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* 死神生活三年目&more *
第348話 死神ちゃんと死にたがり⑦
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死神ちゃんは、ダンジョンに降り立った瞬間に何かに撃ち抜かれた。自分を貫通して漂う硝煙の香りに顔を青くしていると、遠くのほうから悪気のなさそうな謝罪の言葉が聞こえてきた。
「もー! 急に飛び出してくるから、獲物だと思ったじゃーん! ごめんね、大丈夫だった?」
「動くものがあったら闇雲に撃つ、駄目絶対。これ、猟銃の基本。お分かり?」
死神ちゃんはカタカタと小刻みに震えながらも、目の前までやってきた女性にしっかりと注意をした。すると、彼女は愕然とした表情で膝をつき、大げさに俯いた。
「クッ……。そうであった……。師匠から、一番初めに教わった大切なことではないか……。それを蔑ろにするとは、騎士の名折れッ! クッ、殺せッ! 介錯人、マイラレ~ヨ~!!」
「色々と混ぜすぎだろ。騎士なのか武将なのか、どっちかにしてくれないかな」
死神ちゃんが呆れて鼻を鳴らすと、彼女は慟哭するように「クッ! 殺せ!」と叫んだ。
彼女は普段、このダンジョンのある街から少し離れた街で会社勤めをしている。煩わしい会社の上司や、上手くいかない婚活からくるストレス発散のために週末だけ冒険をしに来ていた。
冒険者たちの中には味気ない冒険者生活に彩りを添えるために、冒険の間だけ〈日常の自分とは別の人物〉として振る舞ったり、魔法アイテムを使用して性別や種族まで変えたりする〈なりきり〉というお遊びを行う者がいる。彼女もその部類で、〈格好いい女性騎士〉になりきっての冒険を楽しんでいた。なお、「クッ! 殺せ!」という台詞は彼女の〈わたしのかんがえたさいきょうのせいきし〉を反映したものであり、決して死にたがっているわけではない。しかしながら、それを決め台詞としているせいか、まるで死にたがっているかのように連呼するため、死神ちゃんは彼女のことを〈くっころ〉と呼んでいた。
くっころはお手製の燻製肉を死神ちゃんに手渡すと、自身もそれに豪快にかぶりついた。そしてため息混じりに、ポツリと言った。
「ねえ、知ってる? 最近、巷では〈うさぎ系女子〉っていうのが流行っているんだって」
「それ何処の巷で流行っているんだよ。聞いたこともねえよ」
死神ちゃんが盛大に顔をしかめると、くっころは苦笑いを浮かべて続けた。
「いや、うん。とにかく、流行ってるらしいんだよ。今年のモテ女子のトレンドはうさぎ系なんだってさ。うちの会社の女子たちも、最近それでふわもこ系の小物とかこぞって持ってるんだよ。何でも、うさぎ系女子の必須アイテムなんだって」
「それと猟銃と、どう関係があるっていうんだよ」
「クッ……! 殺せ……ッ!」
「何だよ、急に!」
くっころは悔しそうに下唇を噛み締めた。死神ちゃんが困惑の表情を浮かべると、彼女は口惜しそうに話し始めた。それによると、どうやら彼女は〈女子という存在について、よく分からなくなってきている〉らしい。
「人一倍敏感に立ち回っていたはずが、気がついたら乗り遅れる側になっていたというわけよ……。私は! うさぎ系女子とやらが! よく分からない! ――だから、それを研究すべく、ダンジョンにやって来ました」
「どうして街に出て人間観察するんじゃあなくて、ダンジョンに来るかな。そっちのほうが、俺はよく分からないんだが」
「だって、ここにはたくさんうさぎがいるでしょう?」
ダンジョン内のここそこでは、ぬいぐるみのように可愛らしいうさぎがちょこんと腰を掛け、頭をゆらゆらと揺らしている光景を見ることができる。そいつらは攻撃を仕掛けなければ、そのまま〈可愛いぬいぐるみオブジェ〉でいてくれる。しかし一度ちょっかいを出せば、生皮を剥いだような気持ちの悪い姿となって襲い掛かってくる。しかも、かなりの確率で首を刎ねてくる厄介なやつだった。
