転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
256 / 362
* 死神生活三年目&more *

第256話 死神ちゃんとおしゃべりさん④

しおりを挟む
 死神ちゃんはダンジョン四階に降り立つなり、遠方から近づいてくる声を耳にして辟易とした表情を浮かべた。そして声の主のもとへとは行かずに、向こうからやって来るのをその場で待った。声の主が到着すると、死神ちゃんは彼を見上げてニコリと笑った。


「偉大なる未来の教皇エクレクトス様、お待ちしておりました」

「何ということであろう。私の名はとうとう、ダンジョンの罠たる死神にまで認知されたようだ。つまるところ、私はこのダンジョンの隅々にまでその名を轟かせたということである。このような偉業を成し得た者は、ダンジョンが創造されてから三十余年経つ現在に至るまで、私しかいないのではないだろうか。さすがは将来有望の、教皇までの道を一直線に淀み無くしっかりとした足取りで歩み続けているこの――」

「なあ、そろそろいいかな。俺、とっとと帰りたいから、とりあえずそこの落とし穴にでも落ちて死んでくれよ」


 彼――先日の文化芸術祭を見に来てくれた、アイドル天使と名高いソフィアの叔父である〈おしゃべりさん〉は喜々として捲し立てていたが、死神ちゃんがころりと態度を変えて悪態をつき始めたことに立腹すると、真っさらな紙の上で踊るように動いていた〈魔法の自動筆記羽根ペン〉を乱暴に掴んだ。そして彼は死神ちゃんを睨みつけると、デコピンをお見舞した。


「貴様、何度言えば分かるのだ。空気を読め、空気を!」

「いやだから、お前に合わせて〈それらしい演出〉をするべく、お前がやって来るのをわざわざ待って、お前が好みそうなセリフをわざわざ言ってやったんじゃあないか」

「だったら、最後まで貫き通してくれ! まだ筆記を続けている途中で、素に戻るんじゃあない!」

「注文が多いな。人がせっかく、業務外のサービスをしてやっているっていうのに。ていうか、お前の〈おしゃべり〉は長すぎるんだよ。――まあ、いいや。ほら、早く死んでくれよ。ビジネスはwin-winといこうぜ」


 死神ちゃんが鼻を鳴らすと、おしゃべりさんは顔を真っ赤にして憤慨し、再びペンを紙の上で踊らせた。死神ちゃんはため息をついて肩を落とすと、出し抜けにペンを引ったくって力の限り投げ飛ばした。

 その場が静かになったのは、おしゃべりさんがペンを拾いに行ったほんの一瞬だった。彼はペンを手にするなり〈おしゃべり〉を再開したようで、死神ちゃんのもとへと帰ってきた時には先ほど以上にうるさくなっていた。死神ちゃんは自分の選択が誤っていたことを後悔すると、先ほどよりも深くため息をつきながら頭を抱えてうなだれた。
 おしゃべりさんはペンを拾って戻ってくるなり、そのままどこかへと向かって歩いていった。死神ちゃんはあとをついていきながら、どこへ行くのかと尋ねた。すると彼はペンを掴んでニヤリと笑い、胸を張って得意気に言った。


「私のこの素晴らしい本を、このダンジョンにあると言われている〈暗闇の図書館〉へと寄贈しに行くのだ。もちろん、サイン付きだ。まあ、寄贈せずとも、この偉大なる私の著作はすでに所蔵していることだろうがな。なにせ、あらゆる世界の本が揃っているという噂なのだから」

「それはまた、時間がかかりそうな……。どうせ一日中かかっても見つけられずに、帰ることになるんだろう? だったら一度一階に戻って、俺のことを祓ってくれませんかね。もしくは、そこの火噴き罠で炙られてくれ」

「貴様は本当に、減らず口でふてぶてしいな。残念ながら、暗闇ゾーンに足繁く通い、大体の場所は把握したのだ。――どこぞの一団が私の真似をして本を出し、それをさらに舞台化したのだ。この私の類まれなる一冊を差し置いて! しかし、そんな彼らとて、幻とも言われるダンジョン内図書館にサイン入り本を寄贈などは到底できぬことだろう」

「つまり、悔しかったんだな。それで、少しでも優位にありたいんだな。未来の教皇様のくせに、器が小さいな」

「何とでも言え。すでに王都の図書館にはサイン本を寄贈済みだ。これでダンジョン内の幻の図書館も制覇できたら、パーフェクトなのだ!」


 おしゃべりさんはフンと鼻を鳴らすと、現在書き途中の本と羽根ペンをポーチにしまい込んだ。そして暗闇ゾーンに足を踏み入れると、歩数を数えながら慎重にあるき始めた。
 死神ちゃんは彼が手探りと歩数で順路を丁寧に確認しながら歩いているのもお構いなしに、彼の名前について尋ねた。彼は煩わしそうにしながらも「神に選ばれし者」という意味があると教えてくれた。音の響きだけでも仰々しいというにもかかわらず、意味も御大層なものだったことに死神ちゃんは閉口するとともに〈それは、彼よりもソフィアにこそ相応しいのでは〉と密かに思った。

 しばらくして、おしゃべりさんは「む?」と声を上げると、手にしていた杖をしげしげと眺め、その後壁にべったりと張り付いた。どうしたのかと死神ちゃんが尋ねると、彼は声を潜めて言った。


