体を鍛えに来た」と言った。訝しげに顔を歪めて不服気な声を上げた死神ちゃんを真面目くさった表情で見下ろすと、彼女はゆっくりと話し始めた。
 彼女は、現在この国にいる弁護士の中でも赤丸急上昇中の売れっ子なのだそうだ。売れっ子であるがために敵も少なくなく、法廷の中でも外でもよく暴力を受けるらしい。しかしながら、彼女はそんな理不尽を跳ね除けながら、常に勝ちをもぎ取ってきたそうだ。


「これからも安定して勝ちを得るために、私はさらなる努力を必要としているの。だから、こうしてダンジョンで腕試しをしているというわけ。――というわけで、私の冒険者としての職業は闘士です」

「えっ、わけが分からない。弁護士が勝つために鍛えるなら、知識や弁論能力だろうが。どうして腕っぷしを強くしようと思ったんだよ」

「さっきも言ったと思うけれど、私、よく理不尽な暴力を受けるのよ。それに、裁判に勝ちに行くにはやっぱり必要なことなのよ」

「〈理不尽な暴力そういうの〉を何とかするのは、警備員とかの仕事だろう? 鍛えたいなら、街のカルチャースクールで護身術を習う程度で十分だろ」


 死神ちゃんが眉根を寄せると、彼女は〈分かってないな〉と言いたげに肩をすくめ、フウと息をつきながら首を横に振った。そして腰に手を当て不敵に笑うと、彼女はもっともらしい口調で言った。


「クライアントに不利な証言をしそうなヤツを消すためには、力は絶対不可欠でしょう。だから、モンスターだって一捻りできるくらいには強くないと」

「……はい?」

「それにね、腕っぷしだけじゃあないのよ? こちらに有利な証言をしてもらうために、色仕掛けなんかも不可欠ね。だから、美しいボディーラインを常に保っておかなきゃならなくて。ダンジョン探索は、腕っぷしも強くできて、適度な運動で体も絞れて、一石二鳥なのよ」


 胸を張って悪徳なことを堂々とのたまった彼女は、突如現れたモンスターに挑みかかっていった。目の前で勇猛果敢に暴れまわるスーツ姿の女をじっとりと見つめると、死神ちゃんは低い声でボソリと漏らした。


「お前が法廷の内外で受ける暴力は、とても正当なものだってことが理解できたよ」

「異議あり! 異議ありだわ!」


 死神ちゃんの独り言が聞こえていたようで、弁護士は地団駄を踏んで憤った。彼女はダンジョン探索によって脚力も鍛えられているようで、彼女がダンダンと足を振り下ろすたびに、地に倒れ伏したモンスターが血しぶきを上げながら苦しそうに喘いだ。
 死神ちゃんはそれを苦々しげな顔で見つめながら、思わず呻いた。


「うわあ、えげつな。ていうか、武器もなしでその強さとか、おかしいだろ」

「一応武器も携帯しているのよ? 普段はこのポーチの中に、大切にしまい込んであるの。このポーチには魔法がかかっていてね、持ち主以外の人間は触ることすらできないの。――私の武器は家宝にして、伝家の大宝刀だから。盗難対策はばっちりってわけ」


 死神ちゃんが適当に相槌を打つと、彼女は爽やかな笑みを浮かべた。そして何かを所望するかのように手を差し出すと〈寄越せ〉というジェスチュアをとった。死神ちゃんが眉根を寄せると、彼女はにやりと笑って言った。


「今から死神祓いのために一階に戻るんだもの、損害賠償を請求します」

「これは、死神罠が発動するまでダンジョン内に留まっていたあなたの過失です。よって、その請求は棄却致します」


 死神ちゃんは嫌味なほどニッコリと笑って言い返してやった。すると、彼女は不服そうに「異議あり」と繰り返した。

 一階へと戻る道すがら、弁護士は遭遇する敵の全てをキレのある殴りと蹴りで蹴散らしていた。しかし、耐久力のあるモンスターが現れると、彼女の快進撃に陰りが見え始めた。
 彼女は強敵を見つめて生唾を飲み込むと「伝家の大宝刀を抜く時が来たようね」と呟いた。そしてポーチに手をかけると、取り出した武器を手にモンスターへと襲いかかった。


「ええええええ!? その戦い方、異議あり! 異議あり!!」


 死神ちゃんは思わず叫んだ。弁護士は死神ちゃんの抗議に対して「却下!」と連呼しながら、一心不乱に武器を振り下ろした。そして力尽き、崩れ落ちたモンスターを足蹴にすると、額の汗を拭いながら満足気に額の汗を拭った。――開いた片手で、彼女は〈伝家の大宝刀〉である大辞典よりも分厚い本を抱きしめていた。


「これぞ弁護士の真骨頂、法律書ボンバーよ! これさえあれば、いつだって私の勝訴! 勝訴は常に確定なのよ!」


 これまでも様々な者の血を吸ってきたのであろう、本の角の部分は赤を通り越し、黒くくすんだ色をしていた。そしてさらに、本からは何かよからぬ気配が漂っていた。きっと、数えきれぬ者の恨みつらみが篭っているのだろう。
 死神ちゃんは口をあんぐりとさせると、目を見開いたまま眉間のしわを深めた。


「本って、すごく貴重な品じゃあなかったのか?」

「ええ、そうよ。これだけ分厚い本になると、結構な財産になるわね。だから盗難対策が欠かせないんじゃないの」


 彼女が手にしているのは、この国の法律の全てが書き記された本なのだそうだ。これだけの分厚さがあるがために発行部数も少ないそうで、そのため、全ての弁護士がこれを所持しているわけではないのだという。大抵の弁護士は、必要な時にだけ自身が師事する師匠から本を借りるのだそうだが、彼女の家は弁護士の一門を率いている名家だそうで、そのために本を個人所蔵しているのだそうだ。――つまり、この法律書は文字通り〈家宝〉というわけだ。


「そんな大切なものを、武器として使用して良いのかよ」

「私の家では代々、こういう使い方をしていたけれども」

「使用方法、間違ってるよ、それ! 異議あり! 異議あり!!」


 死神ちゃんが喚き散らすのもお構いなしに、彼女は新たに現れたモンスターめがけて本を投げつけた。しかし、それは綺麗に跳ね返され、彼女の頭にクリンヒットした。死神ちゃんは弁護士がサラサラと灰になっていくの呆然と見つめた。
 灰に突き刺さるように落下した本からは、黒い煙が上がったように見えた。それと同時に、本が纏っていた禍々しさがほんの少しだけだが薄れたような気がした。死神ちゃんは頬を引きつらせると「本日はこれにて閉廷」と呟き、壁の中へと消えていったのだった。




 ――――正攻法だけでは勝てない戦いというのは、確かにある。でも、法廷では正々堂々と、知識と弁論能力で戦って欲しいのDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

処理中です...