俺が「妖怪の総大将」? スキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は「ぬらりひょん」として成り上がりを目指します

フーラー

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第1章 ヤンデレ雪女と可愛い幼女スネコスリ

1-7 サテュロスたちの再就職にも『合法侵入』は使えます

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そして翌日。
俺は先日盗みを働いたワインセラーに歩いて行った。


「すみませ~ん?」
「おう、なんだあんたは?」


先日の『手の目』はそこにいなかった。……ひょっとしたら、俺がやらかしたことでクビになったのか?
もしそうなら、彼にも埋め合わせをしないとな。


「このワインセラーって人手不足って聞いてるんですが……」
「ああ。妖怪連中が急にうちをやめちまったからな。……ったく、こんなことなら高くても奴隷を買うべきだったぜ……」


どうやら、あの手の目達は奴隷ではなく従業員だったらしい。……まあ、従業員であっても、妖怪の待遇が劣悪なことに変わりはないのだが。


そんな風にいう彼の種族はエルフ。
この国では一番の多数派だ。体力のない彼は夜勤明けでかなり気が立っているのがわかる。
不機嫌そうな彼に対して俺は、ニコニコと笑いながら答える。


「実は俺、従業員の斡旋をやってるんですよ。……警備、特に夜間警備の仕事とかだったら、うってつけの人材がいるので紹介しに来たんですよ」
「へえ……」

俺の『合法侵入』のスキルは、大きく3段階にわかれる。

第一段階はスキルを発動してから、自分の立場を明かすまで。この段階ではいかなる理由があろうと家に入れてもらえない代わりに、俺が相手からは『特徴のないモブ』に見える。

ここで俺の名乗った立場が怪しまれなければ第二段階に、逆に怪しまれるような立場を明かした場合は第三段階に入る。


第二段階は自分の立場を明かして招き入れられてから正体がバレるまで。この段階だと相手からは『俺が名乗った立場のモブ』に見えるようになる。お頭やスネコスリがそうだったように、俺の顔を知っているものでも顔が分からなくなる。


そして第三段階は相手に怪しまれて正体がバレた段階。この状態になると俺は『人間のナーリ・フォン』に見えるようになる。こうなると、一度建物を出て建物内の住民全員の視界外に逃げるまでは『合法侵入』の再使用は不可能だ。


「そりゃ助かるよ。社長はこっちにいるから、来てくれ」

その従業員は俺の方を見て警戒を緩めた。

いわゆる高技能を持つ従業員を斡旋する業者自体は、別に珍しくない。加えて夜勤明けの彼にとって、夜間警備の斡旋業者はありがたい存在だったためだろう。

……うまく『合法侵入』の』スキルが効いて、第二段階に入れたようだ。
俺はそう思いながら、その従業員に連れられて応接室まで案内された。



「社長を今から呼んでくるから待っていろ」


そういわれたのちにしばらくして、社長と思しき気品のある女性がやってきた。
種族はセイレーン。その種族の特性だろう、よく見たら内装に楽器の調度品を多数用いている。

「はじめまして。なんでも、いい社員さんを斡旋してくれるんですって?」


美しい声を出して、彼女は尋ねてきた。
……確かにこの時代、この世界でワインを販売するのであれば、当然お得意さんを見つけるために社交場への出入りは必須だ。


そのため、ドワーフのように単にものづくりに長けた種族よりも、彼女のように社交場で華やかにふるまえるような種族の方が社長には向いている。
そう思いながら俺は答える。


「ええ。……体力があって頑健。そして性格面でも身内に優しく、逆によそ者には毅然とした態度で接する。しかも夜行性で夜間警備に強い。そんなものたちです」

うん、嘘は言っていない。
そもそもサテュロスたちは見た目が粗野で知性はやや低いが、実際に彼らと話してみてそう感じた。

……まさかこの『合法侵入』のスキルは、相手の『別の側面』を理解するためにも使えるとは思わなかった。まさに相手の内面にも『合法侵入』できるということだと俺は心の中で皮肉めいた笑みを浮かべた。


「へえ……それはいいわね。けど、そういう方のお給料ってかなりお高いんじゃないですの?」

そこで俺は声をひそめるようにして、わざと小声でぼそぼそと答える。


「ええ。……実は彼ら、種族が種族なんで……能力を発揮する場もなく、仕事にありつけてなかったんですよね……だから安く雇えるんですよ……」
「種族が?」

俺はわざと声をひそめてつぶやく。


「はい。……実は彼ら、サテュロスなんです。どうも種族だけで相手を差別するようなレイシスト連中にばかり当たったみたいでしてね……社長はそんな方じゃないと思ったのですが、どうでしょう?」


「え? も、もちろんよ! 私はそんなひどいことはしないわ?」


こうやってプライドをくすぐるような言い方をすれば、そうそう断られない。
そう思いながら俺は続けた。


「けど、その分相当な掘り出し物ですよ、彼らは? 何しろ昼夜兼用で働けて、腕力があって、さらに低賃金で働いてくれる種族は少ないですからねえ……。試しに雇ってみてはどうでしょう? 給料は……こんなところで、いいようなので」


プライドが高く低賃金を死ぬほど嫌う上に昼間に働けないヴァンパイアや、猫獣人のように気まぐれな種族は警備業にはまるで向かない。

そのため、彼らは※24時間警備にうってつけであることを俺はわかっていた。
(※この世界における曜日や時間の概念は、元の世界と同様である)


俺の提示した額を聞いて、社長は驚いた表情を見せる。


「え? ……そんなに安くていいの?」


これは相場よりもかなり安い額だからだ。
本音としては適正額を提示したいところだが、彼らにとってはこの金額でも山賊をやめるには十分な額だと言ってくれた。


「ええ。いかがですかね?」


その金額を聞いて、社長は嬉しそうにうなづいた。


「わかったわ。じゃあ雇わせてもらおうかしら。……あなたへの斡旋料はいかほど?」
「ええ、それであればこれくらいで……」

本当はお金は受け取らなくてもいいが、無料だというと逆に怪しまれてしまい、最悪『合法侵入』が解ける可能性がある。


俺は相場から、先日盗んだワインの末端価格の倍額を割り引いた額を提示した。これは、先日盗みを働いた、せめてもの罪滅ぼしでもある。


「え、こんなに安くていいのかしら?」
「ええ。……確かそちらではワインの窃盗が起きたんですよね? その分の額を勉強させてもらいましたよ」

それを言うと、社長はまた嬉しそうな表情を見せた。
……まあ、窃盗の実行犯は俺なわけなのだが。


「まあ、お優しいのですね。……良かったらまた、うちにいらしてくださる?」
「はい、彼らがお気に召していただけるのであれば、また」


そういって、俺はその場を立ち去った。


(よし、1件目はクリア、次は……あっちだな……)

当然、1か所で10人ものサテュロスを雇ってもらえるわけがない。
そのため俺は、別のワインセラー(当然俺が、ワインを盗んだところだ)にも足を運び、同じことを繰り返した。
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