人口比率が『エルフ80%、人間1%』の世界に、 チート能力もなしで転移した俺が「勇者」と呼ばれるまで

フーラー

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第1章 弓士団試験

チャロの戦い

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しばらくして、最後の夢魔の試験になった。
彼女は、いかにも「私はサキュバス」でござい、と書いてあるような、扇情的な服を着ている。
見せるべきなのは、そのナイスバディではなく武術の腕前だろうに。
「これが……これが、みんなの思いを込めた必殺技! エルフと夢魔の共存のために、今その力(いましめ)を解き放つ! そう、これは明日(きぼう)へ続く一筋の……!」
「ハンティング・アイス!」
余計な口上を述べているうちに、エルフの氷魔法が先に命中した。呪文の詠唱が済んだらさっさと発動すればいいものを……。
「きゃあああああ!」
強烈な氷の風がサキュバスの杖にまとわりつき、氷とともに粉砕された。
「……まさか、私が負けるなんて……」
これにより勝ち筋がなくなったためかサキュバスは降参した。

「さて、夢魔の試験は終わりね。あとは人間だけね……。と言っても、あなたたちだけみたいだけど」
ロナはそう言いながらセドナ達を見据えた。
そもそも、この国では人間の人口は1%しかいない。
その中で労働者として働ける年代であり武芸や学問に覚えがあり、なおかつ「首狩り姫」のうわさを知ったうえで受験するのは、チャロ達くらいなのだろう。
「みんな、あんたの悪口に腹立てて帰ったんじゃない?」
チャロはロナに嫌みっぽく言い返すが、相手にする様子もなかった。
「で、どっちが先に出るの?」
「じゃあ、先に私が出る。……医療班、呼んどいたほうが良いと思うよ?」
そういうとチャロは、肩を回しながら試合場に足を運んだ。

「最初の相手は、キミか……」
チャロはそう言いながら、相手のエルフを見据えた。先ほどリオを倒した兵士だ。
「よ、よろしくお願いします……」
(ん?)
不自然なほど怯えた様子を見て、セドナは違和感を感じた。
「で、では行きます!」
そういうと、エルフはひらりと身をひるがえすと弓を構え、チャロめがけて射ってきた。……が、
「遅いよ……本気で当てるつもりあるの?」
チャロはそれを難なくかわした。

エルフの腕力で引ける弓矢は、人間のそれと比べると明らかに張力が落ちる。
加えて、そのエルフが過剰に距離を取ってしまったことから、人間であればだれでも見切れる状態になってしまったのだろう。
「じゃ、じゃあ……」
そう言って魔法を唱えようとするが、そのすきにチャロはエルフの懐にまでもぐりこんだ。
「キミが相手なら、魔法を使わなくても、勝てるね……はあ!」
そういうと、掌底を前に突き出し、強烈な体当たりを仕掛けた。
「う、わ……!」
チャロも小柄だが、それでも筋肉量の少ないエルフを突飛ばすには十分な力であった。
その一撃を受け、エルフは場外に吹き飛んだ。

「……勝負あり、でしょ?」
チャロは得意げに、ロナを睨みつけた。
「そうね。やっぱり、新兵じゃ無理みたいね。……じゃ、次も勝ってみて?」
そういうと、試合場の奥からやや大柄な兵士が現れた。といっても、チャロよりも頭一つほど大きい程度だが。
目には大きな傷跡がついており、ベテランの風格を漂わせている。

「おお、今度の相手はあんたか、嬢ちゃん。あんまり出番がないから、退屈していたぜ」
軽く屈伸をしながら楽しそうに笑う兵士。
夢魔の戦いでは、エルフの新兵に勝利できるものは誰もいなかった。
夢魔たちは魔力も敏捷性も決して低くはないのだが、やはり「見栄を切りたがる癖」が抜けない限りは、勝利はおぼつかないのだろう。
「あんたが相手なら、私も本気でやらないとね……」
そうして、二人は見合った。

