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第1章 暴力による報復を好むものは、いつだって安全地帯の傍観者
1-8 現実世界の人間の強さを見くびるな、道化師が
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ウノーと別れた後、未夏は自室で一人つぶやいていた。
「まさかとは思ったけど……この魔道具を使っているなんてね……」
ウノーが持っていたロケットの正体は『経験の代行証』と呼ばれるアイテムだ。
……このアイテムに名前を掘り、そしてそのロケットに肖像画を入れた場合、前者の経験値がすべて後者に譲渡されるものだ。
つまり、ウノーが剣や魔法、闘気術の練習をすればするほど、その技量や能力は聖女オルティーナに流れるということになる。
本来は、中途加入する仲間を重点的に育てたり、特定キャラを限界まで育てて特殊イベントを見たりするために使用するアイテムだ。
(そりゃ、オルティーナが天才になるわけね……)
当然こんなアイテムを幼少期からウノーは持たされていたのであれば、彼は能力値がいつまでも上昇しないし、逆にオルティーナはレベルがどんどん上がっていくことになる。
原作中でもあまり努力を好まない性格だったオルティーナが『天才』であるのは、ドーピングアイテムをずっと与えられてきたことと、彼に努力を代行してもらっていたことが理由なのだろう。
(けど……このことはウノー様には話せないわ……)
無論そのことをウノーに話すことも可能だった。
だが、『前世では未夏を支えてやれなかった』という後悔……これも冷静に考えれば違和感があるが……を抱えている彼にこのことを話しても、
「そんなの全然構わない! 俺があいつの分まで経験値を稼いでやる!」
なんていうに決まっている。
そうした場合、この経験の代行証を奪還することは不可能になるはずだ。……彼は、今世における自身の幸福を全部諦めているのは見ただけでもわかる。だが、そのことは未夏には耐えられなかった。
(渡したのは、オルティーナの使用人と言ってたわね……。彼らも、前世の記憶を持っているから、彼女に尽くそうとしたってことなのね……)
また、ご丁寧なことにこのアイテムはショップでの売値も高い。
そのため『プレゼントで贈っても怪しまれない』という特徴まで持っている。
(オルティーナは、そのことを知らないのよね……。知ってたら、ウノーをあんな横柄に扱ったりしないもの……)
ウノーの努力の成果をすべて横取りしていたオルティーナのことを考えると、未夏は怒りの気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
そして、改めてその『経験の代行証』を見据える。
(さて、これはどうするかよね……)
そんな風に考えていると、突然頭の中に声が響いた。
『オルティーナの肖像画、君の肖像画に取り換えちゃいなよ!』
その声は、未夏も聞き覚えがある。
「プログリオ……?」
『そうだよ~ん!』
未夏がそういうと、道化師姿の少年がふわ……と身を翻しながら現れた。
無論彼は一種の亡霊のようなものなので、姿は半透明である。
『さすがは転移者様! ボクの正体は知っているんだね~?」
「当然よ」
ゲーム本編でもたびたび顔を出していた、いわゆる『物語をひっかきまわすトリックスターキャラ』だ。
(本編でもお邪魔なキャラだったけど……改めて見ると、やっぱり憎たらしいわね……)
彼は『因果律の鎖』というイベントアイテムを管理している立場だ。
この『因果律の鎖』とは一言でいうと『そいつの望んだ世界に作り変えちゃうぞ装置』である。
この装置を操れるのが聖女オルティーナと悪役令嬢ラジーナだけということが、本ゲームで大きなポイントとなっている。
……無論、本編でバッドエンドになると、闇落ちしたオルティーナがこの『因果律の鎖』で世界を滅亡させる流れになるのだが。
未夏が身構えていると、少年プログリオはニコニコ笑って尋ねる。
『知ってるでしょ? 経験の代行証は、本人が持ってなくても効果があるって?』
「ええ……まったく、ご親切なゲームだったわね」
このゲームはだいぶユーザーフレンドリーだ。
経験の代行証はゲーム本編でも装備欄を圧迫しないように、最初に名前を掘り、そして肖像画をセットすれば装備していなくても効果を発揮する『貴重品』ポジションだった。
つまり、肖像画を未夏に取り換えれば、今後はウノーが努力して与えてくれた経験値はすべて未夏自身に流れることになる。
