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第2章 弓士団としての初仕事
人類の持つ最強の武器
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「うげ、ロナ!」
チャロは露骨に嫌そうな顔をするが、セドナは笑顔で尋ねた。
「あれ、ロナもパーティに来たんだな?」
「違うわよ。私は……」
「おお、お帰り、ロナ。ロナはセドナと知り合いなのか?」
「ええ。……私は彼の妻よ」
老爺のそばに座り、少し恥ずかしそうに答えた。
セドナは思慮深げにうなづく。
「ああ、やっぱりそうだったのか!」
「やっぱりって?」
「だって、この間書いてた手紙、『エルフ構文』じゃなかったからさ。多分ロナの言ってた『恋人』って人間だろうなって思ってたんだよ」
「……そ、そうだったの……。と言うか、あなた、私のことセドナに話してなかったの?」
それを聞き、ロナは顔を赤らめた。
「そう言えば、ワシの妻の名前まではセドナ達には言っとらんかったな」
「私は、セドナが夫と会っていたのは聴いてたけど……。パーティをうちでするのは知らなかったわ」
「すまん。うっかり伝え忘れてな……」
老爺はそう誤るが、ロナは良いのよ、と答えた。
「じゃあ、折角だしロナもパーティに参加しないか?」
「……ごめん、私は夕飯の支度したいんだけど……」
ロナが用意していた食材を見て、隣に居た青年が立ち上がった。彼の種族は獣人だ。
「じゃあ、代わりに俺がやるよ。見た感じムニエルでも作るんだろ?」
「え?なんでわかるの?」
「だって俺、もともと傭兵団の炊事係だったからさ!戦争が無くなって仕事がなくなってからは、日雇いの仕事ばっかりだったけど……。料理はあんたよりうまいぜ?」
「そ、そう? じゃあ、お願いしようかしら……」
「おし、任せてくれ!」
そう言うと青年は厨房に立ち、慣れた手つきで魚をさばき始めた。
「へえ、あなたがロナさん? すっごいきれいな人で、羨ましいなあ……」
先ほどの少年が羨望の目をロナに向けた。人間がエルフに向ける、特有の目だ。
「そうじゃろ? 何と言っても、ワシの宝じゃからな?」
「けど、どうして二人は知り合ったの?」
「ああ、それはな。戦争中にワシが倒れてた小隊を看病したんじゃよ。その中の一人が、ロナだったんじゃ」
「へえ……。それで惚れちゃったってわけ?」
「けど、誤解しないでね。私は、別に看病してもらったから好きになったわけじゃないから」
「じゃあ、どうして?」
「……どんな時でも一生懸命になって他人の命を救おうとする姿が、好きになった理由よ」
「ああ、俺も戦争で怪我したとき、その爺さんに自陣まで運んでもらったことがあったしさ。凄いんだよ、爺さんは」
料理をしていた獣人の青年も手を止めずに答えた。
「ハハハ……。ま、今はただの爺さんじゃけどな」
「そんなことないって!爺さんのおかげで、俺も命が助かったんだし!」
「そうそう!私も、セドナの紹介でおじいちゃんに読み書き教えてもらったでしょ!だから、絵本もかけるようになったんだし!」
横から、一人の少女が老爺の肩を叩いた。
それを見てロナはクスリ、と笑った。
「あなたが前話してた教え子の女の子って、この子なの?」
「そうだよ! 折角だから、ロナお姉ちゃんも読んでみてよ!」
そう言って、少女は絵本を手渡した。
「……へえ……よくできてるわね……」
ロナは、少女の絵本を読みながら、感嘆の声を上げた。
内容は、ごく普通の剣と魔法の世界を旅する話だった。
様々な種族が登場し、悪い王様を退治する物語。
才能こそ感じるが、これで生計を立てていけるのか、と言うとロナは難しい、と感じた。
「あなた、絵本作家になりたいの?」
「うーん……。なれたらなりたいけど……。今は、絵本を書きたいってことしか頭にないかな」
ニコリ、と笑う少女。その希望にあふれた表情とは裏腹に、手は日々の仕事による酷使のためか、ひびとあかぎれにまみれていた。
