175 / 362
* 死神生活ニ年目 *
第175話 何色?十色!★写生大会
しおりを挟む
「へい、そこの小花っち! 迎えに来てやったよ、感謝しな!」
朝、死神ちゃんがキッチンで作業しているマッコイの横で朝食を兼ねた摘み食いをしていると、キッチンの出入り口のところでピエロが得意気に胸を張って立っていた。死神ちゃんは表情もなく彼女を見つめると、顎を小さくしゃくった。
「ほら、後ろ。邪魔になってるから」
ピエロが慌てて後ろを振り向くと、そこには住職が立っていた。小さな声で「あっ、すみません」と言いながら慌てて横に飛び退いたピエロをまじまじと見つめると、住職は眉根を寄せて首を傾げた。そしてキッチンに居るマッコイを見やると、住職は逆方向に首を捻った。
「なあ、寮長。こいつの入館記録って、寮長がつけた?」
「えっ? 住職がつけてくれたから、そこにいるんじゃないの?」
「……そうか、分かった」
住職はため息をつくと、おもむろにピエロの両脇に手を差し入れた。そして彼は、戸惑いの声を上げ続けるピエロを肩に担いだ。
「えっ……ちょっ……小花っち! 小花っち~! 助け……ああああああああ!」
強制退館のため連行されるピエロの声が廊下に響くのを聞きながら、死神ちゃんはエビフライをもぐもぐと頬張った。
**********
本日は天狐の城下町で秋の写生大会が催される日だった。絵心のない死神ちゃんは最初、参加のお誘いを断っていたのだが、心なしかしょんぼりと肩を落とした天狐の姿に負けて参加することを決めた。
死神ちゃんは大会の会場に向かう道すがら、自分の横を歩く後輩二人を見やった。
「それにしても、お前たちも参加するとはな」
「美的感覚を常に鋭くしておくには、芸術的活動は大事なんだよ!」
ルンルンとスキップをするピエロの横で、権左衛門がゆったりと尻尾を振った。
「ピエロに誘われたんぜよ。あしにそういうセンスはないやけど、なんちゃー楽しんだもの勝ちだと思おったがで」
死神ちゃんは権左衛門の前向きな発言に、ほっこりと相好を崩した。一転して不思議そうに首を傾げると、目を瞬かせながら言った。
「そう言えば、クリスも参加するって言ってたよな?」
「何か、こだわりがあるらしいよ。だから、早めに行って隈なく会場をチェックしたいんだってさ」
**********
会場となっている公園の入り口までやってくると、天狐が待ち構えていた。死神ちゃんたちに気がついた彼女は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、そして小走りで近寄ってきた。一見獰猛そうに見えて実は穏やかな性格の権左衛門は近寄ってきた天狐をひょいと持ち上げると、そのまま彼女を肩車した。
受付を済ませると、四人は早速どこで描こうかと下見を開始した。権左衛門の肩の上できゃっきゃと楽しそうにはしゃぐ天狐が何かを見つけたようで、そちらのほうへと向かってみた。するとそこにはクリスがいて、彼はすでに絵を描き始めていた。
お絵かきをするのに最低限必要なものしか持っていない死神ちゃんたちとは対照的に、クリスは画板立てにスケッチブックを置いて椅子に腰掛けてと本格的だった。すでにできあがりかけている下絵も立派なもので、彼の背後からそれを覗き見た死神ちゃんは思わず「すごいな」と感嘆の声を上げた。すると、その声に気がついたクリスがきょとんとした顔で振り返ってきた。
「あ、薫たち、来てたの」
「おう、ついさっきな。――それにしても、お前、すごいな。転生前、何かやっていたのか?」
「あー、うん。私、転生前は美術家だったんだよ」
苦笑いを浮かべながら、彼は「みんなもここで描けば?」と勧めてくれた。どうせお昼は一緒にお弁当を食べるのだ、だったら同じ場所で描こうということらしい。本格的かつ真面目に取り組んでいる彼の邪魔にならないだろうかと心配に思った死神ちゃんだったが、彼が大丈夫だと請け負うので、そのお言葉に甘えることにした。
死神ちゃんは権左衛門と手分けして行楽シートを広げながら、小休止を取るクリスと少しばかり話した。どうやら彼は死神ちゃんと同じ〈こちらの世界に転生するにあたって性格矯正を受けたクチ〉だそうで、作品作りにこだわるあまり、猟奇的なことをたくさんやらかしていたらしい。
