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本編1

第二王子との出会い

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クラスメイトとお話ししていると、扉が開いて、担任の先生らしき人物が教室に入ってきた。

「初めまして。私は、君たちの担任で、ジークベルトという。よろしく。」
栗色髪に碧眼、190cmを超える長身、普通の女性がいたら釘付けになるだろう美しさだが、A組の唯一の女子アイネは、全然違うことを考えていた。

(お父様と似てる!血縁者かしら?でもお会いしたことない方よね。。)
アイネの疑問をよそに、先生は話を始める。

「このクラスは非常に優秀な者が集まっている。いわば国内最高峰のメンバーだ。とはいえ、君たちはまだ若い。将来のことを考えて、このハイグラシア学園の門を叩いたのだろう。ただ、単に勉強ができると、その仕事に就きたいとは、根本的に質が異なる。
このクラスでは、勉強を教えるというより、自分が何を好きか、どんな適性があるのか、そして世の中のどんな仕事があるのかを知って体験することに重きを置こうと思う。
勉強なんて、君たちには教科書を配っておけば十分だろう。」

少し突飛な教育方針に、教室は少しざわざわしたが、手を挙げて発言するように促されると、ビヨンドが手をあげた。

「はい、ビヨンドくん」

「先生の教育では、課外活動が多くあるということでしょうか?」

「その通り。だが強制はしない。課外活動先は生徒が自由に決めて、学校が推薦書を書くようにしたいと考えている。」

続いて、アイネが手をあげる。

「はい、アイネさん」

「課外活動の日は、授業を受けなくても出席になりますか?ずっと出ていてもいいでしょうか?あと冒険者として活動するのも課外活動になりますか?」

「なっ」「まさか、彼女が?」と教室がざわついたが、ジークベルト先生は眉間を抑えて、一呼吸をおいてから答えた。

「アイネさん、課外活動のルールについてはこれから少しずつ説明する。君の質問に簡単に答えると、答えはNoだ。理由は、学園が君たちの安全を第一に考えているからだ。
冒険者の体験は、できなくはないがいろいろと制限を設けている。クリアすべき要件は後で伝えよう。」

(さすがに難しいわよね。前世のラノベの世界みたいに冒険者をやってみたかったのだけど、そう簡単にはいかないか。)

次は隣国出身のハルトが手を挙げた。

「外国に行って見聞を深めるのはよろしいでしょうか?」

「それも安全上の理由でいくつも制限がある。が、不可能ではないと、現時点では答えておこう。」

ハルトがこちらをみて微笑んだような気がしたけれど、気のせいかしら。
他にもどんなところに行けるのか、いつから行けるのか、これまでの先輩方はどんなところに体験に行ったのかなど、様々な質問があがり、先生が答えることで初日は終了した。

◆◆◆◆◆◆

学園の門の前で、カーティス家の家紋が入った豪華な馬車が待っていた。

今日の担当は、エイダンという名の筋肉質な大柄の男である。カーティス家の使用人は皆、容姿が整っており、彼も同じく人目をひく風貌だ。

だが、エイダンがアイネの専属の御者というわけではなく、彼女の専属の侍女や従者はまだ決まっていない。

アイネは知らないが、水面下でアイネの専属となるための戦いが繰り広げられているのだ。

カーティス公爵、つまりアイネを溺愛する父によって、専属となるための条件が1つ示されている。

それは、自らアイネに志願することなく(伝えることなく)、アイネに専属になって欲しいと望まれること。それをアイネが父親に直接伝えること。

アイネには「専属にしたいものがいたら遠慮なく言うんだよ」と父である公爵は簡単には伝えてはいるが、アイネはわがままを許して下さるのかしら?程度の認識であまり伝わっていない。

昔からいる使用人らの多くは、アイネの容姿だけでなく、幼い頃から利発な部分を尊敬していて、アイネの専属になることを望んでいる。

ただ、本当にアイネに近しい使用人だけは知っている。彼女の専属になるには相応の覚悟と根性が必要だということを。それは彼女が転生者ゆえに、突飛な発想を容易に実現してしまうことに起因するのだが、アイネにはあまり自覚はない。



アイネは、真っ直ぐにお迎えの馬車には向かわずに、校舎の裏庭にある芝生広場の時計塔を見に行くことにした。その時計塔は国内でも有数の観光名所になっていて、多くの観光客が学園の外から眺めにくる。っかく学園に入学できたので、近くで見たいと思ったのだ。

時計塔の下には色とりどりのお花が植えてあって、近づくととても幻想的な光景だった。
アイネは何も敷かずそのまま広場に寝転んで、空を見上げた。
公爵令嬢としてはやや問題かもしれないが、とても気持ちがいい。

しばらく上を見ていると、急に視界が遮られ、声をかけられる。

「何をしているのかな?妖精さん?」

国内の貴族であれば知らない人はいないであろう、この国の王子がこちらを覗き込んでいた。

「お行儀が悪く申し訳ございません。」

「いやいや、こちらが急に声をかけたのだから気にしなくていいよ。」

直接お話しするのは初めてだけど、噂と違わずお優しそうな方だわ。

彼はセシル・フォン・エディンジア。この国の王子様で、光属性の魔法を使えることが有名。金髪グレーの眼で細身の長身の男性である。

誰にも優しい聖なる王子、それがセシル殿下に対するみんなの印象だ。

この学園の3年生にいるとは聞いていたけど、まさかこんなところでお会いするなんて


(セシル王子目線)

私はこのエディンジアの第二王子、であり、光属性の魔術師でもある。
幼い頃から周囲の期待を受け、皆の期待に応えるように善い王子として振る舞ってきた。

皆は私のことを「優しい聖なる王子」として神聖視するが、私はそんな大した人間ではない。
優秀な王子の仮面を被っているにすぎない私は、よく時計塔の下に休憩にいく。
ここはあまり誰も来ないし、静かなので、多少気を緩めていても問題ない。

今日もいつものように休憩をしていたら、令嬢が一人でやってきて、私と同じように芝生に寝転んだ。
つい興味が湧いてきて、「妖精さん?」などと聞いてしまったが、彼女は一体何者だろう?
大方、学園に通う者の関係者だろうか。

「君は誰かの姉妹か婚約者?ここは学園の敷地内だから入ってきてはいけないよ。」

貴族の女性は学園に通わないのが、生徒の家族や婚約者が時折学園を訪れるのだ。
そしてこの有名な時計塔のところまで不法侵入してきてしまう。
私の休憩場所を荒らされたら気分が悪いし、いくら綺麗なご令嬢でも出ていってもらわねば。

「いえ、私は今年入学した生徒にございます。名乗るのが遅くなって申し訳ございません。カーティス公爵家の娘、アイネと申します。」

まさかこの学園に通う貴族令嬢がいるとは思わなかった。
カーティス公爵家といえば、彼女の兄のウイリアムとジェームズも学園の卒業生だったな。

「カーティス家のご令嬢であったか。私はセシル・フォン・エディンジア。3年生だ。」

「はい、お名前と肖像画を拝見したことがございます。お目にかかれて光栄でございます。」

「そう堅苦しくしなくて良い。私が幼い頃、君の兄たちウイリアムやジェームズに世話になったものだ。ここで出会ったのも何かの縁かもしれぬな。
よし決めた!私がアイネ嬢の案内人を担当しよう!」

案内人とは、この学園の特殊な取り組みで、新入生1人に対して先輩が1人ついて、授業や課外活動の悩みを聞いてもらえるようなものだ。

いわば師弟関係を築くようなもので、案内人の師弟ペアは放課後のほとんどの時間を共に過ごす。

(これから毎日が楽しくなりそうだ)

セシルは悪戯っぽい王子スマイルを見せたのであった。
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