ある少年と不可思議現象

アリス@WME

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消えた"記憶"

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夏休み前日、
学校に登校した和馬はある異変に気づく。
何か特別な事でもない限りほとんど学校を休まない結衣が休みなのだ。
この時は、珍しく体調でも崩したのかとか思っていた和馬だったのだが。
終業式の後、教室でクラスメイトと話している時にそれは起こった。
「なあ、今日結衣休みみたいだけどどうしたんだ?」
和馬は優哉に疑問をぶつけてみる。
「ん?結衣って誰の事だ?
そんな奴知らねぇよ?」
返ってきたのは思いもよらない答えだった。優哉が結衣を知らないと言い始めたのである。和馬は、何言ってんだコイツ?
ふざけて遊んでんのかなーとか思っていた。
「いや、とぼけなくていいからさ」
「本当に知らないんだよ!お前の知り合いか何かか?このクラスにはそんな奴いないぞ」 
「いや、だからそれはもういいって、流石にもう正直に言おうぜ?」
「本当に誰だよソイツ!
今日の和馬可笑しいぞ!」
そこで和馬はキレた。流石にクラスに結衣が元から居なかったことにされたのには腹が立ったのだ。気付けば和馬は大声でさけんでいた。
「お前ふざけんなよ!とぼけなくていいんだよ!」
和馬は優哉の胸ぐらを掴んだ。
このままではケンカに発展しそうな勢いで
流石にこれはまずいと思ったのか担任の先生が止めに入る。
「神田くん!一体どうしたんですか!?」
「こいつがこのクラスに結衣がいないなんて言いやがったんですよ!」
と声を荒らげる。
「ん?結衣?そんな人はクラスにいませんよ?」
先生が不思議そうに言った。
先生までもが"上坂結衣"という人物はこのクラスに存在しない"と言い放ったのだ。
「先生までそんな事を言うんですか!!」
「どうしたのですか!?今日の神田くんはおかしいですよ!」
気付けば和馬は感情のままに叫んでいた
そのせいでクラス中に叫び声が響いていたのだろう。
クラス中の目線が和馬に集中する
「ーーーッ、…すみません早退します。」
和馬はクラス中から向けられる視線と雰囲気に耐えられずそう言い残しバッグを取り教室を出た。
しかし学校から出てからやっぱり何かがおかしいと和馬は思う。優哉も先生も普段はほとんど嘘を付かないし、ましてやあんな事を本気で言うとも思えない。
そう、まるで全ての人間の記憶から"上坂結衣"という人物の記憶が抜け落ちてしまったようなそんな現象。
だがどれだけ考えたところで原因はよくわからないがただ結衣が心配だ。
和馬は結衣の寮へと向かった。 

数十分後、
和馬は結衣が住んでいる寮の玄関に着いていた。寮のポストを見て異変に気づいた。
「おかしいな、結衣の名前がポストに無い…?」
疑問に思いながらも結衣の部屋の前に行った。
そしてインターホンを鳴らすが出てこない。
 「おーい?居ないのか?」
しかし返事はない。
何か嫌な予感がする。何か取り返しの付かないことが起こりそうなそんな予感が
和馬は結衣を探すために走り出す。
後先なんて全く考えずに…。


時は少し遡り、朝
結衣は制服に着替え学校へ行く準備をしていた。なにか考え事をしているようである。
「夏休みみんなでどこに行こうかな?」
この前の帰りの約束を思い出していたのだ。
そこからしばらく色々考えていたが
1人で考えても仕方がないという結論に至ったようで、
「んー、考えてても始まらないしそろそろ学校行こっかな!」
結衣は玄関へ向かい靴を履き、ドアを開けた時だった。
「え?」
隣に住んでいる香織の驚いたような、疑問を感じたような声が聞こえたのだ。
ちょうど香織も部屋から出てきたところらしい。
「どうしたの?」
そう言うと香織は顔を真っ青にしてこう言った。
「あなた誰?」
声が震えていた。
まるで知らない人物が目の前に突然現れた時のように。
「へ?なにを言ってるの?私!結衣よ!」
「だって、隣には誰も住んでないはず…
と、とりあえず管理人さんに連絡しないと!!」
「冗談はやめてよ!」
「冗談じゃない!本当にあなた誰!?
不法侵入だよ!」
このままじゃまずい、と結衣は思い
とりあえず落ち着かせようとした矢先に管理人が来てしまった。
「どうしたんですか?朝から騒いで」
「管理人さん!この人勝手に寮の中に入ってるんですよ!」
と、香織が告げる。
「不法侵入という事ですか。
ちょっと君、管理人室まで来てもらってあいいかな?」
「か、管理人さん?冗談ですよね?」
結衣は嫌な予感がした。
願わくばこの予感は外れて欲しかった。
「冗談ではないですよ、私は君を知らないし、現に君はここに入っている。これは話を聞かなければならないでしょう」
冗談じゃないと結衣は思う。
自分はここの住人で管理人に捕まる理由なんてないのだ。
と同時に早くここから離れないと警察に突き出されるかもしれないとも思い、
「…管理人さん、ごめんなさい!」
結衣は能力を全開にし、磁力を使い壁に張り付くようにしてその場から逃げた。
そしてこの状況について理解しようと考えてみる。
すると、ある一つの仮説が浮かび上がる。
「今日はなんかおかしい!…まさかみんなの記憶から私だけが抜け落ちてる?」
結衣はそんなわけない、と頭を横に振った。
そして、通学路にいた友人、先生などに聞いて回り、忘れられているわけがないと自分を納得させようとした。
しかし、その希望に反して結衣を覚えている人間はただの1人も居なかったのだ。
「嘘…、嘘よ!こんなの!」
結衣は頭の中が整理できず街をふらふらと生気の無い目をして歩いていた。
信じられない。いや、信じたくなかっただけなのかもしれない。
朝の時点で薄々気づいてはいたのだ。
(てことは私はこの世界で一人ぼっちってわけか…)
周りの人から変な目で見られたり、警察に職務質問をされかけたりしたがそんなことはもうどうでもいい。
そう思うほど結衣は精神的に相当追い込まれていた。
無理もないだろう。誰も自分を覚えていないというのはすなわち、この世界でたった一人ぼっち、頼れる人なんて誰もいない。
奈落の底に落とされたような状況なのだから。
そして気付けば日は沈んでいて
麻琴は自然と路地裏へ来ていた。
足から力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
「なんで…?私が何かしたのかな?」
そしてポロポロと結衣の瞳から涙が溢れ出した。
「は、はは、涙が出てきちゃった…
うぅっ……うわぁぁぁぁぁ」
気付けば結衣は大声で泣き叫んでいた。
そして今までの楽しかった日々を、思い出していた。きっともう戻れないであろう日々を…

翌朝結衣は路地裏で目を覚ました。
「いつもの寮じゃない…
やっぱり夢じゃないんだ」
「今何時だろ?携帯も落としちゃったし
わかんないや」
グゥーー
とお腹から音がした。
「そういえば昨日逃げてから何も食べてないんだっけ?財布も無いし寮にも戻れないし、とりあえず路地裏から出てみようかな…」
路地裏から出てみると太陽は真上当たりまで登っていて、昼頃だということがわかった。
「私かなり寝てたのね…」
夏休み初日だからだろうか
大通りはかなり賑わっていて、
制服が少し汚れている結衣はどう考えても周りから浮いていた。
時々、「あの子何?」、「家出かな?」とか
聞こえてくる。
そんな言葉や視線に耐えられず結衣はその場から逃げ出していた。
そして始めにいたのとは違う路地裏へと入っていた。
「はぁ、はぁ、なんでこうなったの…?
昨日までは普通の生活だったのに…」
少し息を整えた。
そしてまたフラフラと結衣は目的もなく歩き出す。
通学路、4人で行ったゲーセン、学校などを周り、結衣は気付けば河川敷へと来ていた。もう日が傾き始めている。ここは前にいつもの4人でよく来た場所だった。次の瞬間足から力が抜けその場に座り込んでしまった。
丸2日も何も食べていないため体力が底をついたのだ。
(昨日までは普通の生活してたのに)
(どうしてこうなっちゃったの…?)
そして気付けばまた涙が溢れていた。
(誰か……)
(誰か助けてよ……)

その時、後ろから足音がした。
どこかで聞いたことのあるような足音が。
「何してんだよ、お前…」
その声に結衣は驚きを隠せなかった。
なぜならここにいるはずの無い友人の声だったから…
(なんでこんな所に和馬がいるの?
皆の記憶から"私"は消えているハズなのに…
なんで…?どうして…?)
(…そっか、和馬は困ってる人がいたら放っておけないお人好しなのよね。
河川敷で泣いてる人を見たら放っておけないのも当然か、だけど向こうからしたら私は赤の他人、巻き込むわけにはいかない…)
結衣は最後の力を振り絞って立ち上がり、冷静を取り繕ってこう言った。
「なんなのよ、見知らぬ女の子に対して警察気取りですかぁ?アンタに文句を言われる筋合いは無いと思うんだけど?」
「いや、ただ俺は結衣の事が心配でだな…」
そこで結衣の中の何かがプツン、と切れたような気がした。気付けば自分の心の全てを和馬にぶつけていた。
「結衣…?アンタがどこで私の事を聞いたのか知らないけど、みんな私の事を覚えてないっていうのはもう知ってるのよ!!
友達も先生もみんな誰1人私を知らなかった!なのに和馬だけ覚えてて心配してるなんてありえないじゃない!
ただの偽善だけでそんなことを言ってるんだったら止めて!
もう放っといてよっ…」
結衣は叫んだ。和馬を拒絶するように。
しかし和馬は諦めない、自分の事を覚えている人間などいないという前提で結衣は話している。ということはその前提をひっくり返せばいいだけの話。たったそれだけの事だった。
(簡単なことじゃねーか)
と和馬は思った。
そして口を開く。
「じゃあ、もしも皆の記憶喪失の
原因が能力によるものだとしたら?」
結衣は問いかける。
「何が言いたいのよ…」
「俺の力はお前も知っての通り"能力を消す力"だ。そしてこの事件が能力絡みだとしたらどうなる?」
そこまで言われて結衣は一つの結論にたどり着く。そして震えた声でこう言った
「アンタだけ記憶喪失になっていなくてもおかしくないって事?」
「そういう事だ。
こんなバカげた事できるのは超能力者しかいないだろ?」
少しの静寂が流れる。
よく考えたらとても簡単な事だった。
しかし絶望の中にいた結衣はそんな事を考える余裕すらなかったのだ。
先に口を開いたのは結衣だった。
「ホントに信じていいの…?」
「あぁ、もちろんだ!なんなら俺しか知らない事を言ってやろうか?
小学校の時の話とか…」
「だぁぁ!そんな事言わなくていいっ!」
「そ、そうか…」
そう言った瞬間、結衣は和馬に抱きつく。
抱きついた結衣の体は震えていた。
……無理もないだろう。今日1日とはいえ
誰も頼れない完全な孤独の中にいたのだから。
そして消え入りそうな声で結衣は話し始める。溜め込んでいたものを吐き出すように
「…本当に怖かった。誰も私を覚えてなくて別世界に放り込まれたみたいで……
誰も頼れなくて、このまま死んでくのかなとか死んだほうがいいのかもとか思ったっ……」
結衣は泣いていた。
そして宣言するように和馬は言う。
「俺はお前の事を忘れたりしないし、 ずっとお前の味方だ。お前は1人じゃない。」
「…だから泣くなよ」
言い終えた和馬は笑顔だった。
それから結衣はしばらく泣いていたが
和馬という信頼できる人物がいたことで心の底から安心できたようで今はすやすやと和馬の腕の中で寝息をたてている。
この2日間の事で疲れが溜まっていたのだろう。他人から忘れられるという事は想像を絶する辛さのハズだ。実際、いつ結衣の心が壊れてもおかしくなかったのかもしれない。いくら超能力者と呼ばれていても中身はただの高校2年生の女の子なのだから。
これからの事も考えないとなぁ、と和馬は思いつつ気持ちよさそうに寝ている結衣を起こさないように抱え自分の寮へと向かうのだった。
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みんなの感想(2件)

こまつすず@WME
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WMEさん
2016.05.14 WMEさん
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