『そ。未夏もさ。この世界をもっと自由に歩きたいでしょ? そのためには力があったほうがいいじゃないか!』
「力……ねえ……」
『魔法も闘気術も使えない、それに運動音痴で頭も悪い。そんな君が世界を旅するなら、力を持たなきゃ? だから、経験値をウノーから横取りしちゃうのさ! 彼が得たスキルも未夏に流れるから、闘気術も覚えられるよ?』
そういいながら、空中でクルクルと楽しそうに踊るプログリオ。
いわゆる『道化』としてのポジションでもある彼は、作中でもこうやってキャラをからかっていた。
「そんなことしたら、ウノー様はどうなるの?」
『今まで通り、変わらないよ! 彼はレベルの低い、弱キャラのまま! けど別に、彼は怒ったりしないって! 昔っからずっとそうだったんだから!』
彼はそういいながら、未夏の顔を見て『そうだ!』といたずらっぽく笑う。
『良心が痛むんだね? ならいい方法があるよ! ……未夏が必要なだけ経験値を奪ったら、そのことを全部ウノーに話しちゃうのさ!』
「どういうこと?」
『今まで黙っていてごめんなさい、あなたを利用してごめんなさい。これからはこの力で、あなたのために罪滅ぼしをします! そのために、結婚してください! ……っていうんだ! そしたらウノーは、絶対こういうよ!』
そういうと、プログリオはウノーの声真似をする。
ちなみにゲーム本編でも、声真似が得意な声優を起用していたのか、この手の声真似は良く行われていた。
『そうだったのか……。けど、俺はそんなこと、気にしねえよ! けど、それでも責任を感じるっていうなら……一生傍に……俺と一緒にいてくれ! ……ってね! 未夏のことをウノーは嫌ってないし、あいつがそういって許してくれるの、わかるでしょ?』
「…………」
それに対して未夏は口を開かなかった。
原作でのウノーの性格を考えればまず間違いなくそういうだろう。
彼は、相手に責任を『取らさせて』くれる。加えて彼から力を奪えば『未夏がいないと安心して海外にいけない立場』になるわけなので、猶更結婚に了承する可能性は高い。
『つまり、君は自由と力を手に入れて、しかもウノーまで手に入る! 素晴らしいやり方じゃないか! 現実世界での辛さを晴らすチャンスだよ!』
未夏には、現実世界にいた時に、運動全般がダメなことに強いコンプレックスを抱えていた。だからこそ、ウノーの経験値を奪ってこの世界で無双するというのは、そのコンプレックスを払拭する絶好のチャンスである。
また、ウノーは確かに未夏の『最推し』ではないが、当然彼のことも好んでいる。
まして、今世での彼の社交的な性格は、ゲーム本編のけんかっ早い性格よりも、更に未夏好みのものでもあった。
つまり、彼から力を奪い、さらに『あなたへの罪滅ぼし』を言い訳に結婚を申し出るというプログリオの提案は、あまりに未夏にとって魅力的であった。
……未夏は静かにうなづく。
「確かにね……。私は元の世界でも運動音痴でからかわれたりしたこともあったし、力が無くて嫌な思いをしたこともあるわよ……」
『うん、知ってる! クラスの子にからかわれたでしょ? この世界で、その思い出を上書きしようよ!』
彼の発言を無視して、未夏は続ける。
「それに、この世界では力があったほうが、ずっと生きやすいでしょうね……」
『でしょでしょ? じゃあ早速、肖像画を描いてあげよっか!』
そういいながらニヤニヤと紙とペンを取り出したプログリオをにらみつけ、未夏は凄まじい剣幕で怒鳴りつけた。
「けどねえ! プログリオ! 『現実世界』舐めんな!」
『ひゃあ!』
そういって、彼に渾身の力をこめてロケットを投げつける。
ガシャン……という音とともに、ロケットは破壊され、そこから魔力が抜け出るのが分かった。
「力がないから何? そんなものがなけりゃ私たちは、この世界を生きられないと思ってんの? ふざけんな! 私ら『現実世界』の人間を舐めすぎだ!」
『え? いや、その……』
「魔法? 闘気術? ……そんな甘っちょろいもんが無くても、私たち『現実世界の人間』は苦しみながら生きていたんだ! だから私は……現実世界で得た力と知識だけで、この世界で戦い抜いてやるわよ!」
『ひ、ひい……』
そのあまりの剣幕に、思わずプログリオはたじろいだ。
……彼が原作の中でここまで表情を変えることはなかった。
「こんなものでズルして力を手に入れて……それでこの世界で好き勝手生きちゃあね! 私の前に死んだ兵士さんたちに申し訳が立たないってもんなのよ! ……だからもう一度いうけど……人間、舐めんな!」
……『覚悟ガンギマリ』の人間の存在は、多くの人に影響を与える。
未夏も、先の戦争で『私の番』『俺の番』と言いながら命を捨てて必敗戦闘を覆した彼らから、その影響を受けているのだろう。
目先の欲や自身の劣等感に負け、他者を踏みつけてでも力を得る行為など、未夏にはもはや、する気は微塵もなかった。
『こ、後悔するよ、きっと……君みたいに弱い奴がこの世界で生きるなら、君が力を奪うか、強い男の力に頼るしかないだろ?』
「そんなことはしない! それで死ぬなら、その時は『私の番』が来たってだけでしょ? それに後悔なんて、先の戦争でとっくに一生分しているのよ!」
未夏は先の戦争で初めて『戦争における人の死』を経験した。
その世界は冒険活劇の世界で見るような華々しいものではなく、ただただ悲惨なだけのものであった。
……その際に、自分に出来たことがほかにあったのか、後悔しない日はなかった。そんな未夏が今更、わが身第一に考えるような選択肢は持っていなかった。
そして未夏はとどめとばかりに、どすの効いた声でつぶやく。
「プログリオ……あなた、これ以上さえずると……」
『な、なに?』
「あんたの本体に会ったとき、私が普段愛用しているエロ同人誌『道化師の終わり』と同じ目に、合わせてやるわよ?」
『え……?』
プログリオはいわゆる『攻略対象キャラ』ではない。
だが、そのキャラクターの小悪魔らしさが一部のプレイヤーから多大な評価を得ていた。
……そんな彼がエロ同人誌の供物にならないわけがない。その『道化師の終わり』は、PC全男性キャラから、作中で行った彼の悪行の報復として犯される物語である。
無論、甘い恋愛系BL物語などではない。詳しくはさすがにここでは書けないが『三角木馬』『手錠』『鞭』の3つは、その作品すべてのページで登場する。
その一言を聞いたプログリオは、真っ青になった。
『わ、わかったよ……。ま、き、今日はからかいに来てやっただけだから! また、会おうね、未夏?』
そういうが早いが、プログリオは姿をシュン……と消した。
(これで、ウノー様にかかっていた『呪い』も解けるわね……けど……)
当然、この魔道具を壊しても経験値が戻るわけではない。
仮に戻ったとしても、彼が幼少期に抱えていた劣等感や、オルティーナにバカにされていた思い出は消えるわけでもない。
(私がウノー様のために出来ることは……。ウノー様の進む道にとことんついていくだけね……)
そう未夏はつぶやくと、ウノーのことを思いながら眠りについた。
「まさかとは思ったけど……この魔道具を使っているなんてね……」
ウノーが持っていたロケットの正体は『経験の代行証』と呼ばれるアイテムだ。
……このアイテムに名前を掘り、そしてそのロケットに肖像画を入れた場合、前者の経験値がすべて後者に譲渡されるものだ。
つまり、ウノーが剣や魔法、闘気術の練習をすればするほど、その技量や能力は聖女オルティーナに流れるということになる。
本来は、中途加入する仲間を重点的に育てたり、特定キャラを限界まで育てて特殊イベントを見たりするために使用するアイテムだ。
(そりゃ、オルティーナが天才になるわけね……)
当然こんなアイテムを幼少期からウノーは持たされていたのであれば、彼は能力値がいつまでも上昇しないし、逆にオルティーナはレベルがどんどん上がっていくことになる。
原作中でもあまり努力を好まない性格だったオルティーナが『天才』であるのは、ドーピングアイテムをずっと与えられてきたことと、彼に努力を代行してもらっていたことが理由なのだろう。
(けど……このことはウノー様には話せないわ……)
無論そのことをウノーに話すことも可能だった。
だが、『前世では未夏を支えてやれなかった』という後悔……これも冷静に考えれば違和感があるが……を抱えている彼にこのことを話しても、
「そんなの全然構わない! 俺があいつの分まで経験値を稼いでやる!」
なんていうに決まっている。
そうした場合、この経験の代行証を奪還することは不可能になるはずだ。……彼は、今世における自身の幸福を全部諦めているのは見ただけでもわかる。だが、そのことは未夏には耐えられなかった。
(渡したのは、オルティーナの使用人と言ってたわね……。彼らも、前世の記憶を持っているから、彼女に尽くそうとしたってことなのね……)
また、ご丁寧なことにこのアイテムはショップでの売値も高い。
そのため『プレゼントで贈っても怪しまれない』という特徴まで持っている。
(オルティーナは、そのことを知らないのよね……。知ってたら、ウノーをあんな横柄に扱ったりしないもの……)
