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* 死神生活三年目&more *
第303話 死神ちゃんとキックボクサー⑥
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地図を頼りに〈担当のパーティー〉のもとに行ってみると、それと思しき冒険者がひとり、通路の行き止まりのところで壁を背もたれにして座り込んでいた。闘士姿の彼は〈燃え尽きたぜ〉感が満載で、色で例えるならば〈カサカサとした白〉という雰囲気を醸していた。もしや今にも死にそうなのかと思い、死神ちゃんは慌てて彼にタッチした。すると、彼はいきなり身じろいで、死神ちゃんを羽交い締めにした。
「また会えたね、ハニィィィィィィィ!」
「ぎゃあああああああッ!」
熱烈なキスを頬に何度も受けながら、死神ちゃんは絶叫した。すると、正気に戻った男ははたと動きを止め死神ちゃんをつかの間見つめたのち、再び激しく頬ずりしてきた。
「うおおおおおおおおおッ! 筋肉神様ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「やめろッ! 離せッ! 離せっていってるだろう、がッ!」
死神ちゃんは、男と自分の頬の間に無理やり手のひらをねじ込むと、彼のあごを突き上げるように思い切り掌底を食らわせた。彼は仰け反りながら死神ちゃんを解放すると、代わりに自分のあごを抱え込みながら呻いた。しかしながら、その呻き声は心なしか艶を帯びていた。
「お嬢ちゃんさ、どうして俺には冷たいんだよ……」
「ハムやちてきんは、お前みたいにセクハラまがいなことをしては来ないんですー」
死神ちゃんがヘッと鼻を鳴らすと、彼は喜びと悲しみの入り混じった表情を浮かべて情けなく笑った。
彼は恋多きキックボクサーで、ケイティーのレプリカ・女闘士や酒屋の妻・まさこから殴る蹴るの暴行を受けることを最上の喜びとしていた。しかし、彼の強さでは女闘士からの攻撃には耐えられず、〈気持ちよさ〉を感じる前に死んでしまう。そのため、彼は強さを追い求めながら、闘士職モンスターを攻略していくことを目的にダンジョンに来ていた。
そんな彼がどうしてこのような場所でカサカサになっていたかというと、先日、ダンジョンで修行中に休憩をとっていたら、うっかり寝こけてしまったのだそうだ。そのとき、とあるモンスターが夢の中にまで入り込んできたという。いつもは〈追いかける側〉である彼は、自分のことを夢の中まで追いかけてきてくれる女の子がいるなだなんてと感動したそうだ。そして、今すぐにでも死んでもいいと思えるほどのめくるめく快感に満ちた夢から目覚めた彼は、夢を夢で終わらせたくないと思ったのだという。
「というわけで、その子が実は六階に行けば、敵としてではなく普通に会って、話だってできると噂で聞いだんだ。だからそこを目指して進んでいたんだが、さすがに疲れちまって。で、『もしかしたら、寝たらまた会えるかも』と思って、ちょっと仮眠をとってたんだよ。そしたら、愛しのあの子が来てくれたと思ったら筋肉神様だったというわけだ」
「はあ、そう……。ていうか、女闘士のことはもういいのかよ」
「いや、俺は諦めの悪い男だからな。いつかまた振り向かせてみせるさ。ただ、ダメ人間呼ばわりされちまったからな。いろいろとスキルアップして、備えていきたいなと思って」
「じゃあ、何か。その〈愛しのあの子〉とやらは踏み台なのか。お前、真性のダメ人間なんだな」
死神ちゃんが氷のような眼差しで彼を見下すと、彼は必死に純愛であることを主張した。彼は気を取り直すと、デレデレとした笑みを浮かべながら見をくねらせた。
