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* 死神生活ニ年目 *
第194話 死神ちゃんと酔っ払い
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死神ちゃんが小さな森にやって来てみると、〈担当のパーティー〉と思しき男がすでにでき上がっていた。むせるような酒の匂いが辺りには充満しており、そのただ中で男がぐったりと座り込んでヘラヘラと笑っていた。
死神ちゃんは顔をしかめると、鼻を指で摘んで塞ぎ、嫌々ながら男へと近づいていった。死神ちゃんが男の頬をぺちぺちと叩くと、男は開いているかどうか分からなかった目を薄っすらと開けて、ちらりと死神ちゃんを見た。そして驚愕の顔で目を見開くと、いきなり死神ちゃんに抱きついてきた。
「まさこおおおおおおおお! 帰ってきてくれたのか、まさこおおおおおおお!」
「誰だよ、まさこって! 離せよ、酒くせえ!」
死神ちゃんは抗議の声を上げながら、必死に男を引き剥がそうともがいた。すると正気を少しだけ取り戻した男が顔を歪めて「何だ、このガキは」と吐き捨てた。死神ちゃんは男を睨みつけると、いまだ自分を抱え込んでいる男を押し返しながら声を怒らせた。
「ふざけんな、お前から抱きついてきたくせに! 早く離せよ、まさこに言いつけるぞ!」
「何で嬢ちゃんがうちのかみさんを知っているんだよ! やめてくれ、それだけは勘弁してくれ~!」
男は慌てて死神ちゃんから離れると、滑るように土下座の体勢をとった。死神ちゃんは不機嫌に鼻を鳴らして腕を組むと、地面に額を擦りつけている男を見下ろした。
「何だよ、お前、妻に出て行かれて飲んだくれてでもいたのか。しかしですね、ここは居酒屋じゃあないんですよ。とっとと死んで、出ていってくれませんかね!」
「は? 何で俺が死なにゃあならないんだ」
男が怪訝な顔を浮かべると、死神ちゃんは〈自分は死神である〉という旨を伝えた。すると男はゲラゲラと笑いはじめた。
「嬢ちゃん、冗談がすぎるぜ。死神っていうのは骸骨の姿をしているもんだろう? いくら酔っていたって、そのくらい俺にだって分からあ」
「……何でも良いから。とにかく、どうぞお帰りください」
死神ちゃんが呆れ果ててそう言うと、男はニヤニヤと笑いながら酒瓶を煽った。そして呂律の安定しない状態でのらりくらりと話し始めた。
彼はどうやら街の酒屋さんらしい。日々、お客様に美味しいお酒を楽しんで頂くために、彼自らもいろいろな酒を楽しんできた。――しかし、楽しみすぎてしまったのだそうだ。結果、妻のまさこはただの酔っ払いと成り下がった夫に腹を立て、家を出ていってしまったという。
死神ちゃんはじっとりと男を見つめると、低い声でボソリと言った。
「それで、傷心を紛らわせるためにまた飲んでたら、うっかりダンジョンに足を踏み入れたというわけか」
「いや、違うよ。美味い酒の肴はないかと思って探索に来たんだよ」
彼は使用人が実装されて調理器具や工具が本格的に産出するようになってから、週末冒険者として活動しているらしい。自分でカクテルなどを作って飲むこともあるらしく、そこから〈ふたつ以上の液体を混ぜ合わせて別のものを作る〉という楽しさを覚え、冒険者としての職は錬金術師を選択しているそうだ。そして本日はまだまだ終わらぬ〈美味しいものの季節〉を堪能するべく、酒にぴったりのつまみになりそうなものをダンジョン内で手に入れることはできないものかと思い、やってきたのだという。
「さっき食べたきのこ、あれは格別だった! ――ああ、まずい。また食べたくなってきた。でも、さっき食べすぎて、切り株にちょっと嫌がられたんだよなあ」
「お前、ちっとも反省していないじゃあないか! そりゃあまさこもご立腹だよ!」
