転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活ニ年目 *

第175話 何色?十色!★写生大会

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「へい、そこの小花おはなっち! 迎えに来てやったよ、感謝しな!」


 朝、死神ちゃんがキッチンで作業しているマッコイの横で朝食を兼ねた摘み食いをしていると、キッチンの出入り口のところでピエロが得意気に胸を張って立っていた。死神ちゃんは表情もなく彼女を見つめると、顎を小さくしゃくった。


「ほら、後ろ。邪魔になってるから」


 ピエロが慌てて後ろを振り向くと、そこには住職が立っていた。小さな声で「あっ、すみません」と言いながら慌てて横に飛び退いたピエロをまじまじと見つめると、住職は眉根を寄せて首を傾げた。そしてキッチンに居るマッコイを見やると、住職は逆方向に首を捻った。


「なあ、寮長。こいつの入館記録って、寮長がつけた?」

「えっ? 住職がつけてくれたから、そこにいるんじゃないの?」

「……そうか、分かった」


 住職はため息をつくと、おもむろにピエロの両脇に手を差し入れた。そして彼は、戸惑いの声を上げ続けるピエロを肩に担いだ。


「えっ……ちょっ……小花っち! 小花っち~! 助け……ああああああああ!」


 強制退館のため連行されるピエロの声が廊下に響くのを聞きながら、死神ちゃんはエビフライをもぐもぐと頬張った。



   **********



 本日は天狐の城下町で秋の写生大会が催される日だった。絵心のない死神ちゃんは最初、参加のお誘いを断っていたのだが、心なしかしょんぼりと肩を落とした天狐の姿に負けて参加することを決めた。
 死神ちゃんは大会の会場に向かう道すがら、自分の横を歩く後輩二人を見やった。


「それにしても、お前たちも参加するとはな」

「美的感覚を常に鋭くしておくには、芸術的活動は大事なんだよ!」


 ルンルンとスキップをするピエロの横で、権左衛門がゆったりと尻尾を振った。


「ピエロに誘われたんぜよ。あしにそういうセンスはないやけど、なんちゃー楽しんだもの勝ちだと思おったがで」


 死神ちゃんは権左衛門の前向きな発言に、ほっこりと相好を崩した。一転して不思議そうに首を傾げると、目をしばたかせながら言った。


「そう言えば、クリスも参加するって言ってたよな?」

「何か、こだわりがあるらしいよ。だから、早めに行ってくまなく会場をチェックしたいんだってさ」



   **********



 会場となっている公園の入り口までやってくると、天狐が待ち構えていた。死神ちゃんたちに気がついた彼女は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、そして小走りで近寄ってきた。一見獰猛そうに見えて実は穏やかな性格の権左衛門は近寄ってきた天狐をひょいと持ち上げると、そのまま彼女を肩車した。
 受付を済ませると、四人は早速どこで描こうかと下見を開始した。権左衛門の肩の上できゃっきゃと楽しそうにはしゃぐ天狐が何かを見つけたようで、そちらのほうへと向かってみた。するとそこにはクリスがいて、彼はすでに絵を描き始めていた。

 お絵かきをするのに最低限必要なものしか持っていない死神ちゃんたちとは対照的に、クリスは画板立てにスケッチブックを置いて椅子に腰掛けてと本格的だった。すでにできあがりかけている下絵も立派なもので、彼の背後からそれを覗き見た死神ちゃんは思わず「すごいな」と感嘆の声を上げた。すると、その声に気がついたクリスがきょとんとした顔で振り返ってきた。


「あ、かおるたち、来てたの」

「おう、ついさっきな。――それにしても、お前、すごいな。転生前むかし、何かやっていたのか?」

「あー、うん。私、転生前は美術家だったんだよ」


 苦笑いを浮かべながら、彼は「みんなもここで描けば?」と勧めてくれた。どうせお昼は一緒にお弁当を食べるのだ、だったら同じ場所で描こうということらしい。本格的かつ真面目に取り組んでいる彼の邪魔にならないだろうかと心配に思った死神ちゃんだったが、彼が大丈夫だと請け負うので、そのお言葉に甘えることにした。
 死神ちゃんは権左衛門と手分けして行楽シートを広げながら、小休止を取るクリスと少しばかり話した。どうやら彼は死神ちゃんと同じ〈こちらの世界に転生するにあたって性格矯正を受けたクチ〉だそうで、作品作りにこだわるあまり、猟奇的なことをたくさんやらかしていたらしい。


「作品作りのために、執拗にに明け暮れていたのが、こっちに来てからそれ以外の生き方も知って。おかげさまで、前よりも美術に対して伸び伸びとした姿勢で接することができるようになった気がするんだよね」

「だったら死神じゃなくて、アイテム開発課のほうが向いてるんじゃないか?」

「私がされたのって、の執拗さを買われてなんだよね。それに、死んでこっちに来た場合って、原則死神課に所属じゃん」

「執拗なまでの素材収集って、一体何をしていたんだよ……」


 死神ちゃんが呆れ気味に眉根を寄せると、クリスが「知りたい?」と言ってニヤリと笑った。死神ちゃんは何となく背筋に悪寒が走るのを感じて、首を小さく横に振った。
 準備が整うと、死神ちゃん達も早速絵を描き始めた。ピエロと天狐が結構騒がしくしていたが、クリスは物凄く集中しているようで周りの声など一切聞こえていないようだった。