「ちなみに、彼女へのプレゼントも用意したんだ。食べれば相思相愛になれるっていう噂の南瓜があるだろう? それのジャック・オ・ランタンの討伐の証の〈ミニ南瓜〉で作ってもらったプリンなんだ」
死神ちゃんは適当に相槌を返した。そして、ここまで来るのにかなり時間を要したらしいことを考えると、プリンも食べるのには微妙な温度になっていそうな気がして、死神ちゃんは小さくため息をついた。
キックボクサーは立ち上がると、六階を目指して軽い足取りで進んでいった。恋する乙女も顔負けなほど、彼は浮足立ってルンルンだった。途中、モンスターに出くわしたが、彼はルンルンなままの軽やかなステップで素早く蹴りを叩き込んでいた。恋とやらは何かとパワーを与えてくれるというが、彼にもそのご利益を得ているようだった。
無事に六階に到達すると、大量の花の蕾をドレッドヘアーのようにまとめた小人が気だるそうに「網タイツ、ぱっつんぱっつん」と呼び込みをしていた。小人――アスフォデルはキックボクサーに気がつくと、せせこましい笑顔を浮かべて店へと案内した。
「ようこそ、いらっしゃいませ~❤」
「うおおおおおおおッ! 夢の中で出会ったあの子がッ! 今まさに、目の前にッ!」
「いやだ、お兄さん。私のこと、夢にまで見てくれたんですか~?」
キックボクサーを出迎えたのはサキュバスさんだった。彼女は鼻にかかるような〈可愛い女子声〉を作り、キックボクサーの胸板をつんつんと指で突きながら嬉しそうな素振りを見せた。彼は小刻みに何度もうなずくと、さっそく酒とつまみをオーダーしてサキュバスさんを横に侍らせた。
死神ちゃんはバーカウンターのほうに避難すると、ケーキセットを注文した。あっさりとしたチーズケーキをつつき苦めのコーヒーを煽りながら、死神ちゃんは胸焼けがするほどの甘さを撒き散らす赤いソファーを眺めた。
ソファーでは、キックボクサーがだらしなく笑いながら、サキュバスさんにプリンを差し出していた。案の定、プリンは食べごろな冷たさではなくなっていたようで、サキュバスさんは「あとで食べますねー」と言いながらプリンを脇に避けていた。
死神ちゃんを挟み込むように座っていたマンドラゴラのドラ五郎とアスフォデルは、この光景に苦い顔を浮かべるとボソリと呟いた。
「あれ、何の茶番なんですかね……」
しばらくして、サキュバスさんがバーテンのちょび髭にちらりと視線を送った。ちょび髭は科を作って「あらいやだ」と言いながら、いそいそとVIPルームへと向かっていった。どうやら、キックボクサーはサキュバスさんの最大級のご奉仕を受けることにしたようだ。
部屋の準備はできていると言いながら、ちょび髭はキックボクサーとサキュバスさんを部屋に案内した。しかし、十分も経たないうちにサキュバスさんだけがげっそりとした表情で部屋から出てきた。お早いですねと声をかけると、彼女は頬を引きつらせながら目を逸した。
「いや……、あの人、弱すぎるみたいで。あまりの弱さに、うっかり精気吸い尽くしそうになったのよ」
「あいつ、そこそこ強いはずなんだがな……」
「煩悩だらけで、鍛錬を疎かにしているんじゃあないの? 灰になられても片付けが面倒だし、慌てて吸った精気を少し返したわよ。――しかもね、とてもぱっつんぱっつんになってたからちょっと期待してたのに、凄まじく期待はずれだったし。それを補えるほどの〈雰囲気作り〉とかテクとかもなく、いきなりガッツいてきたし。だから、手早く終わらせたんだけど。あれじゃあ、女を満足なんてさせらんないわね。愛のプリンも生ぬるい、あちらのほうも何かと生ぬるいんじゃあ、オシゴトだからといっても萎えるわ」
サキュバスさんの凄まじいまでに辛辣で手厳しいコメントに、死神ちゃんも草たちも苦笑いすら浮かばなかった。彼女がどっかとソファーに腰を下ろしてハンと鼻を鳴らすと、後方から悲しげな声が響いた。