くっころは「いっぱい狩りをしたら、その分理解が深まるかも」と思ったらしく、狙撃で倒せば首も無事だろうということで銃を撃ちまくっていたのだそうだ。死神ちゃんは呆れて無表情になると、ポツリと呟くように言った。
「街角のカフェで人間観察でもしたほうがいいと思うぞ」
「いやでもさ、カカオ豆も集められて一石二鳥でしょう? チョコの準備もできて、女子力アップも狙えて、良いことずくめじゃない?」
「そもそもチョコを上げる相手は?」
「うわああああああッ! 殺せッ! 今すぐ殺せ~ッ!」
ダンジョン中に、適齢期女性の悲哀の篭った絶叫がこだました。
くっころの暴走が落ち着くと〈そもそも、うさぎ系女子とは何だ〉という話になった。たしかに流行っているのかもしれないが、果たしてそれはくっころがなりたいと思える女性像なのか。そこが分からずして、闇雲に流行に乗り追求するのは如何なものか。
くっころは思案顔を浮かべながら、知っている情報を一通り並べ始めた。
「なんかね、とりあえず、フワフワしているらしいよ」
「それはさっき言ってた小物のことか? それとも物理的か?」
「あとは、ピンクなんだって」
「だから、それは小物のことなのか?」
「それから、よく撫でられて、よく泣く。気持ちが顔に出やすい……」
くっころの声はどんどんと尻すぼみになっていった。そのまま静かにじっと見つめられることに居心地の悪さを感じて、死神ちゃんは顔をしかめた。するとくっころは勢い良く土下座して、必死に懇願しだした。
「死神ちゃん! どうか! どうか私の師匠になってください!」
「ちょっと待て、今の流れでどうしてそうなった」
「だって、死神ちゃんってばよくフワフワ浮いてるし、ピンクだし、何かよく冒険者に頭撫でられまくってるっぽいし、ご機嫌斜めになるとギャン泣きし始めるし、喜怒哀楽が表情直結してるし。ほら、うさぎ系女子って死神ちゃんのことだったんだよ!」
「絶対違う! 絶対違うから! ていうか、馬鹿にしてるのか!?」
「そんなこと言わずに! 師匠!」
「待て、落ち着け! 落ち着けったら!」
死神ちゃんはすがりついてくるくっころを何とか引き剥がすと、〈うさぎ系女子〉を再考し始めた。結果、死神ちゃんとくっころのストレスは最高潮となった。
「そうか。うさぎ系女子って、そういう輩なのね。私、〈会えなくて寂しかった~目ぇうっるうるのキッラキラ~〉なんて寒気がして無理だわ。被害妄想も激しいみたいだし、束縛も厳しそうだし。何だこの拗らせ構ってちゃん。これで本当に男を手玉に取れるっていうの?」
「俺だったらそういう面倒くさいのはごめんだな。ていうか、そういうキャラが許されるのは二十代前半までだろう。それに、可愛らしいか弱いのがタイプだっていうやつでも、これはすぐに持て余すだろう」
「クッ……。流行りに乗れば勝ち組になれると思っていたのに……」
「試しにやってみ? うさぎ系女子」
くっころは苦々しげな面持ちでため息をつくと、一転してぶりっ子を装い「ダーリン、私、会えなくて寂しかったの~❤」とポーズを決めた。死神ちゃんは口元が歪んでくるのを必死に堪えていたのだが、我慢しきれずに腹を抱えて笑いだした。くっころは嘔吐く仕草をしながら、辟易とした表情でボソリと言った。
「これをせねば女子と認められぬというなら、私は今すぐここで死を選ぶ……。さあ、私を今すぐ殺せ……ッ!」
「なあなあ、知っているか? うさぎって一度交尾し始めると、アレがちぎれるほどし続けるんだぜ。うさぎ系女子なんて〈可愛らしいイメージ〉だけでそう言っているんだろうが、うさぎってやつは実際はそんな可愛らしいもんではないんだよ」
「やだ、破廉恥! 余計にナシだわ、うさぎ系は! うさぎは野原でズドンとやって、美味しくパイにして頂くくらいがちょうどいいよ! ああもう、せっかく〈新しい女子な私〉を開拓できると思ったのに!」
くっころは悔しそうに頭を掻きむしった。死神ちゃんは、彼女の頭を撫でてやりながらニッコリと笑った。