 お昼になると、死神ちゃんはマッコイが用意してくれたお弁当をポーチから取り出した。みんなで食べられるようにと、マッコイは段重ねの重箱で用意してくれていた。クリスにも声をかけると、ワクワク顔の天狐とピエロが重箱を一心に見つめる中、死神ちゃんは風呂敷包みを解いて重箱の蓋を開けた。そしてその中身を見て、一同は目を真ん丸とさせた。


「ご飯ものが入っていないのじゃ」

「珍しいね、マコ姉がそんなミスをやらかすだなんて」

「おにぎりか何かをこうてきましょうか?」


 そう言って権左衛門が立ち上がるのと同時に、遠くから「待って~」という女性の声が聞こえてきた。天狐は耳を激しくピクピクと動かすと、目を爛々らんらんと輝かせて勢い良く立ち上がった。


「母上! 母上なのじゃ!」


 天狐の言葉に驚いた死神ちゃんが声のするほうに目を向けてみると、彼女の母親が風呂敷に包まれた何かを抱えて小走りに近づいてくるところだった。母親は以前会った時のような十二単ではなく、とてもラフなパンツスタイルに、動きやすいようにと尻尾を完全に隠した姿だった。
 フウフウと息をつきながら、母はにこやかな笑みを浮かべて「遅くなってすんまへん」と言った。こちらの風呂敷の中身も段重ねの重箱で、色んな種類のおいなりさんがぎっしりと詰まっていた。


「おお、これはまた、示し合わせたように……」

「ええ、合わせたんどす。天狐ちゃんが今度、みんなと写生大会に参加すると言うとったさかい、マコはんと相談して、手分けして作ることにしたんどす」

「……すっかりママ友だな」

「ママ友と言うよりは、主婦友と言うたほうがしっくりきますねえ」


 何故か含みのある言い方をしながら楽しそうに笑う天狐の母に、死神ちゃんは苦笑いを浮かべつつ頬を引きつらせた。
 天狐の母は〈そんなに頻繁に顔を合わせていては、娘の修行にならない〉と思い、長期休暇の時に天狐が里帰りして来る以外は会わないようにしていたそうだ。しかし初めてこちらの世界に顔を出した前回、異様なほど喜んだ娘の姿を見て、彼女も嬉しく思い「やっぱり、もっと定期的に親子の時間を過ごしたいな」と思ったのだそうだ。


「今まで通りお勉強をサボッとったら、あたしも心を鬼にして〈会わない生活〉を続けていました。でも、仲のええお友達が出来たことで、怠け気味やったお勉強を頑張るようになったと聞いたさかい。――つまり、小花はんのおかげどす」


 天狐の母はコロコロと笑いながら「それに、灰色様に素敵なサロンを紹介してもらいましたし」と付け足した。どうやら彼女は、前回こちらの世界に顔を出した際に訪れたアルデンタスのサロンをいたく気に入ったらしい。
 そのような会話を横で死神ちゃんと母がしているのもお構い無く、天狐は口の端にご飯粒をつけたまま目をキラキラとさせて「ふおおおおお」と感嘆の声を上げていた。どうやら久々の〈母の手料理〉に感動しているらしい。そんな天狐の様子に、死神ちゃんは頬を緩めた。


「それにしても、マコはんはマメどすねえ。こんなにたくはんの種類のおかずをいっぱい作って。お仕事もあるでしょうに、朝、何時起きやったんでしょう?」


 おかずを口に運び、美味しいと呟き顔を綻ばせながら天狐の母が舌を巻いた。死神ちゃんはその言葉を聞いて思わずハッとした。自分がキッチンに顔を出したときにもマッコイは調理を行っていたが、もうほとんどのおかずができあがっている状態だったのだ。しかも彼は本日、早番勤務だった。――きっと、かなり早い時間に起きて作業してくれていたに違いない。きちんと、何かお返しをしなければ。

 ご飯を食べ終えて、死神ちゃん達は再び絵を描く作業に戻った。絵の具まみれになりつつも、母親の隣でにこにこと作業をする天狐を微笑ましく思いながら死神ちゃんも絵の具を混ぜた。
 スケッチブックを覗き込んできたピエロが「小花っち、独創的な絵を描くね」と言ってニヤニヤと笑ってきて、死神ちゃんは心なしかムッとした。しかし、そう笑ってきたピエロも随分と独創的な絵を奇抜な配色で描いていた。ちなみに権左衛門はというと、強そうな見た目にはそぐわない可愛らしい絵を可愛らしい色合いで描いていた。
 一息ついて筆を置いたクリスが、ピエロの方を向くと口を開いた。


「〈どう捉えるか〉なんて、人それぞれなんだから。みんな違って、みんないいんだよ」




 後日、写生大会参加者の描いた絵を一堂に集めた展覧会が催された。元々プロだったというだけあって、クリスは一番良い賞を受賞していた。権左衛門もこっそりと努力賞を獲得していて、照れくさそうに頭を掻いていた。
 参加して楽しかった気持ちを胸に抱きながら、死神ちゃんはたくさんの人の様々な〈努力の結晶〉を眺めていた。その隣では天狐が「楽しかったのう」と言って満面の笑みを浮かべていた。死神ちゃんはそれに頷くと、クリスの言っていた「みんな違って、みんないい」という言葉を噛みしめたのだった。




 ――――苦手なことでも、試しにやってみると意外と楽しい。そして、下手であることを恥じるよりも、精一杯楽しもうとしたほうがずっといい。「みんな違って、みんないい」のだから、周りを気にせず自分なりに一生懸命やりきったもの勝ちだと死神ちゃんは思ったのDEATH。
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