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古井戸と龍脈 その1
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「すいません。やってますか?」
ドアの方を見ると、痩せた男の人が、ドアを少し開けてこちらを見ている。
帽子をかぶっているからよくわからないけど、服のセンスから見て、かなりのお年寄りだ。爺ちゃんと同じくらいだろう。
「ええと、診療ですか?」
「はい」
「やってますよ」
「今からいいですか?」
「ちょっと待ってくださいね」
俺は一応、予約ノートを開く。
予約なんてないけど、ヒマなのがバレないようにするわけだ。
「お客さんラッキーですね!
今日も予約がいっぱいですけど、ちょうど今だけ空いています。
治療室の方へどうぞ」
男の人は、治療室に入ると、帽子を取った。どこかで見たことがある人だ。
「お名前は?」
「山根芳治です」
「山根さんですね」
同じ名前のファイルはなかった。やっぱり、初診の患者さんだ。
俺は新しい診療記録に名前を書き込んだ。
「どうされました?」
「二か月くらい前に腰を痛めちゃってね、病院で薬をもらって飲んでいるんだけど、薬を飲むと胃が荒れちゃうんだよ」
「確かに、鎮痛剤は胃によくありません」
「やっぱり、そうなんだね。
それで、友達にきいたらさ、鍼が効くって言うから、来てみたんだけど」
「それは大正解です。腰痛といえば鍼治療、鍼治療と言えば腰痛です」
「でも、痛いんだろう?」
「痛くなんかありません。
特に、腕がいい鍼師が打てば、いつ鍼を打ったか、ぜんぜんわからないくらいです。
そして、なんと、この俺は、日本一腕がいいんです」
「……」
思いがけず天才鍼師に出会って言葉も出ないようだ。
「では、服を脱いで、そこのベッドにうつぶせになってください」
「はあ」
服を脱ぐと、意外にも筋肉質。痩せていると思ったのは、ムダな脂肪がぜんぜんないからだった。
「何かスポーツをされているんですか?」
「合気道をちょっと」
ちょっと?
武術の場合、スゴイ人ほど謙遜する。この人、タダ者ではないかも。
目を細めて意識を集中すると、腰と左のふくらはぎに黒い影が見えた。
まずは腰だ。
俺はディスポ三番鍼を腰に打ち、捻転瀉法をキメた。
黒い影が消えて行く。鍼の頭から悪い気が抜けて行くのがわかる。
「あれ? 腰が軽くなった」
「当然です。これが鍼の実力。でも、もう一本打ちます。
タダ痛みを取るだけなんて不親切。
経絡のゴミを洗い流して、カスミ目をスッキリさせちゃいます」
俺は左足のズボンのすそをめくって、ふくらはぎの中央に見える黒い影に鍼を打った。
鍼を回転させると、出てくる、出てくる。
腰に溜まっていた悪い気よりも、こっちのほうが問題だ。
スッカリ黒い影が無くなったところで抜鍼。これでスムースに気が流れる。
我ながらいい仕事をした。
「終わりました」
山根さんは起き上がって不思議そうな顔をしている。
「どうですか?」
「なんだかスッキリしたよ。それに、モノがよく見える」
「目の調子が悪かったのは、経絡に溜まった悪い気のせいです。
それをスッカリきれいにしましたから、もう老眼鏡を使う必要もありません」
「鍼って、スゴイね」
「おっしゃる通りです」
「おお、芳治じゃないか。どうしたんじゃ?」
ドアの方を見ると、痩せた男の人が、ドアを少し開けてこちらを見ている。
帽子をかぶっているからよくわからないけど、服のセンスから見て、かなりのお年寄りだ。爺ちゃんと同じくらいだろう。
「ええと、診療ですか?」
「はい」
「やってますよ」
「今からいいですか?」
「ちょっと待ってくださいね」
俺は一応、予約ノートを開く。
予約なんてないけど、ヒマなのがバレないようにするわけだ。
「お客さんラッキーですね!
今日も予約がいっぱいですけど、ちょうど今だけ空いています。
治療室の方へどうぞ」
男の人は、治療室に入ると、帽子を取った。どこかで見たことがある人だ。
「お名前は?」
「山根芳治です」
「山根さんですね」
同じ名前のファイルはなかった。やっぱり、初診の患者さんだ。
俺は新しい診療記録に名前を書き込んだ。
「どうされました?」
「二か月くらい前に腰を痛めちゃってね、病院で薬をもらって飲んでいるんだけど、薬を飲むと胃が荒れちゃうんだよ」
「確かに、鎮痛剤は胃によくありません」
「やっぱり、そうなんだね。
それで、友達にきいたらさ、鍼が効くって言うから、来てみたんだけど」
「それは大正解です。腰痛といえば鍼治療、鍼治療と言えば腰痛です」
「でも、痛いんだろう?」
「痛くなんかありません。
特に、腕がいい鍼師が打てば、いつ鍼を打ったか、ぜんぜんわからないくらいです。
そして、なんと、この俺は、日本一腕がいいんです」
「……」
思いがけず天才鍼師に出会って言葉も出ないようだ。
「では、服を脱いで、そこのベッドにうつぶせになってください」
「はあ」
服を脱ぐと、意外にも筋肉質。痩せていると思ったのは、ムダな脂肪がぜんぜんないからだった。
「何かスポーツをされているんですか?」
「合気道をちょっと」
ちょっと?
武術の場合、スゴイ人ほど謙遜する。この人、タダ者ではないかも。
目を細めて意識を集中すると、腰と左のふくらはぎに黒い影が見えた。
まずは腰だ。
俺はディスポ三番鍼を腰に打ち、捻転瀉法をキメた。
黒い影が消えて行く。鍼の頭から悪い気が抜けて行くのがわかる。
「あれ? 腰が軽くなった」
「当然です。これが鍼の実力。でも、もう一本打ちます。
タダ痛みを取るだけなんて不親切。
経絡のゴミを洗い流して、カスミ目をスッキリさせちゃいます」
俺は左足のズボンのすそをめくって、ふくらはぎの中央に見える黒い影に鍼を打った。
鍼を回転させると、出てくる、出てくる。
腰に溜まっていた悪い気よりも、こっちのほうが問題だ。
スッカリ黒い影が無くなったところで抜鍼。これでスムースに気が流れる。
我ながらいい仕事をした。
「終わりました」
山根さんは起き上がって不思議そうな顔をしている。
「どうですか?」
「なんだかスッキリしたよ。それに、モノがよく見える」
「目の調子が悪かったのは、経絡に溜まった悪い気のせいです。
それをスッカリきれいにしましたから、もう老眼鏡を使う必要もありません」
「鍼って、スゴイね」
「おっしゃる通りです」
「おお、芳治じゃないか。どうしたんじゃ?」
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