俺が「妖怪の総大将」? スキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は「ぬらりひょん」として成り上がりを目指します

フーラー

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第3章 合法侵入のスキルを狙う刺客、キキーモラ

3-4 美女によるハニートラップより有効な罠があります

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「はあ……結構疲れたな……」


俺はそういいながら、街角にある小さな酒場で一服していた。
貴族会ではなんとか俺の意見を通すことが出来た。


これで、近隣諸国に対して滞納していた借金も全部返せる可能性は高い。


(けど……ハイクラー家の人たちには悪いことをしたな……)

そう、明らかにハイクラー家だけは俺の考えた施策に対して難色を示していた。
まあ闇魔法は現在この世界ではほとんど需要がないし、これによって行われていた『貧困ビジネス』も行えなくなる。


(ま、一番つらいのは……自分の努力を否定されたことと、自分の積み上げた地位を奪われることだろうな……)


俺は酒場に張ってあるハイクラー家の当主、トイシュの肖像画を見ながら思った。
そこには『生活に困ったものは、ここに連絡を』と書かれており、彼の持つ救貧センターの住所と連絡先が記載されていた。

動機や結果はどうあれ、彼らは曲がりなりにも社会的弱者のために努力をしていたのだから、それを一方的に批判するような形にはするべきじゃない。


(名誉、か……)


酒場の傍らをふと見ると、上司と思しきエルフの男性が獣人やリザードマンの同僚に対して食事を奢っているのを見かけた。

それを部下に感謝されている時のエルフの表情は、人間のそれよりも明らかに嬉しそうなものであった。

(本当に……プライドを大事にするんだな、長命種は……)


今にして思ったが、俺たち人間や妖怪は吸血鬼やエルフに小ばかにされることはいくらでもあったが、金をせびられたことは一度もない。
彼らにとっては、それほど『プライドを傷つけられること』を嫌うのだろう。


逆に言えば、彼らハイクラー家の名誉だけでも守ってやれれば、ファスカ家と同様に納得できる関係に出来るはずだ。


そんな風に考えていると、

「隣、座っていいかしら?」

そんな声が聞こえてきた。


「え? あ、ああ……」

露出の高い服を来た、妖艶な雰囲気の美女がそこにいた。
種族は……俺と同じ人間に見えるが、はっきりとは分からない。少なくともエルフやサキュバスではないことは確かだが……。


「あなたって……たしか『妖怪の総大将』ぬらりひょんよね……? ねえ、お酒を一杯奢るわ?」
「え? ……いいよ、別に……」
「あなたのこと、気に入っちゃったのよ。マスター? スレッジハンマーを一つ」


スレッジハンマーといえば、ウォッカとライムジュースを混ぜたカクテルだ。
相当強い酒なのは知っている。……まあ俺のような酒豪にとっては問題ないが。


「はい、飲んで?」


そういわれてやすやすと飲むほど俺はお人好しじゃない。
そもそも、いきなり隣に美女が座ってきて『あなたを気に入った』なんて言って酒を振舞うなんて奴にろくなものはいない。


「いや……悪いな、俺はもう今日は酒はやめとくよ」
「え~? 飲んでくれたらあ……あなたの欲しいものをあ・げ・る?」


ますます持って怪しい。
狙いは俺の金か? ……いや、ひょっとしたらハイクラー家が送ってきた刺客かもしれない。そう思いながら彼女の反応を伺う。


「うーん……欲しいものねえ……別に要らないかな?」
「あら……そうなの? 欲のない人ね……。ひょっとして、故郷に大切な人がいるの?」
「別に……いないよ……」


一瞬雪女のフレアの姿が頭をよぎった。
……だが、異性愛を理解できない俺が、フレアを大切な人と考えるのはおこがましい気がしてやめた。


「フフフ、まあいいわ。その子のことを忘れてさ、今夜は私と……きゃあ!」


だが、そんな風に話していると酒場のおかみさんらしき人が後ろからフライパンで彼女の頭を叩いた。


「なあ、あんた! なに、人んちの客にちょっかい出してんだい!」
「い、痛いわね……叩くことないじゃないの!」
「どうせ、あんた、ハイクラーさんとこのキキーモラだろ! あたしにはお見通しなんだよ!」
「う……」

そういうと、おかみさんは二言三言魔法をかけてきた。
すると、ボウン……という音とともに、その女性は小悪魔のような正体をあらわした。


「ほうら、やっぱり! どうせ、こいつのスキルを奪いに来たんだろ?」
「く……まさか、バレるなんて……」
「うちのお客さんに迷惑をかけんのはダメだよ? さ、帰った帰った!」
「……覚えてなさいよ!」


そういうと、彼女は玄関に走り出したと思うと、翼を広げて飛び去って行った。



俺はその様子を見ていると、おかみさんが豪快な笑いをして、答えた。
恰幅のいい中年女性であり、見るからに安心できそうな雰囲気をしている。


「まったくねえ……。あの子はさ、キキーモラっていうんだ。あいつらは口づけした相手のスキルを奪って自分のものにする能力があるんだよ」
「へえ……」
「確かあんた、ぬらりひょんだろ? あんたみたいな人間は狙われやすいんだよ。……ったく、油断も隙も無いんだから」


