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* 死神生活ニ年目 *
第139話 死神ちゃんとハム⑥
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「よし、じゃあ、諸君! 準備はいいか!?」
ハムは一同を見渡すと開始の合図を出した。一同が一斉に縄跳びを飛び始めるのを、ハムは満足気に眺めていた。しかし突如、一同はどよめき、縄跳びをするのをやめた。一同がぎょっとして見つめる先を、ハムも目で追った。そして――
「よし、じゃあ、諸君! 準備はいいか!?」
ハムは一同を見渡すと開始の合図を出した。一同が一斉に縄跳びを飛び始めるのを、ハムは満足気に眺めていた。しかし突如、一同はどよめき、縄跳びをするのをやめた。一同がぎょっとして見つめる先を、ハムも目で追った。そして――
「嬢ちゃん!? 嬢ちゃんじゃねえか! うおおおおお、嬢ちゃーん!」
ハムは両手を広げると、アスリートよろしくヒュンヒュンと風を切りながら縄跳びをする死神ちゃんへと突っ込んでいった。
* 僧兵の 信頼度が 3 下がったよ! *
一同は嬉しそうに幼女をハグして頬ずりするハムを見て、ちょっとだけ引いた。周りのことなど気にすることなく、死神ちゃんはハッハッハと笑いながらハムにハグを返してやった。
ハムは依然蔑んだ視線を送り続ける一同を不服そうに見渡すと、死神ちゃんの両肩をしっかりと掴んで言った。
「お前ら、ここにおわす方をどなたと心得る! 恐れ多くも筋肉界のスーパースター〈筋肉神様〉であらせられるぞ!」
一同が驚愕の表情でざわめくのを構うことなく、死神ちゃんはハムを見上げた。そして首を傾げると、心なしか眉根を寄せて言った。
「お前さ、縄飛び始める前にストレッチしてただろ。あれさ、せっかく縄跳びがあるんだったら、それを使わなかったら損だろうが」
「おお! そいつは盲点だった!」
「いいか、縄をこう持ってだな……」
死神ちゃんはそう言うと、ストレッチを実演してみせた。ハムは慌てて自分の縄を手に取ると、死神ちゃんの真似をしだした。そしてハッと目を見開くと、一同を見渡して叫んだ。
「諸君! 何をしている! ほら、早く真似をするんだ! すごいぞ! これは、とても筋肉が喜ぶストレッチだ!」
「だろう? あとは寝転がって、こういう感じとか……」
「うおおおお! これはいい! 筋肉がッ! 筋肉が感極まっているッ!」
一同は戸惑いながらもハムの指示に従った。そして人気修行スポットの広間に、汗むさい集団の歓喜の声がこだました。
一同が縄跳びを再開させると、死神ちゃんはハムと一緒に壁にもたれかかるように座り込んだ。一生懸命に縄跳びをする一同から視線を外すと、死神ちゃんは不思議そうに首をひねりながら隣りに座るハムを見た。
「お前、何でまたインストラクターみたいなことをしているんだよ」
「みたいなことじゃなくて、インストラクターなんだ」
死神ちゃんが驚くと、ハムは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。何でも、知的筋肉との競技ダンスのレッスンは順調だそうで、今度大会に出ることになったらしい。しかしながら、競技ダンスの衣装はべらぼうに高い。男性用の衣装はまだいいのだが、女性用の衣装がとにかく高い。しがない冒険者――というよりも、探索や金策よりもトレーニングばかりしているハムにとって、それは目が飛び出るほどの額だった。
「彼女は自分で買うからいいと言ってくれてはいるんだが、俺がパートナーになってくれと誘ったわけだからな、可能なら全額負担したいんだ。だから、俺はアルバイトすることにしたんだ」
「もしかして、冒険者ギルドのカルチャースクールか?」
「よく知ってるなあ! さすが嬢ちゃんだぜ! ――そう、あそこだ。あそこ、すごく給料がいいんだ」