「はあ……!」
兵士と見合った刹那、チャロが詠唱を開始し、両足から光が立ち上った。
脚力を強化する呪文だ。これにより敏捷性を高め、その勢いを活かした突進技で相手を畳み込む戦法をチャロは得意としている。
「ほう……。じゃあ、俺も使うとするか!はあ!」
そういうと、相手のエルフも強化魔法をかけた。こちらは身体ではなく、弓に魔法をかけることで張力を増すものだ。
「うわ、さすが本職はすごいな……」
セドナは思わず、そうつぶやいた。

エルフは、魔力そのものが人間をはるかに上回っている。そのため、同じ強化魔法をかけてもその能力の増加幅も持続時間も、人間のそれとは比べ物にならない。
「……行くぞ!」
そういうと、兵士は3本の弓を同時につがえ、チャロめがけて射出した。
本来の弓の張力限界をはるかに超えた圧倒的な速度。だが、チャロは少し笑みを浮かべ、体をかがめた。
「そんなの、当たらないよ!」
その弓はチャロの頭上をひゅん、とかすめ背後の壁に勢い良く突き刺さった。
「やっぱり、チャロはすごいな……」
その様子を見て、セドナはつぶやいた。
いかに魔力を高め弓矢の能力や腕力を強化しても、エルフが本来持つ反射神経自体が上がるわけではない。
才能あるものであれば、至近距離であればエルフの弓矢の軌道を見切ることは、さほど難しいことではない。
間髪入れず、チャロが突撃する。……が、エルフはにやりと笑い、腰から短剣を抜いた。

剣からはわずかに白い燐光を発している。おそらく光の魔法がかかっているものとみて間違いない。紙一重でかわす武芸者であっても、閃光で動きをくらませることが出来る、厄介な武器だ。
「エルフを舐めんな!」
ベテランともなると、身体能力に優れた種族との接近戦もこなしているのであろう。エルフは勝ち誇ったような表情を見せると、それをチャロめがけて振り下ろした。
剣から目もくらむような光がほとばしる……が、光が晴れた時には兵士が場外に倒れこんでいた。
「流石に、今のは浅かったか……。けど、私の勝ちだよね?」
その発言を受け、兵士はふらり、と腹を抑えながら立ち上がった。げほっげほっと苦しそうな声を上げているが、
「くそ……まさか、読んでいたのか……」
見ると、先ほど取り出した短剣は天井に突き刺さっていた。どうやら、閃光が目を焼く直前に、チャロは顔をそらし、そのひねりを利用した蹴り上げで、ナイフを弾き上げたのだろう。
「うん、同じ手が二回通じると思ってなかったから。それに……」
「それに?」
「私が迫ってきたとき、嬉しそうな顔してたでしょ?だから、何かあるかなって思ったんだよ」
「……フン……。そこまで読んでたのかよ……」
そういうと、エルフはドッと座り込んだ。
「まだ、私はやれるよ?次の相手は?」

その後のチャロの快進撃は続いた。
あるものは魔法をよけられ、あるものはフェイントを見抜かれ、またある者は肉弾戦を挑み、敗北していった。
(やっぱり、チャロは『天才』だな……)
その様子を見ながら、セドナは心の中でつぶやいた。

何度かチャロと格闘訓練をしていた際に、セドナはチャロの天分の才には気づいていた。
魔力そのものは凡人と大きく変わらないが、小柄でこそあれど「格闘家」に向いた体格をしている。
何より動体視力と反射神経が抜群に優れており、攻撃を見切るのが上手い。実際、セドナが訓練に付き合わされた際にも、チャロにはセドナの攻撃はかすりもしなかった。
そうでもなければ、いくら人間とエルフの膂力に差があるとは言えど、まだ14歳の少女がここまで戦えることは、通常ではありえない。
だが、
(けど、これはまずいな……)
セドナは、会場を取り巻く雰囲気が変わり始めていたことに気が付いた。
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