ウノーの努力の成果をすべて横取りしていたオルティーナのことを考えると、未夏は怒りの気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
そして、改めてその『経験の代行証』を見据える。
(さて、これはどうするかよね……)
そんな風に考えていると、突然頭の中に声が響いた。
『オルティーナの肖像画、君の肖像画に取り換えちゃいなよ!』
その声は、未夏も聞き覚えがある。
「プログリオ……?」
『そうだよ~ん!』
未夏がそういうと、道化師姿の少年がふわ……と身を翻しながら現れた。
無論彼は一種の亡霊のようなものなので、姿は半透明である。
『さすがは転移者様! ボクの正体は知っているんだね~?」
「当然よ」
ゲーム本編でもたびたび顔を出していた、いわゆる『物語をひっかきまわすトリックスターキャラ』だ。
(本編でもお邪魔なキャラだったけど……改めて見ると、やっぱり憎たらしいわね……)
彼は『因果律の鎖』というイベントアイテムを管理している立場だ。
この『因果律の鎖』とは一言でいうと『そいつの望んだ世界に作り変えちゃうぞ装置』である。
この装置を操れるのが聖女オルティーナと悪役令嬢ラジーナだけということが、本ゲームで大きなポイントとなっている。
……無論、本編でバッドエンドになると、闇落ちしたオルティーナがこの『因果律の鎖』で世界を滅亡させる流れになるのだが。
未夏が身構えていると、少年プログリオはニコニコ笑って尋ねる。
『知ってるでしょ? 経験の代行証は、本人が持ってなくても効果があるって?』
「ええ……まったく、ご親切なゲームだったわね」
このゲームはだいぶユーザーフレンドリーだ。
経験の代行証はゲーム本編でも装備欄を圧迫しないように、最初に名前を掘り、そして肖像画をセットすれば装備していなくても効果を発揮する『貴重品』ポジションだった。
つまり、肖像画を未夏に取り換えれば、今後はウノーが努力して与えてくれた経験値はすべて未夏自身に流れることになる。
『そ。未夏もさ。この世界をもっと自由に歩きたいでしょ? そのためには力があったほうがいいじゃないか!』
「力……ねえ……」
『魔法も闘気術も使えない、それに運動音痴で頭も悪い。そんな君が世界を旅するなら、力を持たなきゃ? だから、経験値をウノーから横取りしちゃうのさ! 彼が得たスキルも未夏に流れるから、闘気術も覚えられるよ?』
そういいながら、空中でクルクルと楽しそうに踊るプログリオ。
いわゆる『道化』としてのポジションでもある彼は、作中でもこうやってキャラをからかっていた。
「そんなことしたら、ウノー様はどうなるの?」
『今まで通り、変わらないよ! 彼はレベルの低い、弱キャラのまま! けど別に、彼は怒ったりしないって! 昔っからずっとそうだったんだから!』
彼はそういいながら、未夏の顔を見て『そうだ!』といたずらっぽく笑う。
『良心が痛むんだね? ならいい方法があるよ! ……未夏が必要なだけ経験値を奪ったら、そのことを全部ウノーに話しちゃうのさ!』
「どういうこと?」
『今まで黙っていてごめんなさい、あなたを利用してごめんなさい。これからはこの力で、あなたのために罪滅ぼしをします! そのために、結婚してください! ……っていうんだ! そしたらウノーは、絶対こういうよ!』
そういうと、プログリオはウノーの声真似をする。
ちなみにゲーム本編でも、声真似が得意な声優を起用していたのか、この手の声真似は良く行われていた。
『そうだったのか……。けど、俺はそんなこと、気にしねえよ! けど、それでも責任を感じるっていうなら……一生傍に……俺と一緒にいてくれ! ……ってね! 未夏のことをウノーは嫌ってないし、あいつがそういって許してくれるの、わかるでしょ?』
「…………」
それに対して未夏は口を開かなかった。
原作でのウノーの性格を考えればまず間違いなくそういうだろう。
彼は、相手に責任を『取らさせて』くれる。加えて彼から力を奪えば『未夏がいないと安心して海外にいけない立場』になるわけなので、猶更結婚に了承する可能性は高い。
『つまり、君は自由と力を手に入れて、しかもウノーまで手に入る! 素晴らしいやり方じゃないか! 現実世界での辛さを晴らすチャンスだよ!』
未夏には、現実世界にいた時に、運動全般がダメなことに強いコンプレックスを抱えていた。だからこそ、ウノーの経験値を奪ってこの世界で無双するというのは、そのコンプレックスを払拭する絶好のチャンスである。
また、ウノーは確かに未夏の『最推し』ではないが、当然彼のことも好んでいる。
