10 / 20
灰白。
しおりを挟むこの素晴らしい世界に祝福を。
人は死ぬ。必ず死ぬ。
この世の全ては幻に過ぎない。
と、かの有名な死刑囚は話した。幻を元に人々を先導し命を奪った死刑囚は、意外にも冷静で可哀想な男だった。
君は呆気なく死んだ。
それはもう、呆気なく。
「どうして生きてるんだろう」と笑った君はまだ鮮明にこの脳髄の中で生きているのに。肉体は脆いもので、もう既に無機物の如く固まっていて冷たい。
君には身寄りがない。僕しかいない。遠方の親戚も葬儀の参列を拒否した。君は結局誰からも愛されていなかったのだ。可哀想。可哀想に。僕は君が死んでからもう何百回と、「可哀想」を繰り返していた。
通夜の後、葬儀屋が帰り、部屋には僕と君だけになった。そっと棺の蓋を開ける。君はやけに綺麗な姿勢で寝ている。
首元にうっすら残る赤紫の痣。
君は後味の悪いドラマが好きだった。何事も不変が好きで、答えを出す事が嫌いだった。優柔不断じゃなく、ただ物事にピリオドを打つのが嫌いだった。
あの日、君は自宅のインターホン越しに「待ってて!支度するから!」と告げた。君好みのワインと生ハムを持ち寄った僕は外で微笑みを浮かべながら支度が出来るのを待っていた。普通の日常だ。
20分後、音沙汰のない様子を不思議に思いながら部屋に入った俺の前に、君はぶら下がっていた。つま先が床に擦れ、軽快な音を立てる。ギュウと揺れる縄の音とのアンサンブル。グッドバイすら残さない君。世界のどんな芸術家でもなし得ない芸術を、僕にだけ見せてくれた君。
思えば僕もいつの間にか、狂っていたのかもしれない。
答えの出ないことを考え続けると、人間の心は壊れるらしい。だから僕も、君の去った理由を考えるのはやめた。答えなんてきっとないだろうから。
生きる理由だとか死ぬ理由だとか勇気とか希望とか、君にとってはきっとただの白紙だったんだろう。
火葬が終わり質量の減った君。火葬場にすら1人しかいない事に気を使う職員。1人にしてほしい、と神妙な顔つきで言えばビクビクと肩を震わせたまま何処かへ消えた。
世間ではこれが常識、とでも言いたげな白い壺。蓮の花が彫ってある。でも残念だな、君は彼岸花が好きだったのに。こんな狭い世界に、好きでもない花に囲まれて暗闇で永遠を過ごすなんて。
牛乳が嫌いだったせいか、中身がスカスカで歯ごたえがない。
外は雨だった。喪失感はあまりない。
人は死ぬ。必ず死ぬ。時期が分からないだけで、この世における絶対はただ一つ。人が死ぬという事だと僕は思う。
やけに軽い骨壺を抱き締めて思う。
ざらつきの残る口内を舐めながら思う。
可哀想。可哀想ね。と。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる