俺が「妖怪の総大将」? スキル「合法侵入」しか持たない俺「ナーリ・フォン」は「ぬらりひょん」として成り上がりを目指します

フーラー

文字の大きさ
27 / 34
第3章 合法侵入のスキルを狙う刺客、キキーモラ

3-6 ヤンデレ雪女はナーリに依存してもらいたいようです

しおりを挟む
「やばいやばい……どうする?」


俺は翌日大慌てで砦に向かって引き返していた。
……俺の持つ『合法侵入』のスキルが使えなくなっていたのだ。


(たぶん、あの時だ……あのおばちゃんこそが本命だったんだ……)


最初に現れた美女は露骨なまでに怪しかった。
だからこそ、彼女を追っ払った女性……しかも怪しまれにくい中年女性……に扮したキキーモラに俺のスキルを奪われたのだ。


(とにかく急がないと、まずいことが起きるな……)


俺がスキルを奪われたことはこの際、自業自得だから仕方がない。
本当に恐れているのは、俺のスキルを悪用したキキーモラが、砦の住民に危害を加えることだ。

特に一本だたらやスネコスリ達が彼女に騙されて殺されでもしたら、俺は自分を一生許せなくなる。


(はあ、はあ……)

そんな風に考えて走っていたが、次第に足は鈍り、今はちょっと早歩き程度の速度になっている。

……当たり前だが、気ばかり焦っても身体はそれについていかない。30分も走り続けていたらバテるのは当然だ。


「あら、ぬらりひょん? ちょうど帰りかしら?」


そんな風に横から声をかけてきたのは雪女のフレアだった。
彼女に近づくと周囲の温度が急激に下がったのを見て、彼女は偽物ではないと確信できた。

不幸中の幸いだ。最悪砦が陥落していたとしても、彼女だけは無事に逃がすことが出来る。


(……幸い?)


そんな風に思った俺は、自分の気持ちに一瞬おどろいた。
……一瞬『フレアさえ無事なら、最悪の結果は免れた』という気持ちが頭に浮かんだからだ。

正直、俺はそんな風に誰かの命に序列を付けたことがないので、そんな風に他者を特別扱いするような考えが浮かんだこと自体が意外だった。


「フレア! ……ああ、フレアも帰りなのか?」
「ええ。そんなに急いでいるってことは……ひょっとして、貴族会で失敗した?」
「いや……貴族会自体は成功したよ。けどさ……」


そういうと、彼女にことのいきさつを説明した。
俺が『合法侵入』のスキルを奪われたことを聞いて、彼女は失望の目を向けると思っていた。
だが、彼女の反応は俺の想像とは異なり、どこか嬉しそうな表情を向ける。


「へえ……。合法侵入を奪われたのね? ……じゃあ、あなたは今はただの『無能力の人間』ってことなのよね?」
「ああ。あいにくだけどな」
「あなたが『妖怪の総大将』なのは『合法侵入』のおかげよ? そんな力のないあなたなんて、誰も大事に思ってくれないわよ? そのことは分かってる?」


彼女はそうクスクスと口で手を抑えながら尋ねた。
正直そのことは分かっているが、直接言われると正直きついものがある。


「そもそも妖怪でもないあなたが『合法侵入』を失ったら、砦にいることも嫌われるでしょうね? ……それもわかる?」
「ああ。……だから、砦の無事を確認したら俺は出ていけばいいか?」
「それで出て行ってどうするの? あなたの居場所なんて、どこにもないわよ? 働き口も見つからないでしょうね……」


そういわれて俺は、納得せざるを得なかった。
正直、この世界では『人間』は希少種であり、差別以前に存在自体が一部の長命種以外には認知されていない。

また、その長命種も過去の人間が『チートスキル』で色々とやらかしたためか、あまりいい顔をしてこない。

そう考えると『合法侵入』を失った俺の前途は暗い。
そのことを改めて気づかされた俺は、不安が高まってきた。


……だが、そんな俺に雪女は優しい口調で声をかけてきた。



「だからさ。……私があなたをずっと砦に居られるように口をきいてあげるわ?」
「え?」
「私はあの砦では一番強いから……私が命令すれば、みんないうことを聞いてくれるわ? ご飯のお世話も、今まで通り私がしてあげる。あなたは砦でずっと生活していればいいわ」
「フレア……」


つまり、俺は彼女……いや、妖怪たちの『ヒモ』になるということか。
だが、それは彼女に多大な負担をかけることになる。


「フフフ……そうすれば、あなたは私なしじゃ生きられないものね……ずっと傍にいてくれる……ううん、傍にいないといけないでしょ?」


そういって彼女は妖しげな笑みを浮かべてきた。
……なるほど、確かにその通りだ。

これは彼女の俺に対する束縛でしかないのは分かっている。
だが、スキルを失って何物でもなくなった今の俺にとっては、その言葉が甘美で優しいささやきに聞こえてきた。


「確かにそうだけど……それは悪いよ。……フレアに面倒見てもらう代わりに俺は何をすればいいんだ?」
「フフフ……ずっとずっと、そうやって私に罪悪感を持ち続けて? ……そして、私が『愛している』っていうのを許してくれればいいわよ?」