「お前、目のつけどころや頑張りかたが結構ズレてること多いがさ。でも、悪かないとは思うぜ。お前は十分可愛らしいし、面白いよ」
「面白いって、褒められてる気がしないなあ」
「一緒にいてつまらないよりはいいだろう。お前はお前のままで十分魅力的だよ。だから、あまり思いつめなくていいから」
「やだ……。死神ちゃんが王子様のように見える……」
くっころはほんのりと頬を赤らめると、胸をキュンとさせた。死神ちゃんは「何を馬鹿なことを言ってるんだ」と言いながら苦笑いを浮かべていたが、ふとその笑顔を強張らせた。
「なあ、何か巨大なものが近づいてきている感じ、しないか?」
「うん……。何だろうね、このズシンズシンって……」
地響きがどんどんと大きくなっていくにつれて、震源地も近づいてきた。ようやく揺れが収まったと思った瞬間、死神ちゃんとくっころは何者かの視線を感じて広間の出入り口に目を向けた。そして――
「何だこりゃああああああああ!」
暗がりから、巨大な〈うさぎのぬいぐるみ〉が虚無に満ちた目でこちらを覗き見ていた。死神ちゃんが叫び、くっころが絶句していると、うさぎは壁をミシミシと言わせながら無理やり広間に入ってこようとした。
壁を壊し、無理やり広間に侵入してきた見上げるほど巨大な大きさの〈うさぎのぬいぐるみ〉は物理的にも精神的にも圧力を加えてきた。くっころは慌てて銃を構え発泡したが、弾はふわもこ低反発に抱きとめられて傷ひとつつけることすら敵わなかった。
「ボクの縄張りを荒らして回っているのはお前かあああああああ……」
「ぎゃあああああ! しゃべったああああああ! 生皮剥がれたキモうさぎにならない可愛いいいいいいい!」
「怯えるか喜ぶかどっちかにしろよ!」
「あの悪魔ばっかり可愛がってえええええ! ケイティーちゃんのケチイイイイイイイ!」
「ヘっ!? ケイティーちゃんって誰――」
突然飛び出してきた〈見知らぬ人物の名前〉に驚いたくっころは、そのせいで逃げ遅れてしまい、巨大うさぎの駄々っ子パンチを受けた。サラサラと積もる灰を唖然とした表情で眺めていた死神ちゃんは、うさぎがこちらをロックオンしていることに気がつき、慌てて壁の中へと姿を消したのだった。
**********
死神ちゃんは待機室に戻るなり、ビットにあの巨大うさぎのことを問い合わせた。すると、やはりモデルは第一死神寮のペット・うさ吉ということだった。
『あれは、首刎ねうさぎを一定以上狩ると現れるレアうさぎだ。毎年、せっかくだから台詞を追加しているのだが、録り直すごとにお前への恨みつらみが何故か増えていくのだ』
「さすがに、そういうのはカットしませんか? 冒険者には関係のないことですし」
『うむ、検討しよう』
死神ちゃんが通信を終えると、第一班の面々が側に集まっていた。彼らはしみじみとうなずきながら、うさ吉のことを語り合っていた。
「あいつさ、その場にいる誰かしらが撫でてやらないとすぐ生皮状態になるんだ。撫でてやらなきゃいけないのはいいとして、何でわざわざ生皮状態になるんだ? 体張って皮脱いでるのか? それとも生皮が本来の姿で、ぬいぐるみは擬態なのか?」
「縄張り意識が強いから、番うさぎにはもってこいなんだけどね。でもぶっちゃけ、死神寮に泥棒が入るとか、そんなこと起こり得ないし」
「縄張り意識が強いのは良いことだな。動物の鑑だな」
「軍曹に一番懐いてるけど、でも、軍曹がうちに来る前からいた気がするなあ……。いつからうちに住んでいるんだ? ていうか、むしろ、何でうちにだけペットがいるんだ?」
死神ちゃんは彼らをぼんやりと眺め見て、面倒くさそうに顔を歪めた。どうしたのかと尋ねてきた彼らに、死神ちゃんはポツリと返した。
「いや、今、一番縄張り意識の薄いのがサラッと混じって、縄張り意識について堂々と語ったものだから……」
一同はゆっくりと〈余分な一人〉に視線を集中させた。彼はニヤリと笑うと、コヤァと鳴きながらダンジョンへと消えていったのだった。
――――生き物というやつは、不思議がいっぱいなのDEATHね!