「それはアレか? アレなのか? 俺が物足りない男だっていうのか?」
一同が声のする方に視線を向けると、キックボクサーがVIPルームの扉を開けて愕然とした表情で立ち尽くしていた。死神ちゃんは心なしか同情の眼差しを浮かべて頬を引きつらせると、遠慮がちにポツリと言った。
「とりあえず、その小汚いものをしまってくれませんかね」
「誰が豆鉄砲だって!? どうせ俺は大砲級じゃあねえよ!!」
「誰もそんなこと言っていないだろうが!」
「うおおおおおおッ! 幼女にまで馬鹿にされたああああああッ!」
「だから、誰も馬鹿になんかしていないだろうが! とにかくパンツ履けよ!」
死神ちゃんが面倒くさそうに声を荒らげると、キックボクサーは獲物をぶるんと言わせながら膝をついた。そして、悔しそうに床を叩きながら声を震わせた。
「たしかに、俺はここ最近、鍛錬が足りてないのかもしれねえ。だから、よくミスファイアをやらかすんだ。狙いを定めているはずだってのに、空振り、空振り、空振りさ。そしてまさか、おたのしみの時でさえもミスファイヤするだなんて!」
「いや、そもそも、そんな破廉恥なこと、してはいないんですけれども」
サキュバスさんが真顔で素っ気なく返すと、キックボクサーは声を上げて泣きながら床を激しく叩いた。
たしかに、大人の社交場のメニューにはにゃんにゃんが載っている。しかし、実際には〈魅了魔法をしっかりかけたあと、体魔吸引という技で精気を吸い取る〉という対処で手早く終わらせているそうだ。もちろん、〈本当に、食べちゃってもいいかも♪〉と思った相手の場合は、ちゃっかりそういうことを致して吸っているらしいが。
キックボクサーは勢い良く立ち上がると「いつか大砲打ち鳴らしてやる」と捨て台詞を吐きながら、全裸のまま店を飛び出した。黒い糸で彼と繋がれている死神ちゃんは、引きずられるようにして店をあとにした。しかし、死神ちゃんはすぐさま店に戻ってきた。いろいろな意味で丸腰だというのに、五階の強敵に叶うはずがなかったのだ。
死神ちゃんは小さくため息をつくと、先ほどまで座っていた席に座り直した。そして、食べかけのチーズケーキをもさもさと食べ始めたのだった。
――――戦闘も、食べ物も。恋愛も、あっちのほうも。生ぬるいのは駄目。適切な温度でおたのしみ頂きたいのDEATH。
「また会えたね、ハニィィィィィィィ!」
「ぎゃあああああああッ!」
熱烈なキスを頬に何度も受けながら、死神ちゃんは絶叫した。すると、正気に戻った男ははたと動きを止め死神ちゃんをつかの間見つめたのち、再び激しく頬ずりしてきた。
「うおおおおおおおおおッ! 筋肉神様ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「やめろッ! 離せッ! 離せっていってるだろう、がッ!」
死神ちゃんは、男と自分の頬の間に無理やり手のひらをねじ込むと、彼のあごを突き上げるように思い切り掌底を食らわせた。彼は仰け反りながら死神ちゃんを解放すると、代わりに自分のあごを抱え込みながら呻いた。しかしながら、その呻き声は心なしか艶を帯びていた。
「お嬢ちゃんさ、どうして俺には冷たいんだよ……」
「ハムやちてきんは、お前みたいにセクハラまがいなことをしては来ないんですー」
死神ちゃんがヘッと鼻を鳴らすと、彼は喜びと悲しみの入り混じった表情を浮かべて情けなく笑った。
彼は恋多きキックボクサーで、ケイティーのレプリカ・女闘士や酒屋の妻・まさこから殴る蹴るの暴行を受けることを最上の喜びとしていた。しかし、彼の強さでは女闘士からの攻撃には耐えられず、〈気持ちよさ〉を感じる前に死んでしまう。そのため、彼は強さを追い求めながら、闘士職モンスターを攻略していくことを目的にダンジョンに来ていた。