死神ちゃんが怒鳴り散らすと、男はポーチにしまい込んであった〈持ち帰り用のきのこ〉を取り出した。呑気にそれを炙り始めた彼を軽蔑の眼差しで死神ちゃんが見つめると、彼は「まあまあ」と言いながら二種類の液体を調合し始め、それを死神ちゃんに差し出してきた。
「ほら、嬢ちゃん。そんな、カリカリすんなよ。まあ一杯やってくれ」
「俺、酒はやらないクチなんだよ。ていうか、見た目的な問題があるらしいので駄目です」
「いいじゃねえかよ、ほら。やらないクチって言いながら、飲めないわけじゃあないんだろう?」
「いや、まあ、飲めはするし嫌いではないが。でも、駄目なもんは駄目なんです」
「つれないこと言うなって。いいから、ほら」
面倒くさそうに断り続けていた死神ちゃんに、男は無理やり液体を押しつけてきた。死神ちゃんが渋々それを受け取ると、男は火に当てていたきのこの串を少し動かした。死神ちゃんは苦い顔を浮かべると、おずおずとカップに口をつけた。そして目を見開くと、一転して眉根を寄せた。
「何だよ、シロップじゃないか!」
「はっはっは、当たり前だろう? いくら酔っ払っていたって、そのくらいの分別は俺にだってあるさあ」
「分別があるなら、まさこに謝れよ」
「――さあて、そろそろ焼けたかなあ?」
死神ちゃんが呆れ眼で男を見つめると、男は気まずそうにきのこへと視線を落とした。
男はきのこを頬張りながら、おもむろに「きのこ以外で気になっている食材がある」と言い出した。死神ちゃんが首を傾げると、彼は瞳を輝かせて言った。
「ここさ、巨大なエビやイカが出るんだろう? あれ、どんな味がするのかなあと思ってよ」
「あれって、食べることってできたかなあ……」
「食べたやつ、いねえのか? じゃあ、俺が一番乗りだ! 早く味を確かめたいなあ。最高の〈酒のつまみ〉にするための調理方法、一応もう候補は出してあるんだよ」
死神ちゃんは適当に相槌を打つと、焼き立てあつあつのきのこにフウフウと息を吹きかけながら〈それらのモンスターはこの階にはいない〉ということをポツリとこぼした。男は口に物が入ったまま「マジか」と呟くと、酒をひと煽りして立ち上がった。焚き火の中に砂を蹴り入れるようにして火を消すと、男は「それ食べ終えたら探しに行こう」と言った。
死神ちゃんがきのこを食べ終えると、彼は海産物を求めて歩き出した。しかし、彼は何故か森の奥を目指して歩いていた。どうやら、まだかなり酔っているらしい。
千鳥足でふらふらと歩いていた男は、毒の沼へと辿り着いた。酔いのせいで正しい判断のできなくなっている男は、毒の沼を見て満足そうに頷いた。
「きっとここにいるに違いねえ」
「いや、どう見ても違いますよね、ここは」
「何言ってるんだ、嬢ちゃん。ある地方では、海老を沼で養殖しているらしいんだ。だからきっと、ここに違いないんだよ」
「それでも毒沼はないだろうよ」
死神ちゃんがため息をつくと、男はムッとして口を尖らせた。そんな男の目の前に、毒沼成分を有した〈蠢くヘドロ〉が現れた。男は短く息をつくと「嬢ちゃんの言う通りだ」と落胆した。
「ウーズが涌くようなところにはいないよな、やっぱり。もうちょい奥の方にある、綺麗な泉にならいるかなあ? ――うわっ、何か汚い水を吐いてきやがった!」
男は不快感を露わにして飛び退くと、ポーチに手をかけた。そしてニヤリと笑うと「錬金術師の戦い方を見せてやる」と言って二種類の薬品を取り出した。死神ちゃんは、今までに出会った錬金術師達のように爆弾でも作成して投げつけるのかと思っていた。しかし彼が混ぜ合わせた薬品を一気に飲み干したので、死神ちゃんは思わず素っ頓狂な声を上げた。
彼は驚きに満ちた死神ちゃんの様子を見て満足気に笑うと、ウーズに向かって息を吐きかけた。すると、ウーズがジュウジュウと音を立てて小さくしぼみだした。死神ちゃんがギョッとして目を見開くと、男が得意気に言った。
「錬金術師はな、攻撃ブレスが吐けるんだよ! まるで、竜人族みたいでカッコイイだろう!?」