「文字を学んで、本を読むとさ!もっともっと、書きたいものが出てくるんだ!だから、おじいさんには感謝しているんだ」
「……そうなのね。……セドナ、ちょっと外に出ない?」
「ダメ!」
チャロはセドナに抱き着いて、威嚇するように叫んだ。
「じゃあ、あなたも一緒で良いわ。ちょっと外で話したいことがあるの」
「え、私も?……なら、良いけど……」
「ああ、分かった」
そう言うと、セドナ達は外に出た。
家の外に出ると、中からカリンバの音が家の中から夜風に流れ、聞こえてきた。
以前セドナがもらってきたものだが、現在では多くのメンバーが演奏をマスターしている。
「いい曲ね……」
「ああ、以前譲ってもらってから、みんな使っててさ!すっげー上手くなったんだよ」
「そうだったの……。あなたは弾かないの?」
チャロは恥ずかしそうに首を振る。
「私は、そう言うの苦手なんだよ……。基本的に、戦うこと以外はあまり好きじゃないから」
チャロは少し不貞腐れたような表情で言う。
「けどさ! その分強くなったし、セドナのことは絶対に守ってやれるから! セドナが働けなくなっても私が働けるし!」
「……フフフ、そうね……」
珍しく反論せず、ロナは寂しそうに笑った。
ロナの頬を月光が明るく照らし出し、その美しさはある種の芸術品のようだった。
「…………」
それを見て不安に思ったのか、チャロはセドナの顔をグイ、と横に向けてきた。
「お、おい、何すんだよ!」
「別に? で、話ってなに?」
ロナは、ゆっくりと話し始めた。
「……さっきの夫の話、覚えてる?」
「ああ、ロナ隊長とのなれそめだろ?あれがどうしたんだ?」
「あの話、一つだけ言ってないことがあるの」
「なんだ?」
そこでロナは少し息をのんだ。
「私は元『ディエラ帝国』の兵士……つまり、夫の敵側の兵だったのよ」
なお、現在では王国とディエラ帝国の間には不可侵条約が結ばれている。
「へえ、そうだったのか」
「うん。それで?」
「……フフ、やっぱり驚かないのね……」
ロナはセドナ達の反応を見て、軽く笑った。
「あなた達からすると、敵兵の怪我を治療する兵士って、普通なの?」
エルフにとって「敵国の兵士を治療する」と言うことは、よほど奇異に映るのだろう。
それを察したのか、セドナとチャロは同時にうなづいた。
「まあ、助けられる状況だったら、普通は助けるかな」
「そうだね。……もちろん、捕虜にはすると思うけど」
ふうん、と不思議そうな表情でロナは尋ねる。
「それが、私たちエルフには分からないのよね……。なんで、敵国の兵士である私を助けてくれたのかって。……それも『人道主義』……えっと、ヒューマニズムっていうんだっけ?なのかしら?」
「まあ、そうだね」
チャロがこくん、とうなづいた。
「そう言うのが、私には分からないのよ……」
そうロナがセドナの方を見て、尋ねた。だが、セドナは首をかしげた。
「分からない、か?」
「え?」
「確かに理解できない価値観はあると思う。……けど違う価値観を持つ『相手』を『理解』することは出来るんじゃないかな」
「相手を?」
「ああ。今の質問だって、少なくとも『人間は、主義や思想、利害よりも人命を尊重する特性がある』って『理解』してたから聞いたんだろ? それにロナは、爺さんのそう言うところに惹かれて結婚したんだと思うしな」
ロナは、はっとしたようにうなづいた。
「……そうか、そうかもね……」
「俺もさ、いろんな人たちと話し合っていろんな人たちを見てきたけど……。やっぱり、人間には理解できない価値観を持つなって思うことはあるよ。例えば『エルフ構文』とかな」
「ああ、それ言ったら私もあなた達が『モテる』ために努力するのを理解できないわ」
ロナの発言に、セドナはリオの方を見やった。
どうやら、先日の反省点を踏まえ、スラム街の住民と仲良くやれているようだ。これだけでも、数日前に比べて『レベルアップ』したことがうかがえた。
「だろ?けどさ、話し合いを続けると、相手がなんでそう言う考え方を持つようになったのかの『理解』は出来るんだよ。それが出来れば、良いんじゃないかって思うんだよ」
