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古井戸と龍脈 その3
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「どこに行くの?」
「決まっとるじゃろう。菊代さんの所じゃ」
俺たちは隣の満福堂に向かった。
「あれ、権蔵さん、芳治も。いらっしゃい」
菊代婆さんは、さっきの和服姿のまま、カウンターの向こうに座っていた。
「菊代さん、井戸を埋めたって聞いたけど、本当かい?」
「本当ですよ。二か月前くらいかしらね」
「悪いけど、ちょっと庭を見せてくれないか?」
「どうぞ、ご自由に」
爺ちゃんは小さい頃から満福堂に出入りしている。
満福堂のことなら、自分の家みたいに知り尽くしている。
俺たちは、カウンターの奥に続いている土間を通って裏庭へ出た。
キレイに整った植木が庭を囲んでいる。
「跡形もなくなくなっておるな」
「どうだ、すごいだろ。
あの大きな井戸をワシひとりで片づけたんだぞ」
爺ちゃんは羅盤を見ながら庭を歩き回った。
「やはり、これじゃ……
井戸が陽気を引き寄せておったのじゃ。
それを埋めてしまったから、満福堂から鍼灸院に流れていた龍脈が途切れてしまったのじゃ」
「どうすればいいの?」
「原因がわかれば、打つ手はある。
伸、お前は鍼灸院で待っておれ。
芳治、済まんが、手伝ってくれ」
「いいけど、何をすればいいんだ?」
「ワシについてきてくれ」
爺ちゃんたちは駆け足で商店街に出て行った。
「伸ちゃん、甘いものでも食べて行くかい?」
「いいんですか?」
ラッキーだ。おはぎとお茶のセットかな?
俺は、菊代婆さんに呼ばれて、四畳半の部屋に上がった。
「これなんだけどね、おいしいのよ」
「え、これは?」
「シエル・ブランのショートケーキ。もう食べたかい?」
「あ、いや、気にはなっていたんですけど、まだ、食べたことはありません」
「あの店はホンモノだよ。いい腕してる。
あたしゃね、あそこのケーキを全種類食べたけど、どれも絶品。
太鼓判を押してもいい」
「えーっと、ライバルとかじゃないんですか?」
「どうして?」
「だって、スイーツの店が増えたら、お客を取られちゃうじゃないですか」
「二流の店ならそうかもしれないよ。
だけどね、シエル・ブランほどの店なら、他の町内からもお客が来る。
そうなれば商店街全体が盛り上がって、ウチの客は反って増える。
実際に、シエル・ブランができてから、おはぎの売れ行きもうなぎ上りなんだよ」
「へー、意外ですね。お客さん、増えてるんだ」
商店街が盛り上がっているのに、どうして俺の客は増えないんだ?
まあ、いいか。深く考えないのが俺流。
「決まっとるじゃろう。菊代さんの所じゃ」
俺たちは隣の満福堂に向かった。
「あれ、権蔵さん、芳治も。いらっしゃい」
菊代婆さんは、さっきの和服姿のまま、カウンターの向こうに座っていた。
「菊代さん、井戸を埋めたって聞いたけど、本当かい?」
「本当ですよ。二か月前くらいかしらね」
「悪いけど、ちょっと庭を見せてくれないか?」
「どうぞ、ご自由に」
爺ちゃんは小さい頃から満福堂に出入りしている。
満福堂のことなら、自分の家みたいに知り尽くしている。
俺たちは、カウンターの奥に続いている土間を通って裏庭へ出た。
キレイに整った植木が庭を囲んでいる。
「跡形もなくなくなっておるな」
「どうだ、すごいだろ。
あの大きな井戸をワシひとりで片づけたんだぞ」
爺ちゃんは羅盤を見ながら庭を歩き回った。
「やはり、これじゃ……
井戸が陽気を引き寄せておったのじゃ。
それを埋めてしまったから、満福堂から鍼灸院に流れていた龍脈が途切れてしまったのじゃ」
「どうすればいいの?」
「原因がわかれば、打つ手はある。
伸、お前は鍼灸院で待っておれ。
芳治、済まんが、手伝ってくれ」
「いいけど、何をすればいいんだ?」
「ワシについてきてくれ」
爺ちゃんたちは駆け足で商店街に出て行った。
「伸ちゃん、甘いものでも食べて行くかい?」
「いいんですか?」
ラッキーだ。おはぎとお茶のセットかな?
俺は、菊代婆さんに呼ばれて、四畳半の部屋に上がった。
「これなんだけどね、おいしいのよ」
「え、これは?」
「シエル・ブランのショートケーキ。もう食べたかい?」
「あ、いや、気にはなっていたんですけど、まだ、食べたことはありません」
「あの店はホンモノだよ。いい腕してる。
あたしゃね、あそこのケーキを全種類食べたけど、どれも絶品。
太鼓判を押してもいい」
「えーっと、ライバルとかじゃないんですか?」
「どうして?」
「だって、スイーツの店が増えたら、お客を取られちゃうじゃないですか」
「二流の店ならそうかもしれないよ。
だけどね、シエル・ブランほどの店なら、他の町内からもお客が来る。
そうなれば商店街全体が盛り上がって、ウチの客は反って増える。
実際に、シエル・ブランができてから、おはぎの売れ行きもうなぎ上りなんだよ」
「へー、意外ですね。お客さん、増えてるんだ」
商店街が盛り上がっているのに、どうして俺の客は増えないんだ?
まあ、いいか。深く考えないのが俺流。
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