天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ!

久遠寺遥

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中国の秘術・還魂鍼(はんごんしん)

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「父さんが中国に行くと、どうして母さんが助かるんですか?」

蠱病こびょうから救うために、還魂鍼はんごんしんの修業をしておったのじゃ」

「還魂鍼って?」

安徽省亳州あんきしょうはくしゅうに伝わる秘鍼ひしんじゃ。
 還魂鍼を打つと、肉体から魂と邪気が同時に抜ける。
 魂が抜けるということがどういうことか、わかるな?」

「それって、死ぬっていうこと?」

「そうじゃ。還魂鍼を打つと、一度死ぬ。
 じゃが、魂だけを想念のちからで呼び戻すことができるのじゃ。
 そうして生き返った体からは邪気が消えておる」

「そんなスゴイ鍼術しんじゅつがあるのか……」

「じゃが、還魂鍼には大きな問題がある」

「どんな?」

「還魂鍼を打てば患者は助かる。じゃが、還魂鍼を打った者はその場で死ぬのじゃ。
 還魂鍼はおのれの命と引き換えに患者を救う究極の鍼術」

「父さんは、その鍼を母さんに打とうとしていたの?」

「そうじゃ」

「父さん、死ぬつもりだったのか……」

史門しもんのやつ、最初はそのつもりで修業しておったのじゃが、
 修業が完成した直後に、蠱病こびょうを治す解毒薬があることがわかったのじゃ」

「なんだ、蠱病って薬で治るんだ」

「タダの薬ではない。特別な霊薬じゃ。
 史門はその薬を手に入れるために、いままで中国を旅しておったのじゃ」

「薬は手に入ったの?」

「手に入れたようじゃ。今朝、飛行場から電話があった」

「じゃあ、こっちに向かっているの?」

「台風の関係で、まだ空港に足止めになっておるそうじゃ。
 飛行機は遅れたり欠航になったりすることもあるからのう」

「だったら、俺が鍼を打ちますよ。
 父さんが間に合わなくても、問題ありません」

「お前の鍼で弥生やよいさんが治っていたら、史門のやつ、きっと驚くぞ」

「ですよね」

「事情は高木先生が知っておる。
 ワシは後から行くから、お前は先に行ってくれ」

「爺ちゃん、なにか用事でもあるの?」

「ちょっと、な」

「じゃあ、サクッと治してきます」

 俺は白衣をつかんで外に出た。

 そう言えば、俺が病院で寝落ちしそうになったとき、美織と爺ちゃんが「間に合うかな?」という話をしていた気がする。

 きっと、美織も母さんのことを知っていたんだ。

 どうして美織が知っているのかな?

 不思議だけど、細かいことは考えないのが俺流。

 とにかく、今は母さんの治療のことだけ考えればいい。

 受付で高木先生に会いたいというと、内線で呼び出してくれた。

 高木先生は走ってやってきた。

「伸君、待っていたよ」

「母さんはどこにいるんですか?」

「六階だ」

「もしかして、あの、開かずの間が?」 

「あの部屋のことを知っていたのか?」

「はい、前に一度だけ六階に行ったことがあります」

「あの部屋の中は結界になっている。
 部屋の中に十分以上いると気を失ってしまうんだ」

 エレベーターで六階に上がると、星野さんが待っていた。

「とうとうこの日が来たんですね」

「星野さんも知ってたんですか?」

「ごめんなさい。今まで黙ってて」

「いや、いいんです」

 廊下の奥の部屋の前まで来ると、星野さんは病室の鍵を回した。

 スーッとドアが開いた。
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