ハムが笑って頷くと、ちょうど一同が縄跳びのノルマを終えたところだった。ハムは立ち上がると、一同に近づいていった。
「さあ、では身体もよく温まっただろうから、メインレッスンを始めるぞ!」
言いながら、ハムはボクシングの構えのポーズを取った。生徒達はハムに向かって頷くと、彼らもまたポーズを取った。ハムは両拳を顎の辺りにスッと持って行くと、Uの字を描くようにニョコニョコと動き始めた。生徒もそれに倣いだし、それはさながら怪しい儀式のようだった。
死神ちゃんはあまりの怪しい雰囲気に顔をしかめた。しかしハムは至って真剣で、彼は一同を見渡すと上半身を使ってUの字を描き続けながら大きな声で言った。
「はい、ワンツーさんしッ! ワンツーさんしッ! ――いいぞ、その調子だ! では、続けていくぞ! はい、せーのッ! ワンツーエルボッ! 膝、ダック!」
ハムはリズムをとると、そのままシャドーボクシングを始めた。生徒達はハムの口ずさむリズムに乗って、ハムの動きをトレースし始めた。
最初、死神ちゃんは目をパチクリとさせてそれを眺めていたが、次第にむずむずそわそわとしだした。死神ちゃんはいてもたってもいられないとばかりに勢い良く立ち上がると、一同に混じって一緒にトレーニングをやり始めた。
ハムのリズムシャドーボクシングは少しずつ難易度が上がり、テンポも上がっていく仕様だった。一同はみな、額から汗を垂れ流し、衣服に汗ジミを作りながらも必死についていっていた。
時々、ついていけずに膝をつく者が現れた。膝をついた者は悔しそうに下を向き、鼻の先から汗を滴らせ、地面を湿らせながら肩で息をついた。しかし、ある程度呼吸を整えると毅然と立ち上がり、再びリズムに乗って拳で宙を切った。
激しい訓練を終えた一同は俯き、ぜいぜいと肩で息をついていた。誰も言葉を発する余裕がなかったが、ハムが「みんな、よく頑張ったな」と声をかけると、一同は顔を上げてハムを一心に見つめた。
ハムは一同を見渡して頷くと、嬉しげな表情で両手を広げた。
「さあ、最後の仕上げだ。右手を左肩に。左手を右肩に。――俺からのハグだ!」
ハグのポーズが完成すると、生徒達は目を見開き、頬を上気させた。そして鬨の声を上げると、やりきったことをお互いに称えあった。
「今の俺達なら、何と戦ってもビクトリー出来る気がする!」
「先生! 行きましょう、強敵の下に!」
目を輝かせる生徒達に、ハムは「うむ」と頷いた。そして彼は生徒達を従えて、嬉しそうに四階へと降りていった。そして毎度のお約束通りに、ハイテンションを保ちながら火吹き竜のブレスで一掃されたのだった。
**********
死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターブースの側でケイティーとピエロがシャドーボクシングをしていた。死神ちゃんが思わず顔をしかめると、ピエロが嬉々とした表情で言った。
「シャドーボクシングって、美容にとてもいいんでしょう? でも、さっきの筋肉ダルマがやってたヤツは、あちしには難しくてついていけないよ~! 小花っち、よく最後まで脱落しなかったね~!」
「小花は筋肉に一家言あるからね。あのくらいは当然でしょう」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ピエロが一生懸命に右ストレートの練習を始めた。腕を伸ばしたり引っ込めたりしながら、彼女は〈難しい〉と言わんばかりの仏頂面で首を傾げた。そんな彼女に、ケイティーがパンチのしかたを指南した。
「うーん、こう? こんな感じ? パンチ、難しいよ~」
「違うって、こう」
「こう?」
「そうじゃなくて――こう!」
ケイティーの拳がヒュッと小気味よい音を立てて風を切った。そしてそのまま、それは人形のような美しさの銀髪少女の頬にクリンヒットした。――ピエロは、その場で観察すればいいものを、腕の動きをよく見たいからといってケイティーの周りをちょこまかと動いていたのである。
