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* 死神生活三年目&more *
第276話 死神ちゃんと地元の若者達②
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朝、死神ちゃんが待機室に顔を出すなり、グレゴリーが嬉しそうに口の端を持ち上げた。死神ちゃんが朝の挨拶をすると、彼は返事の代わりに「ビュッフェ一回分!」と返してきた。思わず、死神ちゃんは顔をしかめた。
「何ですか、人の出勤早々から。何か面倒事ですか?」
「さすが小花、よく分かってるじゃあねえか。実はな、昨日の中番と遅番のヤツらが計五名、まだ帰ってきてないんだわ」
「遅番はともかく、中番もですか?」
「で、その五人は全員同じパーティの冒険者にとり憑いてるんだよ。だからお前、六人目として馳せ参じて、パーティーを解散させてきてくれ」
死神ちゃんは、無茶ぶりをされたことに口をあんぐりとさせた。しかし、すぐさま諦めのため息をつくと「行ってきます」と言ってダンジョンへと降りていった。
ダンジョンに現れてすぐ地図を確認してみると、そこは二階の奥地だった。地図を見ている最中に、ターゲットの座標が送られてきた。現在地からそこまで離れていない距離だった。
すぐさま地上に戻れるだろうに、どうして死神罠が五回も発動するほど長時間も、この冒険者達はダンジョンに居続けているのだろうか。もしや、冒険者に対して簒奪行為を行っている者のように、犯罪行為を堂々と行えるダンジョンの中にわざわざ居を構えに来たのだろうか。――そんなことを考えながら目的地に向かった死神ちゃんは、冒険者たちの姿を見て頭を抱えた。何故なら、彼らに見覚えがあったのだ。
「お前ら、去年の〈肝試し〉で懲りたんじゃあなかったのかよ」
「あっ、死神幼女!」
「そういうお前は、俺に恐れおののいて失禁した――」
「シーッ! 新入生もいるんだから、そんな黒歴史、紐解かないで!」
黒歴史持ちの彼は勢いよく立ち上がると、手探りで死神ちゃんに詰め寄った。そして、死神ちゃんの口を慌てて塞いだ。彼は〈最後の非・死神憑き〉だったようで、彼が死神ちゃんに触れた途端にステータス妖精さんが飛び出した。そして、新入生と思しき者たちが彼のことを軽蔑するような目で見ていた。
「えっ、先輩、失禁したんですか」
「ていうか、幼女に襲いかかるだなんて、そんな趣味あったんだ……」
「違うって! さっきも言ったけど、この子、死神だから! だから、そんな目で見るんじゃあないよ!」
彼がギャアギャアと捲し立てると、後輩たちはげっそりと頬をこけさせて深いため息をついた。そして「ないわー」と呟きながら、小さく首を振った。
去年の夏、死神ちゃんは〈本当にあった、ダンジョン怪談話〉のいくつかの怪談ネタの原因として、ダンジョン内だけでなく街中でも話題を提供した。彼らは、その怪談に食いついて肝試しのためにやって来た地元の若者であった。彼らは〈街のご婦人たちが買い物ついでに日用品漁りに行くような場所なのだから、どうせチョロいんだろう〉とダンジョンを舐めてかかっていたのだが、死神ちゃんに追いかけられたことでその心も折られたはずだった。どうして懲りずにまた来たのかと死神ちゃんが尋ねると、去年も来たメンバーの一人が口を尖らせた。
「たしかに、俺らはバーゲン会場のおばちゃんたちには勝てないよ。母ちゃんにだっていまだに太刀打ちできないし、彼女にだって尻に敷かれてるよ」
彼の言葉を食うように、仲間の一人が「えっ、お前彼女できたの!?」と言い出し、それを皮切りに仲間内で悲喜交交が語られようとした。死神ちゃんが苛立ちを全面に押し出して咳払いをすると、先ほどの彼は慌てて続きを話しだした。
「だから、せっかく冒険者登録もしたことだし、少しでも強くなりたいなと思って。それで俺ら、ちょくちょくダンジョンに来ていたんだ。でも、手際が悪いから探索が長時間に渡ることがあってさ、死神罠がいくつも発生する事態に陥ったことが何度かあって。――その時に気づいたんだ。パーティー内の死神憑きの人数が増えると、視界が血で濡れたように赤く染まっていくって!」
「それ、たんに疲れて目が充血してきてるんじゃあないのか?」
「違うったら! だって、気分もどんどん滅入ってくるんだよ!?」
「それも、疲れてるだけだろ」
「だから、違うって! ほら、新入りたちを見てみてよ! あんなに打ちひしがれて、膝を抱えてさ!」
ハンと鼻を鳴らす死神ちゃんに、彼は新入りを指し示した。新入りたちはたしかにどんよりとした雰囲気をまtもって俯き何やら呟いていたが、よくよく耳を澄まして聞いてみると、それは〈こんな先輩たちについていって大丈夫なんだろうか〉というような内容だった。死神ちゃんは去年も来ていた面々をじっとりとした目で見渡すと、再びふてぶてしく鼻を鳴らした。
とりあえず、彼らの言い分をまとめると〈死神が増えれば増えるほど視界が赤く染まり、気も滅入ってくるので、何もせずひたすらモンスターの脅威に怯えながら座っているのが一番の肝試しになるのではないかと思い、実行した〉ということらしい。死神ちゃんは呆れながらも、せっかくだからさらにその気分を盛り上げるために何か話でもしてやろうと言い、一方的に話し始めた。
「では、俺のとっておきをひとつ。――このダンジョンには、様々な冒険者がやって来る。彼らを相手するモンスターも数多いる。それだけ多くの〈何か〉が存在する場所だからな、奇っ怪なモノも随分と集まってくるんだよ。……俺が以前出会ったそいつは、一応冒険者らしいんだ。でも、あるとき、どんなに光を灯しても明るくなることはない完全なる暗闇の中、眼光を光らせて俺を凝視していたんだ。完全な闇の中で、絶対に見えていないであろうに。ダンジョンの罠である俺ですら姿が確認できないそいつは、ひたひたと音を立てて近づいてきて、俺がようやくそいつを目視できるようになるっていうスレスレでフッと消えるんだ。そして、ねっとりとした視線で見られている感覚だけが、その場に残されるんだ」
「えええ、嫌だな。そいつ、本当に冒険者なの?」
「残念ながら、冒険者らしい。――ダンジョン内を彷徨く死神が、どの冒険者をターゲットにしているかなんて、お前らには分からないだろう? しかし、そいつには分かるらしい。あるときなんかは、俺の先回りをして、俺の獲物を殺して回っていたよ。今もきっと、そいつはこちらに向かってきているかもしれない。――ほら、ひたひたという足音が、聞こえてくる気がしないか?」
若者たちは顔を青ざめさせると、ヒッと小さく悲鳴を上げた。何故なら、本当に不穏な足音がひたひたと聞こえてきたからだ。死神ちゃんはちらりと腕輪を見て、頬を引きつらせた。しかし、その場から逃げることなく話を続けた。
「お前らの状況に置き換えて想像してみてくれよ。〈どうやらこのモンスターからは、このアイテムが入手できるらしい〉という情報を頼りに、特定のモンスターを狩って回っているとするよ? お前らがようやく見つけたそのモンスターがさ、目の前で殺されるんだよ。でも、周りには他の冒険者の姿はない。そんなことが、何度も起きるんだよ。ただあるのは、自分を見つめる〈ねっとりとした視線〉だけ。そして時おり聞こえる、気味の悪い笑い声」
そう言って死神ちゃんが一旦口をつぐむと、どこからともなく地鳴りのようなくぐもった笑い声が聞こえてきた。若者たちは彼らが先ほど言っていた通りに視界が赤く霞んではっきりしていないようで、必死に手を伸ばして仲間の位置を確認し出した。そして手に届く範囲に仲間がいる者は寄り添いあい、見つけられなかったものは這いつくばるようにしながら必死に仲間を求めた。すると、仲間を探し続けていた者が悲鳴を上げた。
「ああああ、今、何かに触られた! 何だか、ぬるっとしてた! 気持ちが悪い!」
「えっ、何、モンスターに見つかったの!?」
「いや、そうじゃな――」
ごとり、と音を立てて、一人の首が飛び灰になった。首を落とされた者のすぐ側にいた若者は返り血を浴び、その臭いと感触で〈仲間が一人死んだのだ〉ということを理解した。彼が絶叫すると、若者たちはパニックに襲われた。涙で顔を濡らしながら震える手で武器を構える彼らを無視して、犯人がぬったりとした声で言った。
「まさかボクの話題を出してくれるだなんて、ボクはやっぱり愛されているんだね~」
耳を塞ぎたくなるような悪寒のする声に、若者たちは泣き叫んだ。気持ちが悪いと叫んだ者が首を落とされ、それを何となく察知した若者たちは一層の混乱を来した。
「もうやだ、お家に帰りたい!」
「肝試しなんて懲り懲りだ!」
「そう思うんだったら、力の限り走って逃げろ! ほら、特に俺にとり憑かれてるお前! お前が一番狙われやすいぞ!」
「嘘だろ、勘弁してくれよ! いやだあああああ!」
阿鼻叫喚を繰り返しながら、若者達は一生懸命走った。しかし、視界がはっきりしないため、ヤツに殺されたり罠にハマったりしながら一人ずつ消えていった。死神ちゃんがとり憑いていた黒歴史持ちの彼はというと、三階へと続く階段のほうに行ってしまい、階段から足を滑らせて最期を迎えた。死神ちゃんは〈灰化達成〉を確認するのとほぼ同時に、壁の中に勢いよく飛び込んでヤツから逃げたのだった。
**********
「まさか、本人が来るとは思わなかった」
待機室に戻ってくるなり、死神ちゃんはぺたりと座り込んでげっそりと俯いた。もう二度と会わないだろうと思っていたストーカーに遭遇してしまったからである。死神ちゃんは同僚たちから〈今回の冒険者撃退方法は、さすがにえげつない気がする〉と顰蹙を買ったが、死神ちゃんは涙目でそれに抗議した。
「だから、俺だって本人が来るとは思わなかったんだよ! こんなことなら、他の話をチョイスすればよかったよ! ていうか、死神姿でも話せたらいいのにな。そしたら、俺が出動する必要もなかっただろうよ」
「何でだよ?」
「お前が声明を唱えたら一発KOだろ、あの手のビビリは」
死神ちゃんは、残業を強いられた五名のうちの一人――住職を表情もなく見上げた。住職は不服そうに顔をしかめると「声明はそういうモノじゃあない」と口を尖らせた。すると、周りにいた全員が静かに首を横に振った。
「視界もはっきりしない中、低い声で淡々と聞こえてくる声明は、明らかに怖いわ」
「神聖な呪言なんでしょうけど、そういうの関係なく昇天できそうだよね」
「お前ら、ひどいな! 今ここで歌ってやろうか!」
「やめろよ、全員医務室送りになるだろうが!」
住職はなおも文句がおありのようだったが、他の残業者に羽交い締めにされ、ずるずると引きずられながら待機室をあとにした。後日、死神ちゃんのアイデアは採用され、死神が二名憑くとそこはかとなく声明――もちろん、死神やモンスターにダメージがいかないよう、冒険者たいtの脳内に直接語りかけるように設定された――が聞こえるようになり、死神が増えるごとにその音量が上がるという演出が追加されたという。
――――死神ちゃんも、怪談話はもう懲り懲りのようDEATH。
「何ですか、人の出勤早々から。何か面倒事ですか?」
「さすが小花、よく分かってるじゃあねえか。実はな、昨日の中番と遅番のヤツらが計五名、まだ帰ってきてないんだわ」
「遅番はともかく、中番もですか?」
「で、その五人は全員同じパーティの冒険者にとり憑いてるんだよ。だからお前、六人目として馳せ参じて、パーティーを解散させてきてくれ」
死神ちゃんは、無茶ぶりをされたことに口をあんぐりとさせた。しかし、すぐさま諦めのため息をつくと「行ってきます」と言ってダンジョンへと降りていった。
ダンジョンに現れてすぐ地図を確認してみると、そこは二階の奥地だった。地図を見ている最中に、ターゲットの座標が送られてきた。現在地からそこまで離れていない距離だった。
すぐさま地上に戻れるだろうに、どうして死神罠が五回も発動するほど長時間も、この冒険者達はダンジョンに居続けているのだろうか。もしや、冒険者に対して簒奪行為を行っている者のように、犯罪行為を堂々と行えるダンジョンの中にわざわざ居を構えに来たのだろうか。――そんなことを考えながら目的地に向かった死神ちゃんは、冒険者たちの姿を見て頭を抱えた。何故なら、彼らに見覚えがあったのだ。
「お前ら、去年の〈肝試し〉で懲りたんじゃあなかったのかよ」
「あっ、死神幼女!」
「そういうお前は、俺に恐れおののいて失禁した――」
「シーッ! 新入生もいるんだから、そんな黒歴史、紐解かないで!」
黒歴史持ちの彼は勢いよく立ち上がると、手探りで死神ちゃんに詰め寄った。そして、死神ちゃんの口を慌てて塞いだ。彼は〈最後の非・死神憑き〉だったようで、彼が死神ちゃんに触れた途端にステータス妖精さんが飛び出した。そして、新入生と思しき者たちが彼のことを軽蔑するような目で見ていた。
「えっ、先輩、失禁したんですか」
「ていうか、幼女に襲いかかるだなんて、そんな趣味あったんだ……」
「違うって! さっきも言ったけど、この子、死神だから! だから、そんな目で見るんじゃあないよ!」
