俺が「妖怪の総大将」? スキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は「ぬらりひょん」として成り上がりを目指します

フーラー

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第2章 「炎と氷の魔法」の使い手、蛇骨婆

2-3 ナーリの目には、蛇骨婆がかわいい幼女に見えるようです

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(それにしても、あんなお礼で良かったのかな……)


俺はそう思いながら、雪女とのやり取りを思い出していた。
彼女が俺に提示した『お礼』は、俺からすれば本当に些細なことだった。
……だが、彼女にとってはそれほど大事なことなのだろう。


「どうしたの、お兄ちゃん?」
「あ、いや……」


蛇骨婆は雪女のことを嫌いだそうだが、逆に可愛い幼女の見た目をしているスネコスリは可愛がっているとのことだ。

そのため彼女の態度を軟化させるために俺はスネコスリを連れていくように言われたため、俺は彼女と行動を共にすることになった。


「なにか悩み? あたし、聞いたげよっか?」
「うーん……。スネコスリにはまだ早いことだからな……」
「ぶー。……子ども扱いしないでよ、お兄ちゃん!」


そういいながら彼女はかわいらしく頬を膨らませる。
彼女は俺と出かけるときにはがっしりと俺の腕をつかんで離さない。彼女は俺に甘えたがっているのを知っているため、それを俺は黙って受け入れている。


「それよりさ、蛇骨婆ってどんな人なんだ?」
「え? ……うんとね、ちょっと怒ると怖いけど……いい人だよ? 蛇さんも見かけよりも優しい子たちだね」
「蛇?」
「うん。赤い蛇さんと青い蛇さんがいるんだ。蛇骨お婆ちゃんも蛇さんも、卵が大好きなんだよ?」


だから、彼女が鶏を育てているのか。
そう俺は納得した。



「あれ、ぬらりひょんさん!」


そして彼女と二人で街を歩いていると、サテュロスに遭遇した。
彼は以前俺が退治した盗賊団の元お頭だ。以前ぼこぼこにされたことは、もう俺は水に流しているし、向こうも『くすぐりの刑』を受けたことは気にしていない。


「お頭? 久しぶりじゃんか! 仕事の調子はどうだ?」

まあ、この質問はするまでもないかなと一瞬俺は思った。
二人の表情は、山賊だったころとは比べ物にならないほど生き生きしていたからだ。
やはり、というべきか、二人はニコニコと笑みを浮かべながらうなづいた。


「すげー楽しいよ。……やっぱさ、盗賊しなくても毎日金がもらえるっていいよな。ほら、これ稼ぎで買ったんだ! かっこいいだろ!」


そういってサテュロスは、新しく買ったであろう足輪を見せびらかしてきた。
観光地で見かけるような安っぽいキンキラキンのキーホルダーのようなメッキがされている。

隣の部下は、無駄な装飾がなされた、キラキラの剣を携えている。
……こういうのを好むところがやっぱり、子どもっぽいんだな。


「ところでぬらりひょんさんはどこ行くんだ?」
「ああ、蛇骨婆の所に行って、鶏を譲ってもらおうと思ってな」


それを聞くと、サテュロスは少し不快そうな表情を見せた。


「げ、あの『パクリ婆』のところか……。あの婆さん、怖いんだよなあ……」


パクリ婆?
ずいぶん不名誉なあだ名がついているな。


「あれ、お頭もあったことあるのか?」
「ああ。この辺のならず者で知らない奴はいないぜ。スラム街を牛耳ってるばば……いや、お婆様だからな」
「あと、うちの領主様とすごい仲悪いんだ。なんでも『魔法の技術をパクられた』とかなんとか、よく言い合ってたな」
「領主、か……」


俺は会ったことはないが、ここの領主は確か吸血鬼の女性だったと話を聞いている。
菌感染による病気(吸血鬼種は新陳代謝が少ないため、真菌による腐敗に弱い)で両親を失ったことで後を継いだこともあり、年齢はまだ若いそうだ。


だが、彼女の作る法律や決まりごとは、かなり妖怪に取って都合が悪いものなので、妖怪からの評判はすこぶる悪い。

……近いうち、彼女とも対立することになるのだろう。
そう思っているとお頭が俺の肩をぽんと叩いて、一言付け加えた。


「けど、すげーしわくちゃの婆さんだからさ。あまり乱暴な真似はすんなよ?」
「ああ、わかったよ。ありがとう」


粗野に見えるお頭も、なんだかんだで敬老精神はあるのだろう。
そう思って俺は、サテュロスに別れを告げた。




それからしばらくして、俺は蛇骨婆の住処の近くに到着した。
昼過ぎに出発したこともあってすでに日は暮れており、鶏達も小屋に入れられている最中だった。


「ここは、妖怪がたくさん働いているんだな」
「うん。あたしたちが働ける場所って、多くないからね……」


見ると、妖怪『小豆洗い』が餌の準備をしているのを見た。
ほかには『波山(ばさん。別名犬鳳凰)』や『以津真天(いつまで)』のような鳥型の妖怪が目立つ。


「鳥系の妖怪が目立つな。……やっぱり鳥同士相性が合うんだろうな」
「……そうかもね。……あ、いたよ、蛇骨お婆ちゃんだ! 挨拶してくるね!」


そう話していると、スネコスリがてててて……と走っていった。
彼女の外見はどちらかというと、猫に近い。そのためか、鶏たちは驚いた様子で逃げていった。

そしてスネコスリが向かった先にある東屋で、楽しそうな声が聞こえてきた。


「ほほほ、久しぶりじゃのう、スネコスリよ。会えて嬉しいぞ?」
「うん、お婆ちゃんも元気そうでよかった! ……ほら、お兄ちゃんも来て?」
「ああ。……って、え? この可愛い女の子が……蛇骨婆?」


