俺が「妖怪の総大将」? スキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は「ぬらりひょん」として成り上がりを目指します

フーラー

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第2章 「炎と氷の魔法」の使い手、蛇骨婆

2-11 「悪者退治」をしたいなら相手の内面を知るべきではないでしょう

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「ここは静かな場所ですね……」
「ええ……。ですが、その……外はあまり見ないでくださいますか?」


俺たちはそれから少し歩いて、バルコニーまで移動した。
だが、こうやって窓の外を覗くと、正面玄関以外の場所はまともに手入れがされていない。


「お恥ずかしいことですが……。ファスカ家は正直財政が厳しくて……正面の庭も、妖怪どもを安くこき使って、形を整えたものですの……」
「妖怪、ですか……」
「ええ。私の国には妖怪どもが多数おりますので。ろくでもない連中ですが、たまには役に立ちますわ」


やはり、フリーナはかわいらしい容姿と言動をしているが、妖怪に対する差別意識や特権階級がうかがえた。

……だが、純粋な聖人君子などこの世にはいない。こういう差別的な思想も含めて彼女というものなのだろう。
念のため俺は、彼女に尋ねてみた。


「ファスカ家での事業の調子が良くないのですか?」
「ええ……。正直、本業である紅茶の製造は他国に水を開けられていますので……まともな収入源は、魔法の使用料だけですね」
「魔法? ……ああ、炎と氷の両立魔法のことですね?」

フリーナはうなづきながらも少し後ろめたそうな表情をする。


「ええ……。よくご存じですのね? ……それより、今はそんなこと、忘れたいので……一緒に二人で踊りませんこと?」
「……喜んで」

幸い、このバルコニーにもセイレーンの歌声はかすかに聞こえてくる。
俺は彼女の冷たい手をそっと握り、ダンスを始めた。

……彼女のダンスは激しく攻撃的だ。
恐らく、辛い現実を少しでも忘れようとしているのだろうと伺えた。

だが、ダンス自体は俺よりずっと上手いこともあり、俺はそれについていくのが精一杯だった。


「……フフフ、あまりお上手ではないんですね?」
「ええ。正直あまり慣れないので……おっと」


やはりダンスは慣れない。俺は一瞬足を取られた。
だがそれを、フリーナは腕の力だけで引き上げる。怪力の吸血鬼だからこそ出来るフォローだ。


「フフフ。……こうやって踊っていると、嫌なことも全部忘れられますね?」
「嫌なこと、ですか……」
「リッチー達の嫌味や、貴族連中とのお付き合い。なにより赤字続きの状況で払わないと行けない上納金……辛いことばかりですから……」
「上納金、ですか……」
「ええ。貴族で居続けるためには、上納金は必須ですから……うちは荘園が多いから、その金額も膨大になるのです……」


そういいながら彼女はぽつりぽつりと現在の窮状を訴えだした。
この世界で貴族の名を名乗るためには、統治する荘園の規模に応じて上納金を支払う必要がある。

だが、この金額のレートははるか数百年前に決まったものであり、気候変動による作物の取れ高減について考慮されておらず、ファスカ家の負担は大きい。

そんな中でパーティなどの交際費ばかりがかさむ上、リッチーたちに皮肉を言われないと行けないのが我慢ならない。自分がホストの時はまだしも、ゲストとしておよばれしたときには、さらに酷い皮肉を言われるそうだ。

鶏卵の値段のつり上げは、そんな中で唯一の生命線である、両立魔法の権利書を蛇骨婆に奪還されないためにやっていたことだとも言外に理解できた。

(彼女も、大変なんだな……)


それでも彼女たちが貴族階級を手放せないのは、プライドの塊であるヴァンパイア故だろうとは俺にも理解できた。自分の代で貴族位を失うことなど、命を失うより辛いと考える気持ちは理解できる。


「フリーナ様は頑張っておられるんですね……尊敬しますよ」


俺は思わずそう答えた。
俺は組織を運営する側に回ったことがない。従業員の人生も背負って働かないとならないフリーナの負担は相当なものだとわかるからだ。

それをいうと、フリーナは少しだけ顔をうつむける。

「ありがとう、ナーリさん……。少しだけ、気持ちが楽になりましたわ……」
「そう、ですか……」
「あら、どうしましたの?」


俺は思わず足を止めた。

……俺は彼女を騙している。こうやってやり取りをしているのも、単に彼女が本当に印章を盗んだかの確認を取りたかっただけだし、そもそも踊りに誘ったのも、彼女の寝室の場所を知るためだ。


