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第5章 絶対に『優しい子』になる薬なんて最低だ
5-2 いい子であるうちは、親はいくらでも愛情を注げるんだよ
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それから少しの後。
「おめでとう、ご懐妊ですよ」
そういいながら、産婦人科の女医は妊婦に対してにこりと笑った。
「よかった……」
彼女はそう、歓喜の表情を浮かべた。
彼女は『天使』の夫と、女友達の3人で生活をしている(天使同士は絶対に恋愛感情を持たないため、不倫される心配はない)。
勿論『天使』には生殖能力がないため、彼女は精子バンクを使って子どもを授かったのである。
そして彼女に対して、この女医は薬を一錠差し出した。
「よかったら、※このお薬を飲みませんか?」
(※この世界は『地球』ではない。そのため、女医が突然処方箋もなしに薬を出すような非現実的なことをしても、おかしいわけではない)
突然出されたカプセルを見て、怪訝な表情で見つめる。
「これは?」
「これはね。『いい子の薬』という、とても素敵なお薬なんですよ。以前『天使』の方からいただいたんですけどね」
「へえ……どんなお薬なんですか?」
そう妊婦が尋ねると、女医は得意げに答える。
「この薬を飲むとね。生まれた子どもはとても頭が良くて運動神経も良くて、容姿が優れた子になるんですよ」
そういうと、一枚の写真を見せてきた。そこには、あまり美しい容姿ではない母親と、それに見合わない、まるでモデルのような息子が二人一緒に笑っていた。
「ほら、見てください。この親御さんの子どもったらね。お兄ちゃんはサッカーの大会で優勝して、弟はテストで100点取ったって話なんですよ」
「へえ……」
「けど、本当に凄いのはね。この薬を飲んだ人は相手のことを第一に考えられて……。どんな時も、自分より相手を大切に出来る、優しい子に育つってことなんですよ!」
そういいながら、他の写真を何枚か妊婦に見せた。
体調が悪そうな母親に対して、水を出したり薬を出したりと、甲斐甲斐しく世話をする息子たち。
仕事で疲れている父親を見て、肩を揉んでビールを注いでくれる娘たち。
同じく仕事で疲れて帰ってきた母親を見て、小さな妹のことをあやしながらご飯の支度をする兄。
そんな姿が映っていた。
だが、それを見ても妊婦は、
「うーん……。けど、それって洗脳じゃない? 私はもっと、子どもにはのびのび育ってほしいけど……」
そう不安そうに答えるが、女医は余裕の表情を崩さない。
「それは、毒親の発想ですよ? ……『いい子』になれるのは、子どもの幸せにも繋がるんですよ? 見てください、あれを」
そういうと、女医は窓の外を指さす。
そこには、やはり美しい容姿をした少年と、彼のことを憧れの表情で見つめる少女がいた。
「あの子は『いい子の薬』を飲んで産んだ、私の息子です。そしてあちらは幼馴染の隣の子、ミノリちゃんというんです」
少年は、庭一杯に育ったチューリップを指さし、ミノリに尋ねる。
「ほら、見てよ。ミノリちゃん。このお花、やっと咲いたんだよ?」
「うわあ、綺麗!」
そういわれて、少年は恥ずかしそうに頭を書いて答える。
「えへへ、ミノリちゃんに喜んでもらいたくて、頑張ったんだ」
「ありがと……」
それを聴いて、嬉しそうに答える。
因みに少年が庭にチューリップを植えたのは、勿論ミノリのためである。
しかし他にも、このクリニックに彼女を呼ぶのも目的であった。
少年は、
「お母さん(この女医のこと)は、本当は女の子が欲しかった。だからミノリちゃんを自分の娘のように可愛がっている」
「お母さんは、本当は自分よりミノリちゃんの方が好きである」
ということも理解していた。
『いい子』である少年は、母親の偏愛に対して嫉妬を覚えることなどないし、自分よりミノリと母親の幸せを第一に考える。
そのため、彼は母親がミノリとおしゃべり出来る時間を増やすために、ガーデニングを始めていたのも理由となる。
更に少年は、普段と微妙な言動の違いから、ミノリの異変を察知して尋ねる。
「そういえばさ、いつもより元気がなくない? どうしたの?」
「え、分かるの?」
それを言われて、ミノリは少し驚いたように少年に尋ねる。
「実はさ……。学校で友達と喧嘩しちゃってさ」
「うん……話聴くよ?」
「ありがと。……実はさ……」
それからしばらく、月並みな人間関係の悩みについて話し続けた。
この年代の男子生徒なら、
「そんなつまんねーことでうじうじしてんなよ、な!」
の一言で済ませてしまうことも多いだろう。
だが、少年は相手の目をしっかり見て、うんうんとうなづきながら話を聴いてくれる。
「それでさ! その子ったら酷いの! それでね!」
しかも今回のトラブルの原因は、
「ミノリが陰口を叩いていたのを友人が腹を立て、先生に言いつけたことで喧嘩になった」
ということだ。
言うまでもないが、客観的に見れば、このトラブルはミノリの方が悪い。
だが、彼はそのような意見は出さずに、
「……ミノリちゃんはさ。いつも優しいから、周りが甘えちゃってるんだね。でも、頑張っているミノリちゃんのこと、僕は好きだよ?」
そう答えた。
因みに彼の話し方は、普段育児を担当している『天使』の影響を強く受けている。
「おめでとう、ご懐妊ですよ」
そういいながら、産婦人科の女医は妊婦に対してにこりと笑った。
「よかった……」
彼女はそう、歓喜の表情を浮かべた。
彼女は『天使』の夫と、女友達の3人で生活をしている(天使同士は絶対に恋愛感情を持たないため、不倫される心配はない)。
勿論『天使』には生殖能力がないため、彼女は精子バンクを使って子どもを授かったのである。
そして彼女に対して、この女医は薬を一錠差し出した。
「よかったら、※このお薬を飲みませんか?」
(※この世界は『地球』ではない。そのため、女医が突然処方箋もなしに薬を出すような非現実的なことをしても、おかしいわけではない)
突然出されたカプセルを見て、怪訝な表情で見つめる。
「これは?」
「これはね。『いい子の薬』という、とても素敵なお薬なんですよ。以前『天使』の方からいただいたんですけどね」
「へえ……どんなお薬なんですか?」
そう妊婦が尋ねると、女医は得意げに答える。
「この薬を飲むとね。生まれた子どもはとても頭が良くて運動神経も良くて、容姿が優れた子になるんですよ」
そういうと、一枚の写真を見せてきた。そこには、あまり美しい容姿ではない母親と、それに見合わない、まるでモデルのような息子が二人一緒に笑っていた。
「ほら、見てください。この親御さんの子どもったらね。お兄ちゃんはサッカーの大会で優勝して、弟はテストで100点取ったって話なんですよ」
「へえ……」
「けど、本当に凄いのはね。この薬を飲んだ人は相手のことを第一に考えられて……。どんな時も、自分より相手を大切に出来る、優しい子に育つってことなんですよ!」
そういいながら、他の写真を何枚か妊婦に見せた。
体調が悪そうな母親に対して、水を出したり薬を出したりと、甲斐甲斐しく世話をする息子たち。
仕事で疲れている父親を見て、肩を揉んでビールを注いでくれる娘たち。
同じく仕事で疲れて帰ってきた母親を見て、小さな妹のことをあやしながらご飯の支度をする兄。
そんな姿が映っていた。
だが、それを見ても妊婦は、
「うーん……。けど、それって洗脳じゃない? 私はもっと、子どもにはのびのび育ってほしいけど……」
そう不安そうに答えるが、女医は余裕の表情を崩さない。
「それは、毒親の発想ですよ? ……『いい子』になれるのは、子どもの幸せにも繋がるんですよ? 見てください、あれを」
そういうと、女医は窓の外を指さす。
そこには、やはり美しい容姿をした少年と、彼のことを憧れの表情で見つめる少女がいた。
「あの子は『いい子の薬』を飲んで産んだ、私の息子です。そしてあちらは幼馴染の隣の子、ミノリちゃんというんです」
少年は、庭一杯に育ったチューリップを指さし、ミノリに尋ねる。
「ほら、見てよ。ミノリちゃん。このお花、やっと咲いたんだよ?」
「うわあ、綺麗!」
そういわれて、少年は恥ずかしそうに頭を書いて答える。
「えへへ、ミノリちゃんに喜んでもらいたくて、頑張ったんだ」
「ありがと……」
それを聴いて、嬉しそうに答える。
因みに少年が庭にチューリップを植えたのは、勿論ミノリのためである。
しかし他にも、このクリニックに彼女を呼ぶのも目的であった。
少年は、
「お母さん(この女医のこと)は、本当は女の子が欲しかった。だからミノリちゃんを自分の娘のように可愛がっている」
「お母さんは、本当は自分よりミノリちゃんの方が好きである」
ということも理解していた。
『いい子』である少年は、母親の偏愛に対して嫉妬を覚えることなどないし、自分よりミノリと母親の幸せを第一に考える。
そのため、彼は母親がミノリとおしゃべり出来る時間を増やすために、ガーデニングを始めていたのも理由となる。
更に少年は、普段と微妙な言動の違いから、ミノリの異変を察知して尋ねる。
「そういえばさ、いつもより元気がなくない? どうしたの?」
「え、分かるの?」
それを言われて、ミノリは少し驚いたように少年に尋ねる。
「実はさ……。学校で友達と喧嘩しちゃってさ」
「うん……話聴くよ?」
「ありがと。……実はさ……」
それからしばらく、月並みな人間関係の悩みについて話し続けた。
この年代の男子生徒なら、
「そんなつまんねーことでうじうじしてんなよ、な!」
の一言で済ませてしまうことも多いだろう。
だが、少年は相手の目をしっかり見て、うんうんとうなづきながら話を聴いてくれる。
「それでさ! その子ったら酷いの! それでね!」
しかも今回のトラブルの原因は、
「ミノリが陰口を叩いていたのを友人が腹を立て、先生に言いつけたことで喧嘩になった」
ということだ。
言うまでもないが、客観的に見れば、このトラブルはミノリの方が悪い。
だが、彼はそのような意見は出さずに、
「……ミノリちゃんはさ。いつも優しいから、周りが甘えちゃってるんだね。でも、頑張っているミノリちゃんのこと、僕は好きだよ?」
そう答えた。
因みに彼の話し方は、普段育児を担当している『天使』の影響を強く受けている。
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