二人がギャアと耳をつんざくような叫び声を上げるのを、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。そしてため息をつくと、死神ちゃんは再びダンジョンへと出動していったのだった。
――――運動後の高揚感は気持ちいいけれど、危険とも隣り合わせ。運動中の人間の周りをちょこまかと動きまわるのも、危険。トレーニングをする際は、安全な環境で安全なまま終えたいものDEATH。
「嬢ちゃん!? 嬢ちゃんじゃねえか! うおおおおお、嬢ちゃーん!」
ハムは両手を広げると、アスリートよろしくヒュンヒュンと風を切りながら縄跳びをする死神ちゃんへと突っ込んでいった。
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* 僧兵の 信頼度が 3 下がったよ! *
一同は嬉しそうに幼女をハグして頬ずりするハムを見て、ちょっとだけ引いた。周りのことなど気にすることなく、死神ちゃんはハッハッハと笑いながらハムにハグを返してやった。
ハムは依然蔑んだ視線を送り続ける一同を不服そうに見渡すと、死神ちゃんの両肩をしっかりと掴んで言った。
「お前ら、ここにおわす方をどなたと心得る! 恐れ多くも筋肉界のスーパースター〈筋肉神様〉であらせられるぞ!」
一同が驚愕の表情でざわめくのを構うことなく、死神ちゃんはハムを見上げた。そして首を傾げさせると、心なしか眉根を寄せて言った。
「お前さ、縄飛び始める前にストレッチしてただろ。あれさ、折角縄跳びがあるんだったら、それを使わなかったら損だろうが」
「おお! そいつは盲点だった!」
「いいか、縄をこう持ってだな……」
死神ちゃんはそう言うと、ストレッチを実演してみせた。ハムは慌てて自分の縄を手に取ると、死神ちゃんの真似をしだした。そしてハッと目を見開くと、一同を見渡して叫んだ。
「諸君! 何をしている! ほら、早く真似をするんだ! すごいぞ! これは、とても筋肉が喜ぶストレッチだ!」
「だろう? あとは寝転がって、こういう感じとか……」
「うおおおお! これはいい! 筋肉がッ! 筋肉が感極まっているッ!」
一同は戸惑いながらもハムの指示に従った。そして人気修行スポットの広間に、汗むさい集団の歓喜の声がこだました。
一同が縄跳びを再開させると、死神ちゃんはハムと一緒に壁にもたれかかるように座り込んだ。一生懸命に縄跳びをする一同から視線を外すと、死神ちゃんは首を傾げさせて隣りに座るハムを見た。
「お前、何でまたインストラクターみたいなことをしているんだよ」
「みたいなことじゃなくて、インストラクターなんだ」
死神ちゃんが驚くと、ハムは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。何でも、知的筋肉との競技ダンスのレッスンは順調だそうで、今度大会に出ることになったらしい。しかしながら、競技ダンスの衣装はべらぼうに高い。男性用の衣装はまだいいのだが、女性用の衣装がとにかく高い。しがない冒険者――というよりも、探索や金策よりもトレーニングばかりしているハムにとって、それは目が飛び出るほどの額だった。
「彼女は自分で買うからいいと言ってくれてはいるんだが、俺がパートナーになってくれと誘ったわけだからな、可能なら全額負担したいんだ。だから、俺はアルバイトすることにしたんだ」
「もしかして、冒険者ギルドのカルチャースクールか?」
「よく知ってるなあ! さすが嬢ちゃんだぜ! ――そう、あそこだ。あそこ、すごく給料がいいんだ」
ハムが笑って頷くと、ちょうど一同が縄跳びのノルマを終えたところだった。ハムは立ち上がると、一同に近づいていった。
「さあ、では身体もよく温まっただろうから、メインレッスンを始めるぞ!」
言いながら、ハムはボクシングの構えのポーズを取った。生徒達はハムに向かって頷くと、彼らもまたポーズを取った。ハムは両拳を顎の辺りにスッと持って行くと、Uの字を描くようにニョコニョコと動き始めた。生徒もそれに倣いだし、それはさながら怪しい儀式のようだった。
