人口比率が『エルフ80%、人間1%』の世界に、 チート能力もなしで転移した俺が「勇者」と呼ばれるまで

フーラー

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第1章 弓士団試験

「接待バトル」の開幕

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「やはり人間相手に、新兵では荷が重いのう?悪いけど、初戦の相手はワシじゃな」

出てきたのは、やはり秀麗な容姿をした兵士だった。
見た目は若いが口調から察するに、かなりの高齢のようだ。だが、エルフは加齢による体力低下も小さい(厳密には人間の体力低下が他種族より著しい)ため、いつまでも現役で戦えるのだろう。
裏を返せば世代交代も遅いということだが。

「はい、よろしくお願いします」
セドナは丁寧な口調で、頭を下げた。セドナが礼節を保っていることに、兵士は少し嬉しそうな表情を見せた。
「ほう、今度の相手は行儀のいい奴じゃのう……」
「礼節は、人間を災いから守る『最強の鎧』ですからね」
自分が元居た世界では特に、と言おうとしたがセドナは飲み込んだ。
「はっはっは!確かに、その通りじゃ。最強の盾も伝説の鎧も『仲間外れ』や『陰口』からは身を守ってはくれんからのう……。じゃが、この試合では役に立つかな?」
そういうと、エルフは強化魔法を展開した。彼は今までのエルフと異なり、全身をくまなく強化して戦うタイプのようだ。

「ほう、副団長が出るとは……」
「団長ほどではないが、あの方に勝つことは人間には出来ないだろうな」
その発言をセドナは聴き逃さなかった。
チャロとの訓練にずっと付き合わされたこともあり、セドナも剣の腕には覚えがある。真っ向勝負を挑めば、副団長を倒すことも不可能ではない。そもそもエルフが人間と接近戦を行うこと自体がかなり無謀な行為だからだ。
……だが、副団長を倒せば、自分も「天才」認定され、問題となることはセドナにも分かっていた。

「ほう、あんたは強化魔法は使わんのか?展開が終わるまで、待っててやるぞ?」
あくまでもこれは「試験」である。そのため、わざわざ魔法の展開が完了する前に戦うことは好まないのだろう、副団長は尋ねてきた。
「いえ、俺はそういうタイプではないのでね……行きますよ!」
本当は副団長が攻めてくるのを待ちたいところだったが、セドナは自分から剣を構え、とびかかった。あえて自分から行くことで『格下』であるふりをするためだ。

「……む!」
セドナの剣をエルフは矢筒でかわし、即座に矢を逆手に持つ。
「甘いわ!」
そして矢をセドナの肩めがけて振り下ろす。鞘を用いる剣技が人間の世界にあるのと同様、エルフは矢筒を武器としても扱うことはセドナも知っていた。
セドナは身をねじることでよけ、足払いを狙う。
それを副団長は大きく飛び上がり、かわす。
「……やるのう、あんたも……」
「流石は副団長ですね……。簡単には勝てない、と言うことか……」

セドナは口ではそういうが、先ほどの攻撃は意図的に「かわしやすい動き」をしたものだ。
剣道の試合と異なり、この戦いではみな異なる長さの剣を用いる。
その為、最初の一撃は軌道の読みやすい飛び込み切りではなく、剣道の「脇構え」のような姿勢で、剣を後ろ手に隠した状態で切り込むべきであった。
それをせずに、剣を大上段に振りかぶって襲い掛かるのは、悪手と言わざるを得ない。

次の攻撃に備えるべく、セドナは剣を下段に構えて見せた。
「ほう……。次はワシから行くぞ!」
今度はエルフが魔法の詠唱をはじめ、周囲を小さな竜巻で囲って見せた。
「受けるがいい!」
そして、強化魔法を弓に集中させ、矢を連続で放ってきた。副団長は風による拘束と弓矢の合わせ技で責めるタイプのようだ。
「くっ!」
セドナは剣を地面に突き刺して足場にすると、大きく飛び上がりながらそれをかわす。
「あぶない、あぶない……」
スタッと着地したタイミングで、周囲に展開された竜巻は姿を消した。その様子を見ながら副団長は感心したようにつぶやいた。
「なるほど、そう来るかのう……」

これも、実際には意図的に「手を抜いた」ものだ。
本来セドナの戦闘スタイルは、その膂力に任せて剣を振り回す重戦士のそれに近い。
先ほどの攻撃も、副団長が矢を放つタイミングで鞘を投げつければ、容易に行動を阻害することが出来た。だが、意図的にそれをせず、守りに徹した。
(こんな感じで良いのか……)

言うまでもないが、セドナは「接待勝負」をしていた。
ギリギリまで互角に戦い、最後の最後で紙一重で敗北する。これは実際には難しい。
あからさまな「手抜き」がバレたら、間違いなく試験は落第となるだろう。その為、セドナは本気では戦うものの、意図的に「行動への制約」をかけていた。
具体的には、自分と合わないファイトスタイルを選択し、また剣を用いた技も、突く・投げつける・鞘を使用するなどは行わず、「斬る」手段のみを用いている。

幸い、副団長は実直なタイプなのだろう、そのことには気づいていないようであった。
(あまり目立つのは良くないし、落ちるのも嫌だからな……)
そう思いながら、セドナは剣を構えた。

それから、数分の間、一進一退の状態が続いた。
「はあ……はあ……」
「なるほど……。チャロとかいう奴ほどではないが……あんたも中々やるのう……」
息を荒くする素振りを見せるセドナを見て、副団長は詠唱を始めた。剣を捨てて組み伏せれば詠唱を阻止できるが、セドナはあえてそうしなかった。
「じゃが、これで終わりじゃ!」
そういうと、今までにない威力の竜巻を地面に起こした。
(よし、ここだ!)
そう思いながら、セドナは竜巻に切り込んだ。
「く……うおおおおお!」
竜巻の中で悶えながらも、剣を手放さずにチャンスをうかがうセドナ。そして、
「くらえ!」
思いっきり剣を投げつけた。

「む……!しまった!」
それを副団長は見切り、矢筒で受けた。
だが、竜巻の速度で倍加された剣は矢筒を壊し、残り少なかった矢は地面に転がった。
そのまま、竜巻からはじき出されるように地面に倒れこむセドナ。
「まだ……行けますよね?」
そういうと、鞘を外し、ファイティングポーズをとった。本来ここでは、最後の武器となる鞘を剣の代わりに構えるところだ。
「む……。ああ。これで幕とするかのう……」
同じく強化魔法を最大出力で展開し、両手を広げる副団長。だが、セドナは戦う気はなかった。
(ほら、何やってんだ!気づけ!)
そうセドナが心の中で叫んだ直後、ロナから試合終了の声が流れた。
「はい、お疲れ様。これで試験は終了よ」

「む……。どうしてじゃ?まだ、ワシもセドナもやれるぞ?」
不服そうに訴える副団長に、彼女は冷静にセドナの足元を指さした。
「ほら、場外よ?」
「あ……」
わざと驚いた様子を見せながら、セドナは足元を見やった。左足が場外に出ている。
「あと少しだったのに……。とにかく、ありがとうございました」
「ああ。ワシも、あんたに実力で勝てたとは思えんかったがな。じゃが、いい勝負じゃった」
そう言いながら手を伸ばす副団長に、セドナはしっかりと握手した。
「はい、じゃあこれで試験を終了します。結果は3日後に発表するので、それまで待ってください」
とだけアナウンスを行った。
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