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第1章 ヤンデレ雪女と可愛い幼女スネコスリ
1-5 雪女は冷蔵庫の代わりにされています
しおりを挟む(う……こいつは……)
そこに入るなり、俺は猛烈な冷気を感じた。
雪女がここにいるというのは、すぐにわかった。
……もしも今が真夏だったら、俺はここから絶対に離れたくない。そう思うほどの冷気だった。
(……気を付けて、のぞきこもう……)
そう思いながら俺は、小屋に入った。
「ったく……。なんで私がこんなことを……」
そこでは、白く長い髪をして、日本風の着物を身にまとった美しい女性が、不満たらたらといった感じで仕事をしていた。
「凍れ」
そうつぶやきながら、彼女はその魚をつかむ。
するとたちまち魚は大きな氷に封じられ、冷凍される。
(にしても……やっぱり、ああいう冷凍描写って変だよなあ……)
俺は昔から、ああいう『氷の魔法の使い手』の描写を見ていて疑問に思っていたことがある。
現実的に考えると、氷結系の魔法を使った場合、相手は『その姿のまま、全身が凍結する』ことになるはずだ。
だが彼女のスキルもそうだが、相手を凍らせる際には『大量の氷柱の中に相手を封じ込める』描写になることがほとんどだ。
実際、冷凍庫の中に魚を放り込んでも、水槽の中に放り込んで凍らせでもしない限り、あんな風に氷の塊が周囲に張り付くようなことはありえない。
(まあ、『冷凍しただけ』の描写はわかりにくいってのもあるんだろうな……)
実際、この手の『氷に封じ込め』系の魔法の後は、それを溶かして救出するまでがワンセットとなることがほとんどだ。
あくまでも『封じられている』状態を演出するために仕方がないことなのだろうとも思っている。
加えて、基本的にこの手の魔法から解放された場合、中の人間が凍死していることはまずない。
……だがそのあたりのことは、もう気にしないことにしよう。
そう思いながら、俺はその様子を見ていた。
「これでよし……。あのモンスターたち、本当に冷凍した魚が好きよね……。まあ調理は自分たちでやってくれるのは、ありがたいけど…………凍らせないほうが私はすきなのにな」
……彼女たちは生で魚を食べるのだろうか? いや、よく考えたら日本には『寿司』という文化があったからおかしくはないか。
また、彼女の周りには大量のトマトなどの野菜があり、凍らない程度に冷やしているのがわかった。
(冷蔵庫代わりにされているのか、彼女は……ん? もう一人いるな……)
そして彼女の隣の部屋には、一人の男がベッドで横になっていた。
……見ただけでわかる。風邪で体調を崩しているようだ。
「うう……熱い……助けて……氷をくれ……」
そう呻く男に対して、雪女は冷静な口調で答える。
「ちょっと待ってて。その前に、これでも食べてなさい……」
そういうと彼女は、その倒れている男にアイスのようなものを差し出した。
冷凍庫がないこの世界では、かなり貴重品のはずだ。
卵と牛乳をたっぷりと使ったであろうそれを食べながら、その男は涙を流していた。
「うう……旨い……ありがとう、雪女さん」
「偽善はいい。元気になったら、また私を道具みたいにこき使うんでしょ……?」
「……う……ごめん……」
その一言に、男は申し訳なさそうに押し黙る。
だが雪女は気にしていないようで、フンと顔をそむける。
「けど、あなたに元気になってほしくないわけじゃない。早く治して。謝罪は後で聞くから」
「うん……」
なるほど、見た目は冷たそうだけれども実際には優しい子なんだな。
そう思いながら、俺は思い切って声をかける。
「あの、あんたが雪女だな?」
「……! 誰? あの男の仲間なの?」
聞きなれない声だったのだろう、彼女はあからさまに警戒した様子で、俺に対して手を向ける。
俺は安心させるために剣を置き、手をあげて答えた。
見たところ、彼女を助けるために、この男を始末するという最悪のケースを起こす必要はないと感じたためだ。
「俺は、異世界転移者だ。アカナメから頼まれて、あんたとスネコスリを助けに来た」
「え……? じゃあこいつ……侵入者……だ! どうやってここに入った……?」
そう男が答える。
この一言で、どうやら俺の『合法侵入』のスキルが解けたようだ。
本人たち曰く『合法侵入』が解けると、俺の服装や相貌が、パラパラと外壁が剥がれ落ちるように見えるらしい。
ただし、これが解けても『合法侵入が解ける前と同一人物』ということは認識できるようだ。つまり合法侵入中に築いた関係は維持されることとなるため、やりたい放題すると、のちに復讐を生む可能性も高いわけだ。
「え……? 異世界転移者……? 私たちを助けに来た……?」
雪女も、俺を『山賊仲間』ではなく『見たことない種族』だと気づいたようで困惑した表情を見せてきた。
俺はまず、倒れていた男をロープで拘束する。
「悪いな、あんたも一応拘束させてもらうぞ? ……心配すんな、病人には危害は加えない。あいつらを解放するまで我慢してくれ」
「……そうか……こいつらを解放するのか……ありがとう……」
やはり、雪女をこき使っていた罪悪感があったのだろう。お礼を言われるのは意外だったが。
彼はおとなしく捕縛された。
だが、その様子を見て雪女は恐怖交じり……いや、俺を心配するような表情を見せる。
「そんなことして……ここのお頭に見つかったらどうするの!?」
「お頭? ……ああ、大丈夫だよ、ちょっと小屋の外を見てくれ」
「え?」
……そして外をのぞき、彼女は驚愕の表情を見せた。
「え……みんな……やられたの……?」
ロープに縛り上げられたサテュロスたちを見て、雪女は驚いた表情を見せた。
そうしていると、アカナメがこっちに向かって突っ走ってきた。
「雪女ちゃ~ん!」
そして雪女に向かって突進するように抱きつこうとする。
「うげ、アカナメ!?」
……アカナメは基本的に全身をよだれでべとべとさせている。
それを嫌悪したのか、彼女はさっと身をかわしたため、ベッドに寝ていた男に激突した。
「ぐは!」
……すまん。
俺は心の中で、彼女の代わりに謝った。
「えへへ……すごいでしょ、みんなやっつけたの! ぬらりひょん様が全部やってくれたんだよ!?」
「ぬらりひょん様? ……それって、この方?」
そう彼女が俺を指さしたので、うなづいた。
すると彼女は突然顔を赤く染め上げながらつぶやく。
「素敵……。ぬらりひょんっていうのね、あなた……ごめんなさい……あなたを好きになっちゃったみたい……」
は?
……まさかとは思うが、たかが助けてあげたくらいで彼女は俺に惚れたのか?
いや、そんなわけないよな。
「理由もよくわからないのに、いきなり相手のことを好きになって、いきなり押しかけ女房になるような女」
なんて、※この世にいるわけがない。
もしいるとしたら、そいつはそれこそ『絶対に関わってはいけないレベルの、わけのわからないクソやば女』に違いない。
きっとこれは、助けてもらったことによる、一種の興奮状態だ。数日もすれば元に戻るだろうし、ましてや夫婦生活を送ろうなんて思ったりはしないはずだ。
そう俺は思うことにした。
(※しつこいようだが、彼『ナーリ・フォン』は日本人ではない。そのため、いわゆる雪女の伝承を知らないのである……)
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