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* 死神生活ニ年目 *
第164話 死神ちゃんとキックボクサー③
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死神ちゃんは五階水辺区域の修行スポットにやってきた。そこでは〈担当のパーティー〉と思しき闘士が、滝に向かって正拳突きをしていた。どうやら彼は、突きで滝を割りたいらしい。しかしながら、どんなに彼が一生懸命に拳を繰り出しても、滝が割れるなどということはなかった。
死神ちゃんは彼の背後にこっそりと近づいていくと、不意をついて膝カックンをお見舞いした。闘士はバランスを崩して悲鳴を上げると、ドボンと音を立てて滝壺に落ちた。
ガボガボと苦しそうにもがきながらも、彼は何とか滝壺から這い上がってきた。肩で必死に息をつきながら、彼は声を絞り出した。
「危うく死ぬところだった……」
「俺としては、そのまま死んでくれても良かったんだけどな」
「いや、このダンジョンの死神ってぇのは、自ら引導渡さないんじゃなかったか!? ……って、やっぱり筋肉神様じゃねえか! うおおおおおお!」
勢い良く顔を上げて反射的に抗議の声を上げた闘士――ケイティーのレプリカにぞっこんの、ちょっとM気質なキックボクサーは一転して目を輝かせると、諸手を上げて死神ちゃんにダイブした。そのまま、死神ちゃんは勢い余ったキックボクサーとともに滝壺へと落ちそうになった。死神ちゃんが彼の額に必死にチョップを連打すると、彼だけが再び滝壺へと落ちていった。
「ゲホッ……ゴホッ……。危うく死ぬところだった……」
「しぶといな、お前。俺としては事故死大歓迎なんだがな」
「お嬢ちゃん、つれないなあ! どうせなら一緒に、堕ちるところまで堕ちようぜ!」
「いや、もう、筋肉神としてお前らに崇め奉られてる時点で何か堕ちきった気もするから、別にいいです」
死神ちゃんが真顔で拒否すると、キックボクサーは不服げに口を尖らせた。死神ちゃんは気を取り直して「有袋類は倒せたのか」と尋ねた。すると彼は、苦虫を噛み潰したような顔を少しばかり俯かせた。
「何だよ、まだ倒せていないのか」
「だってよ、あいつ、キックもパンチもおかしいんだぜ? アレが俺ら選手と一緒に大会に参加したら、間違いなく優勝すると思うね」
「そんなんじゃあ、いつまで経っても例の女性闘士とは戦えないな」
死神ちゃんがハンと息を吐くと、キックボクサーは不敵にニヤリと笑った。死神ちゃんが訝しげに彼を見返すと、彼は「秘策がある」と言って声を潜めた。
その秘策というのは、有袋類に対抗するべく会得しようとしている技のことだそうだ。何でも、この水辺区域には有袋類に勝るとも劣らない闘士系のモンスターが出没するのだとか。そいつも有袋類同様に蹴りが殺人級らしく、それを真似することができれば有袋類を一網打尽にすることが可能なのではないかと思ったそうだ。
「何が何でも、俺はその蹴り技を盗むんだ。そうすれば、彼女からのご褒美が……じゃなかった、彼女からの気持ちのいい蹴りが……じゃなかった、彼女と拳を交えて、正気に戻させることができるようになれるに違いねえ!」
そう言って拳を握ると、彼は声高に叫んだ。死神ちゃんはぐったりと肩を落とすと、深いため息をついた。
ウォーミングアップも済んだところで、キックボクサーは件のモンスターを探して辺りを探索し始めた。彼の後について歩いていた死神ちゃんは、ふと水辺に視線を振ったままその場で立ち止まった。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
「……なあ、もしかして、あれじゃあないか?」
しかめっ面で呆れ声をあげた死神ちゃんに首を傾げると、キックボクサーも死神ちゃんの視線を追って水辺を見やった。すると、ザパアと飛沫を上げて巨大な甲殻類が水辺に上がってきた。
「すごいな、あんなにデカいのは初めて見たよ。あいつ、今、何歳くらいかな?」
「は?」
「知らないのか? あいつ、寿命無いらしいぜ」
「いやいや、お嬢ちゃん。そんなことはどうだって……。ていうか、アレは絶対違うだろ」
「いや、アレだろ。だって、ハサミの代わりにグローブつけてるし」
言いながら、死神ちゃんは半笑いでぷるぷると震えた。キックボクサーは納得行かないと言うかのように甲殻類を指差すと、素っ頓狂な声を上げた。
「何でロブスターがボクシンググローブつけてるんだよ! ロブスターの蹴りって何だ、跳ねるのか? ビチビチ跳ねるのか!?」
「跳ねるんじゃないのか? ――ぶっ……ははははっ! 有袋類の次は甲殻類かよ! こいつにも負けたら、人類かたなしだなあ、おい!」
死神ちゃんは腹を抱えると、身を折ってゲラゲラと笑った。キックボクサーは荒々しくフンと鼻を鳴らすと、拳を打ち鳴らしながら言った。
「ピクシーを追い掛け回して上がった素早さを、あの甲殻類に見せつけてやるぜ。素早く立ち回って突きをつきゃあ、人類様のKO勝ちさ!」
鬨の声を上げると、彼は甲殻類へと突っ走っていった。そして、素早さを見せつける前に、彼はロブスターの尾扇でひと叩きされてエビ反りで吹っ飛んだのだった。
**********
死神ちゃんが待機室に戻ってくると、鉄砲玉がモニターをしみじみと見上げていた。彼は目を細めさせると、ほっこりとした笑みを浮かべて言った。
「懐かしいなあ。ガキの頃、よく家の裏の用水路でザリガニ釣りしたんだよな」
「すごいね! あんなの釣れちゃうの!? 三下の住んでた世界って、一体どんなワンダーランド!?」
目を輝かせるピエロに、鉄砲玉は冷たく「んなわけあるか」と返した。その横で、にゃんこが尻尾をうねらせながらニヤリと笑った。
「あんな大きさ、まだ序の口なのね。あたい、もっとどデカい甲殻類を見たことがあるのね。こ~んな、山みたいな大きさね!」
「んだよそりゃ、ゲームか」
「ゲームじゃないのね! あたいの世界では、これが常識なのね!」
鉄砲玉は小馬鹿にするようににゃんこを見下ろすと、ご立腹な彼女に顔面を盛大に引っかかれた。ギャアと喚く鉄砲玉と、彼を指差してケタケタと笑うピエロを放っておいて、死神ちゃんはマッコイに近寄った。そして彼を見上げると、死神ちゃんは「今夜はロブスターが食いたい」と所望したのだった。
――――最高級ザリガニ料理の前では、筋肉神様もかたなしなのDEATH。
死神ちゃんは彼の背後にこっそりと近づいていくと、不意をついて膝カックンをお見舞いした。闘士はバランスを崩して悲鳴を上げると、ドボンと音を立てて滝壺に落ちた。
ガボガボと苦しそうにもがきながらも、彼は何とか滝壺から這い上がってきた。肩で必死に息をつきながら、彼は声を絞り出した。
「危うく死ぬところだった……」
「俺としては、そのまま死んでくれても良かったんだけどな」
「いや、このダンジョンの死神ってぇのは、自ら引導渡さないんじゃなかったか!? ……って、やっぱり筋肉神様じゃねえか! うおおおおおお!」
勢い良く顔を上げて反射的に抗議の声を上げた闘士――ケイティーのレプリカにぞっこんの、ちょっとM気質なキックボクサーは一転して目を輝かせると、諸手を上げて死神ちゃんにダイブした。そのまま、死神ちゃんは勢い余ったキックボクサーとともに滝壺へと落ちそうになった。死神ちゃんが彼の額に必死にチョップを連打すると、彼だけが再び滝壺へと落ちていった。
「ゲホッ……ゴホッ……。危うく死ぬところだった……」
「しぶといな、お前。俺としては事故死大歓迎なんだがな」
「お嬢ちゃん、つれないなあ! どうせなら一緒に、堕ちるところまで堕ちようぜ!」
「いや、もう、筋肉神としてお前らに崇め奉られてる時点で何か堕ちきった気もするから、別にいいです」
死神ちゃんが真顔で拒否すると、キックボクサーは不服げに口を尖らせた。死神ちゃんは気を取り直して「有袋類は倒せたのか」と尋ねた。すると彼は、苦虫を噛み潰したような顔を少しばかり俯かせた。
「何だよ、まだ倒せていないのか」
「だってよ、あいつ、キックもパンチもおかしいんだぜ? アレが俺ら選手と一緒に大会に参加したら、間違いなく優勝すると思うね」
「そんなんじゃあ、いつまで経っても例の女性闘士とは戦えないな」
死神ちゃんがハンと息を吐くと、キックボクサーは不敵にニヤリと笑った。死神ちゃんが訝しげに彼を見返すと、彼は「秘策がある」と言って声を潜めた。
その秘策というのは、有袋類に対抗するべく会得しようとしている技のことだそうだ。何でも、この水辺区域には有袋類に勝るとも劣らない闘士系のモンスターが出没するのだとか。そいつも有袋類同様に蹴りが殺人級らしく、それを真似することができれば有袋類を一網打尽にすることが可能なのではないかと思ったそうだ。
「何が何でも、俺はその蹴り技を盗むんだ。そうすれば、彼女からのご褒美が……じゃなかった、彼女からの気持ちのいい蹴りが……じゃなかった、彼女と拳を交えて、正気に戻させることができるようになれるに違いねえ!」
そう言って拳を握ると、彼は声高に叫んだ。死神ちゃんはぐったりと肩を落とすと、深いため息をついた。
ウォーミングアップも済んだところで、キックボクサーは件のモンスターを探して辺りを探索し始めた。彼の後について歩いていた死神ちゃんは、ふと水辺に視線を振ったままその場で立ち止まった。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
「……なあ、もしかして、あれじゃあないか?」
しかめっ面で呆れ声をあげた死神ちゃんに首を傾げると、キックボクサーも死神ちゃんの視線を追って水辺を見やった。すると、ザパアと飛沫を上げて巨大な甲殻類が水辺に上がってきた。
「すごいな、あんなにデカいのは初めて見たよ。あいつ、今、何歳くらいかな?」
「は?」
「知らないのか? あいつ、寿命無いらしいぜ」
「いやいや、お嬢ちゃん。そんなことはどうだって……。ていうか、アレは絶対違うだろ」
「いや、アレだろ。だって、ハサミの代わりにグローブつけてるし」
言いながら、死神ちゃんは半笑いでぷるぷると震えた。キックボクサーは納得行かないと言うかのように甲殻類を指差すと、素っ頓狂な声を上げた。
「何でロブスターがボクシンググローブつけてるんだよ! ロブスターの蹴りって何だ、跳ねるのか? ビチビチ跳ねるのか!?」
「跳ねるんじゃないのか? ――ぶっ……ははははっ! 有袋類の次は甲殻類かよ! こいつにも負けたら、人類かたなしだなあ、おい!」
死神ちゃんは腹を抱えると、身を折ってゲラゲラと笑った。キックボクサーは荒々しくフンと鼻を鳴らすと、拳を打ち鳴らしながら言った。
「ピクシーを追い掛け回して上がった素早さを、あの甲殻類に見せつけてやるぜ。素早く立ち回って突きをつきゃあ、人類様のKO勝ちさ!」
鬨の声を上げると、彼は甲殻類へと突っ走っていった。そして、素早さを見せつける前に、彼はロブスターの尾扇でひと叩きされてエビ反りで吹っ飛んだのだった。
**********
死神ちゃんが待機室に戻ってくると、鉄砲玉がモニターをしみじみと見上げていた。彼は目を細めさせると、ほっこりとした笑みを浮かべて言った。
「懐かしいなあ。ガキの頃、よく家の裏の用水路でザリガニ釣りしたんだよな」
「すごいね! あんなの釣れちゃうの!? 三下の住んでた世界って、一体どんなワンダーランド!?」
目を輝かせるピエロに、鉄砲玉は冷たく「んなわけあるか」と返した。その横で、にゃんこが尻尾をうねらせながらニヤリと笑った。
「あんな大きさ、まだ序の口なのね。あたい、もっとどデカい甲殻類を見たことがあるのね。こ~んな、山みたいな大きさね!」
「んだよそりゃ、ゲームか」
「ゲームじゃないのね! あたいの世界では、これが常識なのね!」
鉄砲玉は小馬鹿にするようににゃんこを見下ろすと、ご立腹な彼女に顔面を盛大に引っかかれた。ギャアと喚く鉄砲玉と、彼を指差してケタケタと笑うピエロを放っておいて、死神ちゃんはマッコイに近寄った。そして彼を見上げると、死神ちゃんは「今夜はロブスターが食いたい」と所望したのだった。
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