死神ちゃんはあまりの怪しい雰囲気に顔をしかめさせた。しかしハムは至って真剣で、彼は一同を見渡すと上半身を使ってUの字を描き続けながら大きな声で言った。
「はい、ワンツーさんしッ! ワンツーさんしッ! ――いいぞ、その調子だ! では、続けていくぞ! はい、せーのッ! ワンツーエルボッ! 膝、ダック!」
ハムはリズムをとると、そのままシャドーボクシングを始めた。生徒達はハムの口ずさむリズムに乗って、ハムの動きをトレースし始めた。
最初、死神ちゃんは目をパチクリとさせてそれを眺めていたが、次第にむずむずそわそわとしだした。死神ちゃんはいてもたってもいられないとばかりに勢い良く立ち上がると、一同に混じって一緒にトレーニングをやり始めた。
ハムのリズムシャドーボクシングは少しずつ難易度が上がり、テンポも上がっていく仕様だった。一同はみな、額から汗を垂れ流し、衣服に汗ジミを作りながらも必死に付いて行っていた。
時々、付いて行けずに膝をつく者が現れた。膝をついた者は悔しそうに下を向き、鼻の先から汗を滴らせ、地面を湿らせながら肩で息をついた。しかし、ある程度呼吸を整えると毅然と立ち上がり、再びリズムに乗って拳で宙を切った。
激しい訓練を終えた一同は俯き、ぜいぜいと肩で息をついていた。誰も言葉を発する余裕がなかったが、ハムが「みんな、よく頑張ったな」と声をかけると、一同は顔を上げてハムを一心に見つめた。
ハムは一同を見渡して頷くと、嬉しげな表情で両手を広げた。
「さあ、最後の仕上げだ。右手を左肩に。左手を右肩に。――俺からのハグだ!」
ハグのポーズが完成すると、生徒達は目を見開き、頬を上気させた。そして鬨の声を上げると、やりきったことをお互いに称えあった。
「今の俺達なら、何と戦ってもビクトリー出来る気がする!」
「先生! 行きましょう、強敵の下に!」
目を輝かせる生徒達に、ハムは「うむ」と頷いた。そして彼は生徒達を従えて、嬉しそうに四階へと降りていった。そして毎度のお約束通りに、ハイテンションを保ちながら火吹き竜のブレスで一掃されたのだった。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターブースの側でケイティーとピエロがシャドーボクシングをしていた。死神ちゃんが思わず顔をしかめさせると、ピエロが嬉々とした表情で言った。
「シャドーボクシングって、美容にとてもいいんでしょう? でも、さっきの筋肉ダルマがやってたヤツは、あちしには難しくて付いて行けないよ~! 小花《おはな》っち、よく最後まで脱落せずに付いて行けたねえ!」
「小花は筋肉に一家言あるからね。あのくらいは当然でしょう」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ピエロが一生懸命に右ストレートの練習を始めた。難しそうな顔で腕を伸ばしたり引っ込めたりしながら、彼女は首を傾げさせた。そんな彼女に、ケイティーがパンチのしかたを指南した。
「うーん、こう? こんな感じ? パンチ、難しいよ~」
「違うって、こう」
「こう?」
「そうじゃなくて――こう!」
ケイティーの拳がヒュッと小気味よい音を立てて風を切った。そしてそのまま、それは人形のような美しさの銀髪少女の頬にクリンヒットした。――ピエロは、その場で観察すればいいものを、腕の動きをよく見たいからといってケイティーの周りをちょこまかと動いていたのである。
二人がギャアと耳をつんざくような叫び声を上げるのを、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。そしてため息をつくと、死神ちゃんは再びダンジョンへと出動していったのだった。
