国民のほぼ全員が『人生2週目の転生者』なので、前世で起きた『聖女様闇落ち世界滅亡エンド』を総力あげて回避します

フーラー

文字の大きさ
15 / 39
第1章 暴力による報復を好むものは、いつだって安全地帯の傍観者

1-11 誰かを守ることに自分の存在価値を求めないで

しおりを挟む
「大丈夫、ウノー様?」
「ああ。……みんな数カ月もすれば完治するってさ」


その翌日、未夏はウノーと使用人のお見舞いに来ていた。
手土産に持って行ったのは果物。……入院客に果物を持っていく文化は日本意外ではさほどメジャーではない文化だが、この乙女ゲームの世界でもなぜか常識として行われる。

……それだけ『好きな人に、自分のために果物を切ってもらう』ことに憧れを持つ日本人が多いのだろう。

未夏はリンゴを剝きながら安堵したように答える。


「それなら安心したわ。……はい、ウノー様」
「ああ、ありがとう」
「それと……あの時は本当にありがとう、ウノー様。……借りはいつか絶対返すわね?」
「何言ってんだよ。俺が『自分のしたいこと』についてきてくれただろ、未夏さんは? それだけで、借りは帳消しだって」

ウノーはそう笑うのを見て、未夏っも自身の抱えていた罪悪感がふっと消える気がした。
彼は、自分がいつまでも罪悪感を抱えているのを好むような人じゃない。ましてや、その埋め合わせをしてもらうような真似はしないだろう。


「そうなのね……。けど、そんなに治るまで時間がかかるなんて、せっかく留学したのにもったいないわね?」
「ああ、その件か……」

そういうと、ウノーは少しバツの悪そうな顔をした。


「どうしたの? ……まさか……」
「ああ。昨日退学処分……っていうのかな? になったから、ケガが治ったら帰国することになったんだ」
「うそ……どうして?」


未夏は驚いたような表情で尋ねる。
すると二人の使用人は絶縁状と書かれた手紙を見せた。


「昨日、ウノー様のご両親から手紙が届いたのです。『暴力事件を起こし、しかも敗北するようなものは、私の息子としては認められない。家督は弟に継がせるので、お前は絶縁させてもらう』と」
「え……うそでしょ?」

だが、嘘ではないとばかりに使用人は首を振る。


「なぜ、先日の一件が学校に伝わっていたのか……そして、なぜウノー様が『負けたこと』になっていたのかは不明ですが……この話が旦那様に伝わったのです」

「なので私たちはもう、ウノー様の使用人ではありません……責任問題で当然クビになりました」
「そんな……!」

それを聴いた未夏は、思わず絶縁状をひったくって立ち上がる。



「許せない! ウノー様は負けたわけじゃないし、そもそも暴力だってふるってない! それなのに一方的に絶縁するなんてあんまりよ!」
「お、おい、どこ行くつもりだ!?」
「決まってるでしょ? ウノー様の両親のところよ! 絶対にあなたの絶縁を取りやめにさせるから!」
「よせ! これでいいんだ! ……いて!」
「ウノー様!?」


ウノーはとっさに折れたほうの腕で未夏の服の裾を掴んでしまった。
それによって苦痛に彼の顔がゆがむ。


「なんでよ? ウノー様は悔しくないの?」
「そんなことはどうでもいい! それより、絶縁の話は俺から頼んだんだよ!」
「ど、どうして?」
「……たとえ相手が自分自身だとしても、暴力をふるった俺が許せなかったからな……」


そうウノーはいうが、手は右耳のイヤリングに付けていない。
……つまり、これは嘘だということだ。


(そう、か……)


そう考えて、未夏は彼の本心が分かった。

暴力というのは、どんな形にせよ相手からの報復を産む。
今回暴力をふるったのは相手に対してではないが、それでもチンピラどもからすれば『あいつのせいで依頼は失敗した』と、勝手な逆恨みをする可能性もある。