「もー! 急に飛び出してくるから、獲物だと思ったじゃーん! ごめんね、大丈夫だった?」
「動くものがあったら闇雲に撃つ、駄目絶対。これ、猟銃の基本。お分かり?」
死神ちゃんはカタカタと小刻みに震えながらも、目の前までやってきた女性にしっかりと注意をした。すると、彼女は愕然とした表情で膝をつき、大げさに俯いた。
「クッ……。そうであった……。師匠から、一番初めに教わった大切なことではないか……。それを蔑ろにするとは、騎士の名折れッ! クッ、殺せッ! 介錯人、マイラレ~ヨ~!!」
「色々と混ぜすぎだろ。騎士なのか武将なのか、どっちかにしてくれないかな」
死神ちゃんが呆れて鼻を鳴らすと、彼女は慟哭するように「クッ! 殺せ!」と叫んだ。
彼女は普段、このダンジョンのある街から少し離れた街で会社勤めをしている。煩わしい会社の上司や、上手くいかない婚活からくるストレス発散のために週末だけ冒険をしに来ていた。
冒険者たちの中には味気ない冒険者生活に彩りを添えるために、冒険の間だけ〈日常の自分とは別の人物〉として振る舞ったり、魔法アイテムを使用して性別や種族まで変えたりする〈なりきり〉というお遊びを行う者がいる。彼女もその部類で、〈格好いい女性騎士〉になりきっての冒険を楽しんでいた。なお、「クッ! 殺せ!」という台詞は彼女の〈わたしのかんがえたさいきょうのせいきし〉を反映したものであり、決して死にたがっているわけではない。しかしながら、それを決め台詞としているせいか、まるで死にたがっているかのように連呼するため、死神ちゃんは彼女のことを〈くっころ〉と呼んでいた。
くっころはお手製の燻製肉を死神ちゃんに手渡すと、自身もそれに豪快にかぶりついた。そしてため息混じりに、ポツリと言った。
「ねえ、知ってる? 最近、巷では〈うさぎ系女子〉っていうのが流行っているんだって」
「それ何処の巷で流行っているんだよ。聞いたこともねえよ」
死神ちゃんが盛大に顔をしかめると、くっころは苦笑いを浮かべて続けた。
「いや、うん。とにかく、流行ってるらしいんだよ。今年のモテ女子のトレンドはうさぎ系なんだってさ。うちの会社の女子たちも、最近それでふわもこ系の小物とかこぞって持ってるんだよ。何でも、うさぎ系女子の必須アイテムなんだって」
「それと猟銃と、どう関係があるっていうんだよ」
「クッ……! 殺せ……ッ!」
「何だよ、急に!」
くっころは悔しそうに下唇を噛み締めた。死神ちゃんが困惑の表情を浮かべると、彼女は口惜しそうに話し始めた。それによると、どうやら彼女は〈女子という存在について、よく分からなくなってきている〉らしい。
「人一倍敏感に立ち回っていたはずが、気がついたら乗り遅れる側になっていたというわけよ……。私は! うさぎ系女子とやらが! よく分からない! ――だから、それを研究すべく、ダンジョンにやって来ました」
「どうして街に出て人間観察するんじゃあなくて、ダンジョンに来るかな。そっちのほうが、俺はよく分からないんだが」
「だって、ここにはたくさんうさぎがいるでしょう?」
ダンジョン内のここそこでは、ぬいぐるみのように可愛らしいうさぎがちょこんと腰を掛け、頭をゆらゆらと揺らしている光景を見ることができる。そいつらは攻撃を仕掛けなければ、そのまま〈可愛いぬいぐるみオブジェ〉でいてくれる。しかし一度ちょっかいを出せば、生皮を剥いだような気持ちの悪い姿となって襲い掛かってくる。しかも、かなりの確率で首を刎ねてくる厄介なやつだった。
くっころは「いっぱい狩りをしたら、その分理解が深まるかも」と思ったらしく、狙撃で倒せば首も無事だろうということで銃を撃ちまくっていたのだそうだ。死神ちゃんは呆れて無表情になると、ポツリと呟くように言った。
「街角のカフェで人間観察でもしたほうがいいと思うぞ」
「いやでもさ、カカオ豆も集められて一石二鳥でしょう? チョコの準備もできて、女子力アップも狙えて、良いことずくめじゃない?」
「そもそもチョコを上げる相手は?」
「うわああああああッ! 殺せッ! 今すぐ殺せ~ッ!」
ダンジョン中に、適齢期女性の悲哀の篭った絶叫がこだました。
くっころの暴走が落ち着くと〈そもそも、うさぎ系女子とは何だ〉という話になった。たしかに流行っているのかもしれないが、果たしてそれはくっころがなりたいと思える女性像なのか。そこが分からずして、闇雲に流行に乗り追求するのは如何なものか。
くっころは思案顔を浮かべながら、知っている情報を一通り並べ始めた。
「なんかね、とりあえず、フワフワしているらしいよ」
「それはさっき言ってた小物のことか? それとも物理的か?」
「あとは、ピンクなんだって」
「だから、それは小物のことなのか?」
「それから、よく撫でられて、よく泣く。気持ちが顔に出やすい……」
くっころの声はどんどんと尻すぼみになっていった。そのまま静かにじっと見つめられることに居心地の悪さを感じて、死神ちゃんは顔をしかめた。するとくっころは勢い良く土下座して、必死に懇願しだした。
「死神ちゃん! どうか! どうか私の師匠になってください!」
「ちょっと待て、今の流れでどうしてそうなった」
「だって、死神ちゃんってばよくフワフワ浮いてるし、ピンクだし、何かよく冒険者に頭撫でられまくってるっぽいし、ご機嫌斜めになるとギャン泣きし始めるし、喜怒哀楽が表情直結してるし。ほら、うさぎ系女子って死神ちゃんのことだったんだよ!」
「絶対違う! 絶対違うから! ていうか、馬鹿にしてるのか!?」
「そんなこと言わずに! 師匠!」
「待て、落ち着け! 落ち着けったら!」
死神ちゃんはすがりついてくるくっころを何とか引き剥がすと、〈うさぎ系女子〉を再考し始めた。結果、死神ちゃんとくっころのストレスは最高潮となった。
「そうか。うさぎ系女子って、そういう輩なのね。私、〈会えなくて寂しかった~目ぇうっるうるのキッラキラ~〉なんて寒気がして無理だわ。被害妄想も激しいみたいだし、束縛も厳しそうだし。何だこの拗らせ構ってちゃん。これで本当に男を手玉に取れるっていうの?」
「俺だったらそういう面倒くさいのはごめんだな。ていうか、そういうキャラが許されるのは二十代前半までだろう。それに、可愛らしいか弱いのがタイプだっていうやつでも、これはすぐに持て余すだろう」
「クッ……。流行りに乗れば勝ち組になれると思っていたのに……」
「試しにやってみ? うさぎ系女子」
くっころは苦々しげな面持ちでため息をつくと、一転してぶりっ子を装い「ダーリン、私、会えなくて寂しかったの~❤」とポーズを決めた。死神ちゃんは口元が歪んでくるのを必死に堪えていたのだが、我慢しきれずに腹を抱えて笑いだした。くっころは嘔吐く仕草をしながら、辟易とした表情でボソリと言った。
「これをせねば女子と認められぬというなら、私は今すぐここで死を選ぶ……。さあ、私を今すぐ殺せ……ッ!」
「なあなあ、知っているか? うさぎって一度交尾し始めると、アレがちぎれるほどし続けるんだぜ。うさぎ系女子なんて〈可愛らしいイメージ〉だけでそう言っているんだろうが、うさぎってやつは実際はそんな可愛らしいもんではないんだよ」
「やだ、破廉恥! 余計にナシだわ、うさぎ系は! うさぎは野原でズドンとやって、美味しくパイにして頂くくらいがちょうどいいよ! ああもう、せっかく〈新しい女子な私〉を開拓できると思ったのに!」
くっころは悔しそうに頭を掻きむしった。死神ちゃんは、彼女の頭を撫でてやりながらニッコリと笑った。
「お前、目のつけどころや頑張りかたが結構ズレてること多いがさ。でも、悪かないとは思うぜ。お前は十分可愛らしいし、面白いよ」
「面白いって、褒められてる気がしないなあ」
「一緒にいてつまらないよりはいいだろう。お前はお前のままで十分魅力的だよ。だから、あまり思いつめなくていいから」
「やだ……。死神ちゃんが王子様のように見える……」
くっころはほんのりと頬を赤らめると、胸をキュンとさせた。死神ちゃんは「何を馬鹿なことを言ってるんだ」と言いながら苦笑いを浮かべていたが、ふとその笑顔を強張らせた。
「なあ、何か巨大なものが近づいてきている感じ、しないか?」
「うん……。何だろうね、このズシンズシンって……」
地響きがどんどんと大きくなっていくにつれて、震源地も近づいてきた。ようやく揺れが収まったと思った瞬間、死神ちゃんとくっころは何者かの視線を感じて広間の出入り口に目を向けた。そして――
「何だこりゃああああああああ!」
暗がりから、巨大な〈うさぎのぬいぐるみ〉が虚無に満ちた目でこちらを覗き見ていた。死神ちゃんが叫び、くっころが絶句していると、うさぎは壁をミシミシと言わせながら無理やり広間に入ってこようとした。
壁を壊し、無理やり広間に侵入してきた見上げるほど巨大な大きさの〈うさぎのぬいぐるみ〉は物理的にも精神的にも圧力を加えてきた。くっころは慌てて銃を構え発泡したが、弾はふわもこ低反発に抱きとめられて傷ひとつつけることすら敵わなかった。
「ボクの縄張りを荒らして回っているのはお前かあああああああ……」
「ぎゃあああああ! しゃべったああああああ! 生皮剥がれたキモうさぎにならない可愛いいいいいいい!」
「怯えるか喜ぶかどっちかにしろよ!」
「あの悪魔ばっかり可愛がってえええええ! ケイティーちゃんのケチイイイイイイイ!」
「ヘっ!? ケイティーちゃんって誰――」
突然飛び出してきた〈見知らぬ人物の名前〉に驚いたくっころは、そのせいで逃げ遅れてしまい、巨大うさぎの駄々っ子パンチを受けた。サラサラと積もる灰を唖然とした表情で眺めていた死神ちゃんは、うさぎがこちらをロックオンしていることに気がつき、慌てて壁の中へと姿を消したのだった。
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死神ちゃんは待機室に戻るなり、ビットにあの巨大うさぎのことを問い合わせた。すると、やはりモデルは第一死神寮のペット・うさ吉ということだった。
『あれは、首刎ねうさぎを一定以上狩ると現れるレアうさぎだ。毎年、せっかくだから台詞を追加しているのだが、録り直すごとにお前への恨みつらみが何故か増えていくのだ』
「さすがに、そういうのはカットしませんか? 冒険者には関係のないことですし」
『うむ、検討しよう』
死神ちゃんが通信を終えると、第一班の面々が側に集まっていた。彼らはしみじみとうなずきながら、うさ吉のことを語り合っていた。
「あいつさ、その場にいる誰かしらが撫でてやらないとすぐ生皮状態になるんだ。撫でてやらなきゃいけないのはいいとして、何でわざわざ生皮状態になるんだ? 体張って皮脱いでるのか? それとも生皮が本来の姿で、ぬいぐるみは擬態なのか?」
「縄張り意識が強いから、番うさぎにはもってこいなんだけどね。でもぶっちゃけ、死神寮に泥棒が入るとか、そんなこと起こり得ないし」
「縄張り意識が強いのは良いことだな。動物の鑑だな」
「軍曹に一番懐いてるけど、でも、軍曹がうちに来る前からいた気がするなあ……。いつからうちに住んでいるんだ? ていうか、むしろ、何でうちにだけペットがいるんだ?」
死神ちゃんは彼らをぼんやりと眺め見て、面倒くさそうに顔を歪めた。どうしたのかと尋ねてきた彼らに、死神ちゃんはポツリと返した。
「いや、今、一番縄張り意識の薄いのがサラッと混じって、縄張り意識について堂々と語ったものだから……」
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