――――運動後の高揚感は気持ちいいけれど、危険とも隣り合わせ。運動中の人間の周りをちょこまかと動きまわるのも、危険。トレーニングをする際は、安全な環境で安全なまま終えたいものDEATH。
ハムは一同を見渡すと開始の合図を出した。一同が一斉に縄跳びを飛び始めるのを、ハムは満足気に眺めていた。しかし突如、一同はどよめき、縄跳びをするのをやめた。一同がぎょっとして見つめる先を、ハムも目で追った。そして――
「よし、じゃあ、諸君! 準備はいいか!?」
ハムは一同を見渡すと開始の合図を出した。一同が一斉に縄跳びを飛び始めるのを、ハムは満足気に眺めていた。しかし突如、一同はどよめき、縄跳びをするのをやめた。一同がぎょっとして見つめる先を、ハムも目で追った。そして――
「嬢ちゃん!? 嬢ちゃんじゃねえか! うおおおおお、嬢ちゃーん!」
ハムは両手を広げると、アスリートよろしくヒュンヒュンと風を切りながら縄跳びをする死神ちゃんへと突っ込んでいった。
* 僧兵の 信頼度が 3 下がったよ! *
一同は嬉しそうに幼女をハグして頬ずりするハムを見て、ちょっとだけ引いた。周りのことなど気にすることなく、死神ちゃんはハッハッハと笑いながらハムにハグを返してやった。
ハムは依然蔑んだ視線を送り続ける一同を不服そうに見渡すと、死神ちゃんの両肩をしっかりと掴んで言った。
「お前ら、ここにおわす方をどなたと心得る! 恐れ多くも筋肉界のスーパースター〈筋肉神様〉であらせられるぞ!」
一同が驚愕の表情でざわめくのを構うことなく、死神ちゃんはハムを見上げた。そして首を傾げると、心なしか眉根を寄せて言った。
「お前さ、縄飛び始める前にストレッチしてただろ。あれさ、せっかく縄跳びがあるんだったら、それを使わなかったら損だろうが」
「おお! そいつは盲点だった!」
「いいか、縄をこう持ってだな……」
死神ちゃんはそう言うと、ストレッチを実演してみせた。ハムは慌てて自分の縄を手に取ると、死神ちゃんの真似をしだした。そしてハッと目を見開くと、一同を見渡して叫んだ。
「諸君! 何をしている! ほら、早く真似をするんだ! すごいぞ! これは、とても筋肉が喜ぶストレッチだ!」
「だろう? あとは寝転がって、こういう感じとか……」
「うおおおお! これはいい! 筋肉がッ! 筋肉が感極まっているッ!」
一同は戸惑いながらもハムの指示に従った。そして人気修行スポットの広間に、汗むさい集団の歓喜の声がこだました。
一同が縄跳びを再開させると、死神ちゃんはハムと一緒に壁にもたれかかるように座り込んだ。一生懸命に縄跳びをする一同から視線を外すと、死神ちゃんは不思議そうに首をひねりながら隣りに座るハムを見た。
「お前、何でまたインストラクターみたいなことをしているんだよ」
「みたいなことじゃなくて、インストラクターなんだ」
死神ちゃんが驚くと、ハムは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。何でも、知的筋肉との競技ダンスのレッスンは順調だそうで、今度大会に出ることになったらしい。しかしながら、競技ダンスの衣装はべらぼうに高い。男性用の衣装はまだいいのだが、女性用の衣装がとにかく高い。しがない冒険者――というよりも、探索や金策よりもトレーニングばかりしているハムにとって、それは目が飛び出るほどの額だった。
「彼女は自分で買うからいいと言ってくれてはいるんだが、俺がパートナーになってくれと誘ったわけだからな、可能なら全額負担したいんだ。だから、俺はアルバイトすることにしたんだ」
「もしかして、冒険者ギルドのカルチャースクールか?」
「よく知ってるなあ! さすが嬢ちゃんだぜ! ――そう、あそこだ。あそこ、すごく給料がいいんだ」
ハムが笑って頷くと、ちょうど一同が縄跳びのノルマを終えたところだった。ハムは立ち上がると、一同に近づいていった。
「さあ、では身体もよく温まっただろうから、メインレッスンを始めるぞ!」
