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耽美。
しおりを挟む「君たちが話せるようになればいいのにね。」
幾分か寂しげに響いたその台詞を零し、私は目の前に並ぶプランターへの水やりを再開させた。
水滴を身に纏ってキラキラと輝く草花は、生命という様々な形を帯びた概念を、1番シンプルに、綺麗に具現化しているようで、好きだ。
本能だけで生き、育ち、咲いて無くなる物。
「まぁ、無理だよね。神様はどうして、植物に言語を、与えなかったんだろうね。」
部屋に咲く色とりどりの花。
季節ごとに違う表情を見せるところは、気温や湿度や体調によって様子が変わるところは、動物らしい面もある。
人を癒し、感嘆させる造形は、芸術すら感じる。もし彼らが、人に対して語りかけるようになったら。
「いや、話せないほうがいいのかもしれないね。きっと、君たちが話せるようになったら、文句ばかりだと思うから。」
排気ガス、地球温暖化、外来種、森林破壊etc…。彼らが今私たちに語りかけることが出来たならきっと、罵詈雑言の嵐になるだろう。我々が彼らに癒されているからと言って、彼らが我々に、優しい言葉をくれると思うのはただの傲慢だった。反省、反省。
彼らは生き物であって、人の傀儡じゃない。
「ごめんね、こんな愛で方しか出来なくて。人間ってのは多分、全員エゴイストなんだよ。全てに意味と救いを求めて、柔らかい世界だけを望んでる。」
ジョウロを収め、部屋へと戻る。
マスクと防護メガネを装着し、中断していた作業を再開させる。
経過観察していたレジン加工は、時間が経つにつれどんどん変色してしまった。防腐加工のおかげでカビは生えなかったが、やはり、元のままの色を保つのは不可能だった。
乾燥すれば安定するらしいが、それも嫌だ。
今手がけているコレも、じきに色褪せていくだろう。そんな姿、見たくない。コレの名前は、そうだな、"普遍"とでもしておこうか。
生物はやはり、どうやっても上手くいかないらしい。
一瞬の空白の後、嫌な機械音。
「…はい、もしもし。」
『もしもし、先生!僕です。作品、どんな感じです?』
「ああ、その話ですか。今作業中です。9月の終わりにはお見せできるかと。」
『随分と時間が掛かるんですねぇ、それって、ただの粘土細工でしょ?』
「そうですね。」
『今回も販売はNGなんでしたっけ』
「ええ。」
『先生の"永遠"、購入したいって方がいるんですけどねぇ。しかもビックリするくらいの高値で。嫌ですか。』
「何度も言わせないで頂きたい。」
『ああそうだ先生、作品なんですが、展覧会の目玉にしたいので、あと3~5作品ほど作っていただけませんかねぇ?』
「申し訳ないが、それは無理だ。簡単に作れる作品じゃない。」
『分かりましたよ。いつも同じセリフですねそれ。とりあえず9月半ばにそちらへ伺います~では。』
溜息。聞き分けのない人間ほど、口数が多い。あの様子じゃ、追加の作品をしつこく強請って来るだろう。
止まらない溜息を吐きながら冷凍庫を開け、前腕を取り出した。
次はこれを咲かせよう、と思いながら中を覗けば、ストックが随分と減ってきていることに気付く。切断の処置数自体が少ないから、仕方がないことだが。電話の声が蘇る。無視だ無視。関係ない。
取り出したそれをまた戻して、扉を閉めた。
先程の"普遍"に、樹脂粘土を付けていく。昔からずっと、人の手は花に似ていると思っていた。指の数も、すらっと伸びる前腕も。
私はただそれらが咲くのを、目に見える形で表すだけ。
「理性に塗れて死んだ後、こうして本能のまま生きる花を模倣して評価されてる。皮肉だね。でもまぁ、良いんじゃないかな。」
大した意味は込めてない。
元々芸術には何の意味もない。
ただ、作りたいから作る。
それだけだろうと思う。
過去の偉大な芸術家もきっと、根幹は、「気持ちいい」という本能だけで作っていたんじゃないだろうか。
何の意味もない。
何の、意味も。
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