彼がギャアギャアと捲し立てると、後輩たちはげっそりと頬をこけさせて深いため息をついた。そして「ないわー」と呟きながら、小さく首を振った。
去年の夏、死神ちゃんは〈本当にあった、ダンジョン怪談話〉のいくつかの怪談ネタの原因として、ダンジョン内だけでなく街中でも話題を提供した。彼らは、その怪談に食いついて肝試しのためにやって来た地元の若者であった。彼らは〈街のご婦人たちが買い物ついでに日用品漁りに行くような場所なのだから、どうせチョロいんだろう〉とダンジョンを舐めてかかっていたのだが、死神ちゃんに追いかけられたことでその心も折られたはずだった。どうして懲りずにまた来たのかと死神ちゃんが尋ねると、去年も来たメンバーの一人が口を尖らせた。
「たしかに、俺らはバーゲン会場のおばちゃんたちには勝てないよ。母ちゃんにだっていまだに太刀打ちできないし、彼女にだって尻に敷かれてるよ」
彼の言葉を食うように、仲間の一人が「えっ、お前彼女できたの!?」と言い出し、それを皮切りに仲間内で悲喜交交が語られようとした。死神ちゃんが苛立ちを全面に押し出して咳払いをすると、先ほどの彼は慌てて続きを話しだした。
「だから、せっかく冒険者登録もしたことだし、少しでも強くなりたいなと思って。それで俺ら、ちょくちょくダンジョンに来ていたんだ。でも、手際が悪いから探索が長時間に渡ることがあってさ、死神罠がいくつも発生する事態に陥ったことが何度かあって。――その時に気づいたんだ。パーティー内の死神憑きの人数が増えると、視界が血で濡れたように赤く染まっていくって!」
「それ、たんに疲れて目が充血してきてるんじゃあないのか?」
「違うったら! だって、気分もどんどん滅入ってくるんだよ!?」
「それも、疲れてるだけだろ」
「だから、違うって! ほら、新入りたちを見てみてよ! あんなに打ちひしがれて、膝を抱えてさ!」
ハンと鼻を鳴らす死神ちゃんに、彼は新入りを指し示した。新入りたちはたしかにどんよりとした雰囲気をまtもって俯き何やら呟いていたが、よくよく耳を澄まして聞いてみると、それは〈こんな先輩たちについていって大丈夫なんだろうか〉というような内容だった。死神ちゃんは去年も来ていた面々をじっとりとした目で見渡すと、再びふてぶてしく鼻を鳴らした。
とりあえず、彼らの言い分をまとめると〈死神が増えれば増えるほど視界が赤く染まり、気も滅入ってくるので、何もせずひたすらモンスターの脅威に怯えながら座っているのが一番の肝試しになるのではないかと思い、実行した〉ということらしい。死神ちゃんは呆れながらも、せっかくだからさらにその気分を盛り上げるために何か話でもしてやろうと言い、一方的に話し始めた。
「では、俺のとっておきをひとつ。――このダンジョンには、様々な冒険者がやって来る。彼らを相手するモンスターも数多いる。それだけ多くの〈何か〉が存在する場所だからな、奇っ怪なモノも随分と集まってくるんだよ。……俺が以前出会ったそいつは、一応冒険者らしいんだ。でも、あるとき、どんなに光を灯しても明るくなることはない完全なる暗闇の中、眼光を光らせて俺を凝視していたんだ。完全な闇の中で、絶対に見えていないであろうに。ダンジョンの罠である俺ですら姿が確認できないそいつは、ひたひたと音を立てて近づいてきて、俺がようやくそいつを目視できるようになるっていうスレスレでフッと消えるんだ。そして、ねっとりとした視線で見られている感覚だけが、その場に残されるんだ」
「えええ、嫌だな。そいつ、本当に冒険者なの?」
「残念ながら、冒険者らしい。――ダンジョン内を彷徨く死神が、どの冒険者をターゲットにしているかなんて、お前らには分からないだろう? しかし、そいつには分かるらしい。あるときなんかは、俺の先回りをして、俺の獲物を殺して回っていたよ。今もきっと、そいつはこちらに向かってきているかもしれない。――ほら、ひたひたという足音が、聞こえてくる気がしないか?」
若者たちは顔を青ざめさせると、ヒッと小さく悲鳴を上げた。何故なら、本当に不穏な足音がひたひたと聞こえてきたからだ。死神ちゃんはちらりと腕輪を見て、頬を引きつらせた。しかし、その場から逃げることなく話を続けた。
「お前らの状況に置き換えて想像してみてくれよ。〈どうやらこのモンスターからは、このアイテムが入手できるらしい〉という情報を頼りに、特定のモンスターを狩って回っているとするよ? お前らがようやく見つけたそのモンスターがさ、目の前で殺されるんだよ。でも、周りには他の冒険者の姿はない。そんなことが、何度も起きるんだよ。ただあるのは、自分を見つめる〈ねっとりとした視線〉だけ。そして時おり聞こえる、気味の悪い笑い声」
そう言って死神ちゃんが一旦口をつぐむと、どこからともなく地鳴りのようなくぐもった笑い声が聞こえてきた。若者たちは彼らが先ほど言っていた通りに視界が赤く霞んではっきりしていないようで、必死に手を伸ばして仲間の位置を確認し出した。そして手に届く範囲に仲間がいる者は寄り添いあい、見つけられなかったものは這いつくばるようにしながら必死に仲間を求めた。すると、仲間を探し続けていた者が悲鳴を上げた。
「ああああ、今、何かに触られた! 何だか、ぬるっとしてた! 気持ちが悪い!」
「えっ、何、モンスターに見つかったの!?」
「いや、そうじゃな――」
ごとり、と音を立てて、一人の首が飛び灰になった。首を落とされた者のすぐ側にいた若者は返り血を浴び、その臭いと感触で〈仲間が一人死んだのだ〉ということを理解した。彼が絶叫すると、若者たちはパニックに襲われた。涙で顔を濡らしながら震える手で武器を構える彼らを無視して、犯人がぬったりとした声で言った。
「まさかボクの話題を出してくれるだなんて、ボクはやっぱり愛されているんだね~」
耳を塞ぎたくなるような悪寒のする声に、若者たちは泣き叫んだ。気持ちが悪いと叫んだ者が首を落とされ、それを何となく察知した若者たちは一層の混乱を来した。
「もうやだ、お家に帰りたい!」
「肝試しなんて懲り懲りだ!」
「そう思うんだったら、力の限り走って逃げろ! ほら、特に俺にとり憑かれてるお前! お前が一番狙われやすいぞ!」
「嘘だろ、勘弁してくれよ! いやだあああああ!」
阿鼻叫喚を繰り返しながら、若者達は一生懸命走った。しかし、視界がはっきりしないため、ヤツに殺されたり罠にハマったりしながら一人ずつ消えていった。死神ちゃんがとり憑いていた黒歴史持ちの彼はというと、三階へと続く階段のほうに行ってしまい、階段から足を滑らせて最期を迎えた。死神ちゃんは〈灰化達成〉を確認するのとほぼ同時に、壁の中に勢いよく飛び込んでヤツから逃げたのだった。
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「まさか、本人が来るとは思わなかった」
待機室に戻ってくるなり、死神ちゃんはぺたりと座り込んでげっそりと俯いた。もう二度と会わないだろうと思っていたストーカーに遭遇してしまったからである。死神ちゃんは同僚たちから〈今回の冒険者撃退方法は、さすがにえげつない気がする〉と顰蹙を買ったが、死神ちゃんは涙目でそれに抗議した。
「だから、俺だって本人が来るとは思わなかったんだよ! こんなことなら、他の話をチョイスすればよかったよ! ていうか、死神姿でも話せたらいいのにな。そしたら、俺が出動する必要もなかっただろうよ」
「何でだよ?」
「お前が声明を唱えたら一発KOだろ、あの手のビビリは」
死神ちゃんは、残業を強いられた五名のうちの一人――住職を表情もなく見上げた。住職は不服そうに顔をしかめると「声明はそういうモノじゃあない」と口を尖らせた。すると、周りにいた全員が静かに首を横に振った。
「視界もはっきりしない中、低い声で淡々と聞こえてくる声明は、明らかに怖いわ」
「神聖な呪言なんでしょうけど、そういうの関係なく昇天できそうだよね」
「お前ら、ひどいな! 今ここで歌ってやろうか!」
「やめろよ、全員医務室送りになるだろうが!」
住職はなおも文句がおありのようだったが、他の残業者に羽交い締めにされ、ずるずると引きずられながら待機室をあとにした。後日、死神ちゃんのアイデアは採用され、死神が二名憑くとそこはかとなく声明――もちろん、死神やモンスターにダメージがいかないよう、冒険者たいtの脳内に直接語りかけるように設定された――が聞こえるようになり、死神が増えるごとにその音量が上がるという演出が追加されたという。
――――死神ちゃんも、怪談話はもう懲り懲りのようDEATH。
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