国民のほぼ全員が『人生2週目の転生者』なので、前世で起きた『聖女様闇落ち世界滅亡エンド』を総力あげて回避します

フーラー

文字の大きさ
10 / 39
第1章 暴力による報復を好むものは、いつだって安全地帯の傍観者

1-6 「自分が被害者にならないための優しさ」は優しさじゃない

しばらくして未夏は彼女たちの近くに迫る。

だが、その前にウノーのほうが先に未夏に気が付く。
そして先ほどまでの怒りの表情が一瞬で消え、すぐに親指を自分に向けて笑みを浮かべた。

(あの仕草は……原作と同じね……)

あれは「俺に任せておけ」という意味だ。
彼のその動作は、原作でもとても頼りになったことをよく覚えている未夏は、それを見て心強く思い、うなづいた。


(ウノー様がそういうなら……任せても大丈夫よね……)

万一暴力に訴えようとした時に備えて、一応護身用の薬品も持ってきている。
そう考えた未夏はウノーを見守ることにした。


「よう、楽しそうじゃんか!」
「ウ、ウノー様?」


突然声をかけられて女性陣はおどろいた表情を見せた。


「同じ留学仲間のオルティーナのことで盛り上がってるみたいだな。……あの方のこと、あんたらは嫌いなのか?」
「え? ……えっと……」


その発言に、彼女たちは一瞬口ごもる。
まあ、冷静に考えれば他国の伯爵令嬢の陰口を行ったことを彼女の幼馴染でもある次期辺境伯であるウノーにいうわけにも行かないだろう。

それを口にしたら、最悪無礼打ちされる可能性すらあるのだから。
だが、それを見てニコニコとウノーは笑みを浮かべた。

「……あはは、まあ俺の前では言いたくないよな。……けどさ、カルナ?」
「な、なに?」

自身の行動を咎められると思ったのか、カルナと呼ばれた少女は少し身構えるような表情を見せた。
だが、ウノーはにこやかな笑みで答える。


「カルナはさ、この間の課外授業で、足をくじいたクラスメイトを手当してただろ? そのことをみんなに話したらさ、すごいいい奴だよなって、お前のこと褒めてたよ」
「そ、そう……」

その発言に、カルナは少しだけ頬を嬉しそうに染める。
更にウノーは続けた。

「あと、マグネス? マグネスはこの間さ。俺が魔導試験の追試だった時、勉強教えてくれただろ? あれ、すっげー助かったんだよな。そのこと、ナットに話したら『いい子なんだな』っていってたしさ」
「え、そ、そうだったんだ……」
「べリウスもありがとな。この間振られて泣いてた俺の友達を励ましてくれてたんだってな。……優しいんだな、べリウスは」
「あ、あれ、その話知ってるんだ……?」


そこまで話した後に、少し悲しそうな表情で右耳のイヤリングを触りながらつぶやく。
……つまり、本心からの発言ということだ。

「で……。正直さ、みんなすごいいい奴だから、俺はこの留学生活、楽しくてしょうがないんだよ。……だから俺は……みんなを嫌いになりたくないんだ。オルティーナの悪口はさ。言わないでくれないか?」
「う……うん……」

そういわれて反省したようで、3人の女性陣は口をつぐむ。
だが、まだ悪口を言い足りないのか、不満そうな表情も見せている。


「後さ。今度うちの屋敷でティーパーティ開くんだ。ナットやルームスも来るから、その際にデートに誘ってみたらどうかな?」

ナットとルームスは確かウノーの友人だったはずだ。
彼らも容姿と家柄が優れているためクラスの女子には人気が会ったことを覚えている。
恐らく彼らを狙っていたのだろう、女性陣が色めきだつ。


「え? で、デートに?」
「ああ。3人とも優しくていい奴だって、俺のほうからアピールするからさ。なんなら、あいつらの好きなデートスポットも教えてやってもいいけど……」
「うん! ……いいの、本当に?」
「あんたらの話したら、向こうもすげー乗り気だった! あいつらもいい奴だからさ。今度みんなで海にでも行こうぜ?」
「いいね! ひょっとして企画とかもウノー様がやってくれるの?」
「当然! 楽しい夏にしないとな!」


