天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ！

邪気を根こそぎ退治してやるっ！

　鍼先が呪気に届いたみたいだ。

　得意の捻転瀉法ねんてんしゃほうで抜き出してやる。

　俺は鍼をゆっくり回転させた。鍼が弱く光り始める。

　俺の気が呪気を引きずり出そうとしている証拠だ。

　でも、呪気は深部経絡しんぶけいらくにしがみついて外に出てこない。

　呪気は思ったよりも強いエネルギーを秘めているようだ。

　俺の気力は鬼を二回も治療して弱っている。

　呪気を抜き出すには、ふつうの捻転瀉法ねんてんしゃほうでは力不足だ。

　全身の気を丹田たんでんに集めて指先に送る送気法を使うしかない。

　体力が弱っているときに、この送気法を使うと、一気に生命エネルギーを消耗して、最悪の場合は死ぬこともあるらしい。

　でも、関係ない。

　由香里ちゃんの父さんの誕生日はあしただ。

　いま決着をつけなければ、もう間に合わない。

　俺は丹田に全身の気を集中した。腹が熱くなってきた。

　腹の中に火の玉をイメージして、それを肩から腕に移動させる。

　火の玉が鍼をもつ指まで下りてきた。鍼の青光りが輝きを増す。

　俺は鍼の動きを一瞬止め、爆発寸前のエネルギーを指先に溜めてから、一気に放出した。

　イケる！

　鍼の頭が白く光り始め、黒い煙が出て来た。

　指先が熱く、痛い。

　星野さんがあわてて窓を開けた。

　鍼の頭から噴き出す煙が窓の外へ流れて行く。

　深部経絡の影が消えてゆく……

　指先が熱湯につけているみたいに熱い。

　俺は右の手首を左手で握って、指を鍼から離さないように気合を入れた。

　煙の勢いが弱まり、色が白く変わり、最後に何も出なくなった。

　深部経絡の影が完全に消えている。

　由香里ちゃんがゆっくり目を開けた。

　やった！　俺は蠱病を治したんだ！

　でも、もう限界。立っている気力もない。

　意識もボーっとしてきた。

　俺はその場で床に倒れた。