「いやいや、それ、ただの酔っ払いブレスじゃなくて!?」
「おうよ。ちなみに、今俺が吐きかけたのは酸のブレスだぜ」
胸を張る男に、死神ちゃんは思わず顔をしかめた。
「酔っ払いが酸を吐くだなんて、嘔吐のしすぎみたいで嫌だなあ……」
あからさまに嫌そうにしている死神ちゃんを見て、男はゲラゲラと楽しそうに笑った。調子に乗った酔っぱらいは「酔拳で勝負だ!」などと宣うと、なんだかよく分からないポーズを決めて奇声を上げた。
「いや、お前、別に僧兵や闘士じゃあないんだから無理するなよ!」
「いいか、よく見てろよ! これぞまさこ直伝! というか、俺がよくまさこから受ける技! ホアチャアアアッ!」
勢い良くウーズに飛びかかっていった酔っぱらいは、そのまま毒の沼へと落ちていった。腕輪が灰化達成を伝えるのを確認すると、死神ちゃんはため息をつきながら姿を消したのだった。
**********
待機室に戻ってみると、ケイティーが小馬鹿にするような目でモニターを眺めていた。
「ああいう酔い方、恥ずかしいよなあ」
「何言ってるんだよ、お前だって似たようなもんだろうが」
ニヤニヤと笑いながらそう言う彼女に、グレゴリーがあっけらかんと返した。ケイティーがやんわりと否定するのを横目で見ながら、死神ちゃんはグレゴリーに〈ケイティーの酔い方〉について尋ねた。すると、グレゴリーは顎の辺りを擦りながら言った。
「何の謂れもないのに〈マッコイのケチ〉を連呼して絡み酒して、その散々ケチ呼ばわりしたマッコイに背負われて帰る。それでもって、玄関を開けてやってエントランスの椅子にこいつを座らせる作業を終えたマッコイが帰ろうとすると、また羽交い締めにして〈マッコイのケチ〉を連呼する。――これ、毎回な」
「……俺、酒を飲む機会があったとしても、お前とだけは絶対に飲みたくないわ」
「何でだよ、小花のケチ!」
ケイティーが文句を垂れるのを聞き流しながら、死神ちゃんは「いやあ、ないわ……」と呟いた。そして再びダンジョンへと出動していったのだった。
――――お酒とは上手に付き合っていきたいものDEATH。
死神ちゃんは顔をしかめると、鼻を指で摘んで塞ぎ、嫌々ながら男へと近づいていった。死神ちゃんが男の頬をぺちぺちと叩くと、男は開いているかどうか分からなかった目を薄っすらと開けて、ちらりと死神ちゃんを見た。そして驚愕の顔で目を見開くと、いきなり死神ちゃんに抱きついてきた。
「まさこおおおおおおおお! 帰ってきてくれたのか、まさこおおおおおおお!」
「誰だよ、まさこって! 離せよ、酒くせえ!」
死神ちゃんは抗議の声を上げながら、必死に男を引き剥がそうともがいた。すると正気を少しだけ取り戻した男が顔を歪めて「何だ、このガキは」と吐き捨てた。死神ちゃんは男を睨みつけると、いまだ自分を抱え込んでいる男を押し返しながら声を怒らせた。
「ふざけんな、お前から抱きついてきたくせに! 早く離せよ、まさこに言いつけるぞ!」
「何で嬢ちゃんがうちのかみさんを知っているんだよ! やめてくれ、それだけは勘弁してくれ~!」
男は慌てて死神ちゃんから離れると、滑るように土下座の体勢をとった。死神ちゃんは不機嫌に鼻を鳴らして腕を組むと、地面に額を擦りつけている男を見下ろした。
「何だよ、お前、妻に出て行かれて飲んだくれてでもいたのか。しかしですね、ここは居酒屋じゃあないんですよ。とっとと死んで、出ていってくれませんかね!」
「は? 何で俺が死なにゃあならないんだ」
男が怪訝な顔を浮かべると、死神ちゃんは〈自分は死神である〉という旨を伝えた。すると男はゲラゲラと笑いはじめた。
「嬢ちゃん、冗談がすぎるぜ。死神っていうのは骸骨の姿をしているもんだろう? いくら酔っていたって、そのくらい俺にだって分からあ」
「……何でも良いから。とにかく、どうぞお帰りください」
