転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
190 / 362
* 死神生活ニ年目 *

第190話 懇親会という名の②

しおりを挟む
「やあやあ、諸君。半年経ってみて、どうだね? 何かあったら、言いなさい。この先輩が聞いてあげよう。――さあ、今日は私の奢りです。たんと食べなさい」


 得意げに胸を張ってそう言う死神ちゃんに、ピエロが呆れ果てて顔をしかめた。


小花おはなっち、それ、何キャラなんだよ。ちょっとウザいよ」

「うるさいな! たまには先輩風吹かしたって良いだろう!?」

かおるってば、可愛い……」


 火がついたように怒りを露わにした死神ちゃんを、クリスが微笑ましそうに眺めた。そしていまだご立腹中の死神ちゃんを宥めるように、権左衛門が苦笑いを浮かべてメニュー表を差し出したのだった。



   **********



 先日、冒険者とのやり取りで〈新入社員が入社してから半年が経った〉ということを思い出した死神ちゃんは、後輩三人を誘ってアジア料理のお店へとやって来た。個室に通され席に腰掛けてすぐ、死神ちゃんは三人を見渡して先輩らしく振る舞った。しかし逆に呆れられてしまい、死神ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「今さら畏まらのうても、あしは先輩を先輩やと、きちんと思っておるぜよ」

「権左衛門、俺の味方はお前だけだよ……」


 死神ちゃんはしみじみとそう言いながら、権左衛門から差し出されたメニューを受け取った。すると、ピエロとクリスが不服そうに頬を膨らませた。


「ひどいよ、薫。私だって、いつでも薫の味方なのにさ」

「あちしだって、小花っち大好きだよ!」

「す、〈好き〉って言うなら、私のほうが好きだもん!」


 好き好き合戦を始めた彼女達を無視するように、死神ちゃんは店員さんを呼んだ。そんな死神ちゃんにクリスが「ひどい!」と声を上げ、ピエロがおかしそうにケタケタと笑った。

 目の前に並べられた品々の中から、ピエロはむんずとパクチーの入ったボールを手に取った。クリスはぎょっとすると、ピエロに向かって眉根を寄せた。


「それ、サラダとしてじゃなくて、お料理に乗せる用に出されたものだよ。なのに、何でひとりで抱え込むのさ」

「パクチーは美容効果がすごく高くて〈奇跡のハーブ〉って言われてるくらいなんだよ、知らないの?」

「いや、そういうことじゃなくてね」

「いいじゃん、このお店、パクチーフリーなんだからさ!」


 そう言って、ピエロは満面の笑みでパクチーを頬張った。クリスはため息をつくと、店員にパクチーの追加を頼んだ。死神ちゃんと権左衛門はというと、とても楽しそうにおとこの会話に花を咲かせていた。クリスはハッとすると、勢い良くピエロに視線を戻した。


「またあんたに構ってたら乗り遅れちゃったじゃん!」

「別に、気にせず会話に入っていけばいいじゃん! ――あ、小花っち、あちしにも生春巻き分けてちょーだい!」


 ピエロは自分の取り皿を差し出すと、死神ちゃんに生春巻きを取り分けてもらった。それを頬張りながら「海老プリプリだね!」とピエロが嬉しそうに笑うと、死神ちゃんも同じように笑い返した。その様子を見て、クリスは「ずるい!」と叫んだ。


「ずるいってなんだよ、ずるいって」

「私だって、薫に食べ物取り分けてもらってニッコリ笑われたい」

「いや、そんなの、寮ではしょっちゅうしてるだろ」


 死神ちゃんが呆れ顔を浮かべると、クリスが口を尖らせた。困惑して頭を掻く死神ちゃんに、権左衛門が「先輩、モテモテやき」と苦笑した。
 マイペースに生春巻きをもくもくと頬張っていたピエロはゴクリと飲み込むと、「そういえば」と言って笑った。


「小花っちが〈飛行靴を買って仕事の効率化を図ると良い〉ってアドバイスしてくれたじゃん? その通りにしたらさ、とってもいい感じなんだよね!」

「おっ、よかったじゃあないか。俺ら、他のヤツらと比べて体が小さい分、歩幅も狭いから、そういうので補ったほうが仕事しやすいんだよな」


 肯定するようにコクコクとピエロが頷いた。権左衛門も、第二の面々と一緒に〈天狐の体育担当〉をするに当たって死神ちゃんから色々とアドバイスをもらっていたらしく、これが役に立ってありがたかったというようなことを言って礼を述べた。
 死神ちゃんは自分が〈普段から、ちゃんと先輩していた〉ということに胸を撫で下ろしつつ、二人からお礼を述べられてこそばゆい気持ちになった。クリスはひとり愕然とした表情を浮かべると、ボソリと呟くように言った。


「どうして私には薫との〈先輩後輩エピソード〉的なものがないの……?」

「だってクリス、班長マコちんにべったりじゃん」

「マッコイさん、他の班長と比べて教え方が丁寧やかしね」


 ピエロが当然とばかりにそう言うと、権左衛門が同意するように頷きながら付け足した。ケイティーとグレゴリーは結構面倒くさがりなところがあり、細かなことになると「何かあったら、誰かに聞いて」と丸投げしてしまうのだ。対して、マッコイはとても丁寧に、分からないことがあれば理解できるようになるまで付きっきりで教えてくれるタイプだった。
 そのおかげというべきか、そのせいというべきか、ピエロと権左衛門には死神ちゃん以外の先輩とも仕事上の交流があり〈先輩後輩エピソード〉もいくつもあった。しかしながら、マッコイにべったりのクリスは〈先輩後輩エピソード〉よりも〈仲のいい同居人たち〉との思い出ばかりが溜まっていくばかりだった。
 死神ちゃんは「俺もそうだったから気にするな」と言って苦笑いを浮かべた。


「グレゴリーさんもケイティーも軍で隊長してたから、仕事の振り分けが上手いんだろう。面倒くさがりっていうだけじゃなくて。対してマッコイはマンツーマンのエリート養成かつ独立後もずっと一人だったらしいから、手取り足取りが向いているんだろうな」

「ていうか、別にそれはそれでいいじゃん。第三のみんな、第一うちよりもすっごく仲良しさんで、あちし羨ましいよ!」

「あしもそう思うぜよ」


 そうかなあと言いながら首を捻るクリスに、ピエロと権左衛門が「そうだよ」と返しながら頷いた。
 死神ちゃん達は引き続き料理を堪能しつつ、あれこれと会話に花を咲かせた。楽しそうに食事を口に運ぶ後輩三人を眺めながら、死神ちゃんは〈後輩がいるって、いいな〉と思った。殺し屋時代は一匹狼だったし、諜報員時代はチームで動くことがあっても、その中に〈先輩後輩〉といった関係の者はいなかったのだ。だから、死神ちゃんが明確に〈後輩を持つ〉という状況に置かれたのは、今回が初めてなのだ。
 また、自身も第三のみんなにとても気にかけてもらっていることを改めて思い出し、すごくありがたいことだなと思った。そして死神ちゃんは「自分も、この後輩たちをしっかりと気にかけていこう」と心の中で誓ったのだった。




 ――――なお、このあと、可愛い後輩たちを眺めてほっこりとしていたら、その後輩たちに「可愛い」と言われて、死神ちゃんは頬を膨らませてちょっとご立腹になったのDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

処理中です...