そこで、あえて相手よりも大きな罰を受けることによって、加害者側から恨みを買うリスクを軽減する……つまり、未夏を庇うためだったということだと。

……そしてもう一つの理由は『優秀な義弟』のためだろう。
自身がこの『暴力事件を起こした』という名目があれば、自身より優秀な弟に家督を譲り、この国を盛り立てることが出来る。

そこで、なぜか学内に広まった『暴力事件をウノーは起こし、なおかつ敗北し入院した』という不名誉な噂を利用することにしたのだと。


(私が親なら絶対に認めないけど……。ウノー様の両親も転生者だものね……)


そう思い、未夏は思わず押し黙る。
それを見たウノーは申し訳なさそうに答える。


「だから、ごめんな未夏さん。家督も失った俺はもう……未夏さんやオルティーナを守れないみたいだからさ……」


その言葉を聴いて、未夏は怒りの感情のままに胸倉を掴みあげる。


「前から気になっていたんだけどさ……その『守る』ことにこだわるのやめてよ!」
「え?」
「あなたがどんな過去を生きてきたかは、私はあなた以上に知ってる。……けど、あなたのその『守る』っていうのって、自分の価値を誰かに認めてもらいたいってだけでしょ?」
「…………」


何も言わずに、彼は右耳のイヤリングに触れる。
つまり肯定ということだろう。

「あなたのその『守る』って、利己的な自己満足よ? 自尊心の源泉を他人に求めないで?」
「み、未夏様……なんてことを……」


それをいうと二人の使用人が、こちらに非難の目を向けてきた。


だが、未夏はそこまで言った後に、ウノーをそっと抱きしめた。



「……誰かを守ろうとしなくても……。そんなことしなくても、私はあなたが傍にいると嬉しいし、あなたと会えたことは私にとって幸せだったもの」
「……え?」


誰かにこうやって抱きしめられた経験は今までなかったのだろう。
ウノーは困惑とともに恥ずかしそうにした。


「もう誰かを守ることで自分の価値を確かめようとしなくていいから。……あなたは、今のあなたのままで私は好きだから……」


未夏は、ゲーム本編における彼の前世を思い出していた。
彼は両親に期待こそかけられていたが、褒められるのは剣や魔法でいい成績を残した時だけだった。

つまり基本的に孤独だったことが、常に人に本心を見せない性格になっていたことを知っている。そのため、未夏は彼に会ったらそう言いたいとと思っていた。


「未夏さん……ありがとうな……」


そういいながら、ウノーは未夏のことを抱き返す。
今世では非力な彼らしく、あまり痛みは感じることはなかった。
そんなウノーに、未夏は提案する。

「ねえ、ウノー様? 絶縁されたんならさ、私のお店で働かない? 店長にも口を聴いてあげるから……」
「え、いいのか?」
「勿論よ。ウノー様は交渉が上手いから、来てくれたら、お店も繁盛しそうだし! ……それに、言ったでしょ? 私はあなたと一緒にいたいって!」


そういわれると、ウノーは少し意外そうな表情を見せた。


「……交渉が上手い、か。……戦うことばかり考えてたから、そんなこと考えたことも無かったよ……」


そうしばらく抱き合っていると、急にドアがバタン、と開いた。


「あれ、未夏ちゃんじゃない! ……何やってるの?」
「え? あ、これは、その……」
「へ~……もしかして二人って付き合ってんの?」

その表情はどこか品定めをするような目つきだった。
だが、未夏は首を振る。


「いえ。……ウノー様に先日助けていただいたお礼を言っていただけで……」
「先日って、例の暴力事件? そういえば未夏ちゃんも一緒にいたって言ってたよね? ふ~ん……ウノー、あんたデートでもしてたの?」
「そ、そういうわけじゃねえよ! ただ……未夏さんの講義が終わったお祝いをしただけだって……」
「そうですよ。我々使用人たちも世話になったので! だから別に深い意味はありません!」

そう隣にいた使用人も講義したが、オルティーナはあまり納得していない様子だった。


「ま、いいわ。ところでさ、ウノー。あんた実家から絶縁されたんだってね? いつかはされると思ってたけど、かわいそうにね」
「あはは……オルティーナに同情してもらえるなんてうれしいけどな」

彼女の『かわいそうに』は同情ではなくどこか嘲笑のような意味合いがこめられていることを未夏は感じ取った。

それは周囲の使用人たちも同様のようだった。……なぜかウノーはそれに気づいていないようだったが。
そしてオルティーナはポン、とウノーの手に触れて尋ねる。


「それでさ……もしよかったら、あたしの屋敷でこれから働かない? 勿論、そこの使用人たちも一緒に雇ったげる!」
「え?」
「やっぱさ。あんたも大事な幼馴染だから。特別に執事待遇で優遇したげるからさ?」


そうニコニコと笑うオルティーナ。
一見すると幼馴染に助け船を出しているような提案だが、どうも未夏は気に入らずにこう答える。


「ちょっと待ってください、オルティーナ様。実は彼には、私のいる薬屋で働くと話をしていたのですが……」
「ふ~ん。けど、給料だってあたしのほうがたくさん出してあげるよ? ね、二人もそのほうがいいよね? 二人も説得してよ!」


まずは外堀から埋めたほうがいいと思ったのだろう、そう二人の使用人に尋ねた。
……だが。


「オルティーナ様。私たちはもうウノー様の使用人ではありません。今は失業者です」
「でしょでしょ? だからさ、これからは……」

「ですが、ウノー様は、今でも我々にとって大切な方です。……なので、我々のほうからウノー様の選択肢を狭めることはいたしません」
「……え?」


その眼はまっすぐと、迷いのない光がともっている。
……転生者特有の、覚悟を決めた目だ。


「ウノー様。……先ほどの未夏様のいったことを思い出してください。私たちを『守るため』にオルティーナ様とご一緒する必要はありません」
「どうか、ウノー様のなさりたいようになさってください。我々はそれに従う……いえ、親友のウノー様とともに歩みます」
「お前たち……」

すでに使用人ではないため、『ともに歩む』という言い回しをしたのだろう。
そういわれたウノーは少し悩んだ後、


「ごめん、オルティーナ。……やっぱり、俺は未夏さんと薬屋で働くよ」


そう答えた。
この返答は意外だったのだろう、オルティーナは驚いたようにウノーに尋ねる。


「ど、どうしてよ?」
「俺はさ。……未夏さんのこと、尊敬してんだ。……だから俺は、未夏さんからいろんなことを教わりたい。それに……」
「それに?」
「薬屋で新しいことを学ぶってのも面白そうだろ? ここで色々勉強したらさ、オルティーナの力にもなれるだろうしさ!」
「む……けど、薬屋の仕事はあちこち行くでしょ? 危険じゃないの? 私のお屋敷に居たら、ずっと安全でいられるよ?」

「その時は『俺の番』が来たってだけだろ? それに最近は少しずつ剣の腕も身についてきたからさ、だからやってみたいんだよ」


そうはっきりというウノーの目は、先ほどの使用人と同じだ。
そして『覚悟ガンギマリの転生者』を説得することは絶対に不可能なことは、オルティーナも理解はしているのだろう。


「ふ、ふん! いっとくけど、後悔しても遅いからね! また悪い女にボコボコにされても知らないから! じゃあね!」

そういうと、乱暴にドアを閉めてオルティーナは去っていった。


「クソが……」


そう心の中で未夏は柄にもない強い口調でつぶやいた。
少なくとも構内で広まっていた噂では『喧嘩した相手のリーダーは女だった』なんてことは誰も口にしていなかった。

そのことを知っているということは、つまりオルティーナが下手人ということになる。
だが、今この場で彼女の罪をあげつらっても仕方がない。


「オルティーナには悪いことしたな……。けど、これからよろしくな、未夏さん!」
「ええ」

そう思った未夏は、屈託ない笑顔で手を伸ばすウノーの手を握り返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

処理中です...