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プロローグ 人類最後の戦争の結末は
プロローグ前編 男女間の争いが続いた世界の末路だな、こいつは
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「あんたが……この星で最後の『男』ね……!」
荒れ果てた廃墟……恐らくはかつては工場だったのだろう……の中で、一人の女性がハンマーを手に、一人の男性に近づきながら尋ねる。
彼女の服はボロボロで、あちこちに破れた跡がある。
長く伸びたその髪はろくに手入れもされておらず、酷く荒れている。……というよりは、そもそも彼女は『金属製の散髪道具』を人生で持つことがなかったのだろう、強引にちぎりとったような髪型となっている。
その言葉に対して、その中年の男性は答える。
「……君は……この星で最後の『女』だな……?」
彼もやはり、ボロボロのコートとマフラーを身にまとい、そう答える。
口にはひげが伸び放題に伸びており、その相貌は実年齢よりもかなり老けて見える。
彼はナイフをそっと胸元に構えつつ尋ねた。
「私の名前はアダム。君は?」
その発言に、少しクスリと笑うような表情を見せて答えた。
「イヴよ。……人類最後の男女の名前としては、互いに皮肉な名前ね……」
イヴの口調に怒りのような感情はなく、寧ろアダムの容姿とその落ち着いた態度に好意を持っているようにすら感じられた。
「時代が違えば、愛し合えたのかもね、私たち……」
「……そうだな……人類の歴史の結末が、こんなことになるとは……悲しいな……」
それはアダムも同様なのだろう。彼女を見据えながらつぶやくその眼には、わずかに涙のようなものが見えた。
「互いの武器は……石器のハンマーとナイフか……これまた皮肉だな……」
「ええ。人類最初の戦争と、最後の戦争の武器が同じなんてね?」
この世界では、男女間の争いがエスカレートし続けた結果、ある時に全面戦争となった。
その歴史上最大の『男女戦争(女性側は『女男戦争』と呼んでいた)』によって世界は荒廃し、多くの文明・文化が失われていた。
惑星資源が枯渇したことに加え、技術者の死と技術書の消滅によって、冶金技術もとうの昔にロストテクノロジーと化した。
そんなこの世界では、アダムとイヴは石器以外に武器を選択することは出来なかったのだろう。
そしてイヴはハンマーを正眼に構え、同じように涙に目をうるませながらつぶやく。
……歴戦の戦士であるはずのアダムとイヴの武器の構え方は、客観的に見て『素人そのもの』だ。
どちらも力任せに相手を殴りつける、或いは切り付けることしか知らない。そんな印象を見るものに与える。
その二人の構えからは、長年の闘争の歴史の中で培われた人類の『戦闘技術』も失伝したことが伺えた。
そしてイヴは『宣戦布告』を行う。
「じゃ……『最終戦争』を始めましょ?」
「だな……」
それにアダムも呼応し、殺気をみなぎらせる。
……或いはここで戦いを辞め、創世神話の時代から二人で文明をやり直すという選択肢もあったのかもしれない。
だが、この二人はすでに今日に至るまでに多くの仲間の死を負いすぎてしまった。
アダムは数多の男性の命を背負い、イヴは数えきれないほどの女性の死を乗り越え、今この場にいる。
それに加えて、アダムはミソジニーの思想を幼少期より植え付けられ、イヴはミサンドリーの思想を母親より与えられ続けてきた。
そのクソったれな『知恵の実』をずっと大人から食べさせられ続けてきた二人は、すでに呪いとも言える行動理念に突き動かされている。
……そんなアダムとイヴには、もはや和解の道は許されるはずもなかった。いわんや、『夫婦』という言葉すら失われたこの世界では、二人で新たな命を紡ぐなど想像すら出来なかったのだろう。
しばしの静寂の後、二人の影が交差する。
荒れ果てた廃墟……恐らくはかつては工場だったのだろう……の中で、一人の女性がハンマーを手に、一人の男性に近づきながら尋ねる。
彼女の服はボロボロで、あちこちに破れた跡がある。
長く伸びたその髪はろくに手入れもされておらず、酷く荒れている。……というよりは、そもそも彼女は『金属製の散髪道具』を人生で持つことがなかったのだろう、強引にちぎりとったような髪型となっている。
その言葉に対して、その中年の男性は答える。
「……君は……この星で最後の『女』だな……?」
彼もやはり、ボロボロのコートとマフラーを身にまとい、そう答える。
口にはひげが伸び放題に伸びており、その相貌は実年齢よりもかなり老けて見える。
彼はナイフをそっと胸元に構えつつ尋ねた。
「私の名前はアダム。君は?」
その発言に、少しクスリと笑うような表情を見せて答えた。
「イヴよ。……人類最後の男女の名前としては、互いに皮肉な名前ね……」
イヴの口調に怒りのような感情はなく、寧ろアダムの容姿とその落ち着いた態度に好意を持っているようにすら感じられた。
「時代が違えば、愛し合えたのかもね、私たち……」
「……そうだな……人類の歴史の結末が、こんなことになるとは……悲しいな……」
それはアダムも同様なのだろう。彼女を見据えながらつぶやくその眼には、わずかに涙のようなものが見えた。
「互いの武器は……石器のハンマーとナイフか……これまた皮肉だな……」
「ええ。人類最初の戦争と、最後の戦争の武器が同じなんてね?」
この世界では、男女間の争いがエスカレートし続けた結果、ある時に全面戦争となった。
その歴史上最大の『男女戦争(女性側は『女男戦争』と呼んでいた)』によって世界は荒廃し、多くの文明・文化が失われていた。
惑星資源が枯渇したことに加え、技術者の死と技術書の消滅によって、冶金技術もとうの昔にロストテクノロジーと化した。
そんなこの世界では、アダムとイヴは石器以外に武器を選択することは出来なかったのだろう。
そしてイヴはハンマーを正眼に構え、同じように涙に目をうるませながらつぶやく。
……歴戦の戦士であるはずのアダムとイヴの武器の構え方は、客観的に見て『素人そのもの』だ。
どちらも力任せに相手を殴りつける、或いは切り付けることしか知らない。そんな印象を見るものに与える。
その二人の構えからは、長年の闘争の歴史の中で培われた人類の『戦闘技術』も失伝したことが伺えた。
そしてイヴは『宣戦布告』を行う。
「じゃ……『最終戦争』を始めましょ?」
「だな……」
それにアダムも呼応し、殺気をみなぎらせる。
……或いはここで戦いを辞め、創世神話の時代から二人で文明をやり直すという選択肢もあったのかもしれない。
だが、この二人はすでに今日に至るまでに多くの仲間の死を負いすぎてしまった。
アダムは数多の男性の命を背負い、イヴは数えきれないほどの女性の死を乗り越え、今この場にいる。
それに加えて、アダムはミソジニーの思想を幼少期より植え付けられ、イヴはミサンドリーの思想を母親より与えられ続けてきた。
そのクソったれな『知恵の実』をずっと大人から食べさせられ続けてきた二人は、すでに呪いとも言える行動理念に突き動かされている。
……そんなアダムとイヴには、もはや和解の道は許されるはずもなかった。いわんや、『夫婦』という言葉すら失われたこの世界では、二人で新たな命を紡ぐなど想像すら出来なかったのだろう。
しばしの静寂の後、二人の影が交差する。
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