そう彼女は頬を染めながらつぶやく。
……生活の保障と引き換えに結婚を迫ること自体は、この時代ではおかしなことではない。
だが、自分から結婚を迫ったりはしないというところが彼女らしい。


「私はあなたの力じゃなくて、あなたが好きなの。だから、ずっと傍にいてくれるなら……スキルなんかなくても構わないわ。……キキーモラに感謝しなくちゃね」


そういってくれるのは嬉しいが、俺が彼女に好かれるような根拠はない。
そもそも、俺が彼女に愛してもらう価値があるのかすらわからないくらいだ。

「……と、とにかく砦にいそごう。話はそれからだな」


だが、いずれにせよ砦の状況を確認するほうが先決だ。
俺は話を打ち切って雪女と砦に急いだ。



(ついた……とりあえず、最悪の自体は起きていないか……?)

それから1時間ほどして、俺たちは砦の前に到着した。
幸いなことに火の手が上がっているようなことはなかった。

……キキーモラよりも先に到着したのか?
いや、俺が彼女の立場ならそれはない。そう思っていると、フレアがぽつりとつぶやく。


「なんか……騒がしいわね?」
「え?」
「砦の中がいつもよりお祭り騒ぎになっているみたい……」
「何かあったのかな?」


そういうと、俺は砦の傍にいた妖怪『かまいたち』に声をかけた。
彼は最近うちの砦に来た妖怪だ。

「あれ、ぬらりひょんさん! おかえりなさい!」
「ああ、ただいま。……砦の方で何かあったのか?」
「え? ……うん……クフフ……」

そういうと、かまいたちは手に鎌になった手を当てて嬉しそうに笑う。


「まあ、とにかく行ってみてよ」
「え? ああ……」

そういうと、俺は砦に入った。



「さあ、次は何してあそぼっか、『ぬらりひょん』さん!」
「も、もう休ませて……」
「何言ってんの! 『妖怪の総大将』がそんな簡単に疲れたりしないでしょ!」
「そうそう! ほら、じゃあ次は木登りしよ、木登り!」
「う、うん……」


そこには、キキーモラと思しき女性がスネコスリや一本だたらといった、妖怪の子ども達に振り回されていた。

妖怪の子は体力がすごいので、一日遊びにつきあわされたらボロボロにされてしまう。
実際彼女も、すでにふらふらになっていたようだった。
かわいらしいドレスはすでにビリビリに破れており、疲労のほどが伺えた。



「おお、お帰り、ナーリ!」

その様子を楽しそうに見つめている手の目は、俺に気づいて手を振ってきた。

「な、なあ……一体何をしてるんだ?」
「ああ。お前の『合法侵入』を使ってうちに忍び込もうとしたバカがいたからさ。ちょっとからかってやってたんだよ」

そういいながら、手の目は顎で彼女のことをくい、と見やった。
彼女が俺の『合法侵入』のスキルを奪ったことは、それですぐに分かった。


「そうだったのか……。けど、よく正体を見破れたな」
「あいつ、お前のスキルを誤解してたみたいだからな。お前のふりをして侵入しようとしたら、そりゃ失敗するよ」

そういって手の目は俺がここに来るまでの経緯を教えてくれた。

……なるほど、彼女は『合法侵入は基本的に、相手にとってのモブキャラ以外には化けられないこと』を知らなかったのだ。
そのことがわかり、俺は少し安堵した。


そして手の目は、楽しそうにキキーモラに声をかける。

「おーい、ぬらりひょん! ちょっとこっち来いよ! 紹介したい人がいるからさ!」
「え? 紹介したい人? ……あ……」


彼女は俺の顔を見るなり、表情を凍り付かせた。
その様子を見て心底楽しそうに、手の目は答える。


「紹介するよ。こいつは本物の『妖怪の総大将』ぬらりひょんことナーリ・フォンだ。……ほら、挨拶しなよ、偽物」
「……う、うそ……なんであなたが……?」


そういって逃げ出そうとしたが、すぐ後ろには満面の笑みの蛇骨婆がおり、肩をがっしりと掴んできた。


「ひ……!」


その表情は笑ってこそいるが、恐ろしいほどの恐怖を喚起させるものだった。
思わずキキーモラも絶句したようだった。


「ホホホ。お主もうすうす気づいておったのじゃろ? とっくに『合法侵入』が解けておることくらい、のう?」
「う……ど、どうして……?」
「そのスキルはな。よこしまな心を持つものが使っても上手くいかないのじゃよ」


そう蛇骨婆は嘘をついた。
まあ、ここで本当のことをいうメリットはないからしょうがないのだが。


「はあ……。失敗かあ……いいよ、もう。私のこと好きにして」

その発言に、観念したようにキキーモラはうなだれ、頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

処理中です...