国民のほぼ全員が『人生2週目の転生者』なので、前世で起きた『聖女様闇落ち世界滅亡エンド』を総力あげて回避します

フーラー

文字の大きさ
20 / 39
第2章 「剣と魔法の世界」に中世の軍隊編成はそぐわない

2-5 頭のネジの外れた転生者にとって、貞操など道具でしかない

しおりを挟む
翌日。


「未夏様、お味のほうはいかがですか?」

未夏はラジーナの屋敷で朝食を取っていた。

(それにしても……。本当に私は、文明に甘やかされていたわよね……)


この世界はいわゆる「なんちゃって中世」で、食事や衛生観念は現代のものと変わらない。
しかし、さすがに電子機器の類は存在しないため、当然だがタイマー機能付きの全自動洗濯機は存在しない。

コンビナートもないため『天然ガス』という中世レベルではチート級のアイテムも存在しないため、調理の難易度も現在とは比べ物にならない。

そのため掃除・洗濯・炊事はいつも苦慮していた。
だが、出張中はそのような面倒ごとをすべて使用人にさせることが出来るのが、やはりありがたいと未夏は思っていた。


「ええ、とても美味しいわ。このハムエッグとクロワッサンは」


恐らくイラストレーターがまじめに時代考証をしなかったのだろう、本作にでるハムは、どう見ても現代世界でスーパーなどで売られている『プレスハム』だが、未夏はやはり突っ込まない。


「それは良かったです。……ただ、少し顔色がすぐれないようですね?」
「そうね。……あの二人のことが気になって……」


因みに、未夏の身の回りの世話をするのはラジーナではなく、エイドの使用人だ。
これは、未夏が元々薬屋にたまに来ていた彼女たちと顔見知りであるため、ラジーナとエイドが気を利かせたためでもある。


「あの二人とは、ラジーナ様とエイド様のことですね?」
「ええ。なんか昨日見たところ、ぎくしゃくしていたような気がしたから」
「……そうですね……」

そういうと、使用人のメイドも少し暗い表情になった。


「あのお二人は……お互いに遠慮しすぎているように感じます。はやく距離を縮めていただかなければならないのですが……」

無論これは、単に二人の関係を心配するという意味だけではない。
万が一だが『不仲により離婚』ともなれば、ここはラジーナのホームグラウンドだ。

「エイドがラジーナを傷つけたことが原因だ」と理由を付け、戦争の口実になる。それを避けるためなら、どんなことでもするのが彼ら『転生者』でもあるのだが。

未夏は少し不安そうに尋ねる。


「……ひょっとして、私の惚れ薬の効果が効いていないのかな? 調合を間違えたとか……」
「いえ、それはありません」

そうメイドは断言した。

「どうして言い切れるの?」
「私も先日、惚れ薬の効果があるか試したので」
「そうなの? なら原因は……」


そこまで言って未夏は顔色を変えた。


「……待って! 効果を試したってなにしたの?」
「酒場にいる男性に、惚れ薬を騙して飲ませたのです」
「何言ってるの!? あれは強力な媚薬でもあるのよ! そんなことしたら……」

「ええ。投薬の結果、男は理性を失い、5分後、店内で私のことを強引に襲いました。行為の最中も、男は明らかに快楽を得ていたようだったので、媚薬効果も確認されました」


当たり前のようにメイドは答えた。


「ちょっと、それって……」
「ご安心ください。異性に相手にされたことのなさそうな、醜く貧しい独身の男を選びました。無論、行為後は本人及びマスターに、事情を説明したうえで口止め料を渡しております。彼のほかに客はいなかったので、情報漏洩も起こりません」

それで安心できるわけがないだろうが、と未夏は思いながら憮然とした表情をした。

「…………」
「男性には、私は処女であり性病の心配がないこともお伝えしております。妊娠した場合も責任を取る必要がないとも。……結果、相手は『童貞を捨てて、金まで貰えるなんて、僕は幸せ者だ!』と喜んでいました」


そりゃ、その状況なら相手はそういうしかないだろうな、と未夏は思った。

「美女に媚薬を飲まされ、さらに強引に襲った後に金を受け取った」なんて無茶苦茶な話を裁判所に訴えても信じてもらえるわけがない。「媚薬を口実に女を無理やり襲い、金を巻き上げた」となるに決まっている。

もっと穏当な試し方がいくらでもあっただろうに、わざわざ自分で試すという転生者のイカれ具合に、未夏は改めて戦慄した。


「……ですので、恐らくは『惚れ薬』を用いても彼女を愛せないほどの枷を持っているのかと」
「枷、ね……」
「見たところ、ラジーナ様は国の行く末とエイド様の安全を慮るあまり、何も仕事を与えていないようです。エイド様も、夜の生活ではただ奉仕することだけを考え、欲求を何も口になさらない模様。これでは距離も縮まらないでしょう」


こいつら、ラジーナとエイドの夜の生活をのぞき見してやがるな、と思ったが未夏は今更だと思い口にしなかった。

「何かきっかけがあるといいのですが……」
「そうね……。なにか機会があったら、私のほうでやってみるわね」


そういうと、未夏は席を立った。



それから少し経ったあと、未夏はラジーナに呼ばれて兵士の訓練場に移動した。

「やあ!」
「てりゃ!」


そこでは兵士たちがまじめに鍛錬に取り組んでいた。
……とはいえ、その熱気は聖ジャルダン国の転生者たちのそれとはまるで比べ物にならないのだが。


(やっぱり、強いのは一部の近衛兵だけみたいね……。ほかは、私たちの世界の成人男性と大差ないのかな……)

そう思っていると、ラジーナは尋ねる。

「どうしょう、未夏? 我が国の練兵の様子は?」
「え? ……ええ、とても一生懸命取り組んでいますね」
「そうでしょうね……」

そういうと、今度は魔法の訓練所に移動した。


「ふん!」
「ぐわああああ!」

そこでは一人の男……彼は確かゲーム本編にも出た男だ……が斧に炎魔法をかけて、複数人の兵士たちと戦っていた。


「ハハハ! もっと鍛錬せんか! 私をもっと楽しませんか!」

何十人もの兵士たちが彼の一撃によって、次々に倒されていく。

「ぐ……」
「さすがね……」

そう、女兵士たちはつぶやくと気を失った。

(私たちの世界じゃ……こんな化け物はいないわね……)

ゲームバランスの関係上、この世界では男女の体格差は現実世界ほど大きくはない。
……だが、そもそも男女間の差など誤差に感じるほど、個人間の能力差が大きいのだ。


「未夏。まず、これを見ていただけますか? ……せっかくだから差し上げますので」

そういうと、未夏に1振りの剣を渡した。
粗雑だが、よく手入れされた鋼の剣だ。
……とはいえ、贈答品ではなくいわゆる兵士への支給品だろう。


「あ、ありがとうございます」
「これを見て、疑問に思ったことはありませんか?」
「え?」


無論、これは単なるプレゼントではなく、これから問答をするために渡したものなのは未夏も分かっている。


「あなた、ビクトリアのことは覚えておりますわね?」

ゲーム本編では『絶対勝てない壁』として立ちはだかった、竜族ビクトリア。
彼女の恐ろしさは未夏もよく覚えているため、うなづいた。


「ええ。私も彼女の最期を見届けましたので……」
「であれば、思ったと思いますが……。彼女ほどの力を持つドラゴンを相手に、なぜ私たちは『剣』なんかで立ち向かうのでしょう?」
「え? それは、その……」
「1個師団を相手にするような傑物は、大体の国にゴロゴロいますわ? そんな相手にそもそも『剣を持たせた軍隊』をぶつけること自体、おかしくありません?」
「う……」


こいつ、タブーに触れやがったよと未夏は思った。

そう、個人間の力量差が大きいファンタジーの世界で、わざわざ弱者に『剣』なんて貧弱な武器を持たせて集団で突撃させるような戦術自体がおかしい。

ファンタジーの世界に中世風の軍編成をするのは、いうなれば機関銃を搭載した装甲車に、ファランクス陣形で挑むようなものなのだ。即ち、軍隊のあり方そのものを根本から変化しなければ、子を戦場で失う親が増えるだけだ。


(まあ、それを言っちゃおしまいだし、爽快感がないものね……)

だが、キャラが『雑魚をバタバタと倒しまくる』という爽快さを重視し、大抵のゲームではそれに触れられない。

ゲーム中のキャラでありながら、そんな当たり前のことに突っ込みを入れたラジーナに、未夏は驚いた。


「だから、そもそも軍隊のあり方そのものから変わらないと行けないと思いますの。……未夏、あなたは私たちと違う世界が見えていると思いますので、知恵をお借りしたいんです」
「はあ……」


もし近代兵器がこの場に存在するなら話は別だ。
だが、そのようなものがない中で軍政改革を言われても、仮にも薬師である未夏にはピンとこなかった。


「ですが、どうしてそこまで軍政改革を? ひょっとして、また聖ジャルダン国に戦争と考えているのですか?」
「いえ……寧ろ逆ですわ?」
「おお! 『冷血の淑女』ラジーナ様ではないですか! こんなところで何の御用ですかな?」


そういうと、先ほどまで斧を振り回していた男が声をかけてきた。

立ち居振る舞いはよく言えば勇猛、悪く言えば粗野な印章。
顔つきはごつごつしており、醜くはないが武人と言わんばかりの強面。
そして年齢は中年。

あえて差別的な言い方をすると、彼は『殺してもプレイヤーの心が痛まないゲームキャラの容姿』をしている。


(ゲーム中で死んでいくのは、こういうやつばっかりだったわね……これもある種のルッキズムなのかもしれないけど)

そう思いながらも未夏は口にはしなかった。


「ひょっとして、ついに聖ジャルダン国に攻め込む準備が整ったということですかな?」

(未夏……。紹介します。彼は我が国における将軍の一人、フォルザです。……戦争を起こしたがっている『概念』ですわ?)

そう小声でつぶやいた。


戦争とは政治の延長であり、国民の感情が具現化したものだ。


「悪い奴や悪い集団が、戦争を起こす」
という勧善懲悪の概念で戦争を捉えるほど、未夏は愚かではない。

あえて彼を『悪者』と言わないラジーナの言葉を聞いて、未夏は改めて彼女の聡明さを感じ取った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

処理中です...