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* 死神生活三年目&more *
第314話 死神ちゃんとフリマ出店者⑤
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ダンジョンに降り立った死神ちゃんの視界を占拠したのは、なんといちご柄のパンティーに包まれた女性のお尻だった。死神ちゃんは顔をしかめると、思いっきり生の太ともを平手打ちした。すると、尻と突き出して何やら作業中だった冒険者が珍妙な悲鳴を上げた。
「うへゃう!」
「また本物の露出かよ! 本当に破廉恥だな!」
「だから、触って確かめるなんてことをする死神ちゃんのほうが、よっぽど破廉恥だと思うんだがね!?」
不服そうにそう言って立ち上がると、ノームの女性は小指のファッションリングをピンと弾いた。すると、先ほどまで〈腰鎧の下にズボン等履かず、パンティーが覗いている状態〉からきちんとズボンを身に着けている状態へと見た目が変化した。
彼女は、一階のフリマスペースで粗悪品を破廉恥な販売方法で売りさばいている〈フリマ出店者〉である。その売り方は本当に下品でえげつなく、しかしながら男性冒険者にはウケが良いようで、法外な値段をつけているにも関わらず品物は飛ぶように売れるのだとか。品物になりそうなアイテムを探しにやって来る際、うっかり〈商売用〉の格好で彷徨うため彼女は冒険中も破廉恥スタイルでいることが多いのだが、本日も例に漏れずのようだ。
死神ちゃんは口を尖らせて憤る彼女を適当にあしらうと、本日は何を探しているのかと尋ねた。すると、彼女はポーチの中から二つの品を取り出してニコリと笑った。死神ちゃんには、どちらも同じもののように見えた。しかし、そうではないようで、彼女は「どっちが本物でしょう?」と楽しそうに言った。
「悪いんだが、そのアイテムの本物を俺は見たことがないから。だから、どっちが本物かは分からないよ」
「なんだ、残念」
「ていうか、そう聞いてくるってことは、片方は偽物でもう片方は本物なのか。――もしかして、お前、粗悪品のハンドメイドリサイクルから贋作師へと進化したのか?」
どちらの品も同じに見えた死神ちゃんは、きっとこれも彼女のハンドメイドスキルの賜物なのだろうと思い目を瞬かせた。しかし、彼女は苦笑いを浮かべて〈それはない〉と言いたげに手を横に振った。
「いやだなあ。そこまでの腕を持っていたら、さすがにもう普通に道具屋として生きていけるでしょうが。――今ね、空前のパチもんブームが密かに来ているんですよ。だから、パチもん探してアイテム掘りしていたってわけ」
今までも、希少なアイテムの模造品というのは産出があったそうだ。しかし、そもそもの冒険者数が少なかったため、アイテムの産出自体が多くなかったがために真偽を見極めるということも特にはされず、偽物が本物として流通しているということもしばしばだったそうだ。だが、ここ数年で冒険者数はダンジョン創設時と同じかそれ以上となった。そのため、アイテムも数多く産出されるようになり、それによって獲得したアイテムに疑問を持つものが出てくるようになったのだという。
「例えば、何本も同じ剣を入手してたりするとさ、〈なんかこれ、ちょっと違わなくね?〉っていうものが混じってたりすることが出てくるわけさ。他の人の持ち物と比べてみても、何となく違和感があったりね。それで、ある時ある人が品物の性能を細かに調べることができる〈魔法の虫眼鏡〉を使ってみたら、偽物が混じってたっていうことが判明したらしくて」
「それのどこがパチもんブームに繋がるんだよ」
「本物は高くて手に入らないけど、パチもんだったら買えるでしょ?」
「つまり、見栄を張るためか」
「いえす、ざっつらいと!」