そういわれた俺は、東屋に到着して驚いた。
……サテュロスたちが『しわくちゃのお婆さん』と言っていた妖怪『蛇骨婆』は、どう見てもスネコスリと同年代の幼女だったためだ。

蛇骨婆は俺の発言に、少しだけ頬を染めた。


「か、可愛いなどと……婆をからかうものじゃないぞ? それで、おぬしの名は?」
「はじめまして。……ナーリ・フォンです」

だが彼女は俺の紹介に対して、耳に手を当てて聞き返してくる。

「は? ……すまんの、もう一度言ってくれぬか? この年になると、耳が遠くての」
「ナーリ・フォンです!」

今度は大声で叫ぶと、蛇骨婆は『おう、そうか』と笑ってうなづいた。


「なるほど。『ぬらりひょん』というのじゃな、おぬしは。……見ない顔じゃが、ひょっとするとおぬしは人間か?」

ああ、やっぱり俺の名前は間違えられる運命にあるんだな。
そう思いながらも俺は尋ねる。

「わかるんですか?」
「ワシくらい長生きしていれば、一度や二度はおぬしら人間に会うからの。ほっほっほ! ……よく来たな、ぬらりひょんよ」


そういって蛇骨婆は口に手を当ててかわいらしく笑った。彼女が手に携えている赤と青の蛇も、どこか楽しそうにのたうつ。


「それで、おぬしはいったい何の用で来たのじゃ? 一応言っておくが、ワシの可愛いスネコスリを誑かそうというのであれば、容赦はせぬぞ?」


そういいながら蛇骨婆は両手に持っていた赤と青の蛇をけしかけるそぶりを見せる。


「大丈夫だよ、お婆ちゃん? お兄ちゃんはそんなことしないから! ……それに、雪女さんも認めている人だよ?」
「……なに、あのバカ娘がか?」

それを聞いて、突然蛇骨婆が興味深そうな表情を見せた。
やっぱり、蛇骨婆から見ても、雪女はよっぽど印象的な妖怪だったのだろうことがうかがえた。


「はい。一応紹介状を持ってきました……」
「ほう。見せてみい」


そういって俺は紹介状を出すと、彼女はぐい、と俺の手を握ってもぎ取る。
……やっぱり彼女の手はかわいらしく、触った感触もスネコスリのものと変わらない。

だが、サテュロスから見ると彼女は『しわくちゃのお婆ちゃん』だという。
おかしいのはサテュロスたちの方なのだろうか? ……それとも、俺が何かしらの認識阻害を受けているのだろうか?


まあ、俺は相手と自分のものの見え方が違うことは気にしない。仮に認識阻害などなくても、俺と同じものの見え方をするものなど、一人もいないのだから。


蛇骨婆は俺の紹介状を読みながら、あきれ顔で眉をひそめる。


「……ほう……あの小娘……。ワシをなめとるのか?」
「あ、あの……」
「どうやら、昔ワシに叱られたことを相当根に持っているようじゃな……こんな喧嘩を売るようなことを書きおって……」


そういいながらも、どこか嬉しそうな表情で蛇骨婆はそれを読んでいた。
そしてあらかた読み終わったのだろう、紹介状を閉じて俺に返す。


「じゃが、おぬしのことは大方わかった。……どうやらあのバカ娘は、おぬしに相当入れ込んで居るようじゃの?」
「そうですか……」
「まるで恋文じゃったよ、この恋文は。ワシがおぬしを口説くなとしつこいくらい書かれておったからのう? あの小娘はワシのような婆まで恋敵と思っちょるようじゃの! ホホホ!」


そういうと蛇骨婆はかわいらしい笑顔を俺に向けてきた。つられて一緒に笑うスネコスリとの2ショットは、とても絵になる。

だが、そうひとしきり笑った後、蛇骨婆は申し訳なさそうな表情をして答える。


「じゃがのう……。すまんが今、ワシらのところも経営が厳しくての。鶏を譲るわけには行かんのじゃ……」


まあ、突然現れて『鶏を譲ってくれ』と言ってもうまくいくわけがないか。


「そうですか……ちなみに何が原因なんですか?」
「……それはのう……ここの領主が……」


そんな風に話をしていると、一匹の蝙蝠が突然俺たちの前に飛んできた。


「ん? 蝙蝠?」
「げ……噂をすれば……来おったか……」


それを見た蛇骨婆は露骨に嫌そうな表情を見せた。
そしてしばらくすると、その蝙蝠はたちまち一人の少女の姿に変身した。

少女はいわゆる『ゴスロリファッション』とでもいうのだろうか、漆黒の衣装に眼帯、そして頭には小型のハットを身に着けていた。

また、そのドレスにはいまいち合わないと思われる黒マントを身に着けているのも特徴だった。



「お~っほっほっほっほ! 妖怪『パクリ婆』様、ごきげんよう?」


そういいながら、その少女はマントを翻すと、慇懃な態度で大仰な礼をしてきた。
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