なるほど、俺の『合法侵入』のスキルを狙っていたってわけか。
確かにこのスキルを奪われたら、俺たちにとってまずいことになる。

もっともこのスキルは『長命種の権力者が持っても、※あまり意味がない』のが特徴なのだが、恐らくハイクラー家はそれを知らないのだろう。

(※『合法侵入』は潜入や暗殺にも有効なスキルではあるが、そもそも霧になって侵入できる吸血鬼がいる時点で、そのような仕事は彼らに任せるほうが効率的である)


「ま、あたしはああいう輩は見逃さないから心配しないで! ……ところで、あんたはいつ頃までこの国にいるんだい?」
「ああ、明後日くらいまでは居ようと思うんだ」
「明後日? じゃあ明日はなにか用事があるのかい?」
「ああ……」


そういって俺は、雪女のフレアのことについて話をした。
彼女のために、贈り物を渡してあげたいと思い、この国の特産品である氷を買いに来たこと。
そして、明日はその購入に時間を使おうと思っていることである。

それを聞くと、おかみさんはにやりと笑った。


「へえ……。あんたにとって、その雪女は大切な人なんだね?」
「いや……。大切なのかはわからないけど……ただ、喜んでもらいたいってだけだから……」

その発言にふっと笑ったおかみさんは、俺の肩をバンバンと叩く。


「あはは! そういうのが大切ってんだよ! よし、気に入った! あたしがさ、美味しい氷が売っている店を案内してあげようじゃないか!」
「え、おかみさんが?」
「ああ! 今から場所を案内してあげるから、ついてきなよ!」


これはありがたい話だ。
そう思いながら俺は、ドアを出て氷屋に向かっていくおかみさんについて行った。





それから20分後。
俺は商店街の一角にあった氷屋で氷を購入し、宿に戻ってきた。


さすがに俺もバカじゃない。
彼女についていく途中に『裏通りに案内されたら逃げよう』と思っていたが、幸い人通りの多い道だけを通って、氷屋に案内された。


(やっぱり、俺の考えすぎだったな……)

そう思いながらも、俺は氷を購入して宿に戻ってきていた。


「ありがとうな、おかみさん」

俺が購入した氷は、人間である俺から見ても品質がいいものだった。
こいつを砦に戻ったあと丁寧に細工すれば、きっとフレアも喜んでくれるだろう。


彼女は俺がお礼をいうと、ニコニコと笑いながら地下室の氷室に氷をしまってくれた。


「気にしないでよ! うちの宿を利用してくれたお客様へのサービスってことさ!」
「アハハ、今日は何から何まで助かったよ」
「そういってくれたらあたしも嬉しいよ。……ところでさ、あそこの店主は男には厳しいだろ? 正直あたしが取りなさないとダメかと思ったよ」


実は氷屋の店主はユニコーンだった。
当然男性である俺に対してはいい顔をしないと思った俺は『合法侵入』のスキルを使った。このスキルはやろうと思えば性別もごまかすことが出来る。


「ひょっとして、そういうのがあんたのスキルかい?」
「ああ、俺のスキル『合法侵入』の力だよ」


「へえ……すごいな、さすがは妖怪の総大将ってわけか。……でさ、その……『ごーほーしんにゅー』ってのは、どんなスキルなんだ?」


「え?」
「おばちゃんもそういうの疎いからさ、ちょっと教えて欲しいと思ってね。誰にも言わないからさ! ちょっとだけ、な!」
「うーん……。ま、おかみさんには世話になったからな」


そういって俺は自分の『合法侵入』について簡単に説明した。
俺のスキルを使えば『自分の名乗った身分』を偽れるということ。そしてそれを使って氷屋の店主に『女性』と思わせたこと。


それを聞いておかみさんは、ニコニコ笑って答えた。



「へえ……便利なスキルなんだね! ほら、教えてくれたお礼だな! 一杯奢るよ!」


そういわれて俺は、おかみさんから勧められた酒を飲む。
……なんか変な味がするなと思ったが、この国の酒特有の風味と思い、俺は気にしなかった。


そうして酒をしばらく飲んだ後、俺は猛烈な眠気に襲われた。


「ん。……にしても、なんか眠くなってきたな……」
「アハハ! それじゃ、あたしが運んであげるからあんたは寝ていいよ?」
「いいのか?}
「ああ! こう見えても力はあるからね!」
「そっか……それじゃ……お休み……」


そういうと俺の意識は次第に遠のいていった。


「フフフ……分かった? 相手の警戒を解くんだったら『美女』より『おばちゃん』の方が上手くいくのよ? こういう枯れたタイプの男は、特にね……」
「さすがは先生! ……これでバッチリですね!」
「ええ……。じゃあ、あなたは彼のスキルを奪って? そして奴の砦に……」


そんな声が薄れる意識の中で聞こえてきたが、俺は気にせずに眠りについてしまった。
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