死神ちゃんが呆れ気味に鼻を鳴らしてそう言うと、フリマ出店者は満面の笑みで頷いた。しかしながら、中には見栄のためにパチもんを購入する者ばかりではないらしい。
品物を鑑定するには道具屋などでかなりの金を支払うか、魔法の虫眼鏡に頼るほかない。そのため、鑑定などせず未鑑定の状態のままフリマで取引を行う冒険者もいるそうだ。そういう輩は見栄ではなく、パチもんを本物と勘違いして買っていくのだという。本物に比べたら安い値がついているのだから普通は怪しいと思うはずだが、彼らは〈いい買い物をした〉と笑顔でかなりの額をポンと払ってくれるそうだ。
また、パチもんの中には〈実は本物よりも性能が良い〉とか〈本物ほどではないが、そこそこの性能がある。しかしながら粗悪品扱いなので、それほどまでの値はつかない〉というものもあるのだとか。それを知っている通な冒険者は、敢えてパチもんを購入したがるのだという。
「まあ、どちらにせよ、粗悪品がそこそこの高値で売れてくれるわけですよ。もちろん、店先に大量に並べてたら商品価値が下がるし、パチもんだってバレバレだからね。見に来てくれたお客さんの中でも、特に金払いが良さそうな人に『もっと良いものあるけど、見たい?』って声をかけるんだよ。でもそうすると、春を売ってると勘違いして胸をわし掴んでくる輩が少なからずいるから、そういうヤツには喧嘩を売ってやってるんだけどね」
「そんな破廉恥な格好で卑猥な感じで売ってたら、そりゃあ勘違いされるわな」
「ホント、勘弁してったらねえ! パンパンに膨らんでスッキリさせなきゃいけないのは、経験値だけにしろってね!」
ケタケタとおかしそうに笑うフリマ出店者を、死神ちゃんは引き気味の目でじっとりと見つめた。
冒険者の実際の熟練度は、もちろん本人の実力の有無に起因する。しかしながら、冒険者登録の際にギルドから付与される腕輪でも〈冒険者レベル〉というものを管理している。これは戦闘などの経験を魔法により数値換算して産出いるもので〈実際に冒険者本人の力となった〉というものではなく、教会への寄付で買うことも可能だ。この数値を冒険者が目の当たりにすることはできないが、宿に泊まることで更新され、レベルアップもその際にする仕組みとなっている。そして五階にあるマッサージサロンの店主・アルデンタスは、神の手により数値が見えなくとも〈次のレベルに上がるための経験値が貯まりきっている〉ということが分かるらしく、そういう状態にある者に対してよく「パンパンだから、宿に泊まってスッキリさせなさい」と言う。――先ほどのフリマ出店者の発言は、どうやらここに起因しているようだった。それにしても卑猥な物言いだと思うと、死神ちゃんはため息をついた。
フリマ出店者は安全な場所に移動すると、先ほど入手した品々をポーチから出して並べ始めた。そして手を揉みながら「さて」と言ってニンマリと笑った。死神ちゃんは不思議そうに首を傾げると、何をするのかと尋ねた。すると彼女は得意気に胸を張って答えた。
「毎回虫眼鏡を使用したり、道具屋に持ち込んで鑑定してもらってたら大赤字でしょ? だからね、私、鑑定魔法を編み出したっていうおっさんに弟子入りして、その魔法を覚えたんだよ。これなら、かかる費用は私の魔力と、魔力補充用ドリンクだけだからね。とっても安上がり!」
へえ、と相槌を打ちながら、死神ちゃんは頂いたマフィンを頬張った。「そういうおっさんと、たしかに昔遭遇したな」などと思いながら頬杖をつき、もくもくとあごを動かしていると、フリマ出店者が出し抜けにポーチから小さな小瓶を取り出して、それを煽るように飲み干した。
「ういー。魔力、湧いてきたーッ! さ、次、鑑定しましょ」
「なんていうか、社畜臭漂うな……」
「うるさいなあ。飲まなきゃ、やってらんないんですよ。それにね、荷物整理のためには必要なことなんだよ」
フリマ出店者は不服げに口を尖らせると、再び鑑定に勤しんだ。しばらくして、彼女は珍妙な声を上げて首をひねった。