言いながら、ハムはボクシングの構えのポーズを取った。生徒達はハムに向かって頷くと、彼らもまたポーズを取った。ハムは両拳を顎の辺りにスッと持って行くと、Uの字を描くようにニョコニョコと動き始めた。生徒もそれに倣いだし、それはさながら怪しい儀式のようだった。
死神ちゃんはあまりの怪しい雰囲気に顔をしかめた。しかしハムは至って真剣で、彼は一同を見渡すと上半身を使ってUの字を描き続けながら大きな声で言った。
「はい、ワンツーさんしッ! ワンツーさんしッ! ――いいぞ、その調子だ! では、続けていくぞ! はい、せーのッ! ワンツーエルボッ! 膝、ダック!」
ハムはリズムをとると、そのままシャドーボクシングを始めた。生徒達はハムの口ずさむリズムに乗って、ハムの動きをトレースし始めた。
最初、死神ちゃんは目をパチクリとさせてそれを眺めていたが、次第にむずむずそわそわとしだした。死神ちゃんはいてもたってもいられないとばかりに勢い良く立ち上がると、一同に混じって一緒にトレーニングをやり始めた。
ハムのリズムシャドーボクシングは少しずつ難易度が上がり、テンポも上がっていく仕様だった。一同はみな、額から汗を垂れ流し、衣服に汗ジミを作りながらも必死についていっていた。
時々、ついていけずに膝をつく者が現れた。膝をついた者は悔しそうに下を向き、鼻の先から汗を滴らせ、地面を湿らせながら肩で息をついた。しかし、ある程度呼吸を整えると毅然と立ち上がり、再びリズムに乗って拳で宙を切った。
激しい訓練を終えた一同は俯き、ぜいぜいと肩で息をついていた。誰も言葉を発する余裕がなかったが、ハムが「みんな、よく頑張ったな」と声をかけると、一同は顔を上げてハムを一心に見つめた。
ハムは一同を見渡して頷くと、嬉しげな表情で両手を広げた。
「さあ、最後の仕上げだ。右手を左肩に。左手を右肩に。――俺からのハグだ!」
ハグのポーズが完成すると、生徒達は目を見開き、頬を上気させた。そして鬨の声を上げると、やりきったことをお互いに称えあった。
「今の俺達なら、何と戦ってもビクトリー出来る気がする!」
「先生! 行きましょう、強敵の下に!」
目を輝かせる生徒達に、ハムは「うむ」と頷いた。そして彼は生徒達を従えて、嬉しそうに四階へと降りていった。そして毎度のお約束通りに、ハイテンションを保ちながら火吹き竜のブレスで一掃されたのだった。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターブースの側でケイティーとピエロがシャドーボクシングをしていた。死神ちゃんが思わず顔をしかめると、ピエロが嬉々とした表情で言った。
「シャドーボクシングって、美容にとてもいいんでしょう? でも、さっきの筋肉ダルマがやってたヤツは、あちしには難しくてついていけないよ~! 小花っち、よく最後まで脱落しなかったね~!」
「小花は筋肉に一家言あるからね。あのくらいは当然でしょう」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ピエロが一生懸命に右ストレートの練習を始めた。腕を伸ばしたり引っ込めたりしながら、彼女は〈難しい〉と言わんばかりの仏頂面で首を傾げた。そんな彼女に、ケイティーがパンチのしかたを指南した。
「うーん、こう? こんな感じ? パンチ、難しいよ~」
「違うって、こう」
「こう?」
「そうじゃなくて――こう!」
ケイティーの拳がヒュッと小気味よい音を立てて風を切った。そしてそのまま、それは人形のような美しさの銀髪少女の頬にクリンヒットした。――ピエロは、その場で観察すればいいものを、腕の動きをよく見たいからといってケイティーの周りをちょこまかと動いていたのである。
二人がギャアと耳をつんざくような叫び声を上げるのを、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。そしてため息をつくと、死神ちゃんは再びダンジョンへと出動していったのだった。