「いえ……その……」


ここに来るまでは彼女のことを『妖怪を見下す、単なるいじわるお嬢様』だと思っていた。

確かにそれは事実であり、彼女は妖怪たちを見下している。だが、彼女はそれだけではなく『貴族との関係や財政ひっ迫に悩む、一人のか弱い経営者』でもあったのだ。



そんな風に思っていると、彼女は俺をそっと抱きしめてきた。



「……え……?」


「あなたも……きっと悩んでいるのですよね? ……殿方は、ハグをされると元気が出ると聞きましたので……」

フリーナはそう少し恥ずかしそうに言ってきた。

「…………」
「いいのですよ? 言いたくないなら言わないでも? ……私の話を聞いてくださったお礼です」


……違うんだ、俺とあんたは、本当は敵同士なんだ。
きっと、次に会うときには彼女に「裏切られた」とののしられるのだろう。
正直、それは嫌だ。

けど、俺と一緒にいてくれる妖怪たちのためにも、これはやらないといけない。
だが俺はそっと彼女を胸に抱くと、何度も彼女に謝罪した。


「すみません、フリーナ様……すみません……」
「? ……いいんですのよ。私だって弱みを見せたんですもの。あなたも泣いてもいいんです」


彼女はどうやら、俺が足を止めたことを謝罪したように受け取ったようだ。
しばらく俺はそういって抱き合っていると、セイレーンの歌が別の楽章に入ったようだった。

そこで俺は彼女の身体を離して、笑顔を向けた。


「すみませんでした。……もう大丈夫です」
「ええ……。それならよかったです」

フフフ、とフリーナは笑顔を向けてくれた。
こうやって見ると、可愛い女の子なんだな、と俺は思い、尋ねる。

「体調は大丈夫ですか? まだパーティは続きそうですし、少し休まれたほうがいいと思いますが……」
「そうですね……少しお化粧も直したいので、ちょっと休ませていただきます」
「なら、寝室までお供しますよ」
「ええ」


そういって俺は彼女の寝室まで案内した後、そこで『主に呼ばれているから、帰らないといけない』といって、その場を後にした。


……よし、これで彼女の居場所は把握できたな。
そう思いながら、俺は蛇骨婆のいる物置に戻った。



「おお、戻ったか、ぬらりひょん! ……どうした、元気がないようじゃが……失敗したのか?」
「いや、成功はしたんだけど……ちょっと、フリーナのことでな……」

そういいながら、俺は彼女と出会ったときの顛末を説明した。
すると蛇骨婆はふん、と頭を下げる。

「なるほどのう。……ま、この世界は戯曲と違う。純粋に悪い奴などそうそうおらんし、誰もがみな複雑な事情を抱えておるものよ」
「だよな……」

「じゃが……そもそも、彼女は貴族位を諦め、ワシらへの嫌がらせをやめ、そしてパーティの頻度を減らすなりすれば、何とか生活水準は保てるではないか。彼女の貧困は彼女の自業自得ではないかのう?」


無論彼女の場合には、魔法の使用料を奪われた怒りがあるため、そういうのだろう。
だが俺は首を振る。


「確かにそれはあるけどさ。……ヴァンパイアの特性は生まれつきのものだろ? それに縛られている彼女たちを自業自得と切り捨てたくはないよ。それは俺たちの傲慢だ」


その発言に、蛇骨婆は少しあきれながらも、満足そうな笑みを見せた。


「……なるほどのう。手の目の奴がお主をリーダーと認めるわけじゃ」
「え?」
「久しぶりにあ奴に会うたら、口を開けばお主のことばかりじゃったからな。あ奴があそこまで一人の男に肩入れすることなど初めて見たわい」
「そうか、あいつがな……」
「……正直、ワシはお主に嫉妬したくらいじゃぞ……?」
「え? 嫉妬? ……俺に?」


だが、蛇骨婆はそれが失言だと思ったのだろう。顔を真っ赤にしてそむけた。


「い、いや、今のは何でもない! いいか、手の目には今の話はするでないぞ!」
「ハハハ、分かったよ。……それじゃ、夜明けまでここで待機するとするか」



そう思いながら、俺は作戦決行の時を待った。
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