「この刀、なんだかとても不思議な……。でも、素人目に見ても、なーんか〈今一歩〉感が漂うっていうか……」
「とりあえず、鑑定してみろよ」
「ああ、うん。えっと、名称は……なになに? 〈村止〉?」
死神ちゃんは無表情で押し黙ると、数拍遅れて抑揚無く言った。
「たしかに、今一歩足りないな。一歩というよりむしろ、一本……」
「次はこっちの刀なんだけど……。さっきの刀に似ているような気がするけど、でも、かなり不格好だよね。これはパチもんの範疇に入るもんなんだろうか?」
「いいから、鑑定してみろよ」
「うん、ちょっと待ってね。えっと、名称は……うーん、〈木寸正〉?」
死神ちゃんは表情もなく、目をパチパチとさせた。そしてかなり遅れてから口早に言った。
「パチもんって、そういう?」
「これって、やっぱりパチもんなの?」
「模造品というよりも、パロディTシャツみたいな感じだな」
「で、これ、どっちがパチもんなの?」
「何だよ、本物を知らないのか。それじゃあパチもん売りとしてやっていけないだろうが」
「そうはいっても。本物はより一層レアなんだから仕方ないでしょうが。文句言うなら、今すぐそれの本物見せてよ!」
不満を露わにする彼女から視線を逸らすと、死神ちゃんは静かに指を差した。怪訝な表情で指の先に視線を送ったフリマ出店者は「げ」と呻いて一層顔をしかめた。そこには、血塗れの刀を手にしたジャパニーズな見た目の人型モンスターがひっそりと立っていた。
「どうしよう、いかにも強そう……」
「あいつを倒したら、運が良ければ本物が手に入るんじゃあないか?」
「いやいやいや、無理だって。冗談じゃないよ!」
フリマ出店者が死神ちゃんにこそこそと話しかけていると、モンスターは目を血走らせ「マイラレ~ヨ~」と声を上げながら彼女に切りかかってきた。荷物もそのままに、彼女は慌ててその場から逃げた。しかし、必死に逃げる彼女をモンスターは追いかけた。
「ひいい! 何で!? 闇落ちしてモンスター化した系のやつって、一度にこんな複数登場しないはずじゃあないの!? どんどん増えていくんだけど!」
真紅の甲冑に身を包んだ武将の集団は、「マイラレ~ヨ~」と声を揃えながらフリマ出店者を追いかけ回した。
「マイラレ~ヨ~って、どこに参れっていうのー!? ああああああああ!」
その悲鳴を最後に、フリマ出店者は灰と化して霊界に参った。死神ちゃんは小さくため息をつくと、壁の中へと姿を消した。
**********
後日、買い出しのために百貨店にやって来た死神ちゃんは、パーティーグッズ売り場の一角にある〈おもしろTシャツコーナー〉の片隅で佇むアイアンゴーレムを目撃した。胸に〈真理〉を意味する文字が彫り込まれる代わりに〈おもしろTシャツ〉を着ているらしいビット所長のお手伝いゴーレムは、真剣な眼差しでパロディーTシャツを眺めていた。彼(?)の買い物かごにはその他にパチもんやパーティーグッズがごっそりと入れられていた。
「お花、どうしたのじゃ?」
アイアンゴーレムを苦い顔で見つめていると、一緒に買い物に来ていた天狐が声をかけてきた。彼女の手にも、しっかりとパチもんが握られていた。死神ちゃんが頬を引きつらせると、彼女は得意気に笑って言った。
「いいじゃろう!? おもしろかろう!? とても〈はいせんす〉じゃろう!?」
「お、おう……。そうだな……」
死神ちゃんは苦笑いを浮かべて何とか同意しながらも「お子様って、パチもん好きだよな……」と心の中で呟いた。そして、純真無垢なお子様と常に斜め上を突き進み続けるマッドサイエンティストがいるかぎり、このダンジョンにパチもんがあり続けるどころか量産されていくのだろうなと思ったという。
――――ハイセンスな大人は本物を持つ。でも、パチもんを愛したくなる気持ちも、ちょっとばかし分かる気もするのDEATH……?