「なるほどね。……話し合う、か……」
顎に手を当てながら、ロナはフフフ、と笑った。
「そうね。……確かに、私も人間のことがちょっとだけ、理解できた気がするわ……」
「それは、お互い様だよ。……で、話ってそれだけか?」
チャロが少し寒そうにしていたので、セドナは自分の上着をチャロに貸し与えながら質問をした。
「ううん、あなたにお礼を言いたくって」
「お礼? もういいよ、あの時のことは……」
「そのことじゃなくってね。夫を元気にしてくれたことに、よ」
ロナは手に持った紅茶を一口飲みながら、月を見上げながら言った。
「ちょっと前まで、あの人ったら、腰を悪くしてね。それで歩くのも難しくなってから、いつもふさぎ込んでたのよ」
それを聞いて、チャロも頷く。
「そう言えばそうだったね。確か……セドナとさっきの子に読み書きを教えるようになった頃かな?あの頃から、よく笑うようになった気がするよ」
「さっき話を聴いたら、セドナがあの子を紹介してくれたそうじゃない。だから、セドナのおかげなんだなって思ったのよ」
「そうそう! セドナの凄いところって、ほかの人たちを明るくさせるところだからね!」
チャロは得意げに笑みを浮かべる。
「だから、改めてお礼を言いたかったの。……ありがとう」
「どういたしまして。……なんか、こうやって改めて礼を言われると照れるな」
セドナは照れ隠しをするように、目をそらしながら頭を掻いた。
「後、夫だけじゃないわね。……ここの人たちって、貧乏だけど自分のやりたいことを持っていて、とても希望にあふれた目をしてるもの」
「ああ、そりゃなんてったって、レクリエーション活動を主催するのは、前の世界……ゴホン!昔っから得意だったからな」
思わず口が滑りそうになるが、そこをセドナは咳払いでごまかした。
「そうだったのね。……やっぱり希望を持てると、どんな状況でも人は輝けるのかもね」
その発言にセドナは、満面の笑みで首を縦に振る。
「ああ!だって『希望は人類が持つ最強の武器』だろ?」
「……フフフ。くさいセリフね。まるでリオみたい」
そう言いながらも、感心したような口調でロナは続けた。
「ただ、今の時代は『魔王』も『モンスター』もいないけど……。いろんな人に生きる希望を与えてくれる、あなたみたいなのが『勇者』って言うのかもね?」
「……ハハハ、リオにも言われたよ、それ。剣もへたくそ、魔法はてんで使えない勇者様ってやつか?」
本人が言うほど剣の腕は低くないのだが『天才』と思われる可能性を考慮し、セドナは謙遜を込めて言う。
「それなら私は、セドナを守る格闘ヒロインってところだね?」
「なるほど、じゃあリオはお調子者の道化師ってところか?」
チャロとセドナの寸劇のようなやり取りを見て、ロナは満足げな笑みを見せた。
「フフフ、ずいぶん偏ったパーティね。……けど、お礼も言えてよかったわ。そろそろ家に戻らない?」
部屋の中からは、何か楽しむような声が聞こえてきた。
「お、ゲームやってんな!」
「きっと、新しいシナリオが出来たんだよ!セドナも行く?」
「ああ、そうだな!」
「なに、シナリオって?」
「テーブルトーク・RPGのシナリオだよ。時々シナリオを作ってくる奴が居るんだよ!」
「へえ……。私も参加していい?」
少し恥ずかしそうに訊くロナに、チャロはニヤリと笑みを浮かべた。
「いいけど、あんたのこと、ぼっこぼこにするつもりだけど?」
「あなたには無理よ……。あのね、あなたは知らないかもしれないけど、ゲームって言うのは腕力や魔力で勝てるものじゃないのよ?」
「私のことバカにしてるでしょ、あんた!言っとくけど、私はゲーム超強いから、覚悟しといてよね!」
「あら、それならちょっとは本気出してあげても良いわね。あなたの空っぽの頭に敗北の文字を刻み付けてあ・げ・る」
相変わらずの皮肉を飛ばすロナに、チャロは挑戦的な目を向ける。
まだロナを嫌っていることに違いはないが、少し打ち解けたのだろう、セドナは嬉しそうに笑った。
「それじゃ、中に入ろうか?」
そう言うと、ロナ達は部屋に戻っていった。
チャロは露骨に嫌そうな顔をするが、セドナは笑顔で尋ねた。
「あれ、ロナもパーティに来たんだな?」
「違うわよ。私は……」
「おお、お帰り、ロナ。ロナはセドナと知り合いなのか?」
「ええ。……私は彼の妻よ」
老爺のそばに座り、少し恥ずかしそうに答えた。
セドナは思慮深げにうなづく。
「ああ、やっぱりそうだったのか!」
「やっぱりって?」
「だって、この間書いてた手紙、『エルフ構文』じゃなかったからさ。多分ロナの言ってた『恋人』って人間だろうなって思ってたんだよ」
「……そ、そうだったの……。と言うか、あなた、私のことセドナに話してなかったの?」
それを聞き、ロナは顔を赤らめた。
「そう言えば、ワシの妻の名前まではセドナ達には言っとらんかったな」
「私は、セドナが夫と会っていたのは聴いてたけど……。パーティをうちでするのは知らなかったわ」
「すまん。うっかり伝え忘れてな……」
老爺はそう誤るが、ロナは良いのよ、と答えた。
「じゃあ、折角だしロナもパーティに参加しないか?」
「……ごめん、私は夕飯の支度したいんだけど……」
ロナが用意していた食材を見て、隣に居た青年が立ち上がった。彼の種族は獣人だ。
「じゃあ、代わりに俺がやるよ。見た感じムニエルでも作るんだろ?」
「え?なんでわかるの?」
「だって俺、もともと傭兵団の炊事係だったからさ!戦争が無くなって仕事がなくなってからは、日雇いの仕事ばっかりだったけど……。料理はあんたよりうまいぜ?」
「そ、そう? じゃあ、お願いしようかしら……」
「おし、任せてくれ!」
そう言うと青年は厨房に立ち、慣れた手つきで魚をさばき始めた。
「へえ、あなたがロナさん? すっごいきれいな人で、羨ましいなあ……」
先ほどの少年が羨望の目をロナに向けた。人間がエルフに向ける、特有の目だ。
「そうじゃろ? 何と言っても、ワシの宝じゃからな?」
「けど、どうして二人は知り合ったの?」
「ああ、それはな。戦争中にワシが倒れてた小隊を看病したんじゃよ。その中の一人が、ロナだったんじゃ」
「へえ……。それで惚れちゃったってわけ?」
「けど、誤解しないでね。私は、別に看病してもらったから好きになったわけじゃないから」
「じゃあ、どうして?」
「……どんな時でも一生懸命になって他人の命を救おうとする姿が、好きになった理由よ」
「ああ、俺も戦争で怪我したとき、その爺さんに自陣まで運んでもらったことがあったしさ。凄いんだよ、爺さんは」
料理をしていた獣人の青年も手を止めずに答えた。
「ハハハ……。ま、今はただの爺さんじゃけどな」
「そんなことないって!爺さんのおかげで、俺も命が助かったんだし!」
「そうそう!私も、セドナの紹介でおじいちゃんに読み書き教えてもらったでしょ!だから、絵本もかけるようになったんだし!」
横から、一人の少女が老爺の肩を叩いた。
それを見てロナはクスリ、と笑った。
「あなたが前話してた教え子の女の子って、この子なの?」
「そうだよ! 折角だから、ロナお姉ちゃんも読んでみてよ!」
そう言って、少女は絵本を手渡した。
「……へえ……よくできてるわね……」
ロナは、少女の絵本を読みながら、感嘆の声を上げた。
内容は、ごく普通の剣と魔法の世界を旅する話だった。
様々な種族が登場し、悪い王様を退治する物語。
才能こそ感じるが、これで生計を立てていけるのか、と言うとロナは難しい、と感じた。
「あなた、絵本作家になりたいの?」
「うーん……。なれたらなりたいけど……。今は、絵本を書きたいってことしか頭にないかな」
ニコリ、と笑う少女。その希望にあふれた表情とは裏腹に、手は日々の仕事による酷使のためか、ひびとあかぎれにまみれていた。
「文字を学んで、本を読むとさ!もっともっと、書きたいものが出てくるんだ!だから、おじいさんには感謝しているんだ」
「……そうなのね。……セドナ、ちょっと外に出ない?」
「ダメ!」
チャロはセドナに抱き着いて、威嚇するように叫んだ。
「じゃあ、あなたも一緒で良いわ。ちょっと外で話したいことがあるの」
「え、私も?……なら、良いけど……」
「ああ、分かった」
そう言うと、セドナ達は外に出た。
家の外に出ると、中からカリンバの音が家の中から夜風に流れ、聞こえてきた。
以前セドナがもらってきたものだが、現在では多くのメンバーが演奏をマスターしている。
「いい曲ね……」
「ああ、以前譲ってもらってから、みんな使っててさ!すっげー上手くなったんだよ」
「そうだったの……。あなたは弾かないの?」
チャロは恥ずかしそうに首を振る。
「私は、そう言うの苦手なんだよ……。基本的に、戦うこと以外はあまり好きじゃないから」
チャロは少し不貞腐れたような表情で言う。
「けどさ! その分強くなったし、セドナのことは絶対に守ってやれるから! セドナが働けなくなっても私が働けるし!」
「……フフフ、そうね……」
珍しく反論せず、ロナは寂しそうに笑った。
ロナの頬を月光が明るく照らし出し、その美しさはある種の芸術品のようだった。
「…………」
それを見て不安に思ったのか、チャロはセドナの顔をグイ、と横に向けてきた。
「お、おい、何すんだよ!」
「別に? で、話ってなに?」
ロナは、ゆっくりと話し始めた。
「……さっきの夫の話、覚えてる?」
「ああ、ロナ隊長とのなれそめだろ?あれがどうしたんだ?」
「あの話、一つだけ言ってないことがあるの」
「なんだ?」
そこでロナは少し息をのんだ。
「私は元『ディエラ帝国』の兵士……つまり、夫の敵側の兵だったのよ」
なお、現在では王国とディエラ帝国の間には不可侵条約が結ばれている。
「へえ、そうだったのか」
「うん。それで?」
「……フフ、やっぱり驚かないのね……」
ロナはセドナ達の反応を見て、軽く笑った。
「あなた達からすると、敵兵の怪我を治療する兵士って、普通なの?」
エルフにとって「敵国の兵士を治療する」と言うことは、よほど奇異に映るのだろう。
それを察したのか、セドナとチャロは同時にうなづいた。
「まあ、助けられる状況だったら、普通は助けるかな」
「そうだね。……もちろん、捕虜にはすると思うけど」
ふうん、と不思議そうな表情でロナは尋ねる。
「それが、私たちエルフには分からないのよね……。なんで、敵国の兵士である私を助けてくれたのかって。……それも『人道主義』……えっと、ヒューマニズムっていうんだっけ?なのかしら?」
「まあ、そうだね」
チャロがこくん、とうなづいた。
「そう言うのが、私には分からないのよ……」
そうロナがセドナの方を見て、尋ねた。だが、セドナは首をかしげた。
「分からない、か?」
「え?」
「確かに理解できない価値観はあると思う。……けど違う価値観を持つ『相手』を『理解』することは出来るんじゃないかな」
「相手を?」
「ああ。今の質問だって、少なくとも『人間は、主義や思想、利害よりも人命を尊重する特性がある』って『理解』してたから聞いたんだろ? それにロナは、爺さんのそう言うところに惹かれて結婚したんだと思うしな」
ロナは、はっとしたようにうなづいた。
「……そうか、そうかもね……」
「俺もさ、いろんな人たちと話し合っていろんな人たちを見てきたけど……。やっぱり、人間には理解できない価値観を持つなって思うことはあるよ。例えば『エルフ構文』とかな」
「ああ、それ言ったら私もあなた達が『モテる』ために努力するのを理解できないわ」
ロナの発言に、セドナはリオの方を見やった。
どうやら、先日の反省点を踏まえ、スラム街の住民と仲良くやれているようだ。これだけでも、数日前に比べて『レベルアップ』したことがうかがえた。
「だろ?けどさ、話し合いを続けると、相手がなんでそう言う考え方を持つようになったのかの『理解』は出来るんだよ。それが出来れば、良いんじゃないかって思うんだよ」
「なるほどね。……話し合う、か……」
顎に手を当てながら、ロナはフフフ、と笑った。
「そうね。……確かに、私も人間のことがちょっとだけ、理解できた気がするわ……」
「それは、お互い様だよ。……で、話ってそれだけか?」
チャロが少し寒そうにしていたので、セドナは自分の上着をチャロに貸し与えながら質問をした。
「ううん、あなたにお礼を言いたくって」
「お礼? もういいよ、あの時のことは……」
「そのことじゃなくってね。夫を元気にしてくれたことに、よ」
ロナは手に持った紅茶を一口飲みながら、月を見上げながら言った。
「ちょっと前まで、あの人ったら、腰を悪くしてね。それで歩くのも難しくなってから、いつもふさぎ込んでたのよ」
それを聞いて、チャロも頷く。
「そう言えばそうだったね。確か……セドナとさっきの子に読み書きを教えるようになった頃かな?あの頃から、よく笑うようになった気がするよ」
「さっき話を聴いたら、セドナがあの子を紹介してくれたそうじゃない。だから、セドナのおかげなんだなって思ったのよ」
「そうそう! セドナの凄いところって、ほかの人たちを明るくさせるところだからね!」
チャロは得意げに笑みを浮かべる。
「だから、改めてお礼を言いたかったの。……ありがとう」
「どういたしまして。……なんか、こうやって改めて礼を言われると照れるな」
セドナは照れ隠しをするように、目をそらしながら頭を掻いた。
「後、夫だけじゃないわね。……ここの人たちって、貧乏だけど自分のやりたいことを持っていて、とても希望にあふれた目をしてるもの」
「ああ、そりゃなんてったって、レクリエーション活動を主催するのは、前の世界……ゴホン!昔っから得意だったからな」
思わず口が滑りそうになるが、そこをセドナは咳払いでごまかした。
「そうだったのね。……やっぱり希望を持てると、どんな状況でも人は輝けるのかもね」
その発言にセドナは、満面の笑みで首を縦に振る。
「ああ!だって『希望は人類が持つ最強の武器』だろ?」
「……フフフ。くさいセリフね。まるでリオみたい」
そう言いながらも、感心したような口調でロナは続けた。
「ただ、今の時代は『魔王』も『モンスター』もいないけど……。いろんな人に生きる希望を与えてくれる、あなたみたいなのが『勇者』って言うのかもね?」
「……ハハハ、リオにも言われたよ、それ。剣もへたくそ、魔法はてんで使えない勇者様ってやつか?」
本人が言うほど剣の腕は低くないのだが『天才』と思われる可能性を考慮し、セドナは謙遜を込めて言う。
「それなら私は、セドナを守る格闘ヒロインってところだね?」
「なるほど、じゃあリオはお調子者の道化師ってところか?」
チャロとセドナの寸劇のようなやり取りを見て、ロナは満足げな笑みを見せた。
「フフフ、ずいぶん偏ったパーティね。……けど、お礼も言えてよかったわ。そろそろ家に戻らない?」
部屋の中からは、何か楽しむような声が聞こえてきた。
「お、ゲームやってんな!」
「きっと、新しいシナリオが出来たんだよ!セドナも行く?」
「ああ、そうだな!」
「なに、シナリオって?」
「テーブルトーク・RPGのシナリオだよ。時々シナリオを作ってくる奴が居るんだよ!」
「へえ……。私も参加していい?」
少し恥ずかしそうに訊くロナに、チャロはニヤリと笑みを浮かべた。
「いいけど、あんたのこと、ぼっこぼこにするつもりだけど?」
「あなたには無理よ……。あのね、あなたは知らないかもしれないけど、ゲームって言うのは腕力や魔力で勝てるものじゃないのよ?」
「私のことバカにしてるでしょ、あんた!言っとくけど、私はゲーム超強いから、覚悟しといてよね!」
「あら、それならちょっとは本気出してあげても良いわね。あなたの空っぽの頭に敗北の文字を刻み付けてあ・げ・る」
相変わらずの皮肉を飛ばすロナに、チャロは挑戦的な目を向ける。
まだロナを嫌っていることに違いはないが、少し打ち解けたのだろう、セドナは嬉しそうに笑った。
「それじゃ、中に入ろうか?」
そう言うと、ロナ達は部屋に戻っていった。
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「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
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