そんな彼がどうしてこのような場所でカサカサになっていたかというと、先日、ダンジョンで修行中に休憩をとっていたら、うっかり寝こけてしまったのだそうだ。そのとき、とあるモンスターが夢の中にまで入り込んできたという。いつもは〈追いかける側〉である彼は、自分のことを夢の中まで追いかけてきてくれる女の子がいるなだなんてと感動したそうだ。そして、今すぐにでも死んでもいいと思えるほどのめくるめく快感に満ちた夢から目覚めた彼は、夢を夢で終わらせたくないと思ったのだという。
「というわけで、その子が実は六階に行けば、敵としてではなく普通に会って、話だってできると噂で聞いだんだ。だからそこを目指して進んでいたんだが、さすがに疲れちまって。で、『もしかしたら、寝たらまた会えるかも』と思って、ちょっと仮眠をとってたんだよ。そしたら、愛しのあの子が来てくれたと思ったら筋肉神様だったというわけだ」
「はあ、そう……。ていうか、女闘士のことはもういいのかよ」
「いや、俺は諦めの悪い男だからな。いつかまた振り向かせてみせるさ。ただ、ダメ人間呼ばわりされちまったからな。いろいろとスキルアップして、備えていきたいなと思って」
「じゃあ、何か。その〈愛しのあの子〉とやらは踏み台なのか。お前、真性のダメ人間なんだな」
死神ちゃんが氷のような眼差しで彼を見下すと、彼は必死に純愛であることを主張した。彼は気を取り直すと、デレデレとした笑みを浮かべながら見をくねらせた。
「ちなみに、彼女へのプレゼントも用意したんだ。食べれば相思相愛になれるっていう噂の南瓜があるだろう? それのジャック・オ・ランタンの討伐の証の〈ミニ南瓜〉で作ってもらったプリンなんだ」
死神ちゃんは適当に相槌を返した。そして、ここまで来るのにかなり時間を要したらしいことを考えると、プリンも食べるのには微妙な温度になっていそうな気がして、死神ちゃんは小さくため息をついた。
キックボクサーは立ち上がると、六階を目指して軽い足取りで進んでいった。恋する乙女も顔負けなほど、彼は浮足立ってルンルンだった。途中、モンスターに出くわしたが、彼はルンルンなままの軽やかなステップで素早く蹴りを叩き込んでいた。恋とやらは何かとパワーを与えてくれるというが、彼にもそのご利益を得ているようだった。
無事に六階に到達すると、大量の花の蕾をドレッドヘアーのようにまとめた小人が気だるそうに「網タイツ、ぱっつんぱっつん」と呼び込みをしていた。小人――アスフォデルはキックボクサーに気がつくと、せせこましい笑顔を浮かべて店へと案内した。
「ようこそ、いらっしゃいませ~❤」
「うおおおおおおおッ! 夢の中で出会ったあの子がッ! 今まさに、目の前にッ!」
「いやだ、お兄さん。私のこと、夢にまで見てくれたんですか~?」
キックボクサーを出迎えたのはサキュバスさんだった。彼女は鼻にかかるような〈可愛い女子声〉を作り、キックボクサーの胸板をつんつんと指で突きながら嬉しそうな素振りを見せた。彼は小刻みに何度もうなずくと、さっそく酒とつまみをオーダーしてサキュバスさんを横に侍らせた。
死神ちゃんはバーカウンターのほうに避難すると、ケーキセットを注文した。あっさりとしたチーズケーキをつつき苦めのコーヒーを煽りながら、死神ちゃんは胸焼けがするほどの甘さを撒き散らす赤いソファーを眺めた。
ソファーでは、キックボクサーがだらしなく笑いながら、サキュバスさんにプリンを差し出していた。案の定、プリンは食べごろな冷たさではなくなっていたようで、サキュバスさんは「あとで食べますねー」と言いながらプリンを脇に避けていた。
死神ちゃんを挟み込むように座っていたマンドラゴラのドラ五郎とアスフォデルは、この光景に苦い顔を浮かべるとボソリと呟いた。
「あれ、何の茶番なんですかね……」
