転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

文字の大きさ
284 / 362
* 死神生活三年目&more *

第284話 死神ちゃんと金の亡者⑤

しおりを挟む
 死神ちゃんはダンジョンに降り立つと、辺りをキョロキョロと見回した。そして〈担当のパーティーターゲット〉と思しき冒険者がたくさんある泉のうちのひとつを必死に覗き込んでいるのを見つけると、彼の尻を思いっきり蹴った。蹴られた勢いで泉に落ちた彼は、溺れそうになって助けを求めながら必死にもがいた。何とか自力で這い上がってきた彼は、荒く呼吸をしながら息も絶え絶えに言った。


「お前……ホント、ダンジョンから出られるようになれよ……! そしたら、敏腕弁護士雇ってたんまり慰謝料請求してやるからさあ……!」

「そもそも、他の冒険者が同じことをしたって訴えることはできないだろうが。ダンジョンの中は何かと免除されている、無法地帯なんだからさ」

「減らず口がひどすぎて、本当に可愛くないよな、お前! 可愛い幼女のクセしてさあ!」

「こう見えて、俺、死神なんで。――で、水底に金は落ちてたか?」


 死神ちゃんがふてぶてしく鼻を鳴らすと、彼は「落ちてなかったよ!」と叫んで悔しそうに地団駄を踏んだ。
 彼はケチでがめつい〈金の亡者〉で、通称をピカリンという。彼はピカピカと光り輝く金目のものが大好きで、〈如何に労力をかけずに大儲けできるか〉ということばかりを考え、ときには詐欺を働くこともあった。そんな金に汚い彼は、本日も新しいビジネスを思いついてダンジョンにやって来たのだそうだ。


「聞くところによると、水辺地区だか火炎地区だかに、スパリゾートっぽい雰囲気の場所があるらしいんだ。温泉が沸いているそうで、それに浸かると様々な効果が得られるらしい。しかも、その付近に出没するモンスターは踊りを踊ったり歌を歌ったりと楽しげなヤツばかりらしい。――今、巷では夏休みだろう? だから、ちょっとした観光ツアーを組んだら、大儲けできると思ったんだよ」

「お前、馬鹿か? ごく普通の人たちは、観光目的で五階までなんて降りてこられないだろう」

「そんなわけあるか。この前、この街の食堂で昼食をとっていたら、そこの店のおばちゃんが『六階まで観光に行った』とかしゃべってたぞ。巷のおばちゃんが可能なものが、どうして不可能だっていうんだ」

「その人を〈ごく普通の人たち〉にカウントすること自体が間違ってるから!」


 死神ちゃんが素っ頓狂な声でそう言うと、ピカリンは〈解せぬ〉という顔で小さく首をひねった。彼は気を取り直すと、スパリゾートらしきものを目指して右往左往し始めた。探し歩きながら、彼は神妙な面持ちで眉根を寄せてポツリと言った。


「ところで、その温泉付近に出没するモンスターなんだがさあ、踊りはとても素晴らしいらしいんだが、見ていると不幸な気持ちになってくるらしいんだ」

「それって、お前の〈観光ツアー計画〉にとって凄まじく不都合なんじゃあないのか?」

「だよなあ。実際に見てみて、不幸な気持ちになったらどうしようか。――あ、いつぞやのときのように怪しい宗教家のおっさんと一緒に壺と香を売ればいいか! 〈この壺に香を振り入れたら、幸せが戻ってきますよ〉とか言ってさ!」

「どこまでも汚いな。ていうか、それ、まるでデート商法みたいだな」


 死神ちゃんが呆れ顔を浮かべると、ピカリンは得意気に胸を張って笑った。どうやら彼は、今発言した自分の考えがベストアイデアだと感じたらしい。死神ちゃんがため息をつくと、ちょうど火炎地区に差し掛かった。そこからしばらく歩いて、ピカリンはとうとう温泉を発見した。彼は湯上り後に使用するタオルなどを用意し、そしていそいそと装備と解いて服を脱ぐと、勢い良く温泉に飛び込んだ。


「公衆浴場とかでは飛び込みなんてできないからな、すごく得した気分だ!」

「意外とお子様だな。そんなに嬉しいものかよ」

「何言ってるんだよ。想像してみろよ。プライベートビーチに自分一人だけ。視界に映る全ての場所が、自分だけのもの! 自分だけの空間なんだから、何をしたって怒られない! もちろん、開放感たっぷりに真ッパでいたって怒られない! 対して、公衆浴場は周りに気を遣いまくりだからな。――な、絶対に気持ちが良いだろう!?」

「まあ、たしかに」

「いいな、これ! 難攻不落のダンジョンを、あなただけのリゾート地に! 周りはモンスターくらいしかいないから、人目を気にせず好き放題出来ます!」

「人目があっても、真ッ彷徨うろついている冒険者はたまにいるけどな」

「うるさいな、せっかく良いキャッチコピーが浮かんだと思ったのに! ――まあ、いいや。お前も、入れば? 本当に気持ちがいいから」


 死神ちゃんは心底嫌そうな顔を浮かべたが、彼にしつこくせがまれて渋々服を脱いだ。そして彼から離れて湯に浸かった死神ちゃんは、ホウと幸せそうに目尻を下げた。


「あ、本当だ。すごく気持ちがいい」

「だろう? ――あっ、なんか気力と体力が沸いてきた! すごく、気分がいい!」


 そう言いながら、ピカリンは緑と黄色の光に一瞬包まれた。どうやら、体力が回復して気力が満ち溢れる魔法効果がかかったらしい。彼が上機嫌に鼻歌を歌いだすと、モンスターがやって来た。モンスターは温泉に入ってこようとはせず、何やらパフォーマンスをし始めた。
 腰みのを付けたモンスターは、両手にボンボンを持ってフラダンスを踊り始めた。それはさながら南国スパリゾートのようだった。やんやと拍手をしながら、ピカリンは持参していた水筒を煽った。そして楽しそうに声を弾ませて笑いながら、不思議そうに首を傾げた。


「これのどこが、不幸な気持ちになるっていうんだ? もう、僕にはビジネスが成功するビジョンが見えてきて、金の臭いしか感じないんだが! 幸せなこと、このうえないじゃあないか!」


 彼は指笛を鳴らしてモンスターを囃し立てた。気を良くしたモンスターはお辞儀をすると、再び踊り始めた。その様子に、ピカリンの表情は段々と固くなっていき、死神ちゃんも表情を失った。


「なあ、あの腰蓑、微妙に藁が少なくはないか? 何ていうか、その、そのせいでがちらっちら見えるっていうか――」

「女の子が、そんな破廉恥なことを言うんじゃあありません!」


 ピカリンは悲壮感たっぷりに声をひっくり返した。そして、ちらちらと見えるモノを気にすることなくダンスを堪能しようと努めたのだが、モンスターがそれを強調するように踊るためにどうしても無視し続けるということが出来なかった。おかげさまで、そこはかとなく不幸な時間がしばらく続くこととなった。
 次第に、ピカリンの周りに黒いもやが集まってきた。そしてそれは、モンスターが一層激しく踊りだし、リンボーダンスなども披露し始めたころには雲のようにまとまった。モンスターが華麗に踊り終えると、黒い雲から雷のようなものがピカリンめがけて落ちてきた。
 それを受けても特に何も起こらず、ピカリンは訝しげに目をまたたかせた。直後、温泉から出ようとした彼に不幸な出来事が起きた。彼は足を滑らせて、深みに嵌ってしまったのだ。そしてそのまま、彼が浮いてくることはなかった。死神ちゃんはため息をつくと、ピカリンが用意していたタオルを勝手に借りて体を拭いた。そして身支度を整えると、背中を丸めてすごすごと姿を消したのだった。

 なお、後日聞いたところによると、極寒地区にも温泉があるそうだ。そちらはさながら雪国の秘境旅館という雰囲気が楽しめるそうで、しかも幸福に包まれることが出来るという。その噂を聞きつけて、どこぞの残念さんが旅行を計画中だというのは、また別のお話。




 ――――なお、ダンジョン内の温泉は、天狐の城にてビット所長が自ら入って研究に研究を重ねて作られた人工温泉だという。死神ちゃんは「ロボットが入浴して、錆びたりしないのか?」と疑問に思ったそうDEATH。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

処理中です...