天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ！

捨て身の治療

　俺は爺さんに駆け寄って、目を細め、意識を集中した。

　絡み合った網目のような経絡が見えた。

「あんたも鬼なんだな？」

「そうじゃ。よくわかるな」

「そのくらい、天才鍼師には、お見通しです」

　背中に黒い影が見える。悪い気がずいぶん溜まっているみたいだ。

　俺はその影に打鍼した。

　固い。鍼先が経絡まで届かない。これは時間がかかりそうだ。

　ツボが腹のほうだったら、自分で鍼を回すように言って、この場を離れることもできたのに、よりによって背中とは……

　俺はゆっくり鍼を回して鍼先を少しずつ経絡に近づけた。

　もう軽く三分以上経っている。
　これだけで十五年も寿命が縮んだのか。クソっ！

　それにしても筋肉が固い。人間ではありえない硬さだ。

　鬼の慢性病っていうのは、何百年もかけて凝り固まったものなんだろう。

　それを短い時間で治すのは、フツウの鍼師にはムリ。

　でも俺は天才だからわかる。

　もう少し時間をかければ治せる。
　鍼先と経絡の間合いがわかるんだ。

　経脈の周りを固めているコリ。
　それを和らげる念を送りながら、鍼先を沈める。

　もう少し……

　おっと、やっと来た！

　指先に燃えるような熱を感じる。

　指を離すと、鍼は回転を始め、黒い煙が鍼の頭から噴き出した。

「ここまで来ればダイジョウブ。
　鍼を抜くのは、自分でもできるでしょう？」

　俺が歩き始めると、爺さんは俺の腕をつかんだ。
　ものスゴイちからだ。

　爺さんの手を見ると、指先は鳥の爪のようにスルドかった。

「離してくれ。
　これ以上寿命が縮まったら、生き返ってもイミなくなるんだ」

「寿命が縮まるのがイヤなら、なぜワシを助けた？」