しばらくして、サキュバスさんがバーテンのちょび髭にちらりと視線を送った。ちょび髭は科を作って「あらいやだ」と言いながら、いそいそとVIPルームへと向かっていった。どうやら、キックボクサーはサキュバスさんの最大級のご奉仕を受けることにしたようだ。
部屋の準備はできていると言いながら、ちょび髭はキックボクサーとサキュバスさんを部屋に案内した。しかし、十分も経たないうちにサキュバスさんだけがげっそりとした表情で部屋から出てきた。お早いですねと声をかけると、彼女は頬を引きつらせながら目を逸した。
「いや……、あの人、弱すぎるみたいで。あまりの弱さに、うっかり精気吸い尽くしそうになったのよ」
「あいつ、そこそこ強いはずなんだがな……」
「煩悩だらけで、鍛錬を疎かにしているんじゃあないの? 灰になられても片付けが面倒だし、慌てて吸った精気を少し返したわよ。――しかもね、とてもぱっつんぱっつんになってたからちょっと期待してたのに、凄まじく期待はずれだったし。それを補えるほどの〈雰囲気作り〉とかテクとかもなく、いきなりガッツいてきたし。だから、手早く終わらせたんだけど。あれじゃあ、女を満足なんてさせらんないわね。愛のプリンも生ぬるい、あちらのほうも何かと生ぬるいんじゃあ、オシゴトだからといっても萎えるわ」
サキュバスさんの凄まじいまでに辛辣で手厳しいコメントに、死神ちゃんも草たちも苦笑いすら浮かばなかった。彼女がどっかとソファーに腰を下ろしてハンと鼻を鳴らすと、後方から悲しげな声が響いた。
「それはアレか? アレなのか? 俺が物足りない男だっていうのか?」
一同が声のする方に視線を向けると、キックボクサーがVIPルームの扉を開けて愕然とした表情で立ち尽くしていた。死神ちゃんは心なしか同情の眼差しを浮かべて頬を引きつらせると、遠慮がちにポツリと言った。
「とりあえず、その小汚いものをしまってくれませんかね」
「誰が豆鉄砲だって!? どうせ俺は大砲級じゃあねえよ!!」
「誰もそんなこと言っていないだろうが!」
「うおおおおおおッ! 幼女にまで馬鹿にされたああああああッ!」
「だから、誰も馬鹿になんかしていないだろうが! とにかくパンツ履けよ!」
死神ちゃんが面倒くさそうに声を荒らげると、キックボクサーは獲物をぶるんと言わせながら膝をついた。そして、悔しそうに床を叩きながら声を震わせた。
「たしかに、俺はここ最近、鍛錬が足りてないのかもしれねえ。だから、よくミスファイアをやらかすんだ。狙いを定めているはずだってのに、空振り、空振り、空振りさ。そしてまさか、おたのしみの時でさえもミスファイヤするだなんて!」
「いや、そもそも、そんな破廉恥なこと、してはいないんですけれども」
サキュバスさんが真顔で素っ気なく返すと、キックボクサーは声を上げて泣きながら床を激しく叩いた。
たしかに、大人の社交場のメニューにはにゃんにゃんが載っている。しかし、実際には〈魅了魔法をしっかりかけたあと、体魔吸引という技で精気を吸い取る〉という対処で手早く終わらせているそうだ。もちろん、〈本当に、食べちゃってもいいかも♪〉と思った相手の場合は、ちゃっかりそういうことを致して吸っているらしいが。
キックボクサーは勢い良く立ち上がると「いつか大砲打ち鳴らしてやる」と捨て台詞を吐きながら、全裸のまま店を飛び出した。黒い糸で彼と繋がれている死神ちゃんは、引きずられるようにして店をあとにした。しかし、死神ちゃんはすぐさま店に戻ってきた。いろいろな意味で丸腰だというのに、五階の強敵に叶うはずがなかったのだ。
死神ちゃんは小さくため息をつくと、先ほどまで座っていた席に座り直した。そして、食べかけのチーズケーキをもさもさと食べ始めたのだった。
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