「うへゃう!」
「また本物の露出かよ! 本当に破廉恥だな!」
「だから、触って確かめるなんてことをする死神ちゃんのほうが、よっぽど破廉恥だと思うんだがね!?」
不服そうにそう言って立ち上がると、ノームの女性は小指のファッションリングをピンと弾いた。すると、先ほどまで〈腰鎧の下にズボン等履かず、パンティーが覗いている状態〉からきちんとズボンを身に着けている状態へと見た目が変化した。
彼女は、一階のフリマスペースで粗悪品を破廉恥な販売方法で売りさばいている〈フリマ出店者〉である。その売り方は本当に下品でえげつなく、しかしながら男性冒険者にはウケが良いようで、法外な値段をつけているにも関わらず品物は飛ぶように売れるのだとか。品物になりそうなアイテムを探しにやって来る際、うっかり〈商売用〉の格好で彷徨うため彼女は冒険中も破廉恥スタイルでいることが多いのだが、本日も例に漏れずのようだ。
死神ちゃんは口を尖らせて憤る彼女を適当にあしらうと、本日は何を探しているのかと尋ねた。すると、彼女はポーチの中から二つの品を取り出してニコリと笑った。死神ちゃんには、どちらも同じもののように見えた。しかし、そうではないようで、彼女は「どっちが本物でしょう?」と楽しそうに言った。
「悪いんだが、そのアイテムの本物を俺は見たことがないから。だから、どっちが本物かは分からないよ」
「なんだ、残念」
「ていうか、そう聞いてくるってことは、片方は偽物でもう片方は本物なのか。――もしかして、お前、粗悪品のハンドメイドリサイクルから贋作師へと進化したのか?」
どちらの品も同じに見えた死神ちゃんは、きっとこれも彼女のハンドメイドスキルの賜物なのだろうと思い目を瞬かせた。しかし、彼女は苦笑いを浮かべて〈それはない〉と言いたげに手を横に振った。
「いやだなあ。そこまでの腕を持っていたら、さすがにもう普通に道具屋として生きていけるでしょうが。――今ね、空前のパチもんブームが密かに来ているんですよ。だから、パチもん探してアイテム掘りしていたってわけ」
今までも、希少なアイテムの模造品というのは産出があったそうだ。しかし、そもそもの冒険者数が少なかったため、アイテムの産出自体が多くなかったがために真偽を見極めるということも特にはされず、偽物が本物として流通しているということもしばしばだったそうだ。だが、ここ数年で冒険者数はダンジョン創設時と同じかそれ以上となった。そのため、アイテムも数多く産出されるようになり、それによって獲得したアイテムに疑問を持つものが出てくるようになったのだという。
「例えば、何本も同じ剣を入手してたりするとさ、〈なんかこれ、ちょっと違わなくね?〉っていうものが混じってたりすることが出てくるわけさ。他の人の持ち物と比べてみても、何となく違和感があったりね。それで、ある時ある人が品物の性能を細かに調べることができる〈魔法の虫眼鏡〉を使ってみたら、偽物が混じってたっていうことが判明したらしくて」
「それのどこがパチもんブームに繋がるんだよ」
「本物は高くて手に入らないけど、パチもんだったら買えるでしょ?」
「つまり、見栄を張るためか」
「いえす、ざっつらいと!」
死神ちゃんが呆れ気味に鼻を鳴らしてそう言うと、フリマ出店者は満面の笑みで頷いた。しかしながら、中には見栄のためにパチもんを購入する者ばかりではないらしい。
品物を鑑定するには道具屋などでかなりの金を支払うか、魔法の虫眼鏡に頼るほかない。そのため、鑑定などせず未鑑定の状態のままフリマで取引を行う冒険者もいるそうだ。そういう輩は見栄ではなく、パチもんを本物と勘違いして買っていくのだという。本物に比べたら安い値がついているのだから普通は怪しいと思うはずだが、彼らは〈いい買い物をした〉と笑顔でかなりの額をポンと払ってくれるそうだ。