「作品作りのために、執拗に素材収集に明け暮れていたのが、こっちに来てからそれ以外の生き方も知って。おかげさまで、前よりも美術に対して伸び伸びとした姿勢で接することができるようになった気がするんだよね」
「だったら死神じゃなくて、アイテム開発課のほうが向いてるんじゃないか?」
「私がスカウトされたのって、素材収集の執拗さを買われてなんだよね。それに、死んでこっちに来た場合って、原則死神課に所属じゃん」
「執拗なまでの素材収集って、一体何をしていたんだよ……」
死神ちゃんが呆れ気味に眉根を寄せると、クリスが「知りたい?」と言ってニヤリと笑った。死神ちゃんは何となく背筋に悪寒が走るのを感じて、首を小さく横に振った。
準備が整うと、死神ちゃん達も早速絵を描き始めた。ピエロと天狐が結構騒がしくしていたが、クリスは物凄く集中しているようで周りの声など一切聞こえていないようだった。
お昼になると、死神ちゃんはマッコイが用意してくれたお弁当をポーチから取り出した。みんなで食べられるようにと、マッコイは段重ねの重箱で用意してくれていた。クリスにも声をかけると、ワクワク顔の天狐とピエロが重箱を一心に見つめる中、死神ちゃんは風呂敷包みを解いて重箱の蓋を開けた。そしてその中身を見て、一同は目を真ん丸とさせた。
「ご飯ものが入っていないのじゃ」
「珍しいね、マコ姉がそんなミスをやらかすだなんて」
「おにぎりか何かをこうてきましょうか?」
そう言って権左衛門が立ち上がるのと同時に、遠くから「待って~」という女性の声が聞こえてきた。天狐は耳を激しくピクピクと動かすと、目を爛々と輝かせて勢い良く立ち上がった。
「母上! 母上なのじゃ!」
天狐の言葉に驚いた死神ちゃんが声のするほうに目を向けてみると、彼女の母親が風呂敷に包まれた何かを抱えて小走りに近づいてくるところだった。母親は以前会った時のような十二単ではなく、とてもラフなパンツスタイルに、動きやすいようにと尻尾を完全に隠した姿だった。
フウフウと息をつきながら、母はにこやかな笑みを浮かべて「遅くなってすんまへん」と言った。こちらの風呂敷の中身も段重ねの重箱で、色んな種類のおいなりさんがぎっしりと詰まっていた。
「おお、これはまた、示し合わせたように……」
「ええ、合わせたんどす。天狐ちゃんが今度、みんなと写生大会に参加すると言うとったさかい、マコはんと相談して、手分けして作ることにしたんどす」
「……すっかりママ友だな」
「ママ友と言うよりは、主婦友と言うたほうがしっくりきますねえ」
何故か含みのある言い方をしながら楽しそうに笑う天狐の母に、死神ちゃんは苦笑いを浮かべつつ頬を引きつらせた。
天狐の母は〈そんなに頻繁に顔を合わせていては、娘の修行にならない〉と思い、長期休暇の時に天狐が里帰りして来る以外は会わないようにしていたそうだ。しかし初めてこちらの世界に顔を出した前回、異様なほど喜んだ娘の姿を見て、彼女も嬉しく思い「やっぱり、もっと定期的に親子の時間を過ごしたいな」と思ったのだそうだ。
「今まで通りお勉強をサボッとったら、あたしも心を鬼にして〈会わない生活〉を続けていました。でも、仲のええお友達が出来たことで、怠け気味やったお勉強を頑張るようになったと聞いたさかい。――つまり、小花はんのおかげどす」
天狐の母はコロコロと笑いながら「それに、灰色様に素敵なサロンを紹介してもらいましたし」と付け足した。どうやら彼女は、前回こちらの世界に顔を出した際に訪れたアルデンタスのサロンを甚く気に入ったらしい。
そのような会話を横で死神ちゃんと母がしているのもお構い無く、天狐は口の端にご飯粒をつけたまま目をキラキラとさせて「ふおおおおお」と感嘆の声を上げていた。どうやら久々の〈母の手料理〉に感動しているらしい。そんな天狐の様子に、死神ちゃんは頬を緩めた。
「それにしても、マコはんはマメどすねえ。こんなにたくはんの種類のおかずをいっぱい作って。お仕事もあるでしょうに、朝、何時起きやったんでしょう?」
おかずを口に運び、美味しいと呟き顔を綻ばせながら天狐の母が舌を巻いた。死神ちゃんはその言葉を聞いて思わずハッとした。自分がキッチンに顔を出したときにもマッコイは調理を行っていたが、もうほとんどのおかずができあがっている状態だったのだ。しかも彼は本日、早番勤務だった。――きっと、かなり早い時間に起きて作業してくれていたに違いない。きちんと、何かお返しをしなければ。
ご飯を食べ終えて、死神ちゃん達は再び絵を描く作業に戻った。絵の具まみれになりつつも、母親の隣でにこにこと作業をする天狐を微笑ましく思いながら死神ちゃんも絵の具を混ぜた。
スケッチブックを覗き込んできたピエロが「小花っち、独創的な絵を描くね」と言ってニヤニヤと笑ってきて、死神ちゃんは心なしかムッとした。しかし、そう笑ってきたピエロも随分と独創的な絵を奇抜な配色で描いていた。ちなみに権左衛門はというと、強そうな見た目にはそぐわない可愛らしい絵を可愛らしい色合いで描いていた。
一息ついて筆を置いたクリスが、ピエロの方を向くと口を開いた。
「〈どう捉えるか〉なんて、人それぞれなんだから。みんな違って、みんないいんだよ」
後日、写生大会参加者の描いた絵を一堂に集めた展覧会が催された。元々プロだったというだけあって、クリスは一番良い賞を受賞していた。権左衛門もこっそりと努力賞を獲得していて、照れくさそうに頭を掻いていた。
参加して楽しかった気持ちを胸に抱きながら、死神ちゃんはたくさんの人の様々な〈努力の結晶〉を眺めていた。その隣では天狐が「楽しかったのう」と言って満面の笑みを浮かべていた。死神ちゃんはそれに頷くと、クリスの言っていた「みんな違って、みんないい」という言葉を噛みしめたのだった。
――――苦手なことでも、試しにやってみると意外と楽しい。そして、下手であることを恥じるよりも、精一杯楽しもうとしたほうがずっといい。「みんな違って、みんないい」のだから、周りを気にせず自分なりに一生懸命やりきったもの勝ちだと死神ちゃんは思ったのDEATH。
朝、死神ちゃんがキッチンで作業しているマッコイの横で朝食を兼ねた摘み食いをしていると、キッチンの出入り口のところでピエロが得意気に胸を張って立っていた。死神ちゃんは表情もなく彼女を見つめると、顎を小さくしゃくった。
「ほら、後ろ。邪魔になってるから」
ピエロが慌てて後ろを振り向くと、そこには住職が立っていた。小さな声で「あっ、すみません」と言いながら慌てて横に飛び退いたピエロをまじまじと見つめると、住職は眉根を寄せて首を傾げた。そしてキッチンに居るマッコイを見やると、住職は逆方向に首を捻った。
「なあ、寮長。こいつの入館記録って、寮長がつけた?」
「えっ? 住職がつけてくれたから、そこにいるんじゃないの?」
「……そうか、分かった」
住職はため息をつくと、おもむろにピエロの両脇に手を差し入れた。そして彼は、戸惑いの声を上げ続けるピエロを肩に担いだ。
「えっ……ちょっ……小花っち! 小花っち~! 助け……ああああああああ!」
強制退館のため連行されるピエロの声が廊下に響くのを聞きながら、死神ちゃんはエビフライをもぐもぐと頬張った。
**********
本日は天狐の城下町で秋の写生大会が催される日だった。絵心のない死神ちゃんは最初、参加のお誘いを断っていたのだが、心なしかしょんぼりと肩を落とした天狐の姿に負けて参加することを決めた。
死神ちゃんは大会の会場に向かう道すがら、自分の横を歩く後輩二人を見やった。
「それにしても、お前たちも参加するとはな」
「美的感覚を常に鋭くしておくには、芸術的活動は大事なんだよ!」
ルンルンとスキップをするピエロの横で、権左衛門がゆったりと尻尾を振った。
「ピエロに誘われたんぜよ。あしにそういうセンスはないやけど、なんちゃー楽しんだもの勝ちだと思おったがで」
死神ちゃんは権左衛門の前向きな発言に、ほっこりと相好を崩した。一転して不思議そうに首を傾げると、目を瞬かせながら言った。
「そう言えば、クリスも参加するって言ってたよな?」
「何か、こだわりがあるらしいよ。だから、早めに行って隈なく会場をチェックしたいんだってさ」
**********
会場となっている公園の入り口までやってくると、天狐が待ち構えていた。死神ちゃんたちに気がついた彼女は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、そして小走りで近寄ってきた。一見獰猛そうに見えて実は穏やかな性格の権左衛門は近寄ってきた天狐をひょいと持ち上げると、そのまま彼女を肩車した。
受付を済ませると、四人は早速どこで描こうかと下見を開始した。権左衛門の肩の上できゃっきゃと楽しそうにはしゃぐ天狐が何かを見つけたようで、そちらのほうへと向かってみた。するとそこにはクリスがいて、彼はすでに絵を描き始めていた。
お絵かきをするのに最低限必要なものしか持っていない死神ちゃんたちとは対照的に、クリスは画板立てにスケッチブックを置いて椅子に腰掛けてと本格的だった。すでにできあがりかけている下絵も立派なもので、彼の背後からそれを覗き見た死神ちゃんは思わず「すごいな」と感嘆の声を上げた。すると、その声に気がついたクリスがきょとんとした顔で振り返ってきた。
「あ、薫たち、来てたの」
「おう、ついさっきな。――それにしても、お前、すごいな。転生前、何かやっていたのか?」
「あー、うん。私、転生前は美術家だったんだよ」
苦笑いを浮かべながら、彼は「みんなもここで描けば?」と勧めてくれた。どうせお昼は一緒にお弁当を食べるのだ、だったら同じ場所で描こうということらしい。本格的かつ真面目に取り組んでいる彼の邪魔にならないだろうかと心配に思った死神ちゃんだったが、彼が大丈夫だと請け負うので、そのお言葉に甘えることにした。
死神ちゃんは権左衛門と手分けして行楽シートを広げながら、小休止を取るクリスと少しばかり話した。どうやら彼は死神ちゃんと同じ〈こちらの世界に転生するにあたって性格矯正を受けたクチ〉だそうで、作品作りにこだわるあまり、猟奇的なことをたくさんやらかしていたらしい。
「作品作りのために、執拗に素材収集に明け暮れていたのが、こっちに来てからそれ以外の生き方も知って。おかげさまで、前よりも美術に対して伸び伸びとした姿勢で接することができるようになった気がするんだよね」
「だったら死神じゃなくて、アイテム開発課のほうが向いてるんじゃないか?」
「私がスカウトされたのって、素材収集の執拗さを買われてなんだよね。それに、死んでこっちに来た場合って、原則死神課に所属じゃん」
「執拗なまでの素材収集って、一体何をしていたんだよ……」
死神ちゃんが呆れ気味に眉根を寄せると、クリスが「知りたい?」と言ってニヤリと笑った。死神ちゃんは何となく背筋に悪寒が走るのを感じて、首を小さく横に振った。
準備が整うと、死神ちゃん達も早速絵を描き始めた。ピエロと天狐が結構騒がしくしていたが、クリスは物凄く集中しているようで周りの声など一切聞こえていないようだった。
お昼になると、死神ちゃんはマッコイが用意してくれたお弁当をポーチから取り出した。みんなで食べられるようにと、マッコイは段重ねの重箱で用意してくれていた。クリスにも声をかけると、ワクワク顔の天狐とピエロが重箱を一心に見つめる中、死神ちゃんは風呂敷包みを解いて重箱の蓋を開けた。そしてその中身を見て、一同は目を真ん丸とさせた。
「ご飯ものが入っていないのじゃ」
「珍しいね、マコ姉がそんなミスをやらかすだなんて」
「おにぎりか何かをこうてきましょうか?」
そう言って権左衛門が立ち上がるのと同時に、遠くから「待って~」という女性の声が聞こえてきた。天狐は耳を激しくピクピクと動かすと、目を爛々と輝かせて勢い良く立ち上がった。
「母上! 母上なのじゃ!」
天狐の言葉に驚いた死神ちゃんが声のするほうに目を向けてみると、彼女の母親が風呂敷に包まれた何かを抱えて小走りに近づいてくるところだった。母親は以前会った時のような十二単ではなく、とてもラフなパンツスタイルに、動きやすいようにと尻尾を完全に隠した姿だった。