そしてウノー本人は意識していないようだったが、イヤリングから手を離してつぶやく。


「……だからオルティーナのこと、よろしくな。俺はあいつの大切な幼馴染だからさ……」
「分かったわ。……あんたのためなら協力してあげる」


だが、その行動には特に意識せず女性陣はうなづいた。

(へえ……原作とは性格が変わっているのね、ウノーは……)


未夏はその一連の動きを見て、少し意外な気持ちになった。

もともと彼は社交性が高く、来る人全員を魅了するような魅力がある。
未夏はゲーム本編のそれでは単に「イケメンで爽やかだからそうだった」としか思っていなかった。

だが、彼の本当の魅力は「仲間の良いところを積極的に探せるところ」と「好みや性格をしっかり把握していること」そして何より「みんなで幸せになろう」という考えを少なくとも今世では持っているところだろう。


(『俺さえ彼女が出来れば、友人はひとり身で構わない』『彼氏が出来たら、友人づきあいは面倒だからしない』みたいな考えを持つ輩も結構いるから……ああいう考えは素敵ね……)


そう思い、未夏は彼の言動に好意を持つと同時に疑問を感じた。


(確か本編での彼は……けんかっ早くてすぐ手が出る性格だったのに……ああやって平和的解決をするようになったのは意外ね……。剣の腕が伸びなくて『弱者側』になったからかなあ……)

そうは思ったが、すぐに未夏は心の中で否定した。

彼の行動は『自分が被害者にならないための優しさ』ではなく『他人を加害者にしないための優しさ』だと感じたからだ。そういう優しさを持つ人間はきわめて稀だし、弱者の側になったというだけで持てるものじゃない。


(けど、正直……剣や闘気術が使えなくても……私は今のウノー様の方が好きかな……)


未夏はそう思ったが、同じようなことを彼女たち女性陣も思っているようだった。


「それじゃ、また今度な。改めて連絡するよ」
「うん、よろしく!」

そういってウノーが去ったあと、彼女たちは小声で彼の行動についての批評を行っていた。

「ウノー様ってさ。最初は剣も魔法も使えない『ハズレ』だと思ったけど……」
「うん。話してみると素敵な人よね……。案外、ああいう人と結婚するのもいいかもね。人間関係の面倒ごととか、全部やってくれそうだし!」
「だよね! ……けど絶対さ、あいつオルティーナのこと好きだよね?」
「間違いないよね! はあ、いいよなあ、天才は……」

ゲーム本編では、彼の爽やかな外見や辺境伯という家柄、そして何より剣や闘気術に優れた成績を持つ『有望株』として人気が高かった。

だが今世のウノーは剣も闘気術も使えないし、戦争が休戦したことで辺境伯の立場も弱くなった。そんな彼は周りをつないでくれる『一人の人間』として慕われているようだった。


「ま、オルティーナのことは置いといてさ。ウノー様が開いてくれるパーティだけど何着てく?」
「え? あたしは新作のドレスがあるんだ!」
「何それ? いつ買ったの?」

また、ウノーにたしなめられたことや、悪口よりも『楽しみな未来』に興味を持っていかれたのだろう。彼女たちはそれ以上オルティーナの悪口では言わず、デートで行きたいところや最近の流行ファッションのことなど、とりとめのない話題に変化していた。

彼女たちに興味を失った未夏は、ふと明日の予定について思い出した。

(あ、そういえばウノー様の従者が、明日あたり薬を取りに来る予定だったわね……)


当然だが、未夏がこの国に招聘されたことはウノーも知っている。
そのため、彼の従者(ウノーは単身ではなく数人の護衛を兼ねた使用人も連れてきている)から鎮静剤をまた作ってほしいと連絡を受けている。


だが、ちょうど今鎮静剤は手元にある。


(どうせ渡すなら、従者じゃなくて本人に渡しても変わらないわよね。……)

勿論これは、『あわよくば学校でウノーと会ったら、薬を手渡すということを口実に二人っきりで話をしたい』という下心があってのものだ。


(確か原作では、こういう時は校舎裏にいたわよね……)

ここは原作に出てきた学校とは異なるが、PCキャラの行動パターンは割と原作に準拠していることが分かった。

そう思った未夏は、原作で彼が一人になりたいときにどこに行くのかを思い出した。
感想 1

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。