また、パチもんの中には〈実は本物よりも性能が良い〉とか〈本物ほどではないが、そこそこの性能がある。しかしながら粗悪品扱いなので、それほどまでの値はつかない〉というものもあるのだとか。それを知っている通な冒険者は、敢えてパチもんを購入したがるのだという。
「まあ、どちらにせよ、粗悪品がそこそこの高値で売れてくれるわけですよ。もちろん、店先に大量に並べてたら商品価値が下がるし、パチもんだってバレバレだからね。見に来てくれたお客さんの中でも、特に金払いが良さそうな人に『もっと良いものあるけど、見たい?』って声をかけるんだよ。でもそうすると、春を売ってると勘違いして胸をわし掴んでくる輩が少なからずいるから、そういうヤツには喧嘩を売ってやってるんだけどね」
「そんな破廉恥な格好で卑猥な感じで売ってたら、そりゃあ勘違いされるわな」
「ホント、勘弁してったらねえ! パンパンに膨らんでスッキリさせなきゃいけないのは、経験値だけにしろってね!」
ケタケタとおかしそうに笑うフリマ出店者を、死神ちゃんは引き気味の目でじっとりと見つめた。
冒険者の実際の熟練度は、もちろん本人の実力の有無に起因する。しかしながら、冒険者登録の際にギルドから付与される腕輪でも〈冒険者レベル〉というものを管理している。これは戦闘などの経験を魔法により数値換算して産出いるもので〈実際に冒険者本人の力となった〉というものではなく、教会への寄付で買うことも可能だ。この数値を冒険者が目の当たりにすることはできないが、宿に泊まることで更新され、レベルアップもその際にする仕組みとなっている。そして五階にあるマッサージサロンの店主・アルデンタスは、神の手により数値が見えなくとも〈次のレベルに上がるための経験値が貯まりきっている〉ということが分かるらしく、そういう状態にある者に対してよく「パンパンだから、宿に泊まってスッキリさせなさい」と言う。――先ほどのフリマ出店者の発言は、どうやらここに起因しているようだった。それにしても卑猥な物言いだと思うと、死神ちゃんはため息をついた。
フリマ出店者は安全な場所に移動すると、先ほど入手した品々をポーチから出して並べ始めた。そして手を揉みながら「さて」と言ってニンマリと笑った。死神ちゃんは不思議そうに首を傾げると、何をするのかと尋ねた。すると彼女は得意気に胸を張って答えた。
「毎回虫眼鏡を使用したり、道具屋に持ち込んで鑑定してもらってたら大赤字でしょ? だからね、私、鑑定魔法を編み出したっていうおっさんに弟子入りして、その魔法を覚えたんだよ。これなら、かかる費用は私の魔力と、魔力補充用ドリンクだけだからね。とっても安上がり!」
へえ、と相槌を打ちながら、死神ちゃんは頂いたマフィンを頬張った。「そういうおっさんと、たしかに昔遭遇したな」などと思いながら頬杖をつき、もくもくとあごを動かしていると、フリマ出店者が出し抜けにポーチから小さな小瓶を取り出して、それを煽るように飲み干した。
「ういー。魔力、湧いてきたーッ! さ、次、鑑定しましょ」
「なんていうか、社畜臭漂うな……」
「うるさいなあ。飲まなきゃ、やってらんないんですよ。それにね、荷物整理のためには必要なことなんだよ」
フリマ出店者は不服げに口を尖らせると、再び鑑定に勤しんだ。しばらくして、彼女は珍妙な声を上げて首をひねった。
「この刀、なんだかとても不思議な……。でも、素人目に見ても、なーんか〈今一歩〉感が漂うっていうか……」
「とりあえず、鑑定してみろよ」
「ああ、うん。えっと、名称は……なになに? 〈村止〉?」
