好奇心に殺される。

?

文字の大きさ
15 / 20

耽美。

しおりを挟む


「君たちが話せるようになればいいのにね。」


幾分か寂しげに響いたその台詞を零し、私は目の前に並ぶプランターへの水やりを再開させた。
水滴を身に纏ってキラキラと輝く草花は、生命という様々な形を帯びた概念を、1番シンプルに、綺麗に具現化しているようで、好きだ。

本能だけで生き、育ち、咲いて無くなる物。


「まぁ、無理だよね。神様はどうして、植物に言語を、与えなかったんだろうね。」


部屋に咲く色とりどりの花。

季節ごとに違う表情を見せるところは、気温や湿度や体調によって様子が変わるところは、動物らしい面もある。

人を癒し、感嘆させる造形は、芸術すら感じる。もし彼らが、人に対して語りかけるようになったら。


「いや、話せないほうがいいのかもしれないね。きっと、君たちが話せるようになったら、文句ばかりだと思うから。」


排気ガス、地球温暖化、外来種、森林破壊etc…。彼らが今私たちに語りかけることが出来たならきっと、罵詈雑言の嵐になるだろう。我々が彼らに癒されているからと言って、彼らが我々に、優しい言葉をくれると思うのはただの傲慢だった。反省、反省。

彼らは生き物であって、人の傀儡じゃない。


「ごめんね、こんな愛で方しか出来なくて。人間ってのは多分、全員エゴイストなんだよ。全てに意味と救いを求めて、柔らかい世界だけを望んでる。」


ジョウロを収め、部屋へと戻る。
マスクと防護メガネを装着し、中断していた作業を再開させる。


経過観察していたレジン加工は、時間が経つにつれどんどん変色してしまった。防腐加工のおかげでカビは生えなかったが、やはり、元のままの色を保つのは不可能だった。
乾燥すれば安定するらしいが、それも嫌だ。

今手がけているコレも、じきに色褪せていくだろう。そんな姿、見たくない。コレの名前は、そうだな、"普遍"とでもしておこうか。

生物はやはり、どうやっても上手くいかないらしい。

一瞬の空白の後、嫌な機械音。


「…はい、もしもし。」

『もしもし、先生!僕です。作品、どんな感じです?』

「ああ、その話ですか。今作業中です。9月の終わりにはお見せできるかと。」

『随分と時間が掛かるんですねぇ、それって、ただの粘土細工でしょ?』

「そうですね。」

『今回も販売はNGなんでしたっけ』

「ええ。」

『先生の"永遠"、購入したいって方がいるんですけどねぇ。しかもビックリするくらいの高値で。嫌ですか。』

「何度も言わせないで頂きたい。」

『ああそうだ先生、作品なんですが、展覧会の目玉にしたいので、あと3~5作品ほど作っていただけませんかねぇ?』

「申し訳ないが、それは無理だ。簡単に作れる作品じゃない。」

『分かりましたよ。いつも同じセリフですねそれ。とりあえず9月半ばにそちらへ伺います~では。』


溜息。聞き分けのない人間ほど、口数が多い。あの様子じゃ、追加の作品をしつこく強請って来るだろう。

止まらない溜息を吐きながら冷凍庫を開け、前腕を取り出した。

次はこれを咲かせよう、と思いながら中を覗けば、ストックが随分と減ってきていることに気付く。切断の処置数自体が少ないから、仕方がないことだが。電話の声が蘇る。無視だ無視。関係ない。
取り出したそれをまた戻して、扉を閉めた。



先程の"普遍"に、樹脂粘土を付けていく。昔からずっと、人の手は花に似ていると思っていた。指の数も、すらっと伸びる前腕も。
私はただそれらが咲くのを、目に見える形で表すだけ。


「理性に塗れて死んだ後、こうして本能のまま生きる花を模倣して評価されてる。皮肉だね。でもまぁ、良いんじゃないかな。」


大した意味は込めてない。

元々芸術には何の意味もない。
ただ、作りたいから作る。
それだけだろうと思う。
過去の偉大な芸術家もきっと、根幹は、「気持ちいい」という本能だけで作っていたんじゃないだろうか。



何の意味もない。
何の、意味も。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...