まして、今世での彼の社交的な性格は、ゲーム本編のけんかっ早い性格よりも、更に未夏好みのものでもあった。
つまり、彼から力を奪い、さらに『あなたへの罪滅ぼし』を言い訳に結婚を申し出るというプログリオの提案は、あまりに未夏にとって魅力的であった。
……未夏は静かにうなづく。
「確かにね……。私は元の世界でも運動音痴でからかわれたりしたこともあったし、力が無くて嫌な思いをしたこともあるわよ……」
『うん、知ってる! クラスの子にからかわれたでしょ? この世界で、その思い出を上書きしようよ!』
彼の発言を無視して、未夏は続ける。
「それに、この世界では力があったほうが、ずっと生きやすいでしょうね……」
『でしょでしょ? じゃあ早速、肖像画を描いてあげよっか!』
そういいながらニヤニヤと紙とペンを取り出したプログリオをにらみつけ、未夏は凄まじい剣幕で怒鳴りつけた。
「けどねえ! プログリオ! 『現実世界』舐めんな!」
『ひゃあ!』
そういって、彼に渾身の力をこめてロケットを投げつける。
ガシャン……という音とともに、ロケットは破壊され、そこから魔力が抜け出るのが分かった。
「力がないから何? そんなものがなけりゃ私たちは、この世界を生きられないと思ってんの? ふざけんな! 私ら『現実世界』の人間を舐めすぎだ!」
『え? いや、その……』
「魔法? 闘気術? ……そんな甘っちょろいもんが無くても、私たち『現実世界の人間』は苦しみながら生きていたんだ! だから私は……現実世界で得た力と知識だけで、この世界で戦い抜いてやるわよ!」
『ひ、ひい……』
そのあまりの剣幕に、思わずプログリオはたじろいだ。
……彼が原作の中でここまで表情を変えることはなかった。
「こんなものでズルして力を手に入れて……それでこの世界で好き勝手生きちゃあね! 私の前に死んだ兵士さんたちに申し訳が立たないってもんなのよ! ……だからもう一度いうけど……人間、舐めんな!」
……『覚悟ガンギマリ』の人間の存在は、多くの人に影響を与える。
未夏も、先の戦争で『私の番』『俺の番』と言いながら命を捨てて必敗戦闘を覆した彼らから、その影響を受けているのだろう。
目先の欲や自身の劣等感に負け、他者を踏みつけてでも力を得る行為など、未夏にはもはや、する気は微塵もなかった。
『こ、後悔するよ、きっと……君みたいに弱い奴がこの世界で生きるなら、君が力を奪うか、強い男の力に頼るしかないだろ?』
「そんなことはしない! それで死ぬなら、その時は『私の番』が来たってだけでしょ? それに後悔なんて、先の戦争でとっくに一生分しているのよ!」
未夏は先の戦争で初めて『戦争における人の死』を経験した。
その世界は冒険活劇の世界で見るような華々しいものではなく、ただただ悲惨なだけのものであった。
……その際に、自分に出来たことがほかにあったのか、後悔しない日はなかった。そんな未夏が今更、わが身第一に考えるような選択肢は持っていなかった。
そして未夏はとどめとばかりに、どすの効いた声でつぶやく。
「プログリオ……あなた、これ以上さえずると……」
『な、なに?』
「あんたの本体に会ったとき、私が普段愛用しているエロ同人誌『道化師の終わり』と同じ目に、合わせてやるわよ?」
『え……?』
プログリオはいわゆる『攻略対象キャラ』ではない。
だが、そのキャラクターの小悪魔らしさが一部のプレイヤーから多大な評価を得ていた。
……そんな彼がエロ同人誌の供物にならないわけがない。その『道化師の終わり』は、PC全男性キャラから、作中で行った彼の悪行の報復として犯される物語である。
無論、甘い恋愛系BL物語などではない。詳しくはさすがにここでは書けないが『三角木馬』『手錠』『鞭』の3つは、その作品すべてのページで登場する。
その一言を聞いたプログリオは、真っ青になった。
『わ、わかったよ……。ま、き、今日はからかいに来てやっただけだから! また、会おうね、未夏?』
そういうが早いが、プログリオは姿をシュン……と消した。
(これで、ウノー様にかかっていた『呪い』も解けるわね……けど……)
当然、この魔道具を壊しても経験値が戻るわけではない。
仮に戻ったとしても、彼が幼少期に抱えていた劣等感や、オルティーナにバカにされていた思い出は消えるわけでもない。
(私がウノー様のために出来ることは……。ウノー様の進む道にとことんついていくだけね……)
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