死神ちゃんは無表情で押し黙ると、数拍遅れて抑揚無く言った。
「たしかに、今一歩足りないな。一歩というよりむしろ、一本……」
「次はこっちの刀なんだけど……。さっきの刀に似ているような気がするけど、でも、かなり不格好だよね。これはパチもんの範疇に入るもんなんだろうか?」
「いいから、鑑定してみろよ」
「うん、ちょっと待ってね。えっと、名称は……うーん、〈木寸正〉?」
死神ちゃんは表情もなく、目をパチパチとさせた。そしてかなり遅れてから口早に言った。
「パチもんって、そういう?」
「これって、やっぱりパチもんなの?」
「模造品というよりも、パロディTシャツみたいな感じだな」
「で、これ、どっちがパチもんなの?」
「何だよ、本物を知らないのか。それじゃあパチもん売りとしてやっていけないだろうが」
「そうはいっても。本物はより一層レアなんだから仕方ないでしょうが。文句言うなら、今すぐそれの本物見せてよ!」
不満を露わにする彼女から視線を逸らすと、死神ちゃんは静かに指を差した。怪訝な表情で指の先に視線を送ったフリマ出店者は「げ」と呻いて一層顔をしかめた。そこには、血塗れの刀を手にしたジャパニーズな見た目の人型モンスターがひっそりと立っていた。
「どうしよう、いかにも強そう……」
「あいつを倒したら、運が良ければ本物が手に入るんじゃあないか?」
「いやいやいや、無理だって。冗談じゃないよ!」
フリマ出店者が死神ちゃんにこそこそと話しかけていると、モンスターは目を血走らせ「マイラレ~ヨ~」と声を上げながら彼女に切りかかってきた。荷物もそのままに、彼女は慌ててその場から逃げた。しかし、必死に逃げる彼女をモンスターは追いかけた。
「ひいい! 何で!? 闇落ちしてモンスター化した系のやつって、一度にこんな複数登場しないはずじゃあないの!? どんどん増えていくんだけど!」
真紅の甲冑に身を包んだ武将の集団は、「マイラレ~ヨ~」と声を揃えながらフリマ出店者を追いかけ回した。
「マイラレ~ヨ~って、どこに参れっていうのー!? ああああああああ!」
その悲鳴を最後に、フリマ出店者は灰と化して霊界に参った。死神ちゃんは小さくため息をつくと、壁の中へと姿を消した。
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後日、買い出しのために百貨店にやって来た死神ちゃんは、パーティーグッズ売り場の一角にある〈おもしろTシャツコーナー〉の片隅で佇むアイアンゴーレムを目撃した。胸に〈真理〉を意味する文字が彫り込まれる代わりに〈おもしろTシャツ〉を着ているらしいビット所長のお手伝いゴーレムは、真剣な眼差しでパロディーTシャツを眺めていた。彼(?)の買い物かごにはその他にパチもんやパーティーグッズがごっそりと入れられていた。
「お花、どうしたのじゃ?」
アイアンゴーレムを苦い顔で見つめていると、一緒に買い物に来ていた天狐が声をかけてきた。彼女の手にも、しっかりとパチもんが握られていた。死神ちゃんが頬を引きつらせると、彼女は得意気に笑って言った。
「いいじゃろう!? おもしろかろう!? とても〈はいせんす〉じゃろう!?」
「お、おう……。そうだな……」
死神ちゃんは苦笑いを浮かべて何とか同意しながらも「お子様って、パチもん好きだよな……」と心の中で呟いた。そして、純真無垢なお子様と常に斜め上を突き進み続けるマッドサイエンティストがいるかぎり、このダンジョンにパチもんがあり続けるどころか量産されていくのだろうなと思ったという。
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