フウフウと息をつきながら、母はにこやかな笑みを浮かべて「遅くなってすんまへん」と言った。こちらの風呂敷の中身も段重ねの重箱で、色んな種類のおいなりさんがぎっしりと詰まっていた。
「おお、これはまた、示し合わせたように……」
「ええ、合わせたんどす。天狐ちゃんが今度、みんなと写生大会に参加すると言うとったさかい、マコはんと相談して、手分けして作ることにしたんどす」
「……すっかりママ友だな」
「ママ友と言うよりは、主婦友と言うたほうがしっくりきますねえ」
何故か含みのある言い方をしながら楽しそうに笑う天狐の母に、死神ちゃんは苦笑いを浮かべつつ頬を引きつらせた。
天狐の母は〈そんなに頻繁に顔を合わせていては、娘の修行にならない〉と思い、長期休暇の時に天狐が里帰りして来る以外は会わないようにしていたそうだ。しかし初めてこちらの世界に顔を出した前回、異様なほど喜んだ娘の姿を見て、彼女も嬉しく思い「やっぱり、もっと定期的に親子の時間を過ごしたいな」と思ったのだそうだ。
「今まで通りお勉強をサボッとったら、あたしも心を鬼にして〈会わない生活〉を続けていました。でも、仲のええお友達が出来たことで、怠け気味やったお勉強を頑張るようになったと聞いたさかい。――つまり、小花はんのおかげどす」
天狐の母はコロコロと笑いながら「それに、灰色様に素敵なサロンを紹介してもらいましたし」と付け足した。どうやら彼女は、前回こちらの世界に顔を出した際に訪れたアルデンタスのサロンを甚く気に入ったらしい。
そのような会話を横で死神ちゃんと母がしているのもお構い無く、天狐は口の端にご飯粒をつけたまま目をキラキラとさせて「ふおおおおお」と感嘆の声を上げていた。どうやら久々の〈母の手料理〉に感動しているらしい。そんな天狐の様子に、死神ちゃんは頬を緩めた。
「それにしても、マコはんはマメどすねえ。こんなにたくはんの種類のおかずをいっぱい作って。お仕事もあるでしょうに、朝、何時起きやったんでしょう?」
おかずを口に運び、美味しいと呟き顔を綻ばせながら天狐の母が舌を巻いた。死神ちゃんはその言葉を聞いて思わずハッとした。自分がキッチンに顔を出したときにもマッコイは調理を行っていたが、もうほとんどのおかずができあがっている状態だったのだ。しかも彼は本日、早番勤務だった。――きっと、かなり早い時間に起きて作業してくれていたに違いない。きちんと、何かお返しをしなければ。
ご飯を食べ終えて、死神ちゃん達は再び絵を描く作業に戻った。絵の具まみれになりつつも、母親の隣でにこにこと作業をする天狐を微笑ましく思いながら死神ちゃんも絵の具を混ぜた。
スケッチブックを覗き込んできたピエロが「小花っち、独創的な絵を描くね」と言ってニヤニヤと笑ってきて、死神ちゃんは心なしかムッとした。しかし、そう笑ってきたピエロも随分と独創的な絵を奇抜な配色で描いていた。ちなみに権左衛門はというと、強そうな見た目にはそぐわない可愛らしい絵を可愛らしい色合いで描いていた。
一息ついて筆を置いたクリスが、ピエロの方を向くと口を開いた。
「〈どう捉えるか〉なんて、人それぞれなんだから。みんな違って、みんないいんだよ」
後日、写生大会参加者の描いた絵を一堂に集めた展覧会が催された。元々プロだったというだけあって、クリスは一番良い賞を受賞していた。権左衛門もこっそりと努力賞を獲得していて、照れくさそうに頭を掻いていた。
参加して楽しかった気持ちを胸に抱きながら、死神ちゃんはたくさんの人の様々な〈努力の結晶〉を眺めていた。その隣では天狐が「楽しかったのう」と言って満面の笑みを浮かべていた。死神ちゃんはそれに頷くと、クリスの言っていた「みんな違って、みんないい」という言葉を噛みしめたのだった。
――――苦手なことでも、試しにやってみると意外と楽しい。そして、下手であることを恥じるよりも、精一杯楽しもうとしたほうがずっといい。「みんな違って、みんないい」のだから、周りを気にせず自分なりに一生懸命やりきったもの勝ちだと死神ちゃんは思ったのDEATH。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる