14 / 61
怖い爺さん 骨董屋の清兵衛
しおりを挟む
マズい。ガラスに映った清兵衛さんと目が合った。
清兵衛さんは気難しくて有名。クレーマーの噂もある。こんなときは、笑顔で会釈が俺流。
「お前、この店の洋菓子を食べたことあるか?」
スルドイ目つき。怒っている。
「いえ、食べたことはありません」
「本当か?」
「本当です。専門店のケーキは、高級品ですから、僕には手が出ません」
「なら、よろしい」
「はあ」
「今後も、こんな店の洋菓子など、食べてはならんぞ」
「どうしてですか?」
「どうしても、こうしても、あるかっ!
ダメなものは、ダメ。わかったか」
「はい」
「こんな店を作りおって」
清兵衛さんは腕組みをしながら、自分の店に帰って行った。
すぐ近所なのに、あんなことを言って、ダイジョウブだろうか。
清兵衛さんは、どういうわけか、何の関係もない人に文句を言う人だ。
美織の実家も被害者だ。
篠原第二ビルを建てるとき、清兵衛さんはものすごく反対したらしい。
篠原第二ビルは、越後屋からかなり離れている。
清兵衛さんの店がビルの日陰になることもないし、ビルを建てるときの騒音もぜんぜん届かない距離だ。
それでも清兵衛さんは、毎日のように工事現場に来て、作業員の人たちに文句を言っていたそうだ。
清兵衛さんは「すぐに工事を止めろ」と言うだけで、何も理由を言わなかったらしい。
もしも清兵衛さんに迷惑が掛かっているなら、迷惑にならないようにすると言ってもダメだった。
とにかく止めろの一点張りで、理由を説明しない。
要するに、何となく気に食わないだけなんだろう。ただのガンコ爺さんなのかもしれない。
基礎工事が終わってからは、何も言わなくなったそうだけど、今でも美織の実家に怒っているらしい。
美織は、清兵衛さんと道ですれ違ったりすると、睨まれると言っていた。俺だって怖いんだから、美織はもっと怖いだろう。
鍼灸院に戻ると、美織は自作のカツサンドを食べていた。
「あれ、お弁当買わなかったんですか?」
「星野さんと長話ししてたら、売り切れた」
「わたしのお弁当、半分あげましょうか?」
「いや、いいよ。俺には梅干し茶漬けがある」
二階に上がって、お湯を沸かし、冷えたご飯にお湯をかけ、梅干しをひとつ、載せる。
爺ちゃんからもらった梅干しは、なかなかうまい。
こういうシンプルな食事も悪くないけど、何日も続くと飽きてくる。
やっぱり、お客を増やす工夫をしなければ。
俺は以前から待合室に水槽を設置したいと思っていた。
同じ商店街の美容室にも、爺ちゃんがよく行く碁会所にも、大きな水槽がある。
水槽があるとキレイだし、集客にも効果があるそうだ。
アクアショップに水槽を見に行かねばなるまい。
商店街には一軒だけアクアショップがある。フィッシュランドという古い店だ。熱帯魚だけじゃなくて、ハムスターやカブトムシや小鳥なんかも売っている。
フィッシュランドのオーナー小野寺さんは、ちょっと変わった人だ。
小野寺さんは、一年中、ツチノコとか、カッパを探して日本中を駆け回っている。だから店にいないことが多い。
小野寺さんがいないときは、バイトの加山さんが店を切り盛りしている。
加山さんは大学生らしいけど、大学よりもバイトの方が本業みたいになっていて、留年を繰り返しているそうだ。
高い買い物をするときは、加山さんが店番をしているときに限る。
加山さんは儲けることなんか考えてない。売れればいいという考えなので、損をしない範囲でいくらでもまけてくれる。
逆に小野寺さんはボッタクリだ。俺も小学生の時、世界一大きいカブトムシだと言われて、高い幼虫を買ったことがある。
でも、それは小さくて、しかも、メスのカブトムシだった。文句を言ったら、育て方が悪いからメスになったと言い返されて、諦めたことがある。
いま考えてみると俺はダマされていた。小野寺さんは、油断ならない。
後でフィッシュランドに行って、水槽を設置するのにいくらかかるかきいてみようか。
電話が鳴った。
予約の電話か?
清兵衛さんは気難しくて有名。クレーマーの噂もある。こんなときは、笑顔で会釈が俺流。
「お前、この店の洋菓子を食べたことあるか?」
スルドイ目つき。怒っている。
「いえ、食べたことはありません」
「本当か?」
「本当です。専門店のケーキは、高級品ですから、僕には手が出ません」
「なら、よろしい」
「はあ」
「今後も、こんな店の洋菓子など、食べてはならんぞ」
「どうしてですか?」
「どうしても、こうしても、あるかっ!
ダメなものは、ダメ。わかったか」
「はい」
「こんな店を作りおって」
清兵衛さんは腕組みをしながら、自分の店に帰って行った。
すぐ近所なのに、あんなことを言って、ダイジョウブだろうか。
清兵衛さんは、どういうわけか、何の関係もない人に文句を言う人だ。
美織の実家も被害者だ。
篠原第二ビルを建てるとき、清兵衛さんはものすごく反対したらしい。
篠原第二ビルは、越後屋からかなり離れている。
清兵衛さんの店がビルの日陰になることもないし、ビルを建てるときの騒音もぜんぜん届かない距離だ。
それでも清兵衛さんは、毎日のように工事現場に来て、作業員の人たちに文句を言っていたそうだ。
清兵衛さんは「すぐに工事を止めろ」と言うだけで、何も理由を言わなかったらしい。
もしも清兵衛さんに迷惑が掛かっているなら、迷惑にならないようにすると言ってもダメだった。
とにかく止めろの一点張りで、理由を説明しない。
要するに、何となく気に食わないだけなんだろう。ただのガンコ爺さんなのかもしれない。
基礎工事が終わってからは、何も言わなくなったそうだけど、今でも美織の実家に怒っているらしい。
美織は、清兵衛さんと道ですれ違ったりすると、睨まれると言っていた。俺だって怖いんだから、美織はもっと怖いだろう。
鍼灸院に戻ると、美織は自作のカツサンドを食べていた。
「あれ、お弁当買わなかったんですか?」
「星野さんと長話ししてたら、売り切れた」
「わたしのお弁当、半分あげましょうか?」
「いや、いいよ。俺には梅干し茶漬けがある」
二階に上がって、お湯を沸かし、冷えたご飯にお湯をかけ、梅干しをひとつ、載せる。
爺ちゃんからもらった梅干しは、なかなかうまい。
こういうシンプルな食事も悪くないけど、何日も続くと飽きてくる。
やっぱり、お客を増やす工夫をしなければ。
俺は以前から待合室に水槽を設置したいと思っていた。
同じ商店街の美容室にも、爺ちゃんがよく行く碁会所にも、大きな水槽がある。
水槽があるとキレイだし、集客にも効果があるそうだ。
アクアショップに水槽を見に行かねばなるまい。
商店街には一軒だけアクアショップがある。フィッシュランドという古い店だ。熱帯魚だけじゃなくて、ハムスターやカブトムシや小鳥なんかも売っている。
フィッシュランドのオーナー小野寺さんは、ちょっと変わった人だ。
小野寺さんは、一年中、ツチノコとか、カッパを探して日本中を駆け回っている。だから店にいないことが多い。
小野寺さんがいないときは、バイトの加山さんが店を切り盛りしている。
加山さんは大学生らしいけど、大学よりもバイトの方が本業みたいになっていて、留年を繰り返しているそうだ。
高い買い物をするときは、加山さんが店番をしているときに限る。
加山さんは儲けることなんか考えてない。売れればいいという考えなので、損をしない範囲でいくらでもまけてくれる。
逆に小野寺さんはボッタクリだ。俺も小学生の時、世界一大きいカブトムシだと言われて、高い幼虫を買ったことがある。
でも、それは小さくて、しかも、メスのカブトムシだった。文句を言ったら、育て方が悪いからメスになったと言い返されて、諦めたことがある。
いま考えてみると俺はダマされていた。小野寺さんは、油断ならない。
後でフィッシュランドに行って、水槽を設置するのにいくらかかるかきいてみようか。
電話が鳴った。
予約の電話か?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる