努力嫌いのニートは、悪役令嬢に転生しても頑張れません!~復讐メインの鬱ゲーの世界でぐうたらしてたら、王子から『慈愛の聖女』と溺愛されました~

フーラー

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2-4 ラミントン王子は、ゼフィーラを買いかぶっています

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「ふう……まあまあね……」

それから数週間が経過し、何とか砂糖らしきものが完成した。
味は、まあまだ灰汁が残っており癖があるが、現時点ではこれ以上こだわっても仕方がないだろう。
私の作業を手伝ってくれたシェフも嬉しそうな表情を見せる。


「おめでとうございます、ゼフィーラ様」
「うん。後は、これを使って何を作ろうかな……」


やっぱり無難にロールケーキが良いかな。
いや、いっそのことチーズケーキなんかもいい。寧ろ小麦粉をあまり使わないような料理のほうがいいか?


そんな風に考えていると、厨房のドアがバタンと開いた。


「おはよう、ゼフィーラ」
「あら、おはよう、ラミントン王子」
「朝から精が出るな。研究の調子はどうだ?」
「ええ。ちょうど、いい感じでできていますわ? ……よかったら、どうぞ」


流石に『国政なんて知ったこっちゃないとばかりにお菓子作りにいそしんでいる』なんてことは王子には言えない。
そこで今は『国の未来のため、ある研究を行っている』とだけ伝えている。

まあ、嘘がバレてもラミントン王子は優しいから許してくれるだろう。
そう思いながら、私は彼に完成したばかりの砂糖を手渡すと王子は信じられないと言わんばかりの表情を見せた。


「なに!? ……まさか、甜菜から砂糖を自作したのか?」
「ええ。流石に、まだまだ灰汁は残りますが……。それでも、国内に流通する菓子には十分かと」

そういうと王子は砂糖をポリポリとかじりながら、真剣な表情をする。
あれ、ひょっとして王子は甘いものが好きだったのかな?


「砂糖の需要は王侯貴族を中心に増加している……だから、砂糖を量産する体制を整えれば……この国の主要産業になるか……或いは平民にも配れるか……ゼフィーラ、君はそこまで考えていたのか?」


何を言ってるんだ、そんな面倒くさいことを私がやるわけがない。そもそも砂糖を作るのは、お菓子作りのためにやってることだ。

もしそういう事業をやるなら、ラミントン王子が一人でやってくれ。そう思いながら私は一枚の羊皮紙を手渡した。


「いえ、私はまだやることがあるので。……レシピはあるので、もし作るなら王子がおひとりでやってくださいませ」
「な……私が一人で、だと……!」


王子はそういうと絶句した。
……まずい、流石に言い方がきつかったか?
いくら王子が優しい人でも、少しフォローを入れとこう。


「あ、いえ! ……ちょっと今のは言葉のあやです! もし、他の人がつくってくださったら、私もうれしいので!」
「そ、そうか……なんということだ……」

よかった、王子はあまり細かいことに頓着しないようだ。
それに、こういう面倒な『素材づくり』なんて、他の奴らにやらせたいというのも本心だ。

……私は、砂糖が作りたいんじゃない。お菓子が作りたいんだ。
弟(めしつかい)も一緒に転生してくれたら、朝から晩まで砂糖を作らせるのに。
そう思いながらも、私は王子に尋ねる。

「ところで、今日は何の御用ですか?」
「ああ、久しぶりに休みが取れたからな。君と一緒に街に視察に生きたいと思っていたんだ」
「視察、ですか……」


正直、私は外出するのが大嫌いな出不精だ。
……だが、近いうちに私は王子にお願いして自分の店を持とうと思っている。
その下見にもなる。


「だめ、か……?」


そしてラミントン王子がこんな風に子犬のような顔を見せた。
……その表情を見ると、幼少期に私の後をついてきてくれた弟(めしつかい)のようだ。まあそんな可愛い弟(めしつかい)も、すぐ生意気なクソガキになり下がったが。


「ええ、是非ご一緒させてください」
「そうか! ……よかった! 君と外出するのは初めてだから嬉しいよ! ……早速支度をしよう」


正直、私は自他ともに認めるぐうたらだ。しかも王子の好意に甘えて、働きもしないで好き勝手にやりたいことだけやって、挙句の果てに訓練も勉強もサボり倒している。

また、ゲーム本編で本物のゼフィーラと王子は復讐を通していびつな関係ながらも絆を深めていた。そんなシーンを思い出すと、流石に良心が痛む。


(……はあ……。ゴメンね、ラミントン。本物の『ゼフィーラ』がここにいたほうが幸せだったわよね……)

私は、ラミントン王子の抱えている劣等感やトラウマも分かっている。
それでいて、彼の辛さに見て見ぬふりをして好き勝手なことをやっているろくでなしだ。


……だが、王子が私と遊びにいきたいのなら、ついて行ってあげよう。
そう思いながら、私はシェフに残りの製造をお願いし、着替えるために自室に戻った。




ーーーーーーー

そしてゼフィーラが自室に戻ったあと、シェフにラミントン王子は神妙な顔で尋ねていた。

「信じられん……。本当にゼフィーラが、これを作ったのか?」
「ええ。……最初は、家畜の餌をどう料理するのか、面白がって見ていたのですが……。まさか、これを砂糖にする製法があったとは……」
「ああ……。それに品質も恐ろしく高い。……彼女はこれでも満足しないとは、なんという向上心だ……」

これは、ラミントン王子の味覚がおかしいわけでも、ゼフィーラの作った砂糖の品質が特別高いわけでもない。

この世界の砂糖の精製技術が低いというのに加え輸送技術も保存技術も進歩していない。そのため『素人の作った灰汁の残る砂糖』でも、長期間の旅と保管で劣化した砂糖よりは品質がいいことが原因である。

さらに興奮するような口調でラミントン王子は続ける。

「しかも、その精製技術を独り占めする気もなく、惜しげなく私にくれたのだぞ? 極論、私がこの製法を考案してもいいということだ……。こんなこと、お前たち料理人の世界では、あり得るのか?」
「いえ……。前代未聞です。私も、部下に料理の味を盗ませないための工夫をいつもしていますから……」


また、この世界ではまだ『弟子を教育して伸ばす』という文化が成熟していない。
そのため『技術は盗むもの』でありながらも、先輩たちは自らの立場を守るため『盗ませない』ようにしている。

そのため、ゼフィーラがポンとレシピを渡したのは『自らの名声ごとラミントン王子に譲る行為』だと認識された。
そしてラミントン王子は、少し驚きながらもシェフに対して呟く。


「なあ……」
「なんでしょうか?」
「……私は……ゼフィーラのようになれるだろうか? 彼女は……。私なんかより優秀で、しかも優しすぎる。まるで……私の兄のようだ……」
「…………」


それを聞いて、シェフは少し黙りこくる。
因みにシェフも幼少期から王子の食事を作っていることもあり、互いを良く見知っている関係だ。


「そうですね……。正直私には、分かりません。ですが……」
「ですが?」

「恐らくゼフィーラ様は王子を試しているのでしょう。……その砂糖を使って、多くの民を導けるか。そして、提供した製造技術を自らの名前で発表するか、ゼフィーラ様の名を出して発表するかという点を……」


当然、ゼフィーラにそんな考えはない。
あるのは単に『さっさと砂糖を用意して、私のお菓子作りの手伝いをしてくれ』程度のものだ。

だが、あいにくこのシェフは、あれこれ考察して「俺だけは、真実が分かってたぜ!」的な訳知り顔を好む、映画を一緒に見に行きたくないタイプだ。

そのため、このような解釈になったのだろう。
そして、真面目なラミントン王子はその彼の発言を真に受けてしまった。


「なるほど……。そういうことか……ありがとう、確かに言われてみるとその通りだ」
「ええ。まずは私が砂糖の精製を実際に始めてみます。なので王子は……」
「ああ。今は家畜のえさとして売られている甜菜を大量に買い付けよう。……私もゼフィーラを見習わなければな。彼女のように、自らの力を他者のために振るう『慈愛の聖女』のように……私もなりたいからな」
「……はは、王子。なんかいい顔ですね。兄君が生きていたころを思い出しますよ」
「ああ。……私も、いつまでも過去に縛られてはならないからな……!」

ラミントン王子はそういうと、その羊皮紙を大事にしまうと厨房を後にした。
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