「この辺りからが、未調査の場所だったのだ。他のところは何度も、念入りに調べ尽くしたからな。だから、図書館への扉があるのであれば、この辺だろうとアタリをつけていたのだ。――うむ、他の壁とは、音の響きが違う気がするぞ」

「盗賊でもないのに、壁を触りながら歩いているだけで、よく分かったな」

「当たり前だろう。私は〈選ばれし者〉なのだから。隠された仕掛けや罠を発見するための魔法くらい、朝飯前なのだ」


 そう言って、彼は手にしていた杖を見せつけるように前方へと掲げた。杖に嵌め込まれた水晶の部分が仄かながらもチカチカと光っており、どうやらそれが〈仕掛けや罠の発見の合図〉のようだった。
 死神ちゃんが感心するように唸り声を上げると、彼は何やら呪文を唱えた。そしてさらに、死神ちゃんは目を丸くして驚嘆した。


「おおお! すごいな、扉が開いた! 発見するのも開けるのも、至難の業で盗賊業のヤツらですらお手上げらしいっていうのに!」

「ふふふ、もっと驚け。そして褒め称えるがいい。さあ、リピートアフターミー。〈エクレクトス様素敵〉〈エクレクトス様さすが〉〈エクレクトス様惚れちゃう〉」


 ゴゴゴという地響きのような音に混じって、何やら妄言が聞こえたことに死神ちゃんは顔をしかめた。扉から漏れ出る光の眩しさに目を細めていたおしゃべりさんは、明るさに目が慣れてきた途端に〈死神ちゃんの、苦々しげに歪められたひどい面構え〉が目に入り腹を立てた。


「何だ、貴様! その顔は! 当たり前のことを言って、何が悪いんだ!」

「いや、お前のその妄想力とナルシスト加減は、たしかに神レベルだなと思って」

「なにおう!? 貴様は本当に――」

「あの、図書館ではお静かにお願い致します」


 おしゃべりさんは死神ちゃんに掴みかかり、顔を寄せて声を荒らげた。すると、その横にはいつの間にか図書館の司書さんがやって来ていて、彼は司書さんにお叱りを受けた。
 おしゃべりさんは掴んでいた死神ちゃんの胸元からパッと手を放すと、司書さんにヘコヘコと頭を下げて平謝りした。そして図書館の利用方法を教えてもらうと、さっそく自分の本が蔵書しているか確認をした。


「な、んだ、と……。所蔵されていないだと……?」


 悲しい結果に、おしゃべりさんはガクリと膝をついた。そしてすぐさま立ち上がると、彼は受付の司書さんに詰め寄った。


「どうして所蔵していないのだ」

「利用者様からリクエストを頂いても、毎月の選定会で吟味してから購入の是非を決めますので」

「ここは〈あらゆる世界の、ありとあらゆる本を蔵書する図書館〉なのだろう?」

「その通りなのですが、だからといって全く需要のないものを抱えておくほどの余裕はないといいますか」

「私の素晴らしい本が、需要がないとでもいうのか!? そんなことは無いはずだ。ここに一冊持ってきているから、是非これを収蔵してくれ。きっと、追加で何十冊も購入することになること、間違いなしだ!」


 顔を青ざめさせガクガクと震えながら、おしゃべりさんは司書さんに訴えた。司書さんが困惑して戸惑っていると、館内にいた利用者が何の騒ぎかと集まってきた。集まってきた彼らは騒動の渦中に死神ちゃんがいることに気がつくと、頬を上気させて近づいてきた。


「わあ、かおるちゃんだ! 握手してください!」

「悪い。今、勤務中なんだ。また今度にしてくれるかな」

「いいじゃないですか! 俺も握手して欲しいです! いつも見ています!」

「ありがとう、嬉しいよ。でも、今、勤務中で――」

「私は、サインもお願いしていいですか!?」

「だから、あの、勤務中――」


 たくさんのファンに囲まれて困ったように苦笑いを浮かべる死神ちゃんを、おしゃべりさんはじっとりとした目で見つめた。そして「どうして、私よりも人気があるのだ」と呟くと、彼はサラサラと灰になった。どうやら、精神的ダメージが大きかったらしい。


「もう、床を灰だらけにして。困った利用者さんですこと。それから、皆さん、ここは図書館ですし、薫ちゃんは勤務中なんですから。どうぞ、お静かに!」


 箒をせかせかと動かしながら、司書さんがぷりぷりと目くじらを立てた。野次馬たちはしょんぼりと肩を落とすと、死神ちゃんに手短に挨拶をしてから名残惜しそうに去っていった。死神ちゃんも司書さんに感謝と謝罪を述べると、社員用の出入り口から帰っていった。

 後日、死神ちゃんは図書館ではなく百貨店にて〈偉大なる未来の教皇エクレクトスの華麗なる冒険〉が大量に平積みされているのを目撃した。何でも、図書館に置き去りにされたサイン本を確認してみたところ、死神ちゃんとの遭遇についてもしっかりと書かれていたことが判明し、その〈死神ちゃんが出ている〉という一点で人気が爆発したらしい。奇しくも彼の言う通り〈何十冊も購入することになること、間違いなし〉となったことに、死神ちゃんは苦笑いを浮かべたという。




 ――――どんなきっかけでブレイクするかは本人にも分からないし、それが本人の望む形であるとも限らない。〈売れる〉というのは、難しいことなのDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...