死神ちゃんが呆れ果ててそう言うと、男はニヤニヤと笑いながら酒瓶を煽った。そして呂律の安定しない状態でのらりくらりと話し始めた。
彼はどうやら街の酒屋さんらしい。日々、お客様に美味しいお酒を楽しんで頂くために、彼自らもいろいろな酒を楽しんできた。――しかし、楽しみすぎてしまったのだそうだ。結果、妻のまさこはただの酔っ払いと成り下がった夫に腹を立て、家を出ていってしまったという。
死神ちゃんはじっとりと男を見つめると、低い声でボソリと言った。
「それで、傷心を紛らわせるためにまた飲んでたら、うっかりダンジョンに足を踏み入れたというわけか」
「いや、違うよ。美味い酒の肴はないかと思って探索に来たんだよ」
彼は使用人が実装されて調理器具や工具が本格的に産出するようになってから、週末冒険者として活動しているらしい。自分でカクテルなどを作って飲むこともあるらしく、そこから〈ふたつ以上の液体を混ぜ合わせて別のものを作る〉という楽しさを覚え、冒険者としての職は錬金術師を選択しているそうだ。そして本日はまだまだ終わらぬ〈美味しいものの季節〉を堪能するべく、酒にぴったりのつまみになりそうなものをダンジョン内で手に入れることはできないものかと思い、やってきたのだという。
「さっき食べたきのこ、あれは格別だった! ――ああ、まずい。また食べたくなってきた。でも、さっき食べすぎて、切り株にちょっと嫌がられたんだよなあ」
「お前、ちっとも反省していないじゃあないか! そりゃあまさこもご立腹だよ!」
死神ちゃんが怒鳴り散らすと、男はポーチにしまい込んであった〈持ち帰り用のきのこ〉を取り出した。呑気にそれを炙り始めた彼を軽蔑の眼差しで死神ちゃんが見つめると、彼は「まあまあ」と言いながら二種類の液体を調合し始め、それを死神ちゃんに差し出してきた。
「ほら、嬢ちゃん。そんな、カリカリすんなよ。まあ一杯やってくれ」
「俺、酒はやらないクチなんだよ。ていうか、見た目的な問題があるらしいので駄目です」
「いいじゃねえかよ、ほら。やらないクチって言いながら、飲めないわけじゃあないんだろう?」
「いや、まあ、飲めはするし嫌いではないが。でも、駄目なもんは駄目なんです」
「つれないこと言うなって。いいから、ほら」
面倒くさそうに断り続けていた死神ちゃんに、男は無理やり液体を押しつけてきた。死神ちゃんが渋々それを受け取ると、男は火に当てていたきのこの串を少し動かした。死神ちゃんは苦い顔を浮かべると、おずおずとカップに口をつけた。そして目を見開くと、一転して眉根を寄せた。
「何だよ、シロップじゃないか!」
「はっはっは、当たり前だろう? いくら酔っ払っていたって、そのくらいの分別は俺にだってあるさあ」
「分別があるなら、まさこに謝れよ」
「――さあて、そろそろ焼けたかなあ?」
死神ちゃんが呆れ眼で男を見つめると、男は気まずそうにきのこへと視線を落とした。
男はきのこを頬張りながら、おもむろに「きのこ以外で気になっている食材がある」と言い出した。死神ちゃんが首を傾げると、彼は瞳を輝かせて言った。
「ここさ、巨大なエビやイカが出るんだろう? あれ、どんな味がするのかなあと思ってよ」
「あれって、食べることってできたかなあ……」
「食べたやつ、いねえのか? じゃあ、俺が一番乗りだ! 早く味を確かめたいなあ。最高の〈酒のつまみ〉にするための調理方法、一応もう候補は出してあるんだよ」
死神ちゃんは適当に相槌を打つと、焼き立てあつあつのきのこにフウフウと息を吹きかけながら〈それらのモンスターはこの階にはいない〉ということをポツリとこぼした。男は口に物が入ったまま「マジか」と呟くと、酒をひと煽りして立ち上がった。焚き火の中に砂を蹴り入れるようにして火を消すと、男は「それ食べ終えたら探しに行こう」と言った。
死神ちゃんがきのこを食べ終えると、彼は海産物を求めて歩き出した。しかし、彼は何故か森の奥を目指して歩いていた。どうやら、まだかなり酔っているらしい。
千鳥足でふらふらと歩いていた男は、毒の沼へと辿り着いた。酔いのせいで正しい判断のできなくなっている男は、毒の沼を見て満足そうに頷いた。
「きっとここにいるに違いねえ」
「いや、どう見ても違いますよね、ここは」
「何言ってるんだ、嬢ちゃん。ある地方では、海老を沼で養殖しているらしいんだ。だからきっと、ここに違いないんだよ」
「それでも毒沼はないだろうよ」
死神ちゃんがため息をつくと、男はムッとして口を尖らせた。そんな男の目の前に、毒沼成分を有した〈蠢くヘドロ〉が現れた。男は短く息をつくと「嬢ちゃんの言う通りだ」と落胆した。
「ウーズが涌くようなところにはいないよな、やっぱり。もうちょい奥の方にある、綺麗な泉にならいるかなあ? ――うわっ、何か汚い水を吐いてきやがった!」
男は不快感を露わにして飛び退くと、ポーチに手をかけた。そしてニヤリと笑うと「錬金術師の戦い方を見せてやる」と言って二種類の薬品を取り出した。死神ちゃんは、今までに出会った錬金術師達のように爆弾でも作成して投げつけるのかと思っていた。しかし彼が混ぜ合わせた薬品を一気に飲み干したので、死神ちゃんは思わず素っ頓狂な声を上げた。
彼は驚きに満ちた死神ちゃんの様子を見て満足気に笑うと、ウーズに向かって息を吐きかけた。すると、ウーズがジュウジュウと音を立てて小さくしぼみだした。死神ちゃんがギョッとして目を見開くと、男が得意気に言った。
「錬金術師はな、攻撃ブレスが吐けるんだよ! まるで、竜人族みたいでカッコイイだろう!?」
「いやいや、それ、ただの酔っ払いブレスじゃなくて!?」
「おうよ。ちなみに、今俺が吐きかけたのは酸のブレスだぜ」
胸を張る男に、死神ちゃんは思わず顔をしかめた。
「酔っ払いが酸を吐くだなんて、嘔吐のしすぎみたいで嫌だなあ……」
あからさまに嫌そうにしている死神ちゃんを見て、男はゲラゲラと楽しそうに笑った。調子に乗った酔っぱらいは「酔拳で勝負だ!」などと宣うと、なんだかよく分からないポーズを決めて奇声を上げた。
「いや、お前、別に僧兵や闘士じゃあないんだから無理するなよ!」
「いいか、よく見てろよ! これぞまさこ直伝! というか、俺がよくまさこから受ける技! ホアチャアアアッ!」
勢い良くウーズに飛びかかっていった酔っぱらいは、そのまま毒の沼へと落ちていった。腕輪が灰化達成を伝えるのを確認すると、死神ちゃんはため息をつきながら姿を消したのだった。
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待機室に戻ってみると、ケイティーが小馬鹿にするような目でモニターを眺めていた。
「ああいう酔い方、恥ずかしいよなあ」
「何言ってるんだよ、お前だって似たようなもんだろうが」
ニヤニヤと笑いながらそう言う彼女に、グレゴリーがあっけらかんと返した。ケイティーがやんわりと否定するのを横目で見ながら、死神ちゃんはグレゴリーに〈ケイティーの酔い方〉について尋ねた。すると、グレゴリーは顎の辺りを擦りながら言った。
「何の謂れもないのに〈マッコイのケチ〉を連呼して絡み酒して、その散々ケチ呼ばわりしたマッコイに背負われて帰る。それでもって、玄関を開けてやってエントランスの椅子にこいつを座らせる作業を終えたマッコイが帰ろうとすると、また羽交い締めにして〈マッコイのケチ〉を連呼する。――これ、毎回な」
「……俺、酒を飲む機会があったとしても、お前とだけは絶対に飲みたくないわ」
「何でだよ、小花のケチ!」
ケイティーが文句を垂れるのを聞き流しながら、死神ちゃんは「いやあ、ないわ……」と呟いた。そして再びダンジョンへと出動していったのだった。
――――お酒とは上手に付き合っていきたいものDEATH。
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