――――運動後の高揚感は気持ちいいけれど、危険とも隣り合わせ。運動中の人間の周りをちょこまかと動きまわるのも、危険。トレーニングをする際は、安全な環境で安全なまま終えたいものDEATH。
「嬢ちゃん!? 嬢ちゃんじゃねえか! うおおおおお、嬢ちゃーん!」
ハムは両手を広げると、アスリートよろしくヒュンヒュンと風を切りながら縄跳びをする死神ちゃんへと突っ込んでいった。
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* 僧兵の 信頼度が 3 下がったよ! *
一同は嬉しそうに幼女をハグして頬ずりするハムを見て、ちょっとだけ引いた。周りのことなど気にすることなく、死神ちゃんはハッハッハと笑いながらハムにハグを返してやった。
ハムは依然蔑んだ視線を送り続ける一同を不服そうに見渡すと、死神ちゃんの両肩をしっかりと掴んで言った。
「お前ら、ここにおわす方をどなたと心得る! 恐れ多くも筋肉界のスーパースター〈筋肉神様〉であらせられるぞ!」
一同が驚愕の表情でざわめくのを構うことなく、死神ちゃんはハムを見上げた。そして首を傾げさせると、心なしか眉根を寄せて言った。
「お前さ、縄飛び始める前にストレッチしてただろ。あれさ、折角縄跳びがあるんだったら、それを使わなかったら損だろうが」
「おお! そいつは盲点だった!」
「いいか、縄をこう持ってだな……」
死神ちゃんはそう言うと、ストレッチを実演してみせた。ハムは慌てて自分の縄を手に取ると、死神ちゃんの真似をしだした。そしてハッと目を見開くと、一同を見渡して叫んだ。
「諸君! 何をしている! ほら、早く真似をするんだ! すごいぞ! これは、とても筋肉が喜ぶストレッチだ!」
「だろう? あとは寝転がって、こういう感じとか……」
「うおおおお! これはいい! 筋肉がッ! 筋肉が感極まっているッ!」
一同は戸惑いながらもハムの指示に従った。そして人気修行スポットの広間に、汗むさい集団の歓喜の声がこだました。
一同が縄跳びを再開させると、死神ちゃんはハムと一緒に壁にもたれかかるように座り込んだ。一生懸命に縄跳びをする一同から視線を外すと、死神ちゃんは首を傾げさせて隣りに座るハムを見た。
「お前、何でまたインストラクターみたいなことをしているんだよ」
「みたいなことじゃなくて、インストラクターなんだ」
死神ちゃんが驚くと、ハムは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。何でも、知的筋肉との競技ダンスのレッスンは順調だそうで、今度大会に出ることになったらしい。しかしながら、競技ダンスの衣装はべらぼうに高い。男性用の衣装はまだいいのだが、女性用の衣装がとにかく高い。しがない冒険者――というよりも、探索や金策よりもトレーニングばかりしているハムにとって、それは目が飛び出るほどの額だった。
「彼女は自分で買うからいいと言ってくれてはいるんだが、俺がパートナーになってくれと誘ったわけだからな、可能なら全額負担したいんだ。だから、俺はアルバイトすることにしたんだ」
「もしかして、冒険者ギルドのカルチャースクールか?」
「よく知ってるなあ! さすが嬢ちゃんだぜ! ――そう、あそこだ。あそこ、すごく給料がいいんだ」
ハムが笑って頷くと、ちょうど一同が縄跳びのノルマを終えたところだった。ハムは立ち上がると、一同に近づいていった。
「さあ、では身体もよく温まっただろうから、メインレッスンを始めるぞ!」
言いながら、ハムはボクシングの構えのポーズを取った。生徒達はハムに向かって頷くと、彼らもまたポーズを取った。ハムは両拳を顎の辺りにスッと持って行くと、Uの字を描くようにニョコニョコと動き始めた。生徒もそれに倣いだし、それはさながら怪しい儀式のようだった。
死神ちゃんはあまりの怪しい雰囲気に顔をしかめさせた。しかしハムは至って真剣で、彼は一同を見渡すと上半身を使ってUの字を描き続けながら大きな声で言った。
「はい、ワンツーさんしッ! ワンツーさんしッ! ――いいぞ、その調子だ! では、続けていくぞ! はい、せーのッ! ワンツーエルボッ! 膝、ダック!」
ハムはリズムをとると、そのままシャドーボクシングを始めた。生徒達はハムの口ずさむリズムに乗って、ハムの動きをトレースし始めた。
最初、死神ちゃんは目をパチクリとさせてそれを眺めていたが、次第にむずむずそわそわとしだした。死神ちゃんはいてもたってもいられないとばかりに勢い良く立ち上がると、一同に混じって一緒にトレーニングをやり始めた。
ハムのリズムシャドーボクシングは少しずつ難易度が上がり、テンポも上がっていく仕様だった。一同はみな、額から汗を垂れ流し、衣服に汗ジミを作りながらも必死に付いて行っていた。
時々、付いて行けずに膝をつく者が現れた。膝をついた者は悔しそうに下を向き、鼻の先から汗を滴らせ、地面を湿らせながら肩で息をついた。しかし、ある程度呼吸を整えると毅然と立ち上がり、再びリズムに乗って拳で宙を切った。
激しい訓練を終えた一同は俯き、ぜいぜいと肩で息をついていた。誰も言葉を発する余裕がなかったが、ハムが「みんな、よく頑張ったな」と声をかけると、一同は顔を上げてハムを一心に見つめた。
ハムは一同を見渡して頷くと、嬉しげな表情で両手を広げた。
「さあ、最後の仕上げだ。右手を左肩に。左手を右肩に。――俺からのハグだ!」
ハグのポーズが完成すると、生徒達は目を見開き、頬を上気させた。そして鬨の声を上げると、やりきったことをお互いに称えあった。
「今の俺達なら、何と戦ってもビクトリー出来る気がする!」
「先生! 行きましょう、強敵の下に!」
目を輝かせる生徒達に、ハムは「うむ」と頷いた。そして彼は生徒達を従えて、嬉しそうに四階へと降りていった。そして毎度のお約束通りに、ハイテンションを保ちながら火吹き竜のブレスで一掃されたのだった。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターブースの側でケイティーとピエロがシャドーボクシングをしていた。死神ちゃんが思わず顔をしかめさせると、ピエロが嬉々とした表情で言った。
「シャドーボクシングって、美容にとてもいいんでしょう? でも、さっきの筋肉ダルマがやってたヤツは、あちしには難しくて付いて行けないよ~! 小花《おはな》っち、よく最後まで脱落せずに付いて行けたねえ!」
「小花は筋肉に一家言あるからね。あのくらいは当然でしょう」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ピエロが一生懸命に右ストレートの練習を始めた。難しそうな顔で腕を伸ばしたり引っ込めたりしながら、彼女は首を傾げさせた。そんな彼女に、ケイティーがパンチのしかたを指南した。
「うーん、こう? こんな感じ? パンチ、難しいよ~」
「違うって、こう」
「こう?」
「そうじゃなくて――こう!」
ケイティーの拳がヒュッと小気味よい音を立てて風を切った。そしてそのまま、それは人形のような美しさの銀髪少女の頬にクリンヒットした。――ピエロは、その場で観察すればいいものを、腕の動きをよく見たいからといってケイティーの周りをちょこまかと動いていたのである。
二人がギャアと耳をつんざくような叫び声を上げるのを、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。そしてため息をつくと、死神ちゃんは再びダンジョンへと出動していったのだった。
――――運動後の高揚感は気持ちいいけれど、危険とも隣り合わせ。運動中の人間の周りをちょこまかと動きまわるのも、危険。トレーニングをする際は、